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転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


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28話 狂愛の一族

 お義父様との対面を終えたミシェル様は疲れ切っていた。

 途中で歩みを止めて、ぐったりと壁にもたれかかる。


「……意思疎通ができる分、悪魔の方が父よりマシに思えてきました」


 小さなつぶやきだけど、込められてる思いの重さはたぶんメガトン級。

 うずいた親切心に任せ、わたしはミシェル様の腕を取った。


「少し、座りませんか?」

「……そうしましょう」


 沈んでいた顔が、少し明るくなった。

 指を絡めて、しっかりと手を握られる。

 どうぞお使いくださいませ、使徒専用回復アイテム。


「先祖代々、きれいな方ばかりですね」


 わたしたちが腰を下ろしたのは、お城のギャラリーだ。

 静物画や宗教画の他、歴代当主の肖像画が壁を飾っている。


「世間では、うちの家系がこうも容姿に恵まれるのは、神に愛されているからなんて言われていますよ」


 ご自身もたいそう恵まれていらっしゃるミシェル様は、面映ゆそうにした。

 ご先祖様は聖人だ。あり得ない話じゃないかも。


「中央の大きな肖像画が、聖リュシフェル様の肖像画ですか?」

「いえ、ご先祖様はあそこです。天井近くの」


 わたしはあごを上げ、目が点になった。


 銀髪の美男子が、片手で片目を隠すポーズを取って立っている。

 全身、黒づくめの衣装。胸元に大きな銀の十字架をかけ、あちこちに鎖の装飾が光っていた。

 濃い影に縁どられた目元、紫色に塗られた唇。メイクもばっちりだ。


「ヴィ――」


 ヴィジュアル系ボーカルバンドのメンバーですか?


 そう口に出しそうになって、あわてて引っ込める。

 前世の知識は、正体を知られている相手の前でも口にしない方がいい。

 悪魔の知識を吹き込もうとしていると思われるといけない。


「変わった衣装ですけど、かっこいいお方ですね」

「領民にはとても人気があったそうですよ。敵を追い払えたのは、彼の圧倒的なカリスマあってのことだったとか」


 絵の中で、彼の足元にたくさんの人が平伏している。

 領民かと思ったけど、それにしては服装や容姿が異国の人っぽい。


「どういう場面を描いたものなんですか?」

「あれは聖リュシフェルと、彼にクライス教のすばらしさを説かれ、改宗した捕虜たちの図です」

「布教もなさっていたんですか」

「三日三晩、食事することも眠ることも許さず、ひたすら教えを説いたそうです」


 それ、洗脳の間違いでは。


「ちなみに、本人も三日三晩飲まず食わずです」

「本人も!? しゃべり通し!?」

「でも、あの絵のように平気でいたので。捕虜たちは彼の崇める教えに感化されたと伝わっています」


 人間は三日間、水を飲まないで過ごすのは無理と聞いた覚えがあるんですが……

 疑っていたら、ミシェル様が付け足した。


「人間の限界を超えられるスキル、というものを持っていたんですよ。

 修練では得られない、本人の気質に左右されるレアスキルなんですけどね」


「そんなスキルがあるんですね」


 ため息が出てしまう。

 グラン一族、つくづく並じゃない。


「そういえば、お義父さまのお部屋にあった肖像画。あれはイスト夫人ですか?」

「はい。十二年前に他界していますが」


 ミシェル様が十歳のときか。


「それは――」


 お気の毒に、と慰めかけたのを、こらえる。

 クライス教徒らしいコメントをした。


「神様に愛されるような、良い方だったんでしょうね」


「剣の達人で、芯のしっかりした強い女性でした。

 私に馬術や剣術の手ほどきをしてくれたのは、母です」


 そういえば、肖像画の中に、王立騎士団の制服を着ている姿があった。


「父に愛されなければ、もっと長生きできたでしょうね」


 ミシェル様の口調は皮肉げだ。


「あの通り。父は相手の考えなんてお構いなしに、自分の考えを押し付ける人ですから」


 盛大なため息が漏れる。


「母との結婚も無理やりですよ。母にあった縁談は裏から潰し、邪魔になりそうな人間は排除し、自分と結婚せざる追えない状況に追い込んだ」

「――」

「悪魔のようにタチが悪いでしょう?」


 お義父様、気だるげナマケモノ系な見た目だったのに。なんて雰囲気詐欺。


「結婚後、母は籠の鳥のような生活を強いられていました。

 さっさと神の御許へ行きたいと思うのも、当然でしょうね」


 吐き捨てるような口調には、隠しきれない憤りがにじんでいた。


「……父の言った規則は、無視していいですから」


 ミシェル様がぽつりとこぼす。


「父と同類は嫌なので」


 ――やった! 監視生活終了!

 と喜んだけど……わたしは浮かれる心を押さえた。

 よく考えたら、自由の身でいるのは、それはそれで危ない。


「わたしがそうしたくてするのは、ご迷惑ですか?」

「ニナには窮屈なだけでしょう?」

「一人でいて変な疑いをかけられるのは、イザベル嬢で凝りました」


 弱い立場だ。何か疑われたらあっという間に破滅する。


「今後も見守っていただけた方が、わたしには安心なんですけど」

「そういうことなら」


 ミシェル様は嬉しそうにわたしの両手を取った。


「喜んで続けます。あなたを見守るのは私の役目ですから」

「よろしくお願いします」


 粛々とうなずく。

 お義父様も、まだ会ったばかりのわたしを信用してはないだろうし。

 今は管理下に置かれる方が安全だ。


「いい加減、部屋に行きましょうか」


 座った時よりは元気な顔で、ミシェル様が立ち上がった。


「今回、部屋は隣同士なので」

「会うのに苦労しませんね」

「廊下の隅で座ってなくていいですよ」


 研究所でのことを思い出し、お互い笑った。


「わ――すてきなお部屋ですね!」


 案内された先は、上品で落ち着いた雰囲気の部屋だった。

 壁は淡いクリーム色で、年季の入った木製の家具がしっとり馴染んでいる。

 大きな窓からは美しい庭園が一望でき、日当たりも良い。


「あと、彼女がメイドにつくので」

「え!」


 メイドなんて、と恐縮したけど、


「部屋から出るときは、必ず伴ってくださいね」


 ミシェル様がいない時の見張り役だ。素直に受け入れた。


「何か不満があったら、遠慮なくいってください」

「不満なんて。もう一生、ここに住みたいくらいです」


 天蓋付きの豪華なベッドに倒れ込む。

 マットレスは焼き立てパンみたいにふかふかだ。


「そういうことは軽々しく言わない方がいいですよ」

「はい?」


 ミシェル様が寝転がっているわたしの両側に手をついた。


「言質を取った、といいたくなりますから」


 ゲンチ……? って何。外国語?


「晩餐は三十分後です」


 伝える口が耳に触れた。くすぐったい。


「また後で」


 ……結局、ゲンチがなんだったのかは分からずじまい。


(ともかく、晩餐の準備をしよう)


 衣装部屋を開け、目を見張った。

 ゆうにワンシーズン過ごせるだけの服が取り揃えられていた。


「こちらなどいかがでしょう?」


 どれにしようか迷っていると、メイドさんが淡い水色のドレスを取った。

 露出が圧倒的に少ない衣装ばかりの中、それは肩口が少し開いて大人っぽい。


「今日はお屋敷の中ですし」

「……お屋敷の中だと、それがいいんですか?」

「むやみに肌を見せて殿方を惑わせてはいけませんもの」


 先日のドレスが異様に慎ましやかだった理由が、やっとわかった。

 悪魔のわたしが異性を誘惑しないようにってことだったんだ!?


(……惑わせるなんて。したくても、できないのに)


 目すら合わせてもらえないくらいの不人気ぶりだったもん。 


「誘惑していいのは、ミシェル様だけですよ」


 メイドさんがいたずらっぽく言ってくる。

 ははっと、内心乾いた笑いが漏れた。


 使徒を惑わすなんて、もっと無理。


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