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転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


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34話 真相の把握

 ミシェル様がわたしを見つめている。

 求婚の返事を期待して。


(待って!? 結婚相手って、わたし!?)


 その事実を受け止めるだけで精一杯。


(わたし、転生者ですよ? 悪魔ですよ? あなたの仇敵ですけど!?)


 逃げ場を求めて、無意識に目線がさ迷う。

 周りは静かにわたしたちのやり取りを見守っていた。

 どの顔も微笑んでいて「おめでとう」といわんばかり。

 ――わたしが断るなんて、露ほども思っていない様子だ。


「え……あ……」


 何か言わなくちゃ、という焦りだけで声を出す。

 でも返す言葉なんて一つも思いつかない。


(これ、何かおかしい!)


 不意に、ミシェル様が真上を仰いだ。

 枷の入った箱を抱えて、横に飛ぶ。


「ただいま……買ってきたわ……」


 アナイスさんがふわりと地面に着地する。

 ミシェル様のいた場所に木の杭が突き立った。


「アナイス……人の会話に割って入るなんて、マナーがなってませんよ? 何歳なんですか?」

「あらやだ……お兄様こそ……自分のお年を忘れるなんて、もう物忘れ……?」


 一触即発の空気。

 喧嘩はやめてえ! 使徒二人が暴れたらたぶん舞台が全壊する!


「こら、天使ちゃん2号と3号。喧嘩はおやめ」


 パンパンと手を叩いたのは、いつの間にか来ていたお義父様。

 肩にのせている伝信鳥をミシェル様に向かって放つ。


「ヌーヴェル伯から。火急の用みたいだよ」

「本部からでなく?」


 ミシェル様はすぐさま内容を確認し、眉間にしわを寄せた。

 何か、よくないことが起こったようだ。

 カエルおじさんを振り向く。


「すみません、急な仕事が入りました。今日はこれで失礼します」

「うん、来てくれてありがとうね」


 一気にお仕事モードに切り替わったミシェル様は、喧嘩していた妹にも躊躇なく声を掛ける。


「アナイス、一緒に来てもらえます? あなたの俊足とスキルがいります」

「……代休の申請……お兄様がしてね……」


 アナイスさんは抱えていた他の買い出し品を、近くの人に預けた。


「ニナ」


 最後に、ミシェル様はわたしに話しかけた。


「この話はまた、改めて」

「あ――はい。お気をつけて」

「身辺に気をつけて。必ずだれかと一緒にいてくださいね」


 ミシェル様はわたしを軽く抱きしめた。

 転移魔法で、アナイスさんとその場から消える。


(あっ、枷、受け取っちゃってる!)


 ハグされた時、ついでに渡されてしまった。

 ……ミシェル様、後で仕切り直しするようなこと言ってたし。

 これはまだセーフ……?


「使徒って家を空けがちだから、寂しいと思うけど。

 浮気は絶対しないから、大丈夫だよ」


 カエルおじさんに肩を叩かれた。

 みんなからも口々に「おめでとう~!」と祝われる。

 セーフというわたしの考えは砂糖にハチミツをかけるくらい甘かった。


「そちら、気に入っていただけましたか?」


 白いシャツをシワ一つなく着こなした男性が近寄ってきた。

 枷を持ってきた人だ。そわそわと、箱を気にしている。


「は、はい。とても素敵です」

「突然のオーダーで、急いで仕上げたので不安で」


 職人さんの目元には、うっすらとクマができていた。


「腕輪、はめてみていただけますか?」

「これですか?」


 示された一つを、左手首に通す。

 C型になっていた腕輪は、力を込めるとカチリと閉じた。

 完全な環になり、わたしの手首に合わせて縮む。


「すごい。勝手にサイズを合わせてくれるんですね」

「うまくいって良かった」


 職人さんはほっと息を吐いた。


「――で、これはどうやって外せば?」

「ミシェルさんの魔力を流し込めば開きますよ」


 聞き捨てならない回答を寄こす職人さん。


「え? じ、自力では、外せないんですか?」

「はい。簡単に着脱できては、永遠の誓いにふさわしくありませんから!」


 職人さんは拳を握って断言する。

 あるのは善意と熱意のみ。

 「はめる前に言って!?」なんて抗議はナンセンスの極。


「この度は二人の縁に関わらせてもらえて、光栄です」


 笑顔全開で去って行く職人さんを、わたしは呆然と見送った。

 枷のついた手首をつかみ、演劇場の端に座り込む。


(ともかく、わたし、本当にプロポーズされたんだ)


 事実を呑み込んで、改めて疑問が浮かぶ。


(なんで……? わたし、転生者なのに)


 ミシェル様の告白を思い返していて、違和感を覚える。


(……ん? 待って。まさか、気づいてない?)


 閃いた可能性に、息も止まった。


(わたしが転生者だって思ってないんじゃ……)


 であれば、プロポーズも――それでも驚くけど――分かる。

 好きだって言ってくれるのも分かる。


(じゃあ、わたしの髪を採取したり、行動を把握したがったりしたのは?)


 答えは、やがて思いついた。

 こわごわ、左手首にはまった環を見下ろす。

 この束縛激しいプレゼント。


 ひくっと、喉が引きつった。


(まさか……まさかまさか! あの人、普通にストーカーぁ!?)


 ぞわあっと全身に鳥肌が立った。

 嘘だ、嘘であってほしい、嘘であるべき――と願ったけど、残念ながらそれが真相だった。

 夜になって、お城に帰ってきたミシェル様とアナイスさんの会話でそれが証明された。


「だから! 私からはニナに何一つ無理強いなんてしてませんって」

「嘘よ……。知らない間に髪の毛を採取されていたり、行動を監視されていて平気なわけないわ……」

「私もそう思いましたよ。でも、ニナは気にしなかったんです。それどころか、私に自分を知ってほしいと言ってくれて」


 言った。めちゃくちゃ自分から協力した。


「それはきっと、ニナがまだ兄様の本性を分かってないからよ……。

 愛という言葉の振りかざして自分を監禁してくるような人間と知ったら、きっと怯えるわ……」


「いえ、彼女はそれも受け入れてくれたんです。

 私に足枷をつけて監禁されるという幻覚を悪魔に見せられても、まったく怯みませんでした」


 うん、怯まなかった。だって、身の安全のために閉じ込められているだけだと思っていたから。


「贈った枷だって、ちゃんとニナの希望を聞いたんです。嘘だと思うなら、本人に聞いてみてください」


 わたしは玄関ホールの柱の影に座りこんだ。己の膝に突っ伏す。


(わたし……自ら監禁ルートへの道を開拓している上に、丁寧に道を舗装して、なおかつ自分を檻に蹴り込んでる!)


 なんで時って巻き戻せないんだろう。


「ニナ。まだ起きていたんですね」


 気づけば、ミシェル様が前にいた。


「大丈夫ですか? 祭りの準備で疲れました?」


 ひょいとわたしの両手をつかんで、助け起こしてくれる。

 青い目が、左手首にはまった銀の環へ釘付けになった。


「それ……はめてくれたんですね」

「はめたというか、事故ではまってしまってですね」

「本当は私がはめたかったんですけど。ありがとうございます」


 ミシェル様は目尻を下げた。指の背に口付けてくる。


「愛しています、ニナ。生涯あなたを守り抜くと誓います。

 主よ、この天使を私の元に遣わしてくれたことに無上の感謝を」


 いやーっ、もうプロポーズの仕切り直しもすっ飛ばされたーっ!

 すっかりわたしが了承した体になってる。

 言わなくちゃ。わたしはあなたと結婚できないって、断らなくちゃ。


「あっ、あのっ、ミシェル様」

「もう、触れていいですよね?」


 壁際に追い詰められた。取られている手が壁に縫い止められる。


「この数日、あなたに避けられて……暗闇にいるようでした」

「待ってください。わたし――」

「もう離しませんから」


 幸せそうにほほ笑まれてからの――キス。唇から唇への。 

 わたしの訴えは物理的に封じられた。


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