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転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


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9話 模範的な囚人

「他に何か提出するものはありますか? 何でもおっしゃってください」

「え……?」


 グラン様は完全に戸惑っていた。


「ニナ……気持ち悪くないんですか?」

「気持ち悪い? なぜです? わたし、グラン様がこんなに見張っていてくださったおかげで、森狼に襲われても命拾いしたんですよ?」


 あのことからも、グラン様がわたしを退治する気のないことが分かる。

 わたしは天敵である使徒のそばへ寄った。


「わたしは、グラン様はお仕事に一生懸命で、とてもすばらしい方だと思っています」


 足もとにひざまずき、誠心誠意込めて訴える。


「わたしはグラン様に理解して欲しい。信じて欲しい。

 だから、お好きに見張ってください」


 グラン様は目をまん丸にしていた。

 呆然として、それから、疑り深くたずねてくる。


「ニナ……それは、本当にあなたの本心なんですか?」

「本心です!」


 即答すると、グラン様の眉間に刻まれていたしわが消えた。

 信じてもらえた、と思ったけど、ダメだった。

 グラン様は慎重な態度を崩さなかった。


「ありえない……こんなこと、あるわけがない……」


 一歩、二歩とグラン様が後ずさる。呆然自失の体で、壁にもたれた。


「こんなこと、都合のいい夢だ……」


 困った、一向に信じてもらえない。

 わたしの反応は予想外すぎたみたいだ。

 他の転生者はもっと反抗的なのかな?


「ニナお姉ちゃん、お母さんが呼んでるよー」


 廊下から、妹がわたしたちを呼んだ。

 荷物が散乱した部屋を見て、小首をかしげる。


「どうしたの?」

「マリアが子犬を中に入れたみたいで」


 わたしはグラン様のベルトをおもちゃにしようとする子犬をつかまえた。


「グラン様、子犬が部屋を荒らして申し訳ございません」

「いえ、ちゃんとドアを閉めなかった自分が悪いので」


 部外者の妹が現れたことで、我に返ったらしかった。

 グラン様はいつも通りの落ちついた態度に戻っていた。


「では、失礼します」


 わたしも何事もなかったように挨拶して、部屋を出た。

 子犬を厩舎へ連れ出しながら考える。


(言葉だけじゃ、なかなか信じてもらえないよね。行動でも示してみよう)


 転生者とバレた今、わたしに必要なのは従順で協力的な態度。

 自分から情報を明かしたり、行動を報告したりすれば、きっと信じてもらえるようになるはず。


(捕まってしまったのは、もう仕方ない。使徒から逃げられるわけないし)


 ともかく、できるだけ印象を良くして、穏便に済ませてもらうしかない。

 わたしは片手で拳を作った。


(目指せ、模範囚!)


 そんなわけで、夕食後。

 わたしは再びグラン様の部屋を訪ねた。

 ノックの後、ドアが開くと、すぐに報告する。


「グラン様、わたしは明日、午前中は教会で子供たちに勉強を教え、午後はお友だちの家でお茶会の予定です」

「――」


 グラン様は無言だった。

 あ、あれ……? 報告、いらなかったかな。


「――お友達というのは、どの方ですか?」


 空回りのがんばりかと不安になっていたら、グラン様が真顔で質問してきた。


「リリアンです」

「ああ、パン屋のお嬢さんですね」


 さすがグラン様! わたしの情報、しっかり頭に入っているんだ。


「他に、何かご不明な点はございますか?」

「昨日の朝、あなたに話しかけていた男性は?」


「あれは幼馴染です」

「何を話していたんですか?」


「大したことじゃないんですけど……」

「大したことでないかどうかは私が決めます」


 びしっと言われて、背筋が伸びた。

 そ、そうだよね。わたしは転生者。無意識に異端の思想をまき散らしていたらいけないもんね。


「幼馴染には、グラン様に会わせて欲しいと頼まれていたんです。

 グラン様は療養中だからと断っていたんですけど、しつこくて。

 ……すみません、みんな使徒を物珍しがって」


「ああ、そういう」


 グラン様は表情をゆるめた。


「べつに構いませんよ。珍しがられるのは、慣れていますし。

 断るのに苦慮するくらいでしたら、連れてきてください」

「いいんですか?」

「ニナが知らない人間と長々と話している方が、私は不安なので」


 ですよねー! 悪魔が一般市民に何を吹きこんでるかって不安になりますよねー!

 うわ、緊張するな。これからは人と話していた内容も覚えてないと。


「他にお聞きになりたいこと、ございます?」

「……たくさんあります」


 わたしはグラン様の肩越しに、室内の様子をうかがった。

 子犬に散らかされた部屋は、今はもうきれいに片付いている。


「それなら……お部屋、お邪魔してもいいですか?」


 グラン様は少し驚いた顔をしたけれど、中に招き入れてくれた。

 ドアは、全部閉じない。少し開けてくれる。

 嬉しい。わたしのこと、悪魔でなく淑女扱いしてくれてる。


「どんなことでも聞いてください。包み隠さずお話しますから」

「なんでも?」

「はい」

「……恋人がいるかとか、そういうことでも?」

「恋人はいませんよ。そもそも、モテたことないですから」


 あはは、と頭をかく。

 グラン様は安堵していた。


(恋人がいたら、その人たちも悪魔に関わった人としてマークされるのかな)


 今後、交友関係は注意しなくちゃ。


「じゃあ、好きなタイプは?」

「うーん……優しい人でしょうか」


 他にも色々質問された。好きな食べ物、嫌いな食べ物、子供時代の思い出……取り調べは夜更けまで続いた。

 思わず、あくびを漏らしてしまう。


「すみません、こんな時間まで。つい」


 グラン様は外の月を仰いで、申し訳なさそうにした。


「少しは……信じていただけました?」


 青い目が、わたしをうかがう。

 躊躇してから、グラン様はそっと口を開いた。


「……最後に一つだけ」

「はい」

「あなたに触れてもいいですか?」


 意外な頼みだったけど、わたしはすぐにうなずいた。


「どうぞ」


 グラン様の両手が、ゆっくりとわたしの両手に触れた。

 手首を、腕を、肩を撫でていく。


(“走査”のスキルでも使ってるのかな?)


 首に触られたときは、絞められやしないかと一瞬怖くなったけど、杞憂だった。

 皮の厚い両手が、わたしの両頬を包みこむ。


(あったかい)


 気の抜けない状況なのに、体温にほっとしてしまう。

 とろっと少しまぶたが垂れた。


「……嫌がらないんですね」


 グラン様がぽつりと零した。

 おとなしくしていて良かった。だいぶ信用されてきている気がする。

 もう一押しかな。


「……よければ、服、脱ぎましょうか?」

「はい!?」

「その……全部、知りたいんですよね?」


 さすがに赤くなりながら、申し出る。

 恥ずかしいけど。わたしは体のつくりだって、まったく普通の人間と変わりないことを示したい。


「さすがにそこまでは! 大丈夫ですから!」


 ブラウスのボタンに手をかけたら、ものすごい勢いで止められた。


「ニナ。軽々しくそんなことをしてはいけませんよ」

「軽々しく言ってません! ……グラン様なら、信用しているので」


 あれ。グラン様が両手に顔を突っ伏しちゃった。


「……ニナ、お願いです。私をそんなに信用しないでください。

 私、本当にあなたが思ってるほど清廉な人間ではないです」


 そうかな。本当に悪い人は、そんなこと言わないと思うけどな。

 まあ。ともかく。それでいったん取り調べは終わった。


「お休みなさい、グラン様」

「お休みなさい、ニナ」


 うん? なんだろう、グラン様。とても優しい目。


「あなたは私を天使と言いましたけど。天使はあなたの方ですよ」


 パタンと扉を閉めて、首をひねる。

 ……これは、とりあえず信用してもらえたんだよね?

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