表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

5/41

5話 避けられなかった

 知り合いの顔を見たら、一気に力が抜けた。

 指が枝から離れ、体が地面に向かって落ちる。


「あーー」


 衝撃を覚悟したけど、地面に尻餅をつくことはなかった。

 着地の前に、グラン様に受け止められた。


「……ありがとうございます」


 人の温もりが嬉しくて。

 避けていたことも忘れて、わたしはつい相手にしがみついてしまった。


「グラン様、どうしてここに?」

「ニナが奉仕活動に来ないので、ご友人が城まで様子を見にいらしたんです。それで」

「わざわざ探しに?」

「ご両親はニナのことだから心配ない、とおっしゃっていたんですが、気になって」


 両親の鷹揚な反応に、苦笑いが浮かぶ。

 信頼されていると言えばいいのか、放置されていると言えばいいのか。


(ひょっとしたら、今日の夜、いなくても気にされなかったかも)


 グラン様が来てくれなかったら、と想像すると、また背筋がぞっとした。


「どこか痛むところは?」

「ありません。おかげさまで」


 言いながら、周囲を見回す。

 倒れている森狼たちは、どれもピクリとも動かない。

 たった五秒で全滅させられていた。


(魔法だけじゃなくて、剣技のスキルもすごいんだ……)


 無意識に、また全身に力が込もった。


「じっ、自分で歩けますから」


 わたしを抱えたままグラン様が歩き出してしまった。急いで、その腕から滑り降りる。


「濡れて寒いでしょう? これ、どうぞ」

「いえっ、すぐですから!」


 グラン様が脱いで差し出してきた外套も、断る。


「帰りましょう!」


 小雨の降る中を、わたしは元気に歩き出した。


(……さすがに気遣いを無下にしすぎかな)


 ちらっと罪悪感が胸をよぎる。

 その通りだったようで、背後からグラン様の沈んだ声がした。


「……ニナ、ひょっとして私、何か気に障ることをしてしまいましたか?」


 わたしは足を止めた。

 真剣な口調だ。軽く流せるものではない。


「いえ、グラン様は何も。お言葉や態度を嫌だと思ったことなんて、一度もありません」

「本当に?」


 青い目が、口ほどに物を言っていた――「なら、どうして避けるのか」って。

 困った。非常に困った。避けるのに妥当な言い訳、何かないかな。


 ただ申し訳なさそうにしていると、グラン様の方が理由を挙げてきた。


「私が使徒なので、怯えさせてしまっているのでしょうか?」


 意外な理由に、わたしは目を見張った。


「使徒は、戦うことに特化した……ある種の異端です。恐ろしく見えても、当然のことだと思いますよ」


 わたしは、カケラほどもそんなふうには見ていなかったのだけれど。

 グラン様は申し訳なさそうに顔を背けてしまった。


「そんなことは! 全然、まったく!」


 反射的に、首を横に振る。


「グラン様を怖いと思っているわけじゃないんです」


 よかった、また顔を向けてくれた。

 でも、それなら、避けている理由をどうしよう。


「……き、気恥ずかしくて」


 なんとか理由を思いついた。言葉にして絞り出す。


「グラン様と一緒にいると、目立つので……それが嫌で」


 嘘じゃない。大げさではあるけど、本当だ。


「おまけに使徒様だったので……横にいるのは、気が引けるというか」

「そんなに目立ちますか? 私と一緒にいるの」

「目立ってますよ!?」


 強く言い返したけど、グラン様は納得していない様子だった。


 なんで気づかないのかな……と思うけど、ひょっとしたら、グラン様自身は日々周囲の視線を集めて生きているので、それが普通なのかもしれない。


 うん、つくづく生きているステージが違うな。


「初めてグラン様の馬に一緒に乗せてもらった翌日なんて、大変だったんです。

 次の日の奉仕活動では、みんなから冷やかされて」


 これも本当のこと。なにせ話題の少ない田舎。みんな、変化に飢えている。


「わたし、そういうのが苦手なんです。すみません、子供っぽい理由で」


 思いつきのつじつま合わせは、うまくいった。

 グラン様は「そうでしたか」と大きくうなずいた。


「なので、今後はどうかお気遣いなく――」

「分かりました。では明日は、目立たないようにお迎えに行きますね」

「は?」


 おかしい。グラン様の結論がわたしの予想のはるか上空だ。


「お迎え自体、いらないですよ……?」

「でも、またこんなことがあるといけませんから」


 グラン様は森狼の死骸を振り返り、恐縮した。


「あの森狼、たぶん、元は山の方にいた魔物です。

 ここ数日、私がスキルを磨くため山の魔物を片っ端から狩っていたので、こちらにまで逃げて来ていたのではないかと……」


 あ。なるほど。だからこんなところに。

 普段いない場所に魔物が出現したわけが、ようやく分かった。


 ――っていうか、魔物の方を追い出すとか。使徒、半端ないな!


「ご迷惑をおかけしました。責任はきちんと取らせていただきます」

「グラン様のせいじゃ……」


「いえ、私が山の魔物を狩ったせいで、ニナが危険な目に遭ったんです。

 せめてあなたの安全は確保させてください」

「そんな、大げさな」


「お願いします。あなたに何かあったら、私は一生自分を許せません」


 真剣な眼差しで見つめられると、言い返す言葉が出なくなった。


「目立つのが嫌でしたら、教会から少し上ったところにある風車で待ち合わせしませんか? あそこなら人気がありませんよね」

「は、はあ……」


 返事をにごしていたら、グラン様の声がまた沈んだ。


「私と一緒にいること自体、嫌ですか?」


 傷ついた顔。

 これでハイとうなずけるほど、わたしは薄情になれない。善性も悪性も中途半端なのだから。


「……よろしくお願いします」

「ありがとうございます」


 グラン様はわたしの横に立つと、左腕を広げた。

 ふわっと、わたしを自分の外套の内側に入れる。


「せっかくケガなく助かったのに、カゼを引いては元も子もないですよ」

「……お邪魔します」


 さっそく雨からも守られてしまっている。

 わたしはグラン様にぴったり寄り添って、坂を上りはじめた。


(関わらないって決心したのに。なんでこうなるの……?)


 内心、ため息が出た。


(でも、あと数日のことだよね)


 グラン様は療養が終われば、ここを去る。

 今のところ、転生者だなんてぜんぜん疑われていないみたいだし。

 きっと無難に乗り切れるだろう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ