第二章 隣国の魔術師
時間が空いてしまいました。
なろうでは初登場の魔術師の設定を色々変更していたらすっかり遅くなりました。
「これをクロフォード様が?」
翌日、ミサキの手にはよく磨かれた女性物の鎖帷子があった。
マリアはその色気のない贈り物に思わず目を見開いた。
アーサー・クロフォードの家に使いが向かったのは昨晩だ。
間近に迫っていた顔合わせの日を断り、ミサキに聖女として任務が入ったことを伝達する。ミサキはこの急な討伐に対する申し訳なさを詫び状として添えた。
すると少し前にこの鎖帷子がプレゼントとして届けられたのた。
マリアの表情があまりに表に出てしまい、釣られて侍女たちも目を剥いて鎖帷子を凝視している。
(めちゃくちゃ色気のない初めての贈り物。)
ミサキは思わず笑ってしまった。
家の修繕を聖女のお陰で受けられたクロフォード家では、いま出せる限りの金額で宝飾品を婚約者にプレゼントしようと計画していた。貰うばかりでは格好がつかないし何よりまだ見ぬ婚約者に少しでも喜んで貰いたかったからだ。
しかし討伐に向かわねばならないと知ったアーサーは『贈り物を探しに』と早朝街へ向かうとその金を全てこの鎖帷子に変えてしまったのである。
乳母とマイクはそれを抱えて帰った我が主人に目眩を覚えた。
『貴女のご無事を祈っています。』と揃いのネックレスや指輪を購入してくるのが貴族の男子としては常識だ。いや女性への常識だ。
だからそれに準じた品を買ってくると思ったのだ。
ディートもメリッサも『我が主人はポンコツかもしれない』と付き添わなかった自分達を呪ったが後の祭り。
色恋のレベルが異常に低い主人の贈り物にガッカリした。
マイクが自費で花束でも添えようかと直前で迷っているとウィリアム公爵と門前で鉢合わせた。
主人の代理であることを伝えマイクが多少の恥ずかしさからおずおずと鎖帷子を差し出した。すると公爵はその贈り物をあっさりと横から攫ってしまったのだ。
『何よりのものだ。ミサキ様にきちんと伝えるので心配なさるな。もうすぐ出立の時間ゆえ本日はお茶も出せず誠に申し訳ない。』キチッと一礼するとその真面目なオールバックの男はグリフィン家の門を潜って行ってしまった。
「受け取られちゃったよ。」
マイクの呟きは広い庭先で誰にも聞かれず風の音に消されて消えてしまった。
ミサキは鎖帷子を繁々と見つめた。
少年用というものでもない。
完全に女性用として作られている珍しい品物だ。
ペニシールのような軍備用品が多く作られている場所ならともかく、王都にこのような女性用軍装備が売っているのは稀だ。
胸の膨らみを計算して作られており、あくまで丈夫で軽量。
恐らく呪いも跳ね返すように術式も簡単だが組まれているのだろう。
胸と腹の部分には消えないインクで呪文が記されている。
きっと…きっと何軒もの店を回ってこれを探してくれたのだろう。
贈り物には一通の手紙が添えられていた。
〈聖女様へ〉
そう書き出された手紙には鎖帷子の正しい装着の仕方と、貴女の無事を心から祈っている、と力強い筆跡で書かれた直筆の字が埋まっている。
命のやり取りをしたことのある人間の書いたものだと直感的に思った。
マリアは色気の無いその贈り物を残念そうに眺めていたがミサキはアーサーの気持ちが嬉しかった。
『どうかご無事で』その一文に沿って生き残ることの大変さを知っているから鎖帷子なのだろう。
宝飾品と同じ額面はしたはずだ。
もしかしたらこの討伐にしか使わないものかもしれない。
でも彼はミサキが指輪でその指を飾ることより、無事を祈ってくれていることが何より嬉しかった。
「ふふふ、頑張らなくっちゃね。マリアから見たらちょっと残念な贈り物かもしれないけど私は悪く無いって思うわ。」
肩肘を張って緊張していたミサキが笑顔になる。
大丈夫。私のことを応援してくれる気持ちがある人が、私の背中を押してくれる。
まだ言葉を交わしたこともない男からの手紙にミサキの心は温められたのであった。
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ジェロームの剣はその魔術師によって中程からバキンと折られていた。
突如現れた猫背の男がこのような高度な術を繰り出すとは誰も思っておらず、封じの札も間に合わなかったことに皆が蒼白になる。
(ここまできて何故?!)
焦りから背中に冷たい汗が落ちてくるが今はジェローム他、数人しか魔術師と戦える者は残っていなかった。
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前線は半刻前まで勝利の歓声に満ちていた。
昼過ぎに到着したミサキの力によってシールドは再び綻びを閉じ、辺境伯軍の士気は一気に上ったからだ。
辺境伯軍の善戦により、死者は最初に発見された2名のみ。
小型魔獣による作物の被害と家屋の損壊はあるが他に重傷者はなく、結果として考えれば被害は最小限に食い止められたと言える。魔獣の規模からしても誰もが勝利だと喜んで終わるはずだった。
大型魔獣を倒したと第二大隊軍の団長が告げればミサキは迷わずにその場へ走っていき魔獣の心臓部に手を突き入れた。
何より優先するべきは〈魔石〉の確保である。
双頭の竜は額を割られて悍ましい姿で横たわっていたがそれに臆するミサキではない。
気味の悪い、まだ温もりのある魔獣からミサキは親指サイズの塊を探り出すと急いで聖水で洗い流した。
『石膏像は何処?!』屈強な討伐隊員が己の身長より低いそれを両手でがっしり挟み込み、素早くミサキの前に置く。
王都から運んできた像の目元にミサキが力を込めるとそれは不思議な鈍い光を放ち始めた。
目元が空洞となっているその場所にミサキは呪文を唱えながら丁寧に加工を施し粘土のように柔らかくなった顔の部分に魔石を嵌め込んだ。
朝日のような光が一瞬にしてその場を照らした。
眩しさに周囲が目を細めるも『成功よ。』とミサキの声が聞こえれば誰もが感激の声を上げる。
『『『『ワァァァ!!!!』』』』
『成功した…………。』『やった!』
誰もが緊張が解け歓声をあげたり、大きなため息を吐いたところで突如地割れのような大きな音が響いた。
ドオオォォォン!!
ジェロームは結界が自分の前に張られた瞬間吹っ飛んでしまって最初の一撃が何の属性だったのかは理解できなかった。
だが起き上がって周囲を見渡せば数人の騎士しか立っておらず何れも聖女の金色の防御壁に助けられたことは明白だった。
ミサキの姿を探せば、結えていた黒髪がばさりと垂れた状態で一人の魔術師の肩に担がれている。
「誰だ?!」
魔術師のローブに身を包むその男にジェロームは反射的に怒鳴り上げる。
するとその猫背の男はクツクツと笑いながらミサキの尻を撫で上げた。
「あぁ、夢にまで見た聖女をついに我が手にすることができた。
フフフ。本当に君の国の無能さには感謝しかないよ。
綺麗な黒髪だなぁ……真っ直ぐでツヤツヤで。」
そう言うと肩に担いでいたミサキの体を大切そうに横抱きに抱え直す。
「美人だな。
この聖女なら価値も益々上がるだろう。ガリバー野郎に穿られていないから勿論真っ新。
お前も馬鹿だな。懸想していたくせに最後まで触れないとは。」
猫背の男はそう言うとジェロームを見て口元を歪める。本人にしたら笑顔を向けているつもりなのだろう。
「あぁ、真珠色の肌……………ツルツルだ。」
そう言うとミサキの柔らかな頬をベロリと魔術師は舐め上げた。
「貴様ぁぁっ!!!!ミサキに何をしている!!!」
ジェロームは身体強化をかけると大きく振りかぶって魔術師に斬りかかった。
ガンッと鈍い音がし、ジェロームの合金で出来た剣は中程からボキリと折られていた。
他の騎士たちもその光景に目を剥く。
ペニシール地方の貴族家に代々伝わる剣はドラゴンの鱗をも貫通するように聖刻の祝福が与えられた逸品だ。
国宝とも言われるそれを魔術師はいとも簡単に横から殴ってへし折ってしまったように見えた。
ジェロームは屈強な軍人であり、今まで人間相手の戦闘において恐怖を感じたことが無かった。
(こいつは何かが違う…)
強さの根底が、人間や魔獣のそれではない魔術師の得体の知れない存在に、意識のある者たちは恐怖で膝から崩れ落ちそうになる。
「無駄だよ。所詮お前は人間だ。まあ聖女も人の子なんだけどね。
ハァァ、キセル王国のバカ王子達に渡すのが惜しくなるよ。」
魔術師が再びミサキの顔に、自分の唇を寄せようとしたその時
「生臭!!!!」
ミサキはフワッと臭ったその匂いに顔を顰めてバチンと目を覚ました。
そして条件反射のように顔面にシールドを張る。
ブヘッ
と変な音をさせて魔術師の顔が歪んだのはシールドの接地面に顔をぶつけたせいか。
「えっ!?!?何!?これ!?へっ?!」
ミサキは魔術師の腕でバタバタと暴れると掌に聖なる力を込めて魔術師の胸元に一撃を放った。
ドン!!!と衝撃とともにミサキは地面に転げ落ちる。
魔術師は突如目を覚ましたミサキに胸元を殴られゲホッと軽い咳払いをした。
数分前、突然巨大な魔力の塊が飛んできたのは分かった。
ミサキは出来る限りの広範囲でシールドを展開したがなに分、厚さは満足のいくものではなかった。
自分もマットに叩きつけられたような衝撃を感じて一瞬意識を失ったが、次に感じたのは鮮度の良くない刺身を顔に近づけたような悪臭だった。
知らない男が自分を抱きしめてチューしようとしてることに驚き、間髪を容れずシールドを張った。
結果としてミサキの操(?)は護られた。
本能の赴くままに慌てて突き飛ばすと、素早く立ち上がり距離を取る。
ジェロームの蒼白な顔色を見てこの、得体の知れない男が敵だとミサキも認定した。
よく見れば周囲には気を失って倒れた兵士たちや、呻き声をあげている魔術師、僧侶たち。
先程の攻撃魔法は明らかにこのフードを目深に被った魔術師の仕業なのだろう。
「ああぁ、ミサキ。やっと会えたね。
キセル王国は俺もいるし、面倒な貴族の柵は無いよ。だから怖がらないで良い。こっちにおいで?」
(いや行かないし)
動悸の治まらない胸元を掻き合わせ男の雰囲気の異常さに身震いする。
正面から見れば整った顔をした猫背の男。黒髪はあまり洗っていないのか脂が回ったように束になっている。
不潔な見た目に反して意志の強そうな眉と厚めの唇がなんだか気持ちが悪い。
ミサキをネットリとした視線で見つめる視線は常人の物とは思えなかった。
ミサキが徐々に距離をとりながら観察を続けている間にも、彼は勝手に話し続けている。
「噂では聞いていたんだ。ウランバルブ国が召喚に成功したってね。キセル王国の王子達は君を欲していてねとても高い金を払ってくれたよ。
ミサキのことはこの2年ずっと見ていた。聖女としての仕事ぶりも当然ね。
本当に素晴らしいと思う。なのにこの国の馬鹿どもは君を全く大切に出来ないだろ?なんでか分かるかい。
この国にはアホらしいルールが多すぎるのさ。実力もない人間が未だに威張ってるなんて時代遅れだよ。
俺と国境を越えて向こうに行こう。仕事はいくらでもあるし休みも多い。」
そこまで話すとミサキの呆気に取られた表情を見て魔術師はクスクス笑う。
「君の監視なんて造作もないことだ。俺の辞書に不可能という文字はないんだよ。
あぁ、孤独という名の戦いに終止符が打たれる時がやっと来た。
君というパートナーを得て俺は終わりなき試練に安息の地を与えられるとわかったんだ。」
どうやら黒髪の魔術師は人の話を聞いたり、会話を成立させるのが苦手なタイプらしい。
セリフも厨二病クサイ。
だが、いったい何歳なのか・・・
少しだけ見えた白髪が年齢を分からなくさせている。
肌の感じは30歳くらいだ。
ゲームのようにステータスが見えたら魔力系統は『MAX』と表示されそうではあるが、いかんせんなにかが狂ってそうな魔術師の様子にミサキは今までにない恐怖を感じた。
よく見れば悪い顔立ちでも無いのに、何処か不審者のような挙動が見受けられるのはそのせいか…と勝手に判断する。
「どうして祠を壊したのですか?そのせいで人が亡くなったんですよ?!それに貴方はいつからここに!この国にどうやって来たんですか?!」
ミサキは頭に浮かんだ疑問を片っ端からぶつけたい衝動に駆られ前のめりになる。
すると突如先程まで存在感を忘れていたジェロームが脇から新たな剣を握り締め攻撃を仕掛けようとした。
「うぉぉぉぉ!!!」
「馬鹿だな。無駄だよ。」
そう言うと魔術師は片手で杖を振り小さな竜巻を起こした。
「グアぁぁっ!!!!」
ジェロームは3メートルほどの高さに飛ばされるとそのまま地面に叩きつけられる。
「ジェローム様!!」ミサキは駆け寄ろうとしたがその腕がグイッと掴まれた。
「行かせない。」
魔術師は瞬時にミサキに詰め寄り腕を力強く掴んだ。
「何を言ってるの?私はウランバルブ国から出ないし貴方みたいに怪しい人に付いては行かない。」
ミサキは魔術師の腕を振り払おうともがくが腕に食い込んだ指は離れない。
「我が名はケイオス。君を迎えにきた魔術師だ。キセル王国に今は雇われているよ。
ミサキ。君はこの国に何の見返りも求めず尽くしてきたのに、ジェロームも王家も碌な扱いをしなかっただろ?君もなん度も考え込んでいたじゃないか。
おい!暴れるな!
…思ったより手こずるな………」
そう言うとケイオスはピンク色の液体を懐から取り出しミサキに向かって振り掛けた。
「キャア!」
甘い花の蜜のような香りが瞬時に立ち上る。
「俺のことを好きになればいい。」
ケイオスはニヤニヤしながらミサキを見つめる。
………………………
………………………
「何言ってんの!離して!!」ミサキは再度大きく腕を振り挙げた。
「あれ?薬が効かない?」
ケイオスは小瓶の中を覗き込む。
「その甘い液体なんなのよ?!」ミサキは頬についた液体を袖でゴシゴシと拭き取ろうとする。
「うーーーん、祠から盗った魔石から作った媚薬なんだけど俺を見てふわふわした気持ちにならない?」
「エエェ!なんてもん掛けてくれてるんですか!!なりません!!気持ち悪!!」
ミサキは嫌悪を露わにして益々体に伝った液体を拭き取ろうとする。
ケイオスは首を傾げながら
『おかしいなあ、実験では誰にでも効いたのに、聖女だから効果が出ないのかな?』と首を傾げている。
「好きになるわけないでしょ!媚薬なんて有り得ない!ジェローム様や他の人たちに何したか分かってるの?!
祠を壊したせいで人も死んだのよ?」
ミサキが怒鳴り上げるとケイオスは不思議そうに答える。
「唆したらあの父娘が、勝手に祠を壊したんだ。
全く自分達のことばかり考えてる貴族の典型みたいな家族だったよ。呆れて笑えたくらいだ。
結界を壊したって魔獣は来ないかもしれないよ?と言ったら、何を思ったか君たちを貶められると考えたみたいだった。
まぁ、結果的に自分達が魔獣に食べられちゃったんだけど。」
ミサキが怒りで顔色を変えても飄々とケイオスは『変だなぁ…』と媚薬に気を取られている。
やはり死んだのはロドリゲス親子だったのか…………。
不思議とその考えはこちらに向かう時にミサキの中で確信に変わっていた。
エスメラルダがペニシールから越境しようとした理由の一つにこのケイオスという魔術師が作った『媚薬』も関係あるのかもしれない。
道中聞かされたのは、手に入りにくい資材がこの国で大金を叩かれて買い上げられていたという話だ。
この魔術師は魔石を手に入れ、媚薬を作り、聖女をキセル王国に届けるのが任務だったのだろう。
「ケイオス!矢張りお前の仕業か!」
不意にターナー魔術師団長の声が空から降りてきた。
二人が顔を上げるとそこには宙に浮いているターナーがマントから珍しく両手を出し杖を握り締めている。
「忘れてた、ここターナーの爺さんが居たんだな。」
ケイオスはペロリと舌を出しターナーにニヤついた顔を向け杖を大きく一振りした。
すると大きな水柱が地表から飛び出しターナーを呑み込もうとする。
「結界!!」
ミサキは大きく手を広げターナーと水柱の間に壁を作った。
「ミサキ様!大丈夫です!下がって!」
ターナーが叫び彼は呪文と共に杖を振った。
すると今度は空中から薔薇の蔓が落ちてくる。
「汝を絡めとる鎖となれ」
ターナーが出したその植物が水を吸い大きく膨らむ。そして地表に落ちる瞬間鈍い銀色へと変化する。
「めんどくせぇ術が相変わらず得意だね。」とケイオスは左手をローブから出し蔓を炎で焼き尽くそうとした。
(デカイっっっ!!)
周囲の人間はその大きな炎の柱に思わず圧倒され仰反る。
「させない!」
ミサキはケイオスの炎に消火器から出てくるような粉末を勢いよく噴射する。
「なんだコレ?!」辺りを真っ白に覆ってしまうその煙にケイオスがゲホッと咳き込む。
「「「防御壁!!」」」倒れ込んでいた辺境伯軍の魔術師の3人が態勢を立て直しケイオスを取り囲むようにその炎と煙を覆う壁を外側から作る。
「ミサキ様!!私たちも戦います!」
ローブの袖がちぎれた魔術師が両手を広げ呪文を唱え始める。
ターナーは先ほど出した蔓薔薇の鎖を更に大きくなるように魔力を注ぎ始めた。
「炎を消す煙です。蔓を守ってください!!」
ミサキも消火の煙をシールド内に充満させ鎮火とターナーの鎖を守ろうとする。
彼らはあの大きな植物の鎖でケイオスを拘束するつもりなのだろう。
銀色に光る薔薇の蔓は金属のように見えるが、炎に巻かれた部分は氷が火に当てられた時のように容易く溶けて行く。
しかし炎が小さくなると共にその先端がケイオスの腕を掴み胴に這って行き始めた。
「あぁぁぁっ!!!!ゴホッ!ゴホッ!めんどくさいな!!ターナー!!!覚えてろよ!!!」
ケイオスが苛立たしげに魔術師たちを睨みつけると杖を下に向けた。
ドンッッと鈍い音がするとケイオスは底なし沼の泥のようになった地表に呑み込まれていく。
「ミサキ!この続きはいつかだ!俺は諦めないよ!」
ケイオスが首だけ覗かせると気持ちの悪い笑顔を浮かべる。
「君はイイ。俺は諦めない。」
「待て!!!」
ジェロームが手を伸ばしたが間に合わずケイオスは地面に消えて行った。
「上がダメだと分かったから下に逃げたか……………」
ターナー魔術師団長は珍しく額に汗を掻き渋い表情で空中から降りてきた。
「あの魔術師は一体誰なんですか?」
周囲の人間はターナーと互角に戦える人間を初めて見た。
ターナーは魔力の多さから未だ他の追随を許さない、大陸一の魔術師だと聞いていた。
その彼が捕まえるに至れなかったとはかなりの大事件である。
ミサキは薄気味悪く自分に嗤いかける男の顔が目に焼き付いて離れない。
「私よりは後に生まれた男だ。キセル王国で禁断の魔術を手にする為に人肉を喰らったと聞いているが魔力量が既に化け物だ…………。
キセル王国の王子たちに頼まれたと言っていたが定かでは無いな。
王家に確認し次第色々と進めていこう。」
「お願いします。あのケイオスとはまた会いそうな予感がヒシヒシします。」
ゾクリとした寒気を抑えるようにミサキは両腕で自分を摩った。
(人肉を喰らう?)
とんでもないワードが飛び出したことで、周囲の人間も顔を青くする。
しかしもっと顔色の悪い男がいた。
「え?ジェローム様?!えっ!!」
ジェロームは突然意識を失い倒れ込んだ。
魔術師「我が名はケイオス・ギャラクシー(混沌の銀河)」
全員:めちゃくちゃ厨二病的な名前……………




