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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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90話 保護者たちへの報告

「城下町での暮らしにはもう慣れたかい?」


「そうですね、外を出歩く時の緊張感は減ったと思います。獣人族の角やしっぽや竜人族の鱗も見慣れましたし」


「それにしても、商業ギルドへ登録するのが早かったですねぇ。冒険者ギルドへもあんなに早く顔を出すとは思いませんでしたよ」


「実は、引っ越しの翌日にミルドさんという冒険者と知り合いまして――」



 ファンヌに給仕してもらいながらの夕食の間、わたしはずっと口を動かしっぱなしだった。

 城下町での生活や人付き合いについて聞きたいと言われてせっせと話すのだが、わたしに質問が集中するので答えるのと食べ物を咀嚼するのとで忙しい。

 それでも、スティーグとの打ち合わせの時にあらかじめ夕食の場では機密事項に触れる内容は話さないと伝えておいたからか、ファンヌがずっと在室して時々会話にも参加していたので嬉しかった。


 オーグレーン荘の住人や飲食店の人たちと面識のある人が何人かいるし、巡回班の班員を選んだのはブルーノだから、わたしの周辺にいる人物のほとんどについては情報が共有されているのだろう。

 だけど、冒険者のミルドとは誰も面識がないからか皆の関心が高い。



「お前んちに行った時にそいつが帰ってくのを見掛けたぜ。確かにはしっこそうなヤツだったが、見た目はチャラかったな」


「信用できる人物なんですか?」


「冒険者ギルドに照会してみたら上々の評価だったよ。期待の若手だってさ。それもあってか冒険者の中でもモテる方みたいだね」



 カシュパルは既にミルドについて調査済みのようだ。

 わたしがミルドに仕事を依頼したと巡回班のオルジフからブルーノに報告があったので調べたらしい。

 巡回班からは意外と細かい報告がされているんだな。

 それなら、わたしに恋愛お断りを強要しているのではと巡回班のメンバーから自分たちが疑われていたことも知っているんだろうかと思って尋ねてみたら、ブルーノは苦笑しながらオルジフから報告と謝罪があったと言った。

 カシュパルも、そう思われる可能性があることは承知していたから特に問題はないと笑っている。

 何だ、誤解されても平気なのか。心配したのはわたしだけみたいだ。


 皆、ミルドの女性関係が派手めだというところに懸念があるようだったけれど、冒険者なら普通だとエルサは言っていたし、ミルドは依頼主であるわたしとは一線引いて接しているように見える。

 仕事に関しては基本的に真面目で誠実だし、わたしの魔族社会への常識不足に付け込まずに指摘してくれる。

 踏み込み過ぎず適度にスルーしてくれるところもわたしにとってはありがたい。

 わたしがそう言ったら、とりあえず皆納得したみたいだった。



「でも、彼の恋愛事情に巻き込まれないように気を付けてくださいよ。女性の嫉妬は恐ろしいですからね」



 やけにしみじみと言うレイグラーフの表情が暗い。

 女性や恋愛事が苦手な人なのに、セクシーな見た目のせいで苦労しているんだろうな……気の毒に。




 夕食後はまったりとお茶を飲みながら、雑貨屋の開業準備の進捗状況についても簡単に説明した。

 現在冒険者の必需品であるピックの鑑定を商業ギルドに依頼していて、その結果が出ればすべての商品の最終的な販売価格が決まるから、そろそろ商品カタログの製作に入りたい。

 そこで三番街の細工師工房を見て回り、先程見せた絵の作者であるシェスティンの工房に商品カタログと雑貨屋の看板と名刺の製作を依頼してきたと、開業準備が順調に進んでいることを伝える。

 皆には何かと心配をかけているから、少しでも安心してもらえるといいなぁ。



「そういえば、三番街で浮かない服装を相談されましたが、あのコーディネートで大丈夫でしたか?」


「おかげさまで浮いてなかったみたいです。ありがとうございました」


「それは良かった。実は私、三番街には行ったことがなくて、職人の町というのがどういう雰囲気なのか具体的には知らなかったんですよ」


「ええっ、当てずっぽうだったんですか!? 酷いですよ、スティーグさん!」



 わたしが唇をとがらせるのを見て、スティーグは謝りつつもくつくつと笑っていたが、意外なことに他の皆も三番街のことをあまり知らないようだった。

 公的機関や大きな店は一番街か二番街にあるので、勤務も居住も城の敷地内という彼らにとって城下町での用事のほとんどは中央通り付近で済んでしまうため、他の地区に行く機会がないのだそうだ。

 そういえば第三兵団の分屯地は一番街の北側にある。商業ギルドは一番街、冒険者ギルドは二番街か。

 クランツもファンヌも三番街を訪れたのはラウノの道具屋が初めてだという。

 カシュパルだけは何度か訪れたことがあるそうだが、諜報担当の職務柄か、夜暗くなってからの訪問だったので地区の雰囲気を知るというほどではないらしい。


 相変わらず好奇心旺盛なレイグラーフが興味津々な様子で三番街について尋ねてきた。



「職人の町というのはどういう感じなのですか? やはり精霊族の工房が多いのでしょうか」


「そういえば、確かに精霊族が多かったかな? 6軒中4軒が精霊族の工房でしたね。残りは獣人族とドワーフで――」



 そう言った瞬間、レイグラーフがわたしの顔をグッと覗き込んだ。



「ドワーフの工房に行ったのですか!?」


「あー、……はい。ドワーフの工房だと知らずに入ってしまって」


「……何か言われましたか」


「出て行け、と。目障りだって怒鳴られました。蛮族め!ですって、ははは」



 告げ口みたいになるから正直に答えることにためらいはあったが、彼らに隠し事をする方が嫌だったのでなるべく明るく、でも正直に話した。

 案の定、レイグラーフの眉間にぐぐっとしわが寄っている。

 そういう心配そうな顔をさせたくなかったのにな……って、ああっ、ファンヌの眉間にもしわが!!

 不快感丸出しの険しい表情ではせっかくの美貌が台無しだ。

 ダメだよ、ファンヌ! 眉間のしわは癖になるよ!?



「過去にドワーフと人族の間で何があろうと魔族国には関係ないのに、何でスミレが恫喝されてるんだろうね。ルード、どうする?」



 ファンヌより不快感丸出しの人がいたよ!?

 カシュパルが静かにキレてる……え、ちょ、普段の少年っぽい爽やかスマイルはどこへ……ニヒルな笑みが怖いんですけど!

 うわあ、諜報担当の人を怒らせたら不味いのでは!?



「ちょっ、待ってください! 単に怒鳴られただけで、別に暴力を振るわれたわけじゃないんですから、部族長が出張るような案件じゃありませんよ!?」



 いきなり怒鳴られてびっくりしただけだとか、ムカつきはしたけれどわたしには関係のないことだから気にしてないとか、子供の喧嘩に親が出て来るような真似はかっこ悪いから嫌だとか、わたしは必死になってカシュパルを宥めた。

 何で、あのムカつくドワーフのためにわたしが必死になってるの!?



「そ、そんなことよりですね! 全商品の販売価格が決まって、商品カタログと看板と名刺が完成すればいつでも雑貨屋を開業できるってところまで来たんですよ。引っ越してからまだ2週間も経ってないのに、すごくないですか?」


「ほう。開業準備は予想以上に順調に進んでいるようだな」



 わたしの強引な話題転換にカシュパルが苦笑いしているけれど、魔王がするっと乗ってくれた。

 えーい、このまま突き進んでしまえ!



「そうなんですよ、ルード様。もしかしたら今月末には開業できてしまうかもしれません。ああ、楽しみだな~、待ち遠しいなぁ~」


「フッ。だが、焦りは禁物だ」


「はい。プロセスも楽しむつもりでじっくりと取り組みますね」


「うんうん、特にスミレさんは名刺にはこだわりがあるようでしたから、良い物ができるといいですねぇ。出来上がったら私にも一枚もらえますか?」


「喜んで!」



 一瞬で皆に名刺を配る自分の姿が頭に浮かんで、思わず胸がときめいた。

 名刺配りを喜ぶなんて、元の世界で働いていた頃には思いもしなかったなぁ。

 他の皆も口々に自分も名刺が欲しいと言い出したので、もちろん全員に配るからぜひもらって欲しいとこちらからお願いする。


 そして、名刺のデザインの話から再びシェスティンの絵の話へ、更にお花見の話へと話題が移って何となく和やかな雰囲気になったところで夕食会は終わった。

 ふう、良かった。危うく面倒なことになってしまうところだったよ……。


 気が抜けたのか喋り疲れたのか、久しぶりの離宮のベッドだったにもかかわらずわたしは早々に眠ってしまった。




 翌朝はクランツに付き合ってもらって久しぶりにジョギングをした。

 離宮の庭の中を走るついでに、お花見の対象となった黒の季節に花が咲くという木を見に連れていってもらったがあまり大きくはなかった。

 どんな花が咲くのかは教えてもらえなかったので、お花見の当日を楽しみにすることにしよう。


 朝食時にはファンヌとお泊り会の話をした。

 城下町での生活のペースも掴めてきたし、そろそろ開催してもいいと思う。

 それに、雑貨屋を開業したら忙しくなるかもしれないから開業前に一回はやっておきたい。



「ファンヌはいつがいいの?」


「わたしはまだ長期休暇中だから、スミレの里帰りの日以外は空いているのよ」


「へえ~、そうなんだ。じゃあさ、来週の里帰りの時、帰りの馬車に一緒に乗っていくっていうのはどうかな」


「あら、それもいいわね。スティーグと相談して、問題がなければそうしましょうか。決まったら連絡するわ」


「うん、待ってる。都合が悪かったらその次の週でもいいからね!」



 ついにファンヌとのお泊り会が実現するのかと思ったら、嬉しすぎて顔がにやけてしょうがなかった。




 そして、里帰りの主要目的である城への納品はわたしの部屋で行われた。

 参加者はブルーノ、レイグラーフ、カシュパル、クランツの四人で、前回と同じ手順で作業を進めていく。

 作業の合間の雑談で、雑貨屋の定休日の話が出た。



「スミレが雑貨屋の定休日を陽月星の日にしてくれるってレイから聞いたよ。納品のスケジュールを組むのが楽になるからすごく助かるけど、週に三日も休んで店の経営は大丈夫? 無理しなくていいんだよ?」


「いえ、大丈夫です。蒸留酒以外にもピックや裁縫箱といった利幅の大きい商品があるとわかったので、それなりに雑貨屋経営の見通しは立ちました」



 特に、商業ギルドの鑑定待ちとなっているピックは従来品より耐久が10倍ほど高く、従来品の相場は10Dなのにうちのピックは200Dでも売れると冒険者ギルドに鑑定されたことを話したら、彼らはとても驚いていた。

 さすがに商業ギルドの鑑定結果はもう少し下がると思うが、それでも1本につき100D以上の利益が見込めそうだし、冒険者にとって必需品であり消耗品でもあるピックで安定して稼げるだろう。

 週四日の営業でも経営を軌道に乗せられると考えている、わたしはそれなりの自信を持って彼らにそう伝えた。



「スミレってさ、結構抜けてる割に商売のことだけはやけにしっかりしてるよね」


「まったくです。その洞察力をやらかし防止にも使って欲しいものですが」



 わたしへの評価が地味に酷いような気がするけれど、商売に関しては一定の評価を得ていると思ってもいいだろうか。


 とりあえず、初めての里帰りでは保護者たちに良い報告ができたと思う。

 来週もまた楽しく報告できるように頑張ろう!

次回は久しぶりの【閑話】回になる予定です。

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