286話 新しい魔術(後編)
「で、そのビームってのは具体的にどんなもんなんだよ」
「う~ん、何ていうか、光を集めて発射されたもの、みたいな? あれ、違うか。粒子とかだっけ?」
「あなたのふわっとした説明ではさっぱりわかりませんね」
「くうぅ……。説明できないので! 実地でいきます!!」
わたしは大声を張り上げると、皆から少し距離を取って背を向けた。そして手指をピストル状にして、誰もいない方へ向けてビシッと突き出す。
意識を人差し指の先に集中する。
ここに魔力を集めて、ビューッと放出するんだ!
集中するわたしに配慮してか、ぼそぼそと小声で話す声が背後から聞こえる。
「ルード、補足説明をお願いできますか?」
「ふむ。スミレの言っているのは非常に高いエネルギーの光線だ。あちらの世界では物を切断したり穴を空けたりするのに使われていた。医療行為にも使われていたが、場合によっては火傷を生じ、直視すると失明の危険がある」
「また随分と剣呑なものを……」
「あいつ、魔術を編み出すのはいいが、ちゃんと制御できるんだろうな。できなかったら使用禁止だぞ」
「光線で切断や穴あけができるとは! 魔石の加工にとても便利そうですね、私も使えるようになりたいです!」
「ああ、私もだ」
「あのー、静かにしてもらっていいですか」
背後のぼそぼそ声が聞こえなくなったので、すうっとひと呼吸して再度意識を集中する。
イメージするのは、ロボットアニメの宇宙空間での戦闘シーン。
いかついライフルからビームがズキュ──ン!と放たれる場面。
ピストル状にした人差し指に魔力を集める。
集めて、集めて集めて集めて────放つ!!
「ビ──ム!」
わたしが声を出した瞬間、指先から蛍光ピンクの光線がビューッと出た。そのまま一直線に飛んでいき、実験施設の壁に当たる手前あたりでフッと消えた。
「うわっ、出た!」
本当にビームっぽいのが出た。
というか、わたしの中からすごい量の何かが出たっていう感じで、だいぶエネルギーを持っていかれた感がある。
ただ、MPのバーを見たらそこまで大量に減ったという程ではなかった。
集中するのや魔力を指先に集めるのに気力を使ったってことなのかな。確かに、ちょっと疲れたかも。
でも。何はともあれ、ビームの具現化に成功したっぽいぞ。
「ビーム出たー! やったーっ!!」
嬉しくて、バンザイして飛び上がった。
すごい。本当にイメージどおりにビームを出せたよ!
魔術ってすごい! 魔力は万能だな! なんか今までで一番チートしてるって感じかも!?
ふおおおお漲ってきた~~っ!!
「見ましたか~!?」と言いながら皆の方を振り返ったら、四人とも口を開けてびっくりしていた。
ルード様のこういう表情は珍しいな。ちょっと笑いそうになっちゃったよ。
「素晴らしい! 素晴らしいですよ、スミレ!」
「──レイグラーフ、制御室を頼む。的になるものを出してくれ。距離、威力、命中精度を測りたい。魔物でも試したいが、準備できるか?」
「すぐ手配しましょう! では私は移動しますね。スミレ! 制御室から見てますから、頑張ってくださいね!」
レイグラーフは満面の笑顔でそう言うと、浮遊魔術を使ってすごい勢いでドームから飛び出していった。張り切ってるなぁ。
一方で、ブルーノは無表情でわたしに続けるよう促した。
そうだね。ビームの感覚を忘れないうちに繰り返し練習して慣らした方がいい。
何発もビームを放っているうちに、だんだんコツが掴めてきた。
魔力を指先に集めるのに最初の時ほど時間が掛からなくなったし、疲れも感じない。それに、ビームの量というか、長さも調節できるようになった。
コントローラーのボタンの長押しで調節するような、ああいう感覚ね。短いのを連打したり、逆に長く伸ばしたりと、かなりイメージどおりに使えるようになったと思う。
しばらく黙々と練習していたら、《準備できましたよ~》とレイグラーフの声が響いて、アーチェリーの的みたいなのがドーム中央の転移陣のところに現れた。
「スミレ、まずは的の中心を狙って5回連射してみろ」
「はい! イチ、ニー、サン、シー、ゴ!」
「ほー、まあまあ中心に近いところに当たったな」
深呼吸して息を整えてから一気に5発撃ってみたけど、さすがに命中は無理か、残念。
ブルーノにはビームが貫通した穴がしっかり見えているみたいだけど、わたしの視力ではよく見えなかったので、身体強化の魔術で視力を強化してみた。
おー、はっきり見えるなぁ。この状態で撃ってみたらどうなるだろ。
「ブルーノさん、視力を強化して撃ってみてもいいですか?」
「いいぜ、やってみろ」
《的を交換しますね》
ちょっと距離があるけど、真ん中に当たるかな?
視力を強化して新しい的の中央をジッと見つめていたら、頭の中でカチッという音がした、気がした。
ん? 今何か、的の中央をターゲットしてロックオンしたみたいな感じになったような気が……錯覚??
確信はなかったが、そのままビームを連射したら見事に全弾ど真ん中に吸い込まれていった。
わーお、マジか。
「当たっちゃいました」
「…………みたいだな。本当に視力強化しただけか?」
「えっと、何かこう、脳内で勝手にターゲットしてロックオンしたみたいになって。撃ったら真ん中に当たりました」
そう答えたら、ブルーノが深いため息を吐いた。
呆れてる!? いや、狙ってやったわけじゃないんですよ! ただ、ゲームだとわりとよくある機能っていうか。
無意識だったけど、これもある意味わたしのイメージどおりではある。
う~ん……。魔力万能! チート万歳! みたいな気分で浮かれていたけれど、これはちょっと拙い気がしてきた。
意識してなかった漠然としたイメージまで勝手に具現化されてしまうのは困る。予想外の範囲にまで威力が及んだら危険だし、そこまで責任持てないよ。
この世界でのビームはわたしの頭の中にしかなかったもので、保護者たちも把握しきってないんだから、わたしがしっかりしないと駄目だ。
ちゃんと制御できなかったら使用禁止にされてしまう。きちんとイメージして撃つよう習慣づけないと。
気を引き締め直して、今度はビームソードに着手する。
右手を握ってイメージ開始。
柄はないけれど、握りこぶしから蛍光ピンクのビームの刃が伸びる感じ。長さは……日本刀ってどのくらいだっけ……とりあえず70センチくらいで。
魔力をこぶしに集める。
集めて集めて────出た! ビームの刃が出た!!
ふううぅ……。初回はやっぱ疲れるなぁ……。
「ブルーノさん、これがビームソードです」
「……おう。んじゃ、的を切ったり突いたりしてみろ」
呆れを通り越したのか、ブルーノの反応が若干投げやりなような気がするんですが。
しかも、的に向かって軽く袈裟懸けみたいにビームソードを振り下ろしたら、スパッと切れまして。結構厚みあるのに。
「思ったより切れ味いいな」
「みたいデスネー」
つい棒読みになってしまった。
この切れ味もイメージどおりなんだろう。こんな感じの場面、アニメで見たことある気がする。
……どういう攻撃をして、どういうダメージを与えるのか、ちゃんと具体的にイメージして使わないと駄目だなぁ。
ギャグ漫画みたいに、ビームで山をスパッと切るなんてことまで実現できてしまったらヤバすぎる。
ビーム魔術はなるべく使用頻度低めにしよう。
使い方も、ビームガンのコンパクトな射出をメインに。
うん。自重した方がいい。わたしは別に異世界で無双したいわけじゃないんだ。
でも、とりあえず無事にビームガンとビームソードを具現化できたし、目的は達成した。
これなら冒険に出ても困らないと思う。ソロでもちゃんと戦えるはず。
うん、良かった良かった!
まあ、その後もいろいろと実験を続けた結果、ブルーノに「歩く最終兵器」とまで言われてしまったんですけどね……。
「スタンピードが起きた時はお前の働きに期待するか」
「ええっ、そこは魔族軍の出番でしょ!? 一介の冒険者に何をしろと」
というか、この世界、スタンピードあるんだ……。
大規模戦闘的なヤツかな。意外なところでMMOっぽさが出てきたなぁ。
リアルでネトゲをプレイしていた時はおっかなくて参加したことなかったけど。
うう、この世界ではどうなることやら。
ちょっと短めですが、「いろいろ実験を続けた結果」の部分は保護者視点の方がおもしろそうなので次に回します。次回は久しぶりに閑話回。魔王シーグバーンが座長のヴィオラ会議です。
41話で登場した実験施設が、まさか完結後に再登場するとは。書いていた当時はまったく予想していませんでしたねw




