表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/41

最終話 転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き

 それから三ヶ月ほど、わたしは大変だった。


 最初の一ヶ月は本当に監禁された。

 どこかの塔の上に、枷付きで。

 話し相手はミシェルだけ――呼び方は一日目に「ミシェル様」から「ミシェル」に完全矯正された。


 ミシェルと四六時中一緒だった。

 これは例えでなく、言葉通りに一日中だ。

 入浴時も睡眠時も一緒。

 抗議したら、


「……私が妙な気を起こさないか心配なんですね。

 どうぞ私を気の済むまで縛ってください」


 と、縄を渡された。

 わたしは理解した。

 ミシェルの存在を拒否すると、さらに厄介なことになる――と。


 かといって、すべて受け入れてしまうのも危うい。

 ミシェルは離れているのが不安らしかった。

 なので、入浴時は「扉越しにしりとりする」、睡眠時は「同室でも寝床は別。夢で会いに来てください」で乗り切った。


 後追いの激しい赤ちゃんを持った気分だ。


 二ヶ月目になると、ミシェル同伴で外出ができるようになった。

 でも、野良猫をかわいがったら、


「あの毛むくじゃらのどこがいいんですか?」

「私の方が役に立ちますよね?」


 と一時間尋問。

 お花畑に見惚れていたら、


「雑草ごときにあなたの視線を与えないでください」


 と目隠し。

 ミシェルの独占欲には際限がない。


「いい加減にして!」


 ――そう怒鳴りたかったけど、ぐっとこらえた。

 真っ向から拒否すると、余計にひどくなるのは一ヶ月目で学んでいる。


 わたしは言動を工夫した。

 猫を触っているときは「この手ざわり、ミシェルの髪みたい」。

 お花畑を堪能したいときは「ミシェルとピクニックデートしたいな?」。


 あなたにも関心ありますアピールをすると、ミシェルは照れ照れ――いや、デレデレして落ち着いた。


『信じよう 病み(闇)の奥には デレがある』


 季語なし。


 三ヶ月目。

 ようやくミシェル以外の人と話せるようになった。

 ミシェルが所用で出かけていくと、入れ替わりにアナイスさんがやってきた。


「ニナ……調子はどう……?」

「体重が増えて困ってます」


 わたしは手足の鉄枷を見せた。

 ミシェルに頼んで重くしてもらったのだ。


「贅肉を筋肉に転生させるため、がんばってトレーニング中です!」


 ぶんぶんと手を上下させると、アナイスさんが小さく吹き出した。


「良かった……心の方が弱ってないか心配してたのだけれど……」

「あっ……そういう心配でしたか」


 そうだよね、この状況なら普通はそっちの方を心配するよね。恥ず。


「もう少しで、この駆け落ち生活も終わるから……安心してね……」

「……駆け落ち?」


 思わず聞き返した。

 この生活、そんなロマンチックなものだっけ!?


「愚兄は“転生者と禁断の恋に落ちて出奔”したことになっているの……」


 アナイスさんの説明によると、表向き、グラン家はわたしたちを駆け落ち扱い。

 で、裏では教会と交渉しているらしい。


「父は教会にこう言ってるわ……。

 『次男はグラン家の実質的な跡取り。このままだと家の存続が危うい。

 二人の仲を認めるなら、多額の寄付と、その転生者についての研究資料の開示を約束する』って……」


 今日ミシェルが出かけたのも、教会との交渉に関してらしい。

 そんなこと、教会が納得するのかと案じたけど、アナイスさんはあっさり言い放った。


「するわよ……。教会は教義上、転生者を否定しているけれど、情報は欲しいと思っているし……。グラン家出身の聖職者はたくさんいるわ……」


 枢機卿もいるほどなので、顔が利く、というわけだ。


「それに我が家は、教会では“教皇に説教した家”って有名だから……」

「教皇に説教!?」

「三代目の当主が、信仰心が強すぎてね……。

 以来、あそこはどうせ言っても聞かないから放っておけって扱いなの……」


 異名は“神の庭の狂犬”だそうな。

 うん、なんて逸話に事欠かない家系。


「これが駆け落ちなら、ミシェル、使徒のお仕事は……」

「とっくに辞表を出しているわ……。おかげで私の仕事は二倍よ……」


 アナイスさんは形の良い口をとがらせる。

 わたしも眉をひそめた。


(てっきり、わたしのことは世間から隠して、ミシェルはこれまで通り生活するのだと思っていたのに)


 何も知らされていなかったことに、モヤモヤした。

 ミシェルが帰ってくると、すぐ問い詰める。


「この生活が駆け落ちなんて、聞いてないですけど」

「ええ。だって、正確には蜜月ですからね」


 恥じらいながら訂正された。

 はっきりいう。どちらでもない。


「使徒を辞めていたなんて……ショックでした」

「大丈夫ですよ、ニナ。一生遊んで暮らせる程度に財産はありますから」

「ちがいます! そういうことじゃなくて」


 腹立たしいくらいまっすぐに返されて、辛い。


「……わたしのために、自分を犠牲にしないで」

「犠牲にしてるつもりはありませんよ?」


 本心からの言葉に、ため息が出る。

 いったい、どういえば伝わるんだろう。

 うつむいたら、ミシェルがソファの座ったわたしの前にひざまずいた。


「分かりました。気をつけます。

 だから、ニナも自分を大事にしてくださいね」


 ミシェルはわたしの膝にすがってきた。


「生まれてこなければ良かった――なんて。二度と言わないでください」


 転生者とバレた時、つい吐いてしまった弱音だ。

 ミシェルは迷子のように心細い顔をする。


「ニナが死んだら、私もすぐ後を追いますから。絶対一緒の世界に転生してみせます」


 来世もストーカー宣言された。怖。

 わたしはミシェルの頭をなでた。


「今世は百まで生きて、転生の必要がないくらい成長するのが目標ですよ」


 わたしたちは仲直りにハグした。


 四ヶ月目。

 教会との話がまとまり、わたしは塔からグラン家のお城へ戻った。

 以前使っていた部屋は不在の間にグレードアップし、わたし好みに改装されていた。


「これは取りますね」


 ミシェルはミスリルの枷を外した。

 わたしの方が戸惑う。つけておいた方が、逃走防止に役立つはずだ。


「いいんですか?」

「ニナは逃げないでしょう?」


 全然ない。迫害されないなら、逃げる理由がない。

 今後も不自由を強いられるけど――それも気にならなかった。

 ミシェルとの生活は、檻にいるとは思えないほど優しくて甘いから。


「日々の予定や報告もなくて大丈夫ですよ」

「それも?」

「あなたを信じているので」


 ミシェルが言い切ると、後ろでアナイスさんが突っ込んだ。


「油断してはダメよ、ニナ……。部屋には監視装置が付けられているし……たぶん盗聴器もあるわね……」


 感動が台無し。


「それは、あの。教会にはうちで監視しますと言っているので、一応ですね」

「好きにして構いませんよ」


 わたしは呆れながらも、了承した。


「今後も日々の報告をさせてもらいます。楽しいので。

 予定も把握してもらいます――その方が、安心ですから」


 アリスの悪魔のことが不安だった。

 特にチェシャ猫さんは、自分を知る転生者の存在に飢えている。


「いいですか?」

「ニナがそういうなら」


 声を弾ませて同意された。

 うん……案外、強がってたんだな、ミシェル。


「枷も、片手だけはめておいていいですか? 居場所の分かる機能がついているので……。

 もし亜空間にいても、位置分かるでしょうか?」

「もちろん! どこにいても分かるよう、強化しておきますね!」


 めちゃくちゃ楽しそうに言われた。

 うん……心の闇ってそうそうすぐには晴れないんだな。


「ずっと、そばにいてくださいね」

「はい。絶対、離れません」


 握った手は、強く強く握り返された。


 そんなこんなで、今日もミシェルは健やかに病み、わたしは楽しく囚われている。

最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

楽しめましたら、下記よりポイント★を入れてやってください。

一定ポイントたまると、ニナが1日自由になれます(※嘘です)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ