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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
【番外編】

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282/289

282話 魔人族の里(3)

昨日から4日連続投稿中!

 翌朝は日が昇り出す頃に一人里を出て麦畑へ向かった。

 ユーリーンは奥さんのサーラと一緒に朝食を済ませてから来るので、今朝は別行動だ。早朝で人もいないので、念のため用心して『結界』を張って浮遊魔術で飛んでいく。


 到着すると、グラースホッパが三つの(から)の魔石にがっつり集っていた。見た瞬間全身に鳥肌が立ったね! キモッ!!

 ヒーヒー言いながらも麦畑との間に火避け用のダートウォールを壁状に展開。大火力のファイアで燃やし尽くしす。

 空の魔石は一応燃えずに残っていたけれど、もう触る気になれなかったので視線でタップしてどこでもストレージに回収、ネトゲ仕様の操作で削除した。

 メシュヴィツに教えてもらった空の魔石戦法、すごく有効だけど苦手な昆虫系相手にやるのは考えものかもね……。



 自分を囮にして残りのグラースホッパが寄って来るのを待つ間、『野外生活用具一式』の折り畳みイスに座って保存庫の挟みパンで簡単に朝食を済ませる。

 これまでわたしは「冒険中のキャンプ飯はアリ派」だったんだけど、実際にこうして冒険に出てみた結果「ナシ派」に転向した。

 冒険にロマンは必要だと思う。それでも、安全や効率より優先させるべきかっていうと、そうも言ってられないよねぇ。

 冒険者が冒険中は携帯食で済ますというのがよくわかった。まあ、わたしは保存庫に挟みパンで行きますけども!

 どこでもストレージは空間魔術と違って魔力を消費しない。せっかくのチート能力だ、便利に使って安全・快適に冒険を楽しもう。

 おいしい御飯を諦めるという選択肢は、わたしにはないッ!!




 ドリンク用の保存庫に入れてきたお茶を飲みながら、グラースホッパが寄って来る度にファイアで焼却していたら、ユーリーンとギャラリーの冒険者たちがやって来た。

 挨拶を交わしつつも、イスに座ったまま飲み物を片手にぼちぼちと焼却作業をするわたしを見て、ギャラリーの皆さんは戸惑っているもよう。

 ユーリーンには昨日の夕食時に攻略方法を説明してあるけど、何も知らなければぼーっとしてるようにしか見えないよね。



「休憩中か?」


「ううん、自分を囮にしてグラースホッパを引き寄せているんだよ。麦畑から十分に離れたらファイアするの」


「囮? よくわからんが、昨日と違って地味だな」


「あはは。最初はすごいたくさん出て来たから、まとめて派手に燃やしたんだよ。でも、もう個別撃破のターンに移っちゃったからね~」



 そう言ったらがっかりされてしまったけれど、空の魔石の件はメシュヴィツの秘匿情報なので見せられないのだ。ごめんね。

 その代わり、自分を囮にして魔物を引き寄せる手法について話したら驚かれた。

 メシュヴィツの実演を見ていた冒険者たちも驚いていたし、魔物には魔物以外の魔力に寄っていく性質があることはあまり知られてないらしい。

 単に、待ちの戦法を好む魔族が少ないだけかもしれないけどね。


 それにしても、雑貨屋時代のわたしは自分で思っていた以上に冒険に役立つ情報をゲットしていたみたいだ。常連客の多くが上位ランク冒険者だったもんなぁ。

 雑貨屋は休業のまま無期限で放置中。だけど、営業していた一年が無駄じゃなくて、あの時に得た人脈や情報が今こうして冒険に役立っていると思ったら、じんわりと嬉しさがこみ上げてきた。

 それに、自分が教わったことを他の冒険者たちに教えてあげられたのも、冒険者同士の連帯感みたいなものを感じられて、何だか嬉しい。



 終盤は多少時間が掛かったものの、予定どおり午前中に麦畑の駆除を終えた。

 『生体感知』で駆除し残しがないのも確認済み。これにて依頼された全区画の駆除が完了だ。

 よーし、依頼達成の報告しに帰るぞー!


 ユーリーン、ギャラリーの皆と一緒に冒険者ギルドへ。

 初めての依頼達成報告! うう、ドキドキする~っ!!────なんて思ってたんですけど、ね。




「は? たったの一日ですべての区画の駆除を達成しただと? しかも評価が最高位って、自動記録の魔術具壊れてるんじゃないか? ……まあ、Aランクのサポートがあれば可能だろうが、こういうやり方は感心しないね」



 カウンターで対応したギルド職員はわたしの報告に対して懐疑的な態度で、魔術具まで疑う始末。

 そりゃ、冒険の経験値ゼロの駆け出し冒険者がいきなり高スコア出したら疑いたくなるのはわからないでもないけど、ハナから真っ当に評価する気がないってのはどうなのよ。

 しまいにはズルした前提で決めつけてきて、さすがにカチンと来た。何だこのギルド職員。

 でも、わたしが反論する前にユーリーンが口を開いた。



「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は一切手を貸してないよー」


「俺たちも見ていたので間違いない。全部、彼女一人で駆除していた。たいした手際だったぜ」


「作物にダメージを与えてないし、死骸も一つ残らず焼却していた。高評価が出て当然だと思うぞ。ランクはDでも腕前はそれ以上と思っていい」


「つーか、その魔術具はギルドのだろうが。自分らが用意した魔術具の評価に難癖つける気か? ボーナス加算に直結するのに、信用できないような魔術具を寄越すんじゃねえよ」



 否定的なギルド職員に対し、ユーリーンだけでなくギャラリーたちまで口添えしてくれたので、ちょっと驚いた。

 多少レクチャーしただけで、まだ自己紹介すら交わしてない。なのに、公正に評価してくれるのか。わたしの肩を持つような言葉に胸が熱くなる。


 王都の冒険者ギルド本部と違い、魔人族の里支部ではわたしはまったくの新顔だから、素っ気なくされて当然、何なら駆け出し冒険者にありがちな“他の冒険者に絡まれる”といったイベントが起きてもおかしくないとすら思っていた。

 彼らを見くびっていたと申し訳なく思う。魔族国では冒険者は信用の置ける存在だとレイグラーフが言っていたのを思い出して、改めて納得した。

 そして、そんな彼らの仲間入りをしたんだなと、誇らしさと共に責任も感じた。


 冒険の楽しさを実感してしまったし、もう単なる“追加シナリオをクリアするための手段”ではなくなってしまった気がする。

 友人の冒険者たちに恥じないよう、胸を張って冒険者だと名乗れるようになりたい。そのためにも、この職業と真摯に向き合っていこう。

 ──なんて、ギルド職員に不愉快な思いをさせられたわりに、俄然前向きな気持ちになったのだった。




 ギルド職員は渋々といった様子だったが、結局魔術具の評価どおりに処理したようで、わたしはデモンリンガ経由で報酬と経験値を受け取った。

 かなりボーナスが加算されたようで、その数字に驚く。特に経験値。稼げるとは思っていたけれど、ここまで伸びるとは思っていなかった。



「うわ、すごい! 経験値、ベースの三倍以上になってる!」


「すごいな店長。このペースならすぐにCランクに昇格するんじゃないか?」


「うへえ、あっという間に抜かれそうだな……。俺たちも同じ依頼やってみるか」


「なあ、あんたのやり方、真似してもいいか?」



 そんな風にわたしたちがわいわい喋っていたら、カウンターの中から声を掛けられた。さっきとは別の、女性のギルド職員だ。



「ねえ、そんなに腕が立つなら他の依頼もやってみない? 誰も請けない期間が長すぎて掲示板から撤去されちゃった依頼があるの。経験値も報酬も破格よ、どうかしら」



 にんまり笑いながら女性職員が依頼票を手に勧めてくる。でも、親切心からという感じがしない。胡散臭いというか、裏がありそうな気がするなぁ……。

 とりあえず依頼票を受け取って内容を見てみる。

 なになに? 大量のコウモリが巣食うフールヘト洞窟の清掃……ですと?



「げっ! 店長、これ請けるの? 俺行きたくない……」


「ここって、外まで悪臭垂れ流してるあの汚物洞窟だろ? ひでえな、駆け出しにそんなの勧めるのかよ」



 わたしの後ろから依頼票を覗き見たユーリーンがうめき声を上げた。ギャラリー冒険者たちの反応からも、嫌がらせ目的なのは確定のもよう。



「あら、別に無理強いなんてしないわ。できないならできないって、断ってくれていいのよ?」



 フフンとすかした感じで言う女性ギルド職員に、ああ、マウントを取りに来てるのかと気付いた。わたしが新人冒険者だからなのか、スミレ個人が気に入らないのかはわからない。

 スティーグやシーグバーンから、ルード様……じゃない、ルードヴィグとの子作りを望んでいた魔人族女性がわたしを邪険にする可能性を示唆されている。この女性はその一人なのかもしれない。

 でもわたしは、嫌がらせをされたって折れる気はない。スティーグたちに答えたように、この世界で生きるって覚悟決めて元の世界を捨てて来たんだ。

 受けて立つよ。舐められてたまるか!



「困っているなら請けてあげてもいいですよ」



 すんなりと請けてやる気はないので、にっこり笑ってそう答えたら、女性ギルド職員はわかりやすくムッとした顔になった。

 駆け出しのくせに生意気だとか、元聖女のくせにとかブツクサ文句を言うので、聖女はただの役職だと言い返す。

 聖女は優しいとか慈愛に溢れているとでも思ってるんだろうか。わたしは結構性格の悪さを発揮する時があるので、甘く見ないでいただきたい。

 文句を言いながらも、女性ギルド職員は依頼の斡旋を取り下げなかった。

 よっぽどわたしにこの依頼をやらせたいと見える。……負ける気はないとはいえ、面倒だなぁ。



 下調べをしたところ、洞窟内とその周辺には魔物は生息しておらず、敵となるのは野生生物のみ。洞窟内にはコウモリ。最大の敵は悪臭か。

 Dランクの依頼なんだから本来は低難易度の依頼だ。命の危険は低いはず。

 なので、同行を渋るユーリーンには悪臭の届かない位置で待機してもらうことにして、洞窟内にはわたし一人で入ることにした。

 ユーリーンとしては本当は行きたくないんだけど、イーサクからわたしを守るよう念入りに頼まれているし、サーラに褒められる機会を逃したくないんだってさ。本当にブレない人だ。

 というか、そんなに嫌がるほど臭い洞窟なのか……。ちょっと不安になってきた。


 ギャラリーの冒険者三人が同行して、ユーリーンと一緒に外で待つという。物好きだなぁと思いつつ、三人とはここでようやく自己紹介を交わした。

 で、出掛ける前に昼食を済ませようと皆で食堂に向かっていたところで、意外な人とばったり出会った。



「あらっ、スミレさんじゃない!?」


「商業ギルドの……! うわあ、お久しぶりです~!!」



 王都の商業ギルドでよくお世話になったチーフ職のおねえさんだ。そういえば、城下町暮らしを再開して商業ギルドに挨拶に行った時、彼女を見掛けなかった。

 たまたまかと思ってギルド長には特に聞かなかったんだけど、なんと彼女、商業ギルド魔人族の里支部に支部長として異動してたんだって!!



「おおお、ご栄転おめでとうございます!!」


「あはは、ありがとうございます。それより、通達見ましたよ。同じ里の民になるんだから、今後は気安くいきましょ」


「あっ、そうだった! えへへ、改めてよろしく~。スミレって呼んでね」


「じゃあ、わたしのことはビルギットと呼んでちょうだい。ふふっ、嬉しいわ。ようこそ、魔人族の里へ」



 これから冒険へ出掛けるので、戻ってきたら夕食を一緒に食べようと約束してビルギットと別れた。嬉しい再会に思わずスキップしてしまう。


 何だか一気に魔人族の知り合いが増えたよ!

 もうテンション爆上げで、よーし、さくっと洞窟清掃を済ませて帰ってこよう!なんて、意気揚々と出掛けたのだった。


 ……予想外の事態になるとも思わずに。

商業ギルドのチーフ職のおねえさんの名前が決まりましたので、ユーリーンの妻サーラと共に、273話の登場人物まとめを更新しました。

明日も投稿するのでチェックお願いします!

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