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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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77話 調査と性能テストの相談

 自宅へ着くと、ミルドが早く商品を見せてくれとせがんできた。

 元々ミルドは人族の品物を見たくてわたしに声を掛けてきたのだし、商品一覧表を見せただけで実物を見せる前に商業ギルトと冒険者ギルドへと出掛けてしまったから、随分と待ちかねていたらしい。



「オレが窓開けといてやるからあんたは商品を持ってきてくれよ。どうせオレの方が飯食い終わるの早いんだから手持無沙汰になるだろーし」


「わかりました。何から見たいですか?」


「品質保証用の性能テストが必要なヤツと、魔族のオレが見たことなさそーなヤツから頼むわ」



 ミルドのリクエストを聞いたわたしは物置へ行き、どこでもストレージから取り出したアイテムを傍にあった木箱に入れて店へ戻ると、応接セットのテーブルの上にアイテムを並べていった。

 性能テストは魔法具、魔術具、薬品と素材の分野をお願いするつもりだ。

 あとはサバイバル用途の道具類や装備品あたりをザッと選んできたが、ミルドは買ってきたサンドイッチを頬張りながらそれらをしげしげと眺めている。

 アイテムを並べ終えたわたしもミルドの向かい側のソファーに腰を下ろし、買ってきたジュースをひと口飲んでからサンドイッチにかぶりつく。

 結構歩き回ったから喉が渇いたし、お腹もぺこぺこだ。


 二口三口食べて少し空腹を満たすと、わたしは魔法具と魔術具の説明を始めた。

 聖女専用の術である魔法は秘匿対象なので、魔法具は魔術具として売るように言われている。

 ネトゲアイテムの魔術具で限定販売の指定を受けなかったのは『魔石』と『(から)の魔石』の2つだけなので、雑貨屋で扱う魔術具はほとんどが魔法具だ。

 商品一覧表に載せた魔法具は全部で7つ。

 ブルーノが魔族軍で試すと言って大量購入した『魔物避け香』と『脱出鏡』に、カシュパルが購入した『空気石』とレイグラーフが購入した『口述筆記帳』。

 それから装備品の色を変える『染色料』と、戦闘などで落ちた装備品の耐久値を回復させる『裁縫箱』に、入れた時の状態をキープする『保存庫』だ。

 保存庫以外は魔族国にないものばかりなのでミルドは高い関心を示した。



「なるほどなー、確かに冒険者には需要があると思うぜ。特に魔物避け香と脱出鏡は重宝しそーだし、テストするのが楽しみだ」


「魔族国の魔術具とは少し使い勝手が違っていて、使おうって念じながら魔力を流すと起動するんです」


「ふーん。まあ、魔力のない人族が使う前提なんだからオレらのとは仕様が違って当然だろーぜ。なあ、念のため起動方法を確認したいんだけど、今ここで試すならどれがいいんだ?」


「そうですね……、元に戻せるので染色料を試してみてください。何色に変えたいかをイメージしながら魔力を流せば機能すると思います」



 染色料は髪の色を変える『染め粉』と同じ要領でいけるだろうと踏んでいたが、予想通りミルドの黒いシャツは白へ変化し、もう一度アイテムを使ったら無事に元の黒へ戻ったので内心でホッとする。



 魔術具として魔法具をひと通り紹介し終わると、次は薬品と素材だ。

 昨日のノイマンとエルサの反応だと『回復薬』と『特殊回復薬』は冒険者以外の客を引き寄せてくれそうだし、3種類の素材はそれぞれ熱さまし、腹痛止め、二日酔いに効く薬になるので需要はあるように思う。

 このジャンルはまだ回復薬しか試したことがないので、しっかりテストしてもらおうと物置で薬品と素材を木箱に入れている最中に、はたと気付いた。

 ……『解毒剤』は、毒に侵されないとテスト出来ないのでは?



「ミルドさん、今回の薬品の性能テストは回復薬と特殊回復薬と素材だけにしてもいいでしょうか」


「解毒剤のテストを保留にするってことか? ……あんたが考えそーなことはだいたい予想がつくけど、品質保証を引き受けた以上オレは絶対に解毒剤もテストするぞ。でなきゃ違約金払ってでもこの依頼を断るんで、そのつもりでいてくれ」


「ご心配なく。わたしも人体に影響を及ぼす薬と素材はしっかりテストすべきだと考えているので、もちろん解毒剤もお願いしますよ。ちょっと思い付いたことがあるので、後回しにしたいだけですから」



 ミルドの冒険者としての矜持に傷をつけるような真似をするつもりは毛頭ない。

 ただ、わたしは基本的にネトゲ仕様を信頼しているし解毒剤も絶対効くと思っているけれど、まだ面識の浅いミルドにいきなり人体実験を課すのは心苦しいので、先に自分で試してからお願いすることにしたいのだ。

 ミルドは胡乱な目でわたしを見たが、今回も引いてくれた。

 わたしがちゃんとやると答えたのでスルーしてくれるらしい。



 性能テストの対象をチェックし終える頃にはわたしの食事も済んだので、食後のお茶を出してから、今度はサバイバル用途の道具類の説明に移る。

 クランツが気に入ってプライベート購入までしていた『野外生活用具一式』にはミルドもやはり食いついた。

 栓抜きと缶切りとワインオープナーが一体となった多機能ツールは一体どれだけ吸引力があるのか……アウトドア系魔族男子は確実に釣れる勢いだよ。



「これ、セット商品なのか。ランプや火起こしなんて魔族には必要ねーし、この多機能ツール単品の方が売れると思うけど。あー、でも多機能ツールは工具のと刃物のも入ってんのか。……お、何だこれ。折り畳み式のテーブルとイス!? へー、おもしれーな」


「ミルドさん。このセット商品は消耗品じゃないから一人1点買ったらリピートはないと思うので、正直に言うとあんまりサービス価格にはしたくないんですけど、冒険者視点だといくらくらいが妥当だと思います?」


「ん~~、5千Dくらい取ってもいいんじゃねーの? もったいぶるなら7千から9千D」


「高っ!! さっきの依頼料より高いじゃないですか!」



 予想外の高額設定にわたしは驚いた。

 ミルドが言うには、たいていの冒険者は素材や戦利品をがっつり持ち帰るために空間を歪める魔術具のバッグを持っているが、この魔術具は多くの魔力を消費するので魔力残量を考えるとギリギリまで使いたくない。

 そのため、戦利品以外の荷物は極力軽量でコンパクトであることを心掛けるものらしい。

 そういう観点からすると、この3種類の多機能ツールは非常に優秀で、冒険者にとってはぜひとも入手したい品に映るのだそうだ。



「でも、そんなに高くしたら反感買いませんか?」


「一着4、5千Dする街着シネーラを常用してるヤツの店なら妥当な金額だろ」


「オープンしたら店ではバルボラとヴィヴィを着ますってば! 嫌ですよ、高級店扱いなんて。目立ちたくないのに」


「地味メイクは変わらねーんだろ? お誘い不要のスタイルで目立たずにいるのは無理だっつーの。別に高級品を売ったっていいじゃねーか。んで、その一方で1本10D相当の消耗品を売る、と。ハハッ、おもしれー」



 そう笑って言いながら、ミルドは鍵を開ける時に使うピックを1本摘まんだ。

 わたしがやっていたネトゲでは開錠はスキルランクで成功と失敗を自動判定していたので、商品一覧表の作成作業の中で開錠道具があると知った時は驚いた。

 宝箱やダンジョン内の扉を開けるのに使うピックは冒険者にとって必需品で、開錠の腕前にもよるが一つの鍵を開けるのに時には十本近いピックを折ることもあるらしく、常に何十本と持ち歩く必要のある消耗品なんだそうだ。

 耐久性の高さも重要となるのでピックは性能テストをしておきたい。テストには最低でも50本は欲しいとミルドは言った。

 冒険者にとってピックがそれほど重要な品ならしっかりと品質を見極めて欲しいし、価格も安いことだからケチらずに100本くらい提供しておこう。


 それにしても、ピックの相場は10Dなのか……。

 価格調査をした時に店頭で見掛けなかったから相場がわからなかったのだが、仮想空間のアイテム購入機能でのピックの購入価格は30Dだ。

 冒険者の必須アイテムだとしても相場より20Dも高いなら、うちでは商品リストから外さざるを得ないかもしれないな……。



 その他に、性能テストとまではいかなくとも、冒険中の使用感を確かめてみたいとミルドが言ったものはすべて木箱に入れて取り分けておく。

 道具類では野外生活用具一式の多機能ツールをはじめ、『武器手入れセット』や『テント』や『寝袋』を、食料品では『ドライフルーツ』と『干し肉』など。

 装備品では耐久性能を求められる『革のブーツ(長)』や『革の手袋』と、人族の街をぶらついても大丈夫そうな人族の一般男性っぽい服一式を選んだ。

 以前、服飾業者に装備品を見せた時は“丈夫そう”という評価をもらったが、それを裏付ける結果が出るといいなと思う。



 そんな風に取り分けたものを基に、商品の調査や性能テストの第一弾を行うべくミルドは明日からさっそくフィールドへ出掛けるそうだ。



「とりあえず3、4日出掛けてくるわ。一週間のお試し中だし、キリのいいところで切り上げて戻ってくる」


「わかりました。その間にわたしは残りの装備品や道具類を整理しておきますね。あ、そうだ。せっかくフィールドに出るなら地図も持っていきますか?」


「そういや、本の分野に地図もあったな。あれって結局何の地図なんだ?」



 ネトゲアイテムには限定販売に指定された何種類かの地図の他に、1から10までの番号が振られた謎の地図がある。

 地図といっても地名の記載はなく、川や山などの地形や特徴のある岩や木が記されているだけのかなり大雑把なものだ。

 それら10枚の地図を手渡すと、ミルドは顎に手を添えて地図をジッと見つめていたが、その中から3枚分をより分けた。



「とりあえず、この3枚の場所には心当たりがある」


「えっ、これだけでわかるんですか!? すごいですね、ミルドさん」


「まーな。で、普通に考えれば、このバッテンのところには宝か発見物がある。この3か所でそれを見つければ、この10枚の地図が何なのか見えてくるかもな」



 そう言って、ミルドが不敵な顔で二ッと笑った。

 おおお。何だかすごくネトゲの冒険っぽくて、わたしまでわくわくしてくる。



 冒険のお供にどうぞと言って『蜂蜜酒』を1本渡したら、ミルドは大喜びしながら帰っていった。

 付き合いが浅い異性への贈答は魔族的には不適切だと指摘されたが、依頼主からの差し入れとしてならギリギリOKらしい。

 というか、人族のミードへの興味が勝ったようだ。

 魔族は本当にミードが好きだなぁ。


 玄関ドアのところでミルドを見送る。

 まだ知り合ったばかりだけど、ミルドはノイマンの評価どおり腕のいい冒険者のようだし、昨日たまたま知り合えたのは本当にラッキーだった。




 角を曲がりミルドの姿が見えなくなったので、家の中へ戻ろうと通りに背を向けた次の瞬間。


 誰かに背を押され、家の中へ押し込まれた。

 背中から片腕で拘束され、片手で口を塞がれる。


 声が喉の奥で凍り付く前に、身体が動いた。

読んでいただき、ありがとうございます。ブックマークや★クリックの評価も励みになっています!

大変な状況が続いていますが、少しでも楽しんでいただけたら幸いです。

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