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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第一章 離宮にて

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64話 ブルーノに相談&ランチミーティング

 『転移』の実験の翌日、ブルーノに時間を取ってもらい、護衛中の護身術についてクランツと三人で話すことになった。

 ただ、今日はブルーノが多忙らしく、まとまった時間を取れるのは夜になってからだというので、仕事が終わったら離宮へ来てもらえるよう約束する。


 そのあとに飛んできたスティーグからの伝言では、城への納品に関する打ち合わせを明日の昼食時に行いたいと告げられた。

 ほほう、ランチミーティングですか。懐かしいなぁ。

 それにしても、ここのところ、スケジュールの入り方が以前と比べてタイトな気がする。



「何だか皆さん忙しそうですね」


《明後日から白の精霊祭ですからねぇ。いつもより休む部署や人員も多いですし、それまでに何とか仕事を終わらせようという向きがあるんですよ》



 自分にも覚えのある理由に少し笑いがこみ上げた。

 どこの世界でも働く人間の考えることは似たり寄ったりか。


 しかし、他がそんな具合だとすると離宮のスタッフたちの予定はどうなっているのかが気になった。

 精霊の名を冠した祭りがこの魔族国で重要でないわけがない。

 せっかくの祭りなんだから休んで楽しんでもらいたいと思ったけれど、ファンヌに尋ねたらちゃんと調整しているから大丈夫だと言われた。

 精霊祭への取り組みに関しては種族によってかなり違いがあるらしく、何だか込み入ってそうだったので口出ししない方が良さそうだ。

 精霊祭のことを知るのがもう少し早かったらレイグラーフの講義で教えてもらえたのだけれど、ちょっとタイミングを逸してしまったなぁ……。




 夜になり、夕食後にやって来たブルーノは、余程忙しかったのか珍しく疲れ気味に見えた。

 ブルーノもやはり白の精霊祭までに仕事を終わらせてしまおうと頑張っているんだろうか。

 わたしがそう尋ねると、ブルーノは当然だと真顔で答えた。

 狼系獣人族は種族内の親密度が高く、種族で行う行事には誰もが熱心に参加するらしい。


 ではクランツの羊系獣人族はどうなんだろうと思い尋ねてみると、クランツの種族は黒の季節を最も重視するらしく、今回の白の精霊祭は特に何もしないそうだ。

 同じ獣人族でもかなり違いがあるんだなぁ……。

 王都ではさまざまな種族の者が働いているため、職場の同僚に休みを交代してもらうなどして十分に調整できるらしいが、種族の里ではそうもいかないのでは?

 一つの行政区画内の住民が一斉に休んだらどんな感じになるんだろう。

 ちょっと想像がつかない。



 もっと詳しく聞いてみたかったけれど、忙しいブルーノの貴重な時間を割いてもらっているのだからと、本題である護衛中の護身術について話を始める。


 護衛中に襲撃されたら一緒に戦うこと、必要となればわたしと一緒に『転移』で魔王城へ逃げることをクランツも承知してくれた。

 二人で戦う時の戦術についても案を出し合い、ある程度プランはまとまっているので、その内容についてブルーノの意見を聞きたい。

 それと、離脱するまでの戦闘において殲滅を選択するか否かでわたしとクランツの意見が分かれているので、殲滅についてのブルーノの見解も聞きたいのだ。



「殲滅に対するクランツの懸念はスミレの精神的負担と魔族内の軋轢。そしてスミレは自分の自由を死守したい、と。とどめを刺なきゃいいんじゃねぇか? それで両立できるだろ」


「だって、ブルーノさん。魔法を使ってるところを見られたら一人暮らしは解消って」


「俺が想定するのはあくまで最悪の事態だ。目撃者を排除できなきゃそうせざるを得なくなるだろうが、捕縛して聖地の地下施設にぶち込めりゃ問題ねぇ。100年も経てば影響もなくなる」



 ……そうか、わたしが死ぬまでの間目撃者を拘束できれば問題ないのか。

 100年って軽く言うけれど、魔族と人族では寿命が全然違うからなぁ……。



「部族長が出て来るレベルの問題になろうと、動画を見せて相手に非があると証明してやればいい。お前は異世界から召喚された聖女だと既に部族長会議で報告されている。いざとなったら部族長には動画の存在を知らせたってかまわんだろうさ」



 こちらから先に手を出さず、相手を死なせなければ大きな問題にはならずに済むだろう。

 それでもトラブルを避けるに越したことはないので、攻撃魔術以外の魔術とバレない魔法のみで敵を無力化したらどうかとブルーノは言った。

 攻撃して排除することしか考えていなかったけれど、無力化でいいならかなり気が楽になる。



「わたしたちの案の中だと、無詠唱の魔術で威嚇するか、各種能力を下げる補助魔術を相手に重ねがけして対抗心を折るという案くらいしか該当しませんね。でも、それだと無力化まで持っていくのは難しそうだし……」


「強めに『朦朧』をかけて『(ばく)』で拘束すればいいのでは?」


「それでいいと思うぜ。無力化後に魔王に連絡を入れりゃ、魔族軍で秘密裏に捕縛して処置が決まるまで拘留ってことで俺のところに出動命令が来るだろうよ」



 『朦朧』に『縛』って、基本用護身術そのままじゃないか。


 そういえば『朦朧』は使ってもバレない魔法だし、『縛』は魔術具を使ったように見せかけるという設定だった。

 いや、そもそも強めに『朦朧』をかけた後なら、相手は自分が何をされたのかもわからないだろう。

 朝練を続けたから基本用護身術の『朦朧』も『縛』もすっかり体にしみ込んでいるし、実験施設での実技で使ったから威力も効果範囲も把握済みだ。

 敵の数や状況にもよるけれど、余程敵の数が多くない限り確かにその二つの魔法で十分無効化できそうな気がする……。



「ねえ、クランツ。何だか、殲滅なんてしなくても済みそうな気がしてきました」


「君は思っていたより結構単純ですね」



 結局、シンプルなパターンが最強ということなんだろうか。

 わたしとクランツが頭を悩ませていた問題は、ブルーノのアドバイスと彼が考案した護身術によってあっさりと解決してしまった。

 更に、二人で戦う時の戦術案についても意見を聞かせてもらい、一緒に修正した上で実行の許可をくれた。

 クランツの言うとおりブルーノに相談してよかったとしみじみ思う。


 それにしても、ブルーノにかかると難事も簡単に解決してしまうなぁ。

 あんなに苛烈な訓練をさせておいて、実際には基本用護身術の実技だけで対応可能だなんてどういうこと!?と思わなくもないけれど、魔法の効果的な使い方といい、戦術の用い方の緩急といい、ブルーノの思考はいつも柔軟でバランス感覚に優れていると感じる。


 わたしはまだまだ視野が狭いし、頭も固いみたいだ。

 もっと成長しなきゃいけないな。




 翌日はランチミーティングのため魔王の執務室へと向かった。

 城、魔族軍、研究院への納品に関する打ち合わせなので、ヴィオラ会議のメンバーが勢揃いしている。


 執務室の奥の方にある会議用のテーブルには大量のサンドイッチが盛られた大皿がデンと置かれていた。

 大食漢の獣人族軍人が二名いるとはいえ、すごい量だ。

 打ち合わせに集中したいので、あらかじめ取り皿にサンドイッチを3切れ取っておく。

 料理はグラフィックが使い回しなので食べてみるまで何味かわからないものが多いが、1つめはハムステーキのサンドイッチだった。

 軽食なりに食べ応えのあるものを用意してくれているのか、気が利くなぁ。

 それに、粒マスタードが利いていてとてもおいしい。


 食事を進めつつ、スティーグが話し始める。

 ネトゲアイテムの納品は魔王権限の範疇で行う極秘取引であるため、雑貨屋の会計とは別扱いとなるそうだ。

 確かに、雑貨屋での販売を許可できない品物だから限定販売の指定を受けたのだし、商業ギルドの決済用魔術具を使うと取引内容が商業ギルドに伝わってしまうので拙いらしい。

 だけど、商業ギルドの決済用魔術具を通して税を取るのだから、それを通さず個人のデモンリンガで決済するというのは税を全額免除するということだ。

 魔王の指示だから問題ないとわかっていても若干気が引ける。



「手数料を一割としたのは身内を相手に儲けたくないからだと聞いた。ならば、身内の厚意で行う取引で税を取りたくないと我々が考える理由もわかるだろう?」


「そうそう。貴重なアイテムの納品だけでもこちらは十分利益を得ているんだから、少ない手数料から更に税を取るなんて非情な真似を僕らにさせないでよ」



 魔王やカシュパルが言うのを聞いて、これに関しては本当にお互い様なんだなと思った。

 互いにありがとうと言い合って、それでおしまいでいいんだろう。

 お礼を伝えると、わたしはアイテム一覧表をスクリーン表示し、ネトゲのアイテムについていくつか補足説明をした。

 どこでもストレージは総重量に上限があるものの、重い武器や防具を大量に持つのでなければ特に問題はない。

 そして、アイテム1種類あたりの所持数は999が上限で、それを取り出した後なら1日の購入上限数の買い足しが可能だ。



「以前、スミレが捕獲蔓99個を一度に取り出したら今にも崩れそうな商品の山ができて大変だったんだよね。その後は10個ずつ小分けして取り出すことになったんだけど、手のひらサイズの捕獲蔓ですらああなると考えたら、アイテム999個を一度に購入するのは現実的じゃないと僕は思うよ」


「999個買おうとしたら、スミレさんは100回取り出すことになるんですか。1種類売ったところでへとへとになりそうですねぇ……」


「数える方だって大変なんですから、他人事じゃないですよスティーグさん」


「時間もかかりそうですし、1アイテムあたりの個数を減らすか、購入アイテムの種類数を絞るか、よく考える必要がありそうですね」


「魔族軍の消耗品は大量にストックしておきたいから、俺は上限いっぱいまで買いたいんだがなぁ……」



 アイテムの購入には制限がいくつかあるから注文どおりにアイテムを揃えられるとも限らないし、城と魔族軍と研究院で購入枠をどう分配するのか話し合う必要もありそうだ。

 それに、ブルーノに魔法具4種類をまとめて売ったことがあるだけだから、納品手続きにどれくらい時間や労力がかかるかもわからない。

 わたしが離宮にいる内に一度実作業を試してみようという話になったので、わたしはどこでもストレージから手書きのアイテム一覧表を取り出し、スティーグに差し出した。

 限定販売の品は機密事項に当たるから本当は紙面に残したらダメなんだろうが、発注内容を考える時に必要だろうと思い、書き写してきたのだ。

 スティーグは一瞬魔王に目をやったが、厳重に保管しますねと言って受け取ってくれたのでホッとする。


 今日発注を受けて4日後に納品するとのことで、離宮の部屋へ帰ったらさっそく在庫を確認して調達を開始しよう。

 いよいよ雑貨屋として仕事をするんだなと気持ちが昂っているところへ、カシュパルが更なる燃料を投下してきた。



「そうだ、肝心なことを伝え忘れてたよ。スミレ、引っ越し日が6日後に決まったんだ。明日から白の精霊祭だけど、そっちの準備も始めておいてね」



 ついに、独り立ちへのカウントダウンが始まる……!!

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