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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
【番外編】

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278話 城下町暮らし再開

 「元聖女スミレ」に関する通達が各所になされた日、わたしは朝イチで城下町へ出掛けた。

 いよいよ城下町暮らしを再開する。やることが盛りだくさんだ。


 まずは、オーグレーン荘3号室へ向かう。

 内装をルード様との二人暮らし用に整え直すため、内装屋に来てくれるよう頼んでおいたのだけど、来たのが最初の担当者で再会を大いに喜んだ。彼女のセンスには信頼を置いているので安心してお任せできる。

 雑貨屋を休業したまま学校と冒険者、それから時々調合もするつもりなので、部屋の用途をガラリと変更した。店舗部分は応接セットはそのままに、カウンター等は売り払い、勉強机や調合台を置くことに。

 そして、二階の居間兼書斎は居間専用になった。二階はルード様とまったり暮らすスペースに特化してもらうつもりだ。


 単に同居を始めるだけでなく、わたしの生活自体が根本から変わるので家の中の変化も大きい。

 改めて、新しい生活が始まるんだなあとしみじみ実感しているところへメッセージが飛んできた。

 なんと、商業ギルド長からだ。



『通達拝見。復活されたというのは本当ですか?』



 部族長会議からの通達を読んでメモを送ってくれたらしい。まだ始業して間もないのに、もう書類仕事を始めてるのか。勤勉だなぁ。

 声の方が元気なのを伝えられるかと思い、伝言で返事をする。



「ご無沙汰してます、ギルド長! おかげさまで復活したみたいです。またお世話になりますね。……と言っても、雑貨屋は休業のままの予定ですけど」


《元気そうで何よりです。しかし、雑貨屋を再開しないとは何か問題でも? 良ければいつでも相談に乗りますよ》


「ありがとうございます。今日一日城下町にいる予定ですので、後でご挨拶に伺いますね」



 午後に訪ねる約束をして、詳しいことはその時にと伝言を終える。

 エルサの店へ行く前に商業ギルドへ寄るつもりだったけれど、先に復帰の挨拶が済んでしまった。

 『生体感知』したところオーグレーン荘には誰もいないようで、挨拶はまたの機会とする。

 内装屋との打ち合わせが済むと、わたしは二番街のエルサの店を目指した。





「あんたってばもう! いきなりいなくなったかと思えばまたいきなり現れて。もうバカバカバカ!」

 


 あんこ菓子を注文したわたしに気付いたエルサが泣きながらカウンターを飛び出し抱きついてきた。

 くっ、かわいい。いつか独立したエルサの店であんこ菓子を買うという夢が叶ったうえにハグされて。ぽかぽか叩かれているけど役得だ。

 ああ、城下町に帰って来たんだなぁと実感しつつ、わたしもエルサをぎゅっと抱き返した。



「へへ、ごめんって。ゆっくり話ししたいんだけど、今夜一緒に夕食しない?」


「いいわよ。ノイマンの食堂でいい? 予約しておくわね。あっ、シェスティンとヤノルスも呼ぶわよ。ミルドは?」


「冒険者ギルドで待ち合わせしてるから、わたしから伝えとくよ。んじゃ、行ってくるね。また夜に~!」



 軽く手を振って、わたしは冒険者ギルドへと足を向けた。

 またねと言って別れられる喜びを噛みしめながら。




 北通りが近づいてきて、冒険者ギルドの前にミルドが立っているのが見えた。既にこっちに気付いているっぽいのでタタッと駆け寄る。

 久しぶりのミルドとの待ち合わせ。しかも冒険者ギルド前でなんて懐かしいな。

 いかん、顔がにやける。へへへ、やばい。嬉しい。ふふ、語彙が死んでるぞ。



「おはようミルド!」


「おはよ。プハッ、何だお前。顔緩みすぎだろ」


「仕方ないでしょ。あーでも、ちょっと緊張してきたかも。どんな顔して入ればいいか迷う~」


「普通でいいって。ほら、さっさと行くぞ」


「あっ、まだ心の準備が──」



 ミルドが容赦なく冒険者ギルドのドアを開けた。でも入り口でぐずぐずするわけにもいかないので、エイヤッと中へと進む。カウンターをざっと見渡すと、懐かしい顔があった。

 ベテランギルド職員のハルネスがいる!

 よし、彼のところへ並ぼう!と足を踏み出した瞬間、ハルネスと目が合った。



「……雑貨屋の……スミレ? いや、まさか」



 ハルネスが目をごしごしこすっている。いや、そんなマンガみたいなリアクションする?

 しかも、なんかブツブツ言ってるんですが。



「……いやいや、見間違いだな。そりゃシネーラは珍しいが、別に彼女しか着ないわけじゃないし……」


「ハルネスさん、お久しぶりです。スミレです。お元気そうでなにより──」


「す、スミレ!? え、本物!? あんた死んだんじゃ……な、何がどうなって」


「えっ、店長!?」



 挨拶しようとしたらハルネスがテンパって、しかもどこかから声が掛かった。声がした方を見ると、依頼の掲示板の前にサロモと犬族の冒険者が数人、呆然とした様子で立ち竦んでいる。



「わあ、サロモさん! お久しぶりで──」


「うおおおお!! 店長だ! スミレ店長だ!!」

「マジかよ、俺の見間違えじゃねえの!?」

「マジだ! 本物だぜ! しかも喋ってる!」

「わーッ!! 店長が生きてる! うおおおおーッ!!」



 あっという間に冒険者ギルドのホールがカオスな空間になった。何ていうか、城と比べて城下町の反応がすごい。

 ヴィオラ会議のメンバーや部族長たちも驚いてはいたけれど、比較的冷静な反応だったのは彼らがわたしの事情をよく知っていて、わたし絡みの異常事態に免疫があったからだろう。

 それに比べて、城下町の皆はわたしのことを単なる人族の亡命者だと思っていただろうから、そりゃいろいろとビックリするよね。皆が落ち着くまで少し待つしかなさそうだ。


 周りを取り囲まれ、もみくちゃにされそうになっていると、ホールに伝言の大声が響いた。



《ハルネス! スミレちゃんが復活したって通達が来たぞ!! 今すぐ来い!》


「ギルド長! 本人が来てます! スミレが、ギルドに!!」



 どうやらハルネス宛のギルド長の伝言だったようだ。

 冒険者が伝言で、しかも大声でメッセージを送るなんて珍しい。ギルド長もようやく通達を読んだのかな。商業ギルド長と比べると、書類仕事の取り掛かりはあまり早くないみたいだ。

 そんなことを考えていたら廊下の奥の方でバン!!とすごい音がした。思わずそちらを見た瞬間、目の前にシュタッとギルド長ソルヴェイが降ってきた。

 えッ、どこから現れたの? さっきの音はギルド長室のドアだとして、まさかここまで一瞬で、しかもこの人垣を飛び越えたってこと!?

 獣人族の身体能力が相変わらずすごすぎる。そしてさすが元Sランク。ドアの音はすごかったけど、足音は全然聞こえなかったよ。



「スミレちゃん!」


「ふああ~っ! ギルド長、お久しぶりです!」



 いろいろすごすぎて、思わず感嘆の声が漏れてしまったけど、ひし!とギルド長とハグを交わした。

 目の前に立たれた時、獲物を捕らえるような視線でロックオンされて、一瞬ちびりかけたけど。猛禽類の狩猟本能マジで怖い。




 カオスになっていたギルドホールも、ギルド長の登場で少しテンションが収まったようだ。

 それでも皆、死んだと公表された元聖女のわたしがどうしてここにいるのか不思議でならなくて、あちこちから矢継ぎ早に質問が飛んでくる。



「ええい、お前らうるさいぞ! わたしが今からスミレちゃんに関する部族長会議からの通達を読んでやるから、それを聞いてから質問しな!」



 ソルヴェイは冒険者たちを一喝すると、大きな声で通達文を読み上げ始めた。

 まずは、元聖女スミレの復活と、死亡したと公表された理由について。

 これに関してはヴィオラ会議でまとめた叩き台を基に部族長会議が公式設定を作成した。

 お堅い公文書だけど、ざっくりと要約するとこんな感じだ。




 聖女スミレは、聖地を癒した直後姿がかき消えた。ただ、その場に彼女のデモンリンガが残り消滅しなかったため、死亡したわけではないと予想された。

 それでも所在も生存も確認できていない。聖地が癒され、魔素の循環異常が解消されためでたい知らせを早く魔族社会に知らせたかったこともあり、遺憾ながらスミレは死亡したものとして公表した。

 それから二十年、聖女スミレのデモンリンガは消滅することなく先代魔王ルードヴィグにより保管されていたが、ついにスミレが聖地にて復活。聖女の力は失ったものの、人族ではなく魔族となって復活したのだった。


 元聖女スミレは聖地を癒し、魔素の循環異常を解消した。また、精霊薬のレシピの確立など、魔族国に多大なる貢献をしている。

 それを鑑み、部族長会議は彼女を正式な魔族として扱うことを宣言する。元聖女スミレには魔族と同じ権利を認め、義務を課すものとする。

 部族長は先代魔王ルードヴィグとし、里は魔王城離宮、第二の里を魔人族の里とする。

 また、元聖女スミレは先代魔王ルードヴィグと婚姻を結んだ。これは部族長会議並びに先々代魔王リューブラント立ち合いのもとに行われた、正式な婚姻である。双方とも配偶者としての権利と義務を有するため、関係各所は適切に対処されたし。




 通達は、思っていたより長文だった。さすが公式文書。

 聞いていて途中で飽きたのか、「で、簡単に言うとどういうことだよ?」と言い出す冒険者もいて、その度にギルド長が「黙って聞け!」と怒鳴っていたが。

 ギルド長が読み終えた途端、質問がドッと寄せられる。

 まあ、これだけ丁寧に説明されていても、あり得ない事象すぎて、何を言ってるんだかよくわからないよね。

 とりあえず、公式設定から逸れないよう注意しつつ、捏造含みのわたし視点で説明してみた。



「二十年も、どこにいたんだよ」


「それが、聖地の癒しが完了したところまでは覚えてるんだけど、その後は全然記憶にないんですよ。どうも仮死状態だったみたいで、目が覚めて、起き上がったら聖地の石壇の上だったの」


「石壇!? あの、葬送の時に遺体置くところか」


「そうそう」


「ダジャレかよ」


「ちっがーう! で、たぶん聖地を癒して魔力枯渇になったから、聖地の中に取り込まれてエレメンタル漬けにして治療されてたんじゃないかって、魔王たちに言われてる。まあ、あくまで推測だけど」


「すげえな、マジかよ」


「二十年経ってるのに全然見た目変わってないもんな。店長が人族のままだったらあり得ねーよ」



 ギルド長の読み上げの途中から入ってきた人とか、聞いててもよくわからなかったという人には、わたし視点でまとめた文章を読ませておいた。

 きっとあちこちで事情を説明する羽目になるだろうからと、『口述筆記帳』にまとめておいたんだよね。

 同じものを4冊作って正解だったよ。あっという間に手元からなくなったもの。


 ハルネスに一冊預けて、詳細を知りたがる冒険者がいたら読ませてくれるように頼んだ。何度も説明するのはさすがに面倒だからね……。

今回で先々代魔王の名前が決まりましたので、273話の登場人物まとめを更新しました。

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