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転生令嬢人生は、ヤンデレ騎士の監視付き  作者: サモト


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18話 親切な隣人

 隣人は、猫の目みたいに綺麗なグリーンアイをしたお兄さんだった。

 魔法で染めているんだろう、髪は紫色。しっぽみたいに長い。


「こんにちは。俺はチェスウィック。君は?」


 棒付き飴をくわえながら、チェスウィックさんが手を差し出してくる。

 お行儀は悪いけど、着ているものは上質だ。

 遊び人な貴族の次男坊、といった雰囲気。

 

「ニナです。少しの間ですけど、よろしくお願いします」


 握手して、目が丸くなる。

 自分の手に、いつの間にか赤い棒付き飴が握らされている。


「お近づきのシルシ。イチゴ味だよ」


 にっと、チェスウィックさんが八重歯をのぞかせて笑う。


「気に入らなかったら、他の味もあるけど」


 チェスウィックさんが手を握って、開く。

 すると、その手には棒付き飴が何本も握られていた。

 

「すごい! どこから出してるんですか!?」


 拍手すると、チェスウィックさんは満足そうにした。


「イイねー、反応良くて。やりがいあるわー」

「スキル? 魔法?」

「魔術。空間をちょこっと(いじく)ってるだけ」

「空間魔術なんて。上級魔術じゃないですか」

「そう? 俺にとっては朝メシ前なんだけどねー」


 さすが魔術の研究所。魔術の達者な人がたくさんいるんだなあ。

 わたしはお返しにアメリルの実を差し出した。


「よかったら、どうぞ。魔力たっぷりですよ」

「ご丁寧にドーモ。君の笑顔が、俺には一番のごちそうなんだけどね」


 ウィンクされた。

 ナンパのようなノリだけど、不思議と嫌じゃない。

 親切にわざとらしさがないというか、純粋に人を喜ばせたくてサービスをしている、という感じなのだ。


「チェスウィックさんは、ここの職員さんなんですか?」

「俺は留学生。これでもペルグ王国の貴族でっす」


 ペルグ王国は、ここヌーヴェル州と隣接している国だ。

 他国の人と話す機会なんてそうそうないので、つい前のめりになる。


「ペルグ王国は自由な気風と聞いてますけど、本当にそうなんですね。

 髪色、そんなふうにしてる人、こっちじゃなかなか見ないです」


「フランシス王国はね、クライス教だもんね。いろいろキビシイよね」


 チェスウィックさんは紫色の髪をつまんだ。


「転生者まで悪魔扱いだから、ビックリしたよ」

「え……?」


 転生者という単語が、あまりに軽々しく出てきたので、こっちも面食らう。


「ペルグじゃ遠い星からのお客サン扱いなのに、こっちじゃ悪魔って。極端だよねー」

「チェ――チェスウィックさん!」


 思わず声を荒げる。


「そういうこと、言わない方がいいですよ」

「え? 言うのもダメ?」

「ダメですよ! 転生者を肯定したら、チェスウィックさんも悪魔扱いされるかもしれませんよ」


 バルコニーから身を乗り出し、小声で忠告した。


「ニナ」


 振り返ると、ミシェル様がいた。

 イザベル嬢も一緒だ。建物内を案内してもらっている最中のようだ。


「部屋、ここなんですね」

「はい。海が見えるので、うれしいです」

「そちらは?」

「チェスウィックさんです。ペルグ王国からの留学生で――」


 振り返って、目が点になる。だれも居ない。

 ついさっきまで、チェスウィックさん、確かにいたのに。

 わたしはキョロキョロするけど、ミシェル様は構わなかった。


「さっき、彼と何を話してたんですか?」

「ええと……」


 言い澱むと、ミシェル様の声が一段低くなった。


「声を潜めて。私には言えないこと?」


「その……口にするのを憚られること、だったので。

 チェスウィックさんが、ここでは転生者が悪魔だと呼ばれていて驚いたというので。

 そういう話題は軽々しく口にしない方がいいですよ、って注意を」


「ああ、そういう」


 ミシェル様はほっとした表情になった。

 わたしも胸をなでおろす一方で、ちょっと落ち込む。


(この質問攻め。いまだに完全に信用はされてないんだな)


 もらった飴を口に近づけると、ミシェル様に止められた。


「それは、お隣の方から?」

「はい。お近づきの印にって。わたしの方からはアメリルの実を差し上げました」


 なるべく詳細にやりとりを伝える。

 ミシェル様はわたしの手から、優しく飴を抜き取った。


「よく知らない人間からのものは、安易に口にしない方がいいですよ」

「え、あ、でも。お隣さんですし」

「ニナは人を疑うことを知らないから。心配です」


 わたしの額に一つキスを落として、ミシェル様は部屋から出ていった。


「うっわー、ニナちゃん、使徒様の連れだったんだ?」


 声の方をふり返れば、チェスウィックさんがバルコニーにいた。

 わたしは驚くよりも、あっけに取られてしまう。


「神出鬼没ですね、チェスウィックさん」

「謎の多いおにーさんは好き?」


 にいっと、チェスウィックさんは歯を見せて笑う。

 どこまでもノリが軽い。


「使徒様と一緒なんて。ニナちゃん、何者?」

「ぜんぜん、何者でもないですよ」


 悪魔に分類されてるけど。


「ちょっと、訳があって。ミシェル様と一緒にいないといけないだけです」

「ふうん? でも、すごく親密な感じだったね」

「はは、護衛されてるっていう体なので。そう見えるだけですよ」


 わたしはバルコニーを離れ、荷物の整理に戻った。


「――あ、しまった」

「どっかした?」


 バルコニーで退屈そうにしていたチェスウィックさんが、すぐ反応する。


「ミシェル様にお部屋の場所を聞くの、忘れたなって」


 参上するといったのに。不覚だ。


「結界に一番近い部屋と聞いたんですけど……」

「それなら俺、分かるよ? 案内してあげる」


 そういった次には、チェスウィックさんの姿はもう別の場所にある。

 わたしの部屋のドアを開け、廊下で手招きしていた。


「ここには大事なものが封印されているって聞きましたけど……具体的にどんなものなんですか?」


 階段を降りながら、思いつくまま疑問を口にする。

 部外者には秘密、という答えを予想していたけど、チェスウィックさんはあっさり教えてくれた。


「“アリスの悪魔”って知ってる?」

「聞いたことあります。転生者に従属していた悪魔たちのことですよね」


 百年ほど前にいた転生者アリシア=ローズ=カーライルーー通称・アリス。

 公爵令嬢だった彼女は、婚約破棄されたショックで前世を思い出した。


「カーライル公爵令嬢は前世で『不思議の国のアリス』っていう物語が大好きだったんですよね」

「そう。で、唯一無二のスキル《絶対女王》を使って、魔物の悪魔たちを次々としもべ化」

「悪魔たちに『不思議の国のアリス』のキャラクターを演じさせたんでしたっけ?」


 悪魔相手に、メチャクチャをやる人もいるものだ。豪胆すぎて感嘆のため息が出る。


「そのうちの一体“白ウサギ”が、ここに封印されているんだよ」

「悪魔だったんですか! ここにいるの」


 道理で使徒が派遣されるわけだ。

 ミシェル様が“大事な物”とぼかしたのは、わたしを怖がらせないための配慮だったんだろう。


「アリスの悪魔たちは、普通とは変わってるからねー。研究対象として、生かして封印してあるんだ」


 話しているうちに、研究所の地下まで降りてきた。

 魔法の明かりで、地下ということを忘れてしまうくらい明るい。

 廊下の突き当たりに、扉の開いた部屋が見えた。


「あそこがミシェル様のお部屋ですか?」

「そうそう。あの部屋の奥に、封印があるんだ」


 客室のように調った部屋には、職員らしき人たちが数人いた。

 ミシェル様が短剣で指先を軽く切り、にじんだ血を壁の魔法陣に押しつける。

 大事な作業のようだ。職員たちは神妙な面持ちで見守っていた。


「血の封印か。使徒様じゃないと解けない結界に変えたんだね」

「はー、厳重ですね」

「あなたたち、何をしているの?」


 剣呑な声が、背後から飛んできた。

 イザベル嬢は目尻を吊り上げて、わたしたちに階段を指し示す。


「ここは関係者以外、立ち入り禁止よ。出ていって」

「はいっ、すみません!」


「いいじゃん、イザベルちゃん。ニナちゃんは使徒様の連れなんだし」

「でも、部外者でしょう?」


 その通りです。オマケでくっついてきただけの、ただの一般人です。


「挨拶くらいさせてあげたら?」

「あなたが来たということは、グラン様にお伝えしておくわ」


 これからミシェル様に差し入れするのだろう、イザベル嬢は銀のお盆にティーセットを載せていた。


「また地下に来たら、ただじゃおかないから!」

「失礼しましたっ。行きましょう、チェスウィックさん」

「怖い怖い」


 わたしたちはそそくさと退散した。

 困ったな。これじゃ、ミシェル様に会いに行くのが大変そう。

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