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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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96話 冒険者ギルドでのピックの取り扱い

 商業ギルド長との話し合いでピックの価格は140Dに決まった。

 わたし一人で勝手に決めた価格ではなく、商業ギルドによる調査を踏まえギルド長との協議を経て決まった価格だから、余程のことがない限り面倒事は商業ギルドで引き受けてくれるそうだ。

 何か言ってくる人がいたら商業ギルドへ回せばいいというのはかなり助かる。

 話し合いの後はカウンターで決済用の魔術具に職業判別機能をつけてもらい、更にコンパクトサイズの決済用魔術具も貸し出してもらった。

 どちらも有料だけれど、安心と便利さを買うためだから必要経費だよ。


 わたしが魔術具の手続きをしている間に、冒険者ギルド長のソルヴェイと会えるようアポを取って欲しいとミルドに頼んだら、ベテランギルド職員のハルネスへメモを飛ばしたようだ。

 わたしたちが商業ギルドから出たところへ、今すぐもしくは明日の午後なら時間が取れると返事が来たので、慌てて冒険者ギルドへ向かって駆けだす。

 近くにいて良かった、商業ギルドからなら中央通りを渡って少し行けば冒険者ギルドはすぐそこだ。




「よう、スミレちゃんだったか?」


「はい。こんにちは、ギルド長。急な申し込みにも関わらず、お時間を取っていただきありがとうございます」


「ちょうど空いてたからね、かまわないさ。で、あたしに用ってなんだい?」



 わたしとミルドは冒険者ギルド長室に通され、ギルド長とテーブルを挟んでお茶を飲んでいる。

 ソファーにどっかりと腰を下ろして革のロングブーツを履いた脚を組み、背もたれに両腕を乗せてこちらを見るギルド長は相変わらず気さくだが迫力があって少々怖い。


「実は、例のピックの価格が決まったのでご報告に参りました。それと、ピックの件でお願いがありまして」


「柄じゃないからそんなに畏まらなくていいよ。それで、高級ピックの話か。結局いくらになったのさ」


「140Dですが……えっと、呼び名は高級ピックになったんですか?」


「従来のピックと区別しなきゃ混乱するだろう? あんたが着てるシネーラだって品物のランクで街着のシネーラ、よそゆきのシネーラ、最高級シネーラって呼び名が変わる。それと同じさ。それにしても、140Dだって? 随分と安いな」



 自分の商品を高級と呼ぶのは面映ゆいけれど、実際品質も価格も高いのだし、使用する冒険者がそう呼ぶのならまぁいいか。

 ギルド長に価格が決まった経緯を簡単に説明し、転売に関する懸念についても話した。

 やはりギルド長も転売行為について知らなかったので、説明した上で転売を避けるために冒険者限定販売にしようと考えていることを伝える。



「商業ギルド長もミルドさんも転売が実際に行われるとは思えないとおっしゃるんですけど、冒険者が定価より高い値段で買わなければ転売は成立しないので、念のため140Dの定価を冒険者に周知してもらえないかとお願いに来たんです」


「ふうん。冒険者が騙されるのは面白くないから協力してやりたいところだが、あんたの店だけを特別扱いするわけにはいかないな。商品の宣伝になっちまうから、値段を周知するってのは無理だ」



 ギルド長は転売の可能性については言及しなかったものの、定価の周知についてはきっぱりと断られてしまった。

 わたしとしては単に警鐘を鳴らすだけのつもりだったけれど、宣伝になると言われれば確かにそうかもしれない。

 公的機関である冒険者ギルドとしては安易に引き受けられないのは当然か。

 仕方がない、引き下がろうと思ったわたしに、ギルド長はニヤリと凄味のある笑みを浮かべながら言った。



「だが、別の方法でなら協力してやってもいいぞ。……なあ、うちに高級ピックを卸さないか? 冒険者ギルドで売ったら定価は自然と周知される。部族の里にある支部でも売れば200Dで買っちまう冒険者が出る可能性は確実に潰せるぞ」


「えっ、いいんですか?」


「かまわないよ。高級ピックは元々うちでもがっつり確保するつもりだったし、今だって冒険者向けに多少は消耗品や魔術具も売ってるんだから、特に手間ってこともない」


「それは特別扱いになんねーの?」


「チッ、頭固いなミルド。さっき言ったのは表向きの話ってヤツさ。高級ピックは冒険者にとって有益な存在だろ? 利がある物を全力で抱え込んでおかなくてどうするんだよ」



 商業ギルド長より冒険者ギルド長の方が利に貪欲だとは驚いた。

 稼業の枠組みの中でお行儀よく稼ぐ商業ギルドより、危険を顧みずに宝を求めて探索する冒険者の方が利にはシビアでがめついのかもしれない。

 何にせよ、わたしにとっては渡りに船な申し出だ。

 雑貨屋へ足を運ぶ冒険者は減るかもしれないが、冒険者ギルドと提携することでバックアップを得る方が利は大きいと思う。



「あんたが納品でギルドに出入りするようになれば、元人族の若い女だからって妙なちょっかいを掛ける冒険者も減るかもしれんしな。どうだい、悪い話じゃないだろう?」


「はい。お受けしたいと思います。……あの、いろいろと気遣っていただきありがとうございます。確かに冒険者に利のある商品を扱う予定ではありますが、まだ何も実績のないわたしにたくさん力添えをしてくださって本当に感謝しています」



 最初にピックの鑑定を依頼しに来た時も、元Sランクで開錠スキルがカンストしているギルド長がいきなり現れて鑑定を引き受けてくれた。

 彼女は猛禽類のような凄味があるし慣れ合う気はないという雰囲気を漂わせているのに、初対面の時からわたしが得するようなことばかり提供してくれる。

 しみじみとありがたく思ったので丁重に御礼を言ったら、ギルド長は鼻にしわを寄せて苦笑いをした。



「しれっとした顔して冒険者ギルドを利用しときゃいいのに、真面目な子だねえ。たいていの魔族は不慣れなヤツや頑張ってるヤツは放っておけなくて応援するもんさ。遠慮なく力を借りてさっさと力つけて、今度はあんたが手伝いを欲してるヤツに力を貸してやりゃいいんだよ。なあ、ミルド」


「……そのとおりだけどよー、こっ恥ずかしいからそーゆーのストレートに言うのやめてくんねぇ?」



 そっぽを向いて言うミルドを見て大笑いすると、ギルド長はメモを飛ばしてベテランギルド職員のハルネスを呼び寄せ、冒険ギルドで高級ピックを代理販売する際の手数料を二人で考えろと丸投げした。

 細やかな配慮をする人なのに、こういうところは大雑把なんだよなぁ。

 ブルーノと似ていると思っていたけれど、ブルーノは細部にまで繊細さを発揮するから、タイプは少し違うみたいだ。


 ハルネスと話し合った結果、高級ピックは130Dで卸して140Dで売り、手数料を1本に付き10Dとすることに決まった。

 以前、ミルドに頼んだ冒険者ギルドでのアイテム売却の代行手数料が3割だったことを考えると、かなり安いと思う。

 わたしが思う以上に、冒険者ギルド側にもメリットがあるのかもしれない。


 手数料が決まったところで、わたしとハルネスのやり取りを眺めていたギルド長が呆れたような声を上げた。



「やれやれ、そんなに丁寧な物腰で冒険者相手の商売ができるのかねえ」


「えっ。冒険者は信頼が置ける存在だ、冒険者に乱暴者はいないって聞いてますけど、違うんですか?」


「んー、間違っちゃいないが、解釈に温度差がありそうだな。別に脅すわけじゃないが、ハードな仕事をこなしてる連中だからがさつなところもあるし、少なくとも全員が品行方正ってわけじゃないぞ?」



 確かにわたしが接した冒険者はミルドとギルド長とハルネスの三人だけだから、わたしはまだ冒険者のことをよく知らない。

 でも、こればかりは相手を見て対応していくしかないんじゃないだろうか。

 わたしがそう言うと、ハルネスが少し考えてからわたしに提案してきた。



「正式に開店する前に、一度試しに店を開いてみたらどうですか。店頭で魔族に物を売ること自体、初めてなんでしょう? 知り合いの魔族を相手に予行演習をしておくだけでも心構えができるんじゃないですかね」


「ああ、それがいいかもな。ミルド、お前誰か知り合いの冒険者を連れて行ってやれよ。もちろんまともなヤツに限るが」


「それならヨエルのおっさんだな。元々開店したら連れてくつもりだったんだよ」


「お前なあ、どうせなら高級ピックを喜んで使いそうなヤツを紹介してやれよ」


「いや、このお嬢さんとこの商品におっさん向きの魔術具があるから紹介しよーと思ってさ。おっさんにはこないだちょっと世話になったし」



 冒険者たちが内輪話を繰り広げている橫で、一人考えを巡らせる。

 開店前に試しに店を開いて予行演習をする……プレオープンってヤツかな?

 魔族相手というのを抜きにしても、朝から夕方まで自分一人で店を切り盛りした経験はないから、確かに一度経験しておいた方が良さそうだ。



「そのアイディアいただきます! 試しにやってみますから、ギルド長とハルネスさんもご都合が良ければぜひいらしてください」



 日程が決まったら連絡することにして、ギルド長室を後にした。

 ピックの件が良い形に納まったし、プレオープンという思わぬ収穫もあったからわたしはホクホクだ。

 冒険者ギルドに来る前は転売の件で凹んでいたのに、我ながら現金だなぁ。


 ただ、気持ちが浮上してうっかり忘れていたのだが、冒険者ギルドを出て近くの食堂で昼食を食べる間にドワーフの件でミルドにがっつりと苦言を呈された。

 開業準備のための調査と、魔族社会に慣れるための助言や補助という依頼を請けているのに、依頼主が工房探しの街歩きで危ない目に遭いかけたというのは非常に不本意らしい。



「ったくよー、案内いる?って聞いたのに。やっぱ一人で行かせるんじゃなかったぜ」


「ううぅ、すみません……。一人でも大丈夫だと思ったし、あんまりうちの仕事でミルドさんを拘束するのも申し訳ないと思って」


「高額の依頼料払ってんだから、今月いっぱいは堂々とこき使えってーの! シェスティンの工房へ行く時も同行するから、ちゃんと言えよ」


「えっと、今日この後で行こうかなと思ってるんですが……。名称を高級ピックに変更して冒険者限定販売の文言を加えることと、価格が140Dに決まったことを知らせたいんです。発注後の変更で迷惑をかけてしまうから、伝言で済ませるのはちょっと申し訳なくて」


「わかった。さっさと食って行くぞ」


「はーい」



 この間買っていったオレンジのパイをシェスティンは気に入ったみたいだったので、途中で買って手土産に持っていこうと思う。



 発注したカタログの一部変更を頼んだらシェスティンはやはり嫌な顔をして文句を言ったが、わたしがお茶を淹れ、持参したオレンジのパイを食べたら機嫌が直ったみたいだ。

 付き合いの浅い異性の家でお茶を淹れるのはNGだったようだけれど、わたしの淹れたお茶はお気に召したらしい。

 機嫌を直したシェスティンにプレオープンの話をしたら、商品カタログを一組だけ先に作ってプレオープンに間に合わせてあげると言ってくれたので、思わず手を合わせて拝みたくなった。


 魔族たちはいつもわたしに力を貸してくれるなぁ……。


 ギルド長が言うように、貸してもらった力をいつか誰かに貸せるようになりたいと、切実に思った。


 まずはプレオープンの実現に向けて頑張ろう。

 よし、気合い入れるぞ!

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