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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
【番外編】

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285/289

285話 新しい魔術(前編)

セーデルブロムの塔攻略の話を書く予定でしたが、1話挟むことにしました。

城下町暮らしを再開する前(277話と278話の間の話)なので、スミレはまだルード様呼びです。

 雑貨屋の休業維持と冒険者になることが自分の中で本決まりとなり、当面は学校と冒険を二大柱としていくことになった。

 となると、それに対する準備をしなくてはいけない。

 学校は何とかなるとしても、冒険には戦闘が付きもの。以前の護身術だけでは不足だろうし、聖女であることを隠す必要もなくなったのだから、戦い方自体を見直した方がいいに決まっている。


 そんなわけで、城下町での暮らしを再開するまでの待機期間中に、わたしは準備のために動き出した。

 まずは保護者に相談だ。今回の相談相手は、戦闘職のブルーノとクランツはもちろん、高位の魔術師であるルード様とレイグラーフにも参加してもらった。魔術でできることをもっと増やしたかったからだ。



「えっと、わたしが冒険者になるに当たって、圧倒的に不足している筋力とかスキルとかを補うために必要なものをいろいろと考えてまして。まずは浮遊魔術を覚えたいんです」


「ほう」


「なるほどな」



 わたしには『移動』の魔法があるから、視認できる範囲なら簡単に移動できる。戦闘でも有用だ。

 だけど『移動』には足場が必要で、移動直後に安全に立てる場所がないところへ行くのには使えない。

 冒険では、高いところにある宝箱やスイッチに触れなければならないこともあるだろう。採集でも崖に生えている素材もあるかもしれない。

 『移動』が使えない場面でも筋力があればロープなどでなんとかなるのかもしれないけれど、どう考えてもわたしには無理だ。魔術で身体強化したってどうにかできる気がしない。

 でも、浮遊の魔術を使えるようになればかなりの問題が解決する。筋力とスキルの不足も補えるはずだ。



「あと、戦闘についてなんですけど。わたしの場合、魔法か魔術で戦うしかないんですよね」


「まあ、お前が武器で戦うっていうのは現実的じゃねえな」


「はい。だけど、魔法や魔術で戦うにしても、冒険という視点で考えると結構難しいというか。ほら、わたしのメイン攻撃魔法って『衝撃波』だし、魔術だとファイアーボールかサンダーあたりでしょ? 基本ブッ放す系で、的に正確に当てるという感じじゃないんですよね」


「ん? それで何か問題あるのか?」


「……ダンジョン内でブッ放すと、中がぐっちゃぐちゃになっちゃって、置かれていたはずの鍵だの本だの羊皮紙だのといった、攻略に必要なアイテムがどこかへ飛んでいってしまう可能性がありそうなんですよね……」


「それは……、確かに困りますね」



 わたしの懸念を理解したレイグラーフが深々と頷いた。

 以前、聖地で採集の実習をした時、初めて屋外で『衝撃波』をブッ放したら土埃や木の葉などが舞い散って大変だった。護身術以外はブッ放す系の雑な戦闘しかできない今のわたしのままだと、冒険する時にきっと困ると思う。

 隠密なら『消音』と『透明化』で何とかなるだろう。だけど、ピンポイントで敵や的を射抜くとか、繊細さが求められる場面や力押しでは攻略できない場面が訪れたら?

 殺しちゃいけない対象まで魔物と一緒に殺ってしまい、詰んでしまったら?

 わたしの懸念が杞憂ならいいんだけど、このゲームの冒険がどんな感じかも知らないのに楽観的になんてなれない。


 だったら、不足している部分を新たな魔術で補うしかないのでは?



「そこで、ビーム系の魔術を編み出したいと考えてます」


「新魔術ですか!?」


「ビームって何だよ」


「レーザーというあちらの世界の技術だ。一度手元で見たことがある」



 ルード様はレーザーの存在を知っていた。ブルーレイレコーダーを解体&組み立てし直した時に青紫色の光線が出るのを目にし、後でネットで調べたのだとか。

 そういえば、処分するから好きにしていいよって、レコーダーをあげたっけ。

 あちらの世界で科学とか工学系を学習しまくっていたので、レーザーが兵器に使われていることも知っていた。

 ただし、兵器での具体的な利用方法は知らないそうで、わたしがどういう風に攻撃魔術化するのか予想がつかないらしい。

 いや、わたしもレーザーって何なのかよくわかってないんですが。とにかく、イメージ的にはロボットアニメとかで使われてたビーム系なヤツで。



「それで、危険だから研究院の実験施設を使わせて欲しいんです。あと、できればビームの実験に付き合ってもらえないかなって」


「スミレ、素晴らしいです! ぜひやりましょう!!」


「俺はもともとお前の戦術には強い興味を持っている。どんな攻撃魔術を編み出すのか楽しみだぜ」


「ぜひ見たい」


「また突拍子もないことを……。ですが、あなたの戦闘力不足を補えるのであれば、反対はしませんよ」



 四人とも快く引き受けてくれた。やったね!

 クランツはいつもの皮肉っぽい言い回しをしたけれど、長いことわたしの護衛を担当していたから、何だかんだ言って心配してくれてるんだろう。





 そんなわけで、まずはレイグラーフから浮遊魔術を習い始めた。基礎から始めるので離宮の室内でも問題ないらしいが、念のためクランツが付き添ってくれている。

 レイグラーフの講義を受けるのは久しぶりなので嬉しい。彼の方も二十年ぶりのわたしへの講義とあって張り切っているみたいだ。

 よし、頑張るぞ!


 浮遊魔術を習得するのは高速移動の術を持たない魔人族がほとんどで、その魔人族でも習得するのは約半数だという。

 精霊族なのに嬉々として習得したというレイグラーフのような魔族は稀らしい。

 比較的新しく編み出された魔術である浮遊魔術は難易度高めの魔術で、なかなか習得困難なんだそうだ。重力軽減の魔術を発展させたものだそうで、その習得に苦労した身としてはすごく納得できる。


 今回も苦労するかもなぁと一応覚悟はしていたんだけど、意外なことにわたしは浮遊魔術をすんなりと使えた。

 「習得した」というより、「単に使えてしまった」という感じで、わたしだけでなくレイグラーフとクランツもびっくりだ。


 たぶん映画やアニメのおかげで「空中に浮く」という事象をしっかりイメージできていたからなんだろうと思う。

 それに、ルード様やレイグラーフが浮遊魔術を使っているのを何度か見ているので、自分にも可能だと無条件で信じ込んでいたのもあるかもしれない。

 とにかく、魔術はしっかりイメージできればたいてい何とかなるとわたしは思っている。ビームもイメージだけならバッチリだから、きっと実現可能なはず!



 すんなり空中に浮けたけど、それでも最初のうちは姿勢がうまく制御できなくて空中でふらついたりした。

 でもすぐに問題なく浮けるようになって、レイグラーフの指示で、天井に手で触れてみたり、離宮の階段を浮いたまま上がってみたり。

 どのくらいの距離や時間浮いていられるのかはまだわからないけれど、短くても自分の思うとおりに空中をすいすい飛べるのは感動的だ。


 高く低く、速く遅く、それから空中での急停止など、レイグラーフの指示に従っていろいろ試す。

 更に、庭で試してもいいと許可が出て、池の上を飛んだり、木の上の方まで飛んで行って枝に腰掛けたりした。離宮を見下ろすのは初めてだ。

 屋外の高いところだと体全体で風を感じる。カシュパルの背に乗って飛んだ時とも違う感覚。

 うう、すごい。自由に飛べるってホントすごい!

 なんか魔法少女みたいじゃない!? アラサーだけど! いやもう330歳だったわ。しかも本物の魔族だし! ひゃっほーっ!



「浮遊魔術はすぐに覚えられる簡単な魔術ではないのに、本当にスミレは魔力の扱いが上手いです。素晴らしい!」


「重力軽減の魔術で不合格になった時はべそをかいていたというのに、1日で飛べるようになるとは……」



 何か話しながら見上げているレイグラーフとクランツに向かって、わたしは大きく手を振りながらゆっくりと地面へと降りていった。





 浮遊魔術は上手くいったので、次はビーム魔術だ。

 スケジュールを調整してもらい、ルード様、ブルーノ、レイグラーフ、クランツと共に久しぶりに実験施設へとやって来た。非常用護身術の実技の訓練を受けた時以来だ。

 再びここへ足を運ぶことになるとは思わなかったなぁ。あの頃は城下町で雑貨屋としてひっそり暮らしていくことしか考えていなかったのに、まさか冒険者になるための訓練をしに来るなんて。

 人生って、ホント何が起こるかわからない。

 でもあの頃と違って、今のわたしは変化を楽しむ心の余裕がある。

 そんな自分の成長を実感して嬉しくなった。

 よし、ビーム魔術も頑張ろうっと!



 魔力を用いてビームを実現し、魔術化する。

 とはいっても、新しい魔術を編み出すのは初めてなので、理屈も勝手もまったくわからない。そもそもビームというか、レーザーのこともよく知らないんだけど。

 まあ、わたしが使えればそれでいいので、難しいことは考えずにイメージの具現化だけに集中しよう。


 わたしが編み出したいのは、ビームを射出するものと、ビームで切ったり突いたりできるものの二種類だ。

 とりあえず、前者をビームガン、後者はビームソードとでも名付けようか。



「で、ビームガンの方は遠距離攻撃、ビームソードは近距離攻撃にと考えてます。ソードといっても、実際には近寄ってきた敵を切り払う感じで、こちらから積極的に近付いて切り掛かるつもりはないんですけどね。メインは遠距離のビームガンの方で」


「ああ、良かった。そう聞いて安心しましたよ。遠くから距離を取って攻撃する方が安全ですね」



 うんうんと頷きながらレイグラーフが言う。はい、ヘタレなわたしには剣戟とか格闘などの近距離攻撃は無理なので。

 ネトゲでプレイしていた時も、そういう消極的な理由から弓と隠密による攻撃をメインにしてました。基本は隠密で不意打ち狙い。そして遠くから弓か魔法でちくちく削るっていう、小心者プレイだったし。

 性格的には、今までこの世界でブッ放し系の大雑把な戦法でやってきたことの方がイレギュラーなんだよね。


 それに。

 もうリスポーン地点だった聖女召喚の魔法陣はない。

 回復魔術や回復薬があったとしても、うっかりしたら死んでしまうかもしれないんだから。ルード様と結婚した以上、慎重に戦闘しなくては。


 そのためにも、何が何でもビーム魔術をモノにするぞ! おーっ!!

ご無沙汰しております。セーデルブロムの塔攻略の話を書き進めていたのですが、この新魔術の話を回想シーンで入れるつもりがうまく構成できず……。書いては消しが続いている内に前の更新から三か月経ってしまい、回想は諦めて1話に取り出そう……1話で終わりませんでした……(今ここ)

頑張って執筆続けますので、また読んでいただけると嬉しいです。

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