表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
【番外編】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

289/289

289話 セーデルブロムの塔(2)

 わたしを先頭に、セーデルブロムの塔へと向かうご一行様。

 一応まとまって行動してはいるんだけど、正確にいうと2グループに別れている。

 一つは地上組。地上を走る獣人族たちと、浮遊術を使うわたしと魔人族のイーサクだ。

 そしてもう片方は上空組で、鳥系獣人族のソルヴェイと黒竜のメシュヴィツ、プラス黒竜の脚にくっついている精霊族のヨエルの三人。



『スミレちゃん、全然道に迷う感じないねぇ』


『ああ。考えてみれば、彼女はイスフェルトからあの霧の森を一人で抜けて来たんだ。それだけの実力があって当然だったな』


『それもそうか。ダメだねぇ、どうにも出会ったばかりの頃のイメージが抜けなくて、手を貸してやらなきゃって思っちまう』


『皆同じさ。でもおそらく今日でその認識も変わるだろう』



 ……すみません、聞こえていますというか、チャットの文字で読めています。

 地上組は黙々と走っているが、上空組はわたしに聞こえないと思っているのか、時々会話が聞こえてくる。

 変化(へんげ)時のチャットは現在いるエリア全域が対象みたいで、郊外エリアは相当広いのか、姿が見えないくらい離れてても届いちゃうのよねぇ。


 肩越しに上空を見上げ、黒竜と猛禽類が並んで飛んでいるのをチラ見する。

 鳥って一緒に飛べるのか。竜の羽ばたき、風圧すごそうなんだけど。

 もちろん獣化してるからリアルの鳥のサイズより断然大きいんだけど、それでもやっぱり不思議な感じがしてしまう。


 あの二人、ああやって一緒にいろんなところへ行って冒険してきたんだろうなぁ。


 長年ソルヴェイに想いを寄せていたメシュヴィツ。

 レイグラーフを恋のターゲットとしてロックオンしていたソルヴェイ。

 わたしがこの世界から去っていた二十年の間に進展があったのか、気持ちに変化があったのかは知らない。

 どちらかに肩入れするつもりはないから特に確認もしてないけど……。

 あの二人、お似合いだと思うなぁ。恋ってままならないねぇ。




 警戒を怠らずに飛び続け、やがて荒野の外れに佇むセーデルブロムの塔に到着した。

 皆が変化を解いていく。若干面倒くさいと思っていた攻略同行だったけど、思わぬご褒美タイムを満喫できました。皆ありがとうと、内心で感謝する。


 ハッ! 帰路も同じ感じなら、また皆の変化した姿が見れるかも。

 よし、なるべく早く攻略できるよう頑張ろう。のんびり帰れる時間を稼ぐぞ!



 塔に入る前に、諸々の準備を整える。

 まずは魔物に声で気付かれないよう音漏れ防止の結界を自分の周囲に展開。皆の方はリーダーのメシュヴィツが全員入れるサイズの結界を張っている。

 この状態でわたしは攻略を進めつつ、随時行動や考えを伝言で彼らに報告していく。基本的にはわたしから一方通行の通信になる予定。

 


「打ち合わせどおり、終了時刻は夕方の5時。攻略が完了していなくてもそこで終えて帰る。質問はあるかい?」


「大丈夫です!」


「それじゃ、攻略を始めてもらおうか」


「はい!」



 気合いを入れて返事をすると、わたしは塔の入り口に向けて思い切り『脱出鏡』を打ち付けた。

 パリーンと鏡が割れて、『ダンジョン入り口を登録しました』というネトゲ仕様の文字が視界を流れていく。

 初心者向けダンジョンなので、正直いうと保険用アイテムである脱出鏡を使う必要はない。

 だけど、わたしはどんなにイージーなダンジョンだろうとこのアイテムを使うと、夫や保護者たちに宣言してある。それで彼らが安心するなら安いものだ。




 セーデルブロムの塔へ足を踏み入れる。

 まずはマップを開いて視界の隅に配置し、『生体感知』と『消音』を発動。

 今日は『結界』なしで。上位ランクの同行者が多数いて危険が少ないため、あえてダメージを受ける可能性のある状態で、緊張感をもって臨むつもり。

 戦闘はビーム魔術メインでいく。討伐依頼だった汚物洞窟とは違い、ダンジョン攻略でブッ放す系の魔法や魔術は避けたいからね。

 風の精霊ふぅちゃんを呼び出し、今日一日、メシュヴィツへの伝言を頼んだ。



《魔法で足音を消し、索敵しつつ先へ進みます》



 メシュヴィツに下調べなしでと言われたから、このダンジョンについて特に調べてはいない。

 だけど、以前読んだ“ゲッダの大冒険”という冒険小説の中で主人公がこのダンジョンを攻略していたので、断片的な情報程度なら少しだけ知っている。


 出てくる敵は2種類。スケルトンと、ムカデ似の昆虫系魔物フーティン。

 確か、入ってすぐは敵が出てこなくて、少し先の通路でまず1体現れる。“ゲッダの大冒険”ではスケルトンだったが、現れたのはスケルトンウォリアーだった。

 上位種が出てきたのはわたしのレベルがゲッダより高いからなのか、それとも同時にダンジョンに入った人数が多いからなのか。ネトゲのシステム的にはどちらもありそうだ。


 マップと『生体感知』を見る限り、敵の背後は壁で他に敵はいない。

 スケルトンウォリアー1体をビームで倒すのにどれくらいかかるか、確認しておこうか。



《ビーム魔術でスケルトンウォリアーを攻撃》



 右手をピストル型に構え、人差し指から短めにビームを放つ。ビーム1本、切断なし、貫通のみで倒すのにかかる数をカウント……4射か、結構かかるな。

 瞬殺できないとなると、複数現れたら手間取りそうだ。まとめて貫通する位置に誘導するか、ビームの本数を増やすかして手早く倒さないと。



《敵排除。進みます》



 次は2体現れた。ここもやはり上位種のスケルトンウォリアーだ。

 少し下がりながら敵の進路を調整しつつ、伝言を送る。2体が前後に重なった瞬間を狙ってビーム発射。



《敵2体排除。進みます》



 マップで通路の終わりが見えてきた。この先はかなり広い空間になっている。大広間と呼ばれていて、“ゲッダの大冒険”では5体と少し多めの敵との初交戦の場面だった。

 この大広間、存在だけなら雑貨屋時代から結構馴染みがある。ミルドが『魔物避け香』の目安として性能テストをしたのがこの場所で、商品説明で何度も口にしてきたのだ。


 ここがあの大広間かと、足を踏み入れながら感慨深い思いで周囲を見渡す。

 大広間と呼ばれるだけあって、高い天井が何本かの太い柱で支えられている。

 奥の方に複数の敵がいて、マップ上で数えたところ10体。“ゲッダの大冒険”の倍だ。

 柱が邪魔でビーム向きじゃない。幸いなことにアンデッドだし、一掃するか。



《魔法でアンデッドを排除します》



 伝言を飛ばし、『移動』で大広間中央まで一気に進むと『退魔』を唱えた。一瞬で敵が消える。

 対アンデッドはこれ一発で済むからかなり楽だ。聖女の回復魔法は使えなくなったけど、『退魔』が残ってて良かったなぁ。



《敵10体排除、大広間内オールクリア。宝箱発見、解錠します》



 さて。宝箱登場、苦手な解錠タイムだ。今回の攻略同行で一番のネックと言っていい。

 本当なら実力で解錠するべきなんだろうけど、汚物洞窟の時のようにピック30本も折り続けて、9人もの上位ランクを長い時間待たせるのもいかがなものかと思うわけで……。


 ピック10本折ったところでネトゲ仕様の解錠に切り替えた。心の中で皆に謝りつつ3回で解錠成功。

 うう、この攻略が終わったら解錠修行しよう。ちゃんと自力で解錠できるようにならないと、ミルドとギルド長に顔向けできないよ。



《解錠成功。“黄銅の鍵”を入手》



 この時点では何の鍵かはわからないんだけど、“ゲッダの大冒険”を読んだわたしはラスボスのいる部屋の鍵だと知っている。

 後はラスボス部屋まで特に重要なアイテムはないのでスルーしてもいいんだけど、壺などの中もチェックしてデニールやアイテムを回収する。

 今回は探索の腕前もチェックされているので、怪しいところはすべてチェックしていくつもりだ。




 大広間を抜けると二階層へ向かう階段が現れた。

 “ゲッダの大冒険”では、二階層にはムカデ似の昆虫系魔物フーティンが出ていたが、これまでの流れだと、おそらく上位種が出てくるんだろう。

 うう、虫系の魔物、ホント嫌なんだけどー!!


 マップをチラ見しながら慎重に階段を上る。その先の通路、マップ上では赤い点が現れたが、敵の姿を見つけられない。

 ジリジリと進んでいくと、壁の上部に『生体感知』の赤い靄が見えた。こちらに向かって動いている。

 上から来るのか! ひいい嫌あああ!!


 咄嗟に前方にファイアウォールを展開。5連発して5枚の火の壁で通路を隙間なく塞いだ。昆虫系は火で燃やすに限る。

 火が消えてから死骸を確認したところ、敵はモンフーティン。やはり上位種のもよう。死骸の位置は火の壁の3枚目か4枚目の間あたり。

 通路での戦闘にファイアウォールはうってつけだな。今後も多用していこう。



《モンフーティン1体、ファイアウォールで排除。進みます》



 余裕がなかったせいで、伝言が事後報告になってしまった。『生体感知』の範囲を広げよう。


 その後、通路で2体出て、その先の広めの空間では5体出た。ここまでは一階層の敵の出方と同じ。

 次の三階層は敵がまたスケルトンウォリアーになり、1~5体の出現が数回。その次の四階層はモンフーティンで、こちらも同じく1~5体の出現が数回。


 ここまでは初心者向きダンジョンだからか、1回の戦闘で1種類の敵しか出ない親切仕様だったが、五階層からはスケルトンウォリアーとモンフーティンの両方が現れた。

 通路では両方まとめてファイアウォールで燃やし尽くせばいいので簡単だ。

 一方、開けた場所ではそうもいかない。スケルトンウォリアーとモンフーティンでは移動速度や動き方にだいぶ差があるからだ。

 クールタイムを調整しつつ『縛』か『麻痺』で敵の動きを止める。先にスケルトンウォリアーをビームで仕留め、その後ファイアやファイアウォールでモンフーティンを焼いていく。


 それを何度か繰り返し、ついに五階層も敵を一掃した。

 ふう、さすがにちょっと疲れたなぁ。


 視界の右下隅の時刻表示を見ると、正午を過ぎていた。

 よし、そろそろお昼ご飯にしよう。



《五階層オールクリア。一旦休憩に入ります》



 伝言を飛ばすとわたしは最後に戦闘した開けた空間を全力でウォッシュして洗浄、クリーンで消臭した。魔物を燃やした臭いが残っている中で食事するのは嫌なので!


 周囲をきれいにして、どこでもストレージから『野外生活用具一式』のシートを取り出して敷く。

 さあお昼ご飯だ~!!

ブックマーク、評価、いいね、いつもありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ