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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
【番外編】

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284話 魔人族の里(5)

 宝箱から出てきたお宝は、残念ながらショボかった。

 ボス戦が特に厳しくなかったこともあり、ここは難易度の低いダンジョンなんだろうというのがパーティーの見解だ。

 初めてのダンジョン攻略は、別段手に汗握る展開になることもなく、むしろ前半の清掃部分の方が大汗(と冷や汗)をかいた気がするけれど、冒険した!!という達成感で満たされた。

 いきなり力量をまったく知らないメンバーでパーティーを組むことになったのも、野良パーティーを経験できて良かったと思う。


 手早くお宝を回収して魔人族の里へ帰還。わたしたちは意気揚々と冒険者ギルドへと凱旋した。

 凱旋なんて大袈裟みたいだけど、未踏破のダンジョンが攻略されたのは相当久しぶりなんだって! それなら低ランクのダンジョンでも偉業よ、偉業!



 まずはわたしの洞窟清掃の依頼から報告。

 穏便に済んだらいいなと思ってたんだけど、残念ながら例の女性ギルド職員が出張ってきて受付を担当した。一人で依頼を達成したというわたしに、パーティーメンバーを指差して手伝ってもらったんだろうと難癖をつけてくる。

 予想どおりの反応とはいえ、もう面倒くさくなってきた。この汚物洞窟斡旋女とは今後は関わらない方向で……いや待て待て、魔族なら相互理解を深めようという姿勢が大事だ。寛容、寛容を心掛けるんだスミレ。

 ただ、そうは言っても、最初の報告時のギルド職員も嫌な感じだったし、正直魔人族の里支部とは相性が悪そうだよなぁ。

 まあ、魔人族の里で冒険したのはヤノルスに駆け出しの修行姿を見せた方がいいとアドバイスされたからに過ぎない。十分披露したからもういいか。



「俺たちは手伝ってない。あんな臭いとこ、店長が掃除した後でなきゃ入るわけないだろ。いいからさっさと処理進めてくれよ。後の報告が控えてるんだからさー」


「憶測で物言ってねえで、さっさとデモンリンガをチェックしろよ。そこに記載されてることがすべてだろうが」



 パーティーの皆に急かされ、女性ギルド職員がわたしのデモンリンガを魔道具でチェックした途端、目を見開いて固まった。

 最初はものすごい量のコウモリと虫の討伐数にどん引きしていたが、すぐに他の項目に目が移ったようだ。



「清掃は確かに達成しているわね……。それより、何よこれ……未踏破ダンジョンをクリアって、どういうこと……?」


「清掃依頼はノータッチだが、未踏破ダンジョンの方はパーティー組んで俺たちも参加した。全員クリアになってると思う。そっちの報告の方が重要だろ? 清掃依頼なんかさっさと処理してくれよー」



 女性ギルド職員とユーリーンのやり取りにギルド内が大騒ぎになった。

 未踏破のダンジョンが攻略されたのはかなり久しぶりという話だったが、どうやら千年近くなかったらしい。わたしが思っていた以上にすごい話で、冒険者にとっては大変名誉なことだったもよう。

 ただ、あまりに久しぶり過ぎて、冒険者ギルドでも未踏破ダンジョンの踏破をどう処理すればいいのかすぐにはわからないみたいだ。

 しかも、間の悪いことに今日は支部長が留守だそうで、今ここにいるギルド職員では対応しかねるという……。


 結局、未踏破ダンジョンの踏破報告は明日改めて行うことになった。

 大騒ぎになったおかげでわたしの洞窟清掃依頼の処理はすんなりと済み、報酬と経験値をがっつりゲット。例の女性ギルド職員ももう絡んでこなかった。

 ひと言お礼を伝えようかと思ったんだけどなぁ。嫌味じゃなく、彼女があの依頼を斡旋してこなければ未踏破のダンジョンに遭遇することもなかったんだから。少なくとも冒険者ギルドにはお手柄だと評価されて欲しい。


 お宝の山分けは明日の報告後にと決まった。未踏破ダンジョンの報告報酬もあるらしいので、そちらがはっきりしてからの方がいいとのこと。

 そして、今から祝杯を上げようとギャラリー三人が言い出したが、ユーリーンはあっさりと断った。真っ先にサーラに報告しに帰りたいそうだ。うん、そう言うと思ったよ。

 わたしも商業ギルド魔人族の里支部長のビルギットと夕食の約束があるから無理だしねぇ。



「えええ~っ、マジかよ……。二人とも付き合い悪いぜ」


「まあ、予定外のことだったし、仕方ないか」


「じゃあ俺らだけで行くけど、明日改めて山分け後に打ち上げしようぜ。そっちは付き合ってくれよ?」



 明日ならとわたしもユーリーンも快諾し、パーティーはその場で解散。お疲れと手を振って彼らと別れると、わたしは急いでビルギットにメモを飛ばした。

 冒険から戻ったことを知らせると、すぐに返事が飛んでくる。彼女ももう仕事が終わるらしいので、冒険者ギルド前で待っていてとのこと。

 ビルギットはどんなお店に連れて行ってくれるのかな。フフフ、楽しみ~!


 そう思いつつ、足取り軽く冒険者ギルドから出たんだけど──



「元聖女のスミレってあなたよね。ちょっと顔貸してくれない?」



 両手を腰に当て、冒険ギルド前に立ちはだかる金髪女性が一人。

 いや、後ろにも険しい顔の女性が……六人か。



「ここで待ち合わせしてるから場所移動は無理だよ。ここで良ければ話を聞くけど?」



 ギルド職員に引き続き、なんかまた絡まれたっぽい。

 冒険者ギルド魔人族の里支部は鬼門だな。明日の報告が済んだらもう近寄らない方が良さそう……。

 さっさと済ませてもらおうと思って話を促すと、金髪女性が声を張り上げた。



「ルードと結婚するなんてどういうつもり!? 独り占めしていい男だと思ってるの!?」



 ──ついに来た。

 スティーグやシーグバーンから聞いていた、ルードとの子作りを望んでいた魔人族女性たちに違いない。

 魔人族の里を訪れればいずれ接触してくるだろうと思っていたから、一応妥協案というか懐柔策を用意してきてはいるんだけど、さて、どうしたものか。

 考えを巡らしていたところ、怯んでいると思われたのか、後ろにいた女性たちも声高にわたしを非難し始めた。



「元聖女だか何だか知らないけど、今はただの魔族のくせに。ルードに結婚を迫るなんて厚かましいわね!」


「魔族は滅多に結婚しないって知らないの? ルードを束縛するんじゃないわよ!」


「ルードには子作りの義務があるの! 確率下げるような真似しておいて、よく平気な顔でいられるわね!」



 ……ルード、ルードって、わたしの夫だっつーの。ファンヌがそう呼んでても何とも思わなかったのに、面識のない相手に連呼されるとイラッとするな。

 呼び捨てで照れてる場合じゃなかった。今後は様付けしない、もう絶対わたしもルードって呼ぶ! 脳内ではルードヴィグだ。脳内なら発音関係ないもんね!

 更に、子作りの義務があるだの、確率を下げるだのという言い草にはカチンと来た。子種製造機じゃないんだぞ! 効率なんかで語るな!と腹が立ったけど、ぐっと堪える。


 彼女たちからしたら、長年譲位するのを待っていたルードヴィグをわたしが横取りしたように見えるだろう。しかも婚姻まで結んでしまった以上、彼と子作りできる可能性は完全に潰えた。

 彼への想いで負けるとは思ってないので、申し訳ないとは思わない。だけど、魔人族の里が第二の里になった以上、なるべく穏便に対処したい。

 既婚者に手を出せば相当な重罪になるという。後味が悪くなるようなことになるのはできれば避けたい。

 ただし、女同士のマウント合戦で折れて見せるわけにはいかないからね。最初が肝心だ、強気な態度でいかせてもらうよ。



「でも、別にルードと子作りの約束をしてたわけじゃないんでしょ? わたしがいなくたってルードと子作りできなかった可能性は十分あるんだから、諦めてとしか言いようがないね」



 彼女たち全員が子作り目的とは限らない。中には普通にルードヴィグに想いを寄せてた人もいるかもしれない。

 だけど、ごめんね。わたしは彼を誰にも譲る気はないんだ。



「わたしは異世界から召喚されてこの世界に来た。すべてを捨てて、ルードと一生を共に過ごす覚悟でここにいる。あなたたちは里を捨ててルードと生きていく覚悟はあるの? そうじゃないなら引っ込んでて」



 きっぱりと言い切ったわたしに、彼女たちは気勢を削がれたように見えた。今がチャンスだと、用意して来た懐柔策を彼女たちに提案する。

 わたしのコネで用意できる最強の切り札だ、くらえっ!



「とは言っても、あなたたちが面白くないのはよくわかるんだ。だからね、代わりにと言ってはなんだけど、素敵な魔人族男性との合コンをセッティングしようと思うんだけど、どうかな?」


「……合コンって何よ」


「出会い目的の食事会とか飲み会のことだよ! 実は相手には既にお願いしてあってね、Sランク冒険者のイーサクなんだけど」


「えっ……イ、イーサクですって!?」


「冒険者向けの雑貨屋やってた時の常連さんなんだ~。ちょっと待ってて、今イーサクにメモ送るから」



 ユーリーンとの仲違い解消に一役買ったわたしに恩を感じていて、いつか返したいと言ってくれていたイーサクにお願いしたのはこのことだ。

 いつか来るだろう魔人族女性に絡まれた時の懐柔策として、彼女たちと合コンしてもらえないかと頼んだところイーサクは快諾してくれた。彼でないと成立しない作戦だから、引き受けてもらえて本当に助かったよ。

 素早くイーサクにメモを送る。状況が許すなら返事は伝言で欲しいと添えて。


 険しかった金髪女性の表情が一転驚きに変わっている。後ろの女性たちも騒めき出した。

 明らかに空気が変わったよ! よし、このまま押し切ろう!!



「ちょっと、何やってんのよあんたたち。スミレ、大丈夫?」



 そこへ、待ち合わせしていたビルギットが現れた。わたしが絡まれていると思って心配してくれたみたいだ。

 いい流れが断ち切れてしまうかと一瞬焦ったものの、かばってくれて嬉しかったし、それにいいことを思いついたよ。



「全然平気。あのね、今彼女たちと合コンの話をしてたんだよ。Sランクのイーサクと上位ランク、総勢十名の魔人族冒険者との出会い目的の食事会兼飲み会なんだけど、良かったらビルギットも参加しない?」


「ッ!? する!! 絶対行くわ!!」


「あ、じゃあさ、幹事お願いできないかな。女性側も十名の予定なんだけど、枠潰したくないからわたしは出ないでおこうと思って」


「任せて! 商業ギルド魔人族の里支部長の名に懸けて、最高のセッティングをしてみせるわッ!!」



 ビルギットが前のめりになったところへ、タイミング良くイーサクからの伝言が飛んで来た。



《イーサクだ。スミレ店長、合コンの予定が決まったって?》



 イーサクの声が流れた途端、「きゃああああああああ!!!!!」と一斉に黄色い声が上がった。

 すごい、さすがイケメンのスーパーモテ男。伝言(ボイス)の効果は抜群だ!

 ビルギットを合コンの幹事役として紹介して、日程や場所など詳しいことは彼女から……ということで、手早く話をまとめてしまった。



「イーサクと食事会なんて信じられない! あんたやるわね、気に入ったわ!」



 金髪女性がわたしの手を取り、ブンブン振って喜んでいる。イーサクとの合コン自体も嬉しいみたいだけど、意外なことにわたしの調整力も評価されたらしい。魔人族らしい観点だ。

 他の女性たちも一気に華やいだ雰囲気になり、何を着て行こうなどとさっそく盛り上がっている。


 ふふふ、ふはははは! 完璧だ! この勝負、わたしの勝ち~っ!!




 後日、この合コンについて耳にしたらしい例の女性ギルド職員から、自分も参加したいと打診されたが、幹事のビルギットに言ってくれとスルーした。

 ビルギットがどう対応したかは知らないけど、枠は十名分しかないからなぁ。冒険者ギルド勤務なら接点あるでしょって断られそうだねー。

連続投稿はここまで。次はセーデルブロムの塔の攻略です。複数話になると思うので、書き終えてから投稿しますね。お付き合いいただけたらうれしいです!

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