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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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85話 商品候補の選別

いつもはネトゲアイテムを『』で括ってますが、今回はアイテムが多く登場するため、さすがに目が滑るので一部を除き『』を省いています。

 商業ギルドから帰り、ささっと昼食を済ませたわたしは現在、商品一覧表を前に頭を悩ませている。


 先程商業ギルドに依頼した結果が出ればピックの価格も決まるし、この商品一覧表に載せてある約140点のネトゲアイテムから更に絞って、最終的に雑貨屋の商品とするアイテムを選別しなければならない。

 細工師工房へカタログの作成を発注するためにも、早いところアイテムの選別と価格決定を終わらせて商品一覧表を完成させよう。



 まずは、商品にすることが確定しているものからピックアップしていく。

 魔術具と魔法具は、限定販売の指定をされてないアイテムを全部。

 薬は回復薬と特殊回復薬と解毒剤が効果の高さ別の3種類ずつに、熱さましと腹痛止めと二日酔いに効く3つの素材。


 道具類に関してはもう冒険者用の品に特化することにして、雑多な生活用品の類はバッサリと切り捨てることにした。

 仮想空間のアイテム購入機能は冗談抜きに雑多な品が多くて、枕カバーに洗面具から、皿や大工道具に爪切りまであるのだ。

 ……いや、冒険の旅に爪切りはあった方がいいかもしれない。後でミルドに聞いてみよう。

 目玉商品であるピックと、アウトドア男子に人気の野外生活用具一式は当然として、武器手入れキットと採集用の道具もラインナップに入れておこう。

 あとはテントや寝袋、バックパックに文具くらいでいいだろうか。


 問題は、一番品数の多い装備品だ。

 アクセサリーの類は省いたし、柄違いや多少の型違いをひとまとめにしたにもかかわらず、それでも衣類、靴、帽子などの服飾関連商品だけで66種類もある。

 何故そんなに種類が多いのかというと素材が綿、帆布、絹、革、毛織物と5種類もあるからだ。

 靴下は素材の種類が3つと少ないが、帽子や靴類は5種類全部ある。

 そのうえ、靴はシューズに短ブーツ、長ブーツと3タイプに分かれるし、衣類は普段着と礼装とローブの3タイプがあり、更に男性用女性用に分かれる。


 自分が勤めていた会社だってたくさんの商品を扱っていたけれど、組織の一員として携わるのと個人事業主として商品の選別から携わるのでは全然違う。

 セレクトショップのオーナーとか大変なんだろうなぁ……。

 そりゃ、好きでやってるんだから楽しさの方が勝るのかもしれないけれど。


 そんな風に、装備品の多さに手を焼いているところへミルドからメモが届いた。

 ミルドのところへ飛んで来る風の精霊はいつもメモしか運んでこないので、以前不思議に思い尋ねてみたら、自分も相手の冒険者も音を立てたら不味い状況にあることが多々あるため、迂闊に声でメッセージを送ってはいけないのだそうだ。

 常にそういう状況にあるわけではないが、そういうわけで冒険者はメッセージの魔術をメモで行うのが常態化してしまうらしい。



『用事済んだ そちらが良ければ解毒剤を試したい』


『いいですよ 準備して待ってます』



 わたしが解毒剤の準備を終えたところに、ちょうどミルドがやって来た。

 どうやら先に冒険者ギルドへ立ち寄ったようで、代行を頼んだ地図の宝箱から出たアイテムの売却代金から手数料を引いた分をデモンリンガ経由で渡される。



「商業ギルドでの首尾はどうだった?」


「上々ですよ。商業ギルドから2つ依頼を出してもらうことになりまして――」



 依頼内容について詳しく説明したり、細工師工房をいくつか教えてもらったことを話したりしながら、ミルドが解毒剤を試すために毒を呷るのを見守る。

 毒は魔獣の駆除などにも使うので一般人でも薬屋で入手できるが、手続きが面倒らしく、ミルドは知り合いの冒険者から入手してきたそうだ。



「『解毒剤(大)』に見合うような強力な毒となると、かなり面倒な手続きになるからな。知り合いに採集専門のAランクがいるんで、そいつに頼んで分けてもらってきた」


「へえ~、冒険者にも専門分野があるんですか」


「専門っつーか、得意分野? 単に好みだったりもするけど」



 冒険者への依頼は討伐、採集、探索といろいろあるが、依頼なしでも発見物や宝を求めてフィールドに出ることもあるそうだ。

 ちなみに、ミルドの好きな分野は探索や宝探しで、依頼の合間にダンジョンや洞窟を攻略しに出掛けているらしい。

 冒険者ギルド長のソルヴェイはトレジャーハント専門だそうで、あまりにイメージ通りだったので深々と頷いてしまった。


 飲んだ毒の効果が出てから解毒剤を飲む、それを解毒剤の効果別に3種類分繰り返し、ミルドが無事に実験を終えたのを見てホッとする。

 『解毒剤(大)』の威力を試すために飲んだ毒はかなり強力だったようで、この間のブルーノが実験に付き合ってくれた時よりもHPバーの減りが早かったから肝が冷えた。

 口直しのお茶を振る舞ってミルドを労いつつ、先程一人で考え込んでいた商品の選別について質問してみる。



「冒険中に、爪切りが必要になることってありますか?」


「は? ……まあ、ないわけじゃねーけど、オレは冒険に出掛ける前に切ってくからあんまりない。つーか、妙なこと聞くなぁ、あんた」


「えっと、最終的な商品の選別について考えてたんですけど、思い切って冒険者向けに特化してしまうのもアリかと思いまして。それなら冒険時に持って行く可能性があるものだけを商品に残せばいいわけですから」


「はーん、なるほどね」



 そういう観点からすると、目下わたしが手を焼いている装備品は選別そのものが難しい。

 そもそも、人族の服飾関連商品は冒険者にどの程度需要があるのだろうか。

 わたしがそう問うと、ミルドは眉間にしわを寄せてう~んと唸った。



「依頼絡みで人族のエリアへ行くことは結構あるし、場合によっちゃ建物に潜入することもあるから変装用に人族の服があれば便利だと思う時は確かにある」


「建物というと、城や軍の施設あたりでしょうか」


「そーゆーのもあるけど、誰かの家だったり店だったりすることもあるから潜入先はいろいろだ。ただ、オレは人族のことをよく知らねーから、この表に並んでる商品の中でどれがその潜入先に適してるかわかんねーんだよな~。例えば、同じ城に潜入するとしても、行き先が宝物庫と食糧庫じゃ変装は違ってくるだろ?」



 そんなミルドの言葉に、わたしは頭を殴られたかのようなショックを受けた。


 人族のことをよく知らない。

 それは、わたしだって同じじゃないか。


 ステータス画面に人族と書かれていたから自分のことをそう認識していただけであって、人族としての知識や経験、アイデンティティがあるわけでもない。

 異世界に召喚された直後、イスフェルトにいたのはたったの二日未満だ。

 しかも、元の世界へ帰れなくなったという絶望とイスフェルトの連中から受けた仕打ちによる苦痛と憎悪でいっぱいで、周囲のことに関心を払う余裕なんてなかったから、人族の風俗や生活様式がどうだったかなんてまったく記憶にない。

 そのわたしが冒険者に適切な変装用アイテムを提供できるか……いや、どう考えたって無理だろう。

 もしかしたらわたしが不適切な衣服を提供したせいで変装がばれ、冒険者を危険な目に遭わせてしまうかもしれない。

 そうなった時、わたしは責任を取れるのか? 答えは否だ。


 突然黙り込んだわたしに、どうしたのかとミルドが訝し気な目を向けてくる。

 わたしは深いため息を一つ吐くと、正直に自分の誤認識を認めた。



「ミルドさんに言われて気付いたんですけど、わたしもたいして人族のことを知らないんですよね……」


「あー、そういや隠れ住んでたって言ってたっけ」


「はい。城や軍どころか町に住む人たちの服装すら把握してないのに、最適な変装アイテムを提供できるとは思えません。変装目的で装備品を売るのはやめておいた方がいい気がしてきました」


「性能テストした革のブーツと手袋は? あれは丈夫で良かったぞ。上位ランクはもっといいのを使うけど、中位ランクの連中にはちょうどいいと思うけどなー」


「そういう品は置いても良さそうですね。その他にも丈夫そうな品がいくつかあるので、ちょっと見てもらってもいいですか」


「オッケー」



 わたしは物置へ移動すると、素材が帆布、革、毛織物のアイテムの中から帽子やフード、長ブーツと短ブーツ、手袋とマントをどこでもストレージから取り出し、木箱に入れてミルドの下へ戻る。

 帆布素材のアイテムは一般魔族が使うには十分に丈夫そうだが、冒険者が使うには少々強度不足だとミルドが言うので、マント以外のアイテムは最終的な商品候補から一旦外すことにした。

 マントを残したのは冒険者はマントを羽織っているイメージがあるという単なるロマンに過ぎないが、冒険にはロマンが重要だからよしとする。

 帆布素材の品には特に関心を示さなかったミルドだが、毛織物素材は初めて見るのか、『上等なマント』を手に取ると温かそうだなと言った。



「魔族国にも人族のエリアにも寒い地域があるんだけど、そこへ冒険しに行く時に良さそーだな、これ」


「寒い地域以外には出回らないんだって以前服飾関係の業者から聞きました。でも意外ですね。魔族は温度調節を魔術で済ませるのかと思ってました」


「体を覆う空気の層の温度調節ができないわけじゃねーけど、魔力残量を考えたらあんまり連続使用はしたくねーんだよなぁ。だから、この毛織物の一式は寒い地方に時々出掛けるヤツなら冒険者以外でも需要あるんじゃねーの」



 人族の服飾関連商品は魔族に対して訴求力があまり高くないが、このウール製品は期待が持てそうなので、トルソーに飾ってみてもいいかもしれない。



 変装用のアイテムの取り扱いを諦めた結果、大量にあった装備品は一気にその数を減らして10点ほどになった。

 販売価格はまだ決まってないが、商品の最終的な選別はだいたい目途がついたような気がする。

 変装関連を諦めざるを得なかったこと自体は残念だけど、頭を悩ませていた原因が取り除かれたのだから結果オーライとしてしまおう。



 性能テストのために毛織物素材の品一式と革の帽子をミルドに預け、更に暫定的な最終商品候補を書き出した紙を渡して、冒険者から見た適正価格を考えてくれるように頼んだ。

 そして、今後の予定を擦り合わせる。



「明後日の土の日は冒険者ギルドで契約更新か。それ以外はどーする?」


「明々後日の陽の日から一泊二日で里帰りすることになってます。あとは、商業ギルドで教えてもらってきたので、明日は細工師工房巡りをして、どの工房にするか決めたいですね」


「案内いる?」


「ありがとう。でも、三番街の工房だけに絞ってもらいましたし、街の探索も兼ねて一人で行ってみますよ」


「了解。あーでも、あんたシネーラ以外の服持ってる? あるならそれ着てった方がいいぞ」



 ミルド曰く、三番街は工房や職人が多いエリアだからシネーラなんか着ていったら通りすがりの全員に振り返られると思え、だそうで。

 三番街は西通り周辺しか行ったことがないけれど、そんなに雰囲気が違うんだろうか。

 バルボラとヴィヴィで出掛けたのは食材の買出しの時だけだから、ちょっとドキドキするなぁ。


 よーし、明日は仕事着で職人の街を闊歩するぞ!

読んでいただきありがとうございます。ブックマークや★クリックでの評価もすごく励みになっています!

5月は週2回のペースで更新できましたが、仕事の関係で6月以降は少しペースが落ちるかもしれません。ストーリー自体は決まっているので、こつこつと執筆頑張りますね!今後ともよろしくお願いいたします。

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