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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
最終章 元聖女の帰還

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271/289

271話 今後の方針

本日3話投稿予定です(こちらは2話目)

 話し合いは夕食を食べながらも続き、更には追加アイテムの『米酒』『焼酎』を飲み交わしながら夜が更けるまで続いた。

 蒸留酒好きなブルーノとカシュパルが焼酎を喜んだのは予想どおりだったけど、レイグラーフが米酒を気に入ったのは意外だったなぁ。


 話し合いの中で、シーグバーンはわたしに魔法やネトゲ仕様のことも隠さなくていいと言った。これらの能力も“元聖女だから”で押し通せばいい、聖女の回復魔法は使えなくなったが、それ以外の特殊能力は残っているという設定で行けばいいと言う。

 ブルーノに安易に手の内を明かすのには反対だと言われて、それには納得していたけれど、隠さなきゃと窮屈な思いをしなくて済むようにということらしい。もちろん人を害したりしない前提だし、あくまでシーグバーン個人の判断だから、部族長会議に諮ってから正式決定となるのだけど。

 ブルーノの言うことはよくわかるので、そこはもちろん気を付ける。ただ、多少のことは“元聖女だから”で済ませていいというのは確かに気楽でありがたい。


 それから後で聞いたのだけど、ファンヌが退室していった後、ルード様は銘々にわたしがアナイアレーションを使えなくなったことをそっと伝えたらしい。わたしの口からは禁忌の魔術について語らないと以前約束したからね。

 皆ホッとしていたそうで、特にブルーノはそれを聞いて焼酎を三杯くらい立て続けに呷ったそうな。わたしは実際に一度発動しているという前科?があるので、信用されていたとは思うけど、ブルーノは警戒を緩めたりはしなかったんだろう。安心してもらえたようで良かった。

 元聖女という肩書はついているものの、わたしもようやく普通の魔族──魔族にはない能力がちょっと使えるだけ──という扱いになれたんだ。これからは魔族社会の一員として魔族らしく生きていこうと思う。


 その第一歩として、今後どうやって暮らしていくかを改めて考えている。

 前の時は聖女の役職や能力を隠したかったからネトゲのアイテムを売る雑貨屋という道を選んだけど、今はもうその前提は存在しない。普通の魔族と同じ自由を与えられた以上、元聖女の看板を背負って一魔族として生きると決めたから。

 そこで思い浮かぶのは雑貨屋の今後。続けるのか、やめるのか。選択肢が一気に増えた今、まずはそこからしっかりと考えたい。


 それもあって、まだ部族長会議が終わってなくて城下町へ出る許可が下りる前だけど、ミルドに離宮へ来てもらって話を聞くことにした。

 ミルドと面識のあるクランツに頼んで彼を離宮に呼んでもらったんだけど、どうもわたしとの再会だとは一切告げずに呼び出したらしいのよね……。

 そりゃ、部族長会議も終わってないし、わたしのことはまだ重要機密扱いだから伏せるのは仕方ないんだけど。



「ッ!! お前──」



 わたしの顔を見た途端、ミルドはその場に崩れ落ちた。顔を覗き込んだら滂沱の涙で。二十年も前に死んだと思っていた友人がニコニコ笑って立ってたらびっくりするよね。ホント申し訳ないったら。

 ただいま、帰って来たよと言ってハグをした。ようやく気を取り直したミルドにヘッドロックかまされたけど。わたしのせいじゃないのにぃ~!



「なんかよくわかんないんだけど、仮死状態から復活したっぽいんだよね。デモンリンガも消滅しなかったし、聖地が取り込んでエレメンタル漬けにして治療してたんじゃないかって言われてるんだけど、信じる?」


「まーな。二十年経ってんのに別れた時と全然変わってねーし、信憑性あるんじゃねーの」


「そっか~」


「つーか、力を失ったとはいえ聖女だったんだから何が起きたって不思議じゃねーだろ。理解できる存在だと考える方がどーかしてるぜ」



 おお、不条理で当然という見方もあるのか。ますますシーグバーンの案で行ける可能性が高くなってきたよ。あとで報告しておこう。


 お茶を淹れて、ミルドに冒険者界隈の話を聞いた。お茶はもちろん温めで、お茶菓子は張り切ってこっちの世界にはないメレンゲクッキーを作った。軽すぎて食った気がしねえとミルドには不評だったけど、ファンヌが喜んでたから良しとする。


 わたしが去った後の代理販売アイテムは、驚いたことに今でもアイテムの供給が続いていた。何でも、人族の町で仕入れて冒険者ギルドに卸されているらしい。

 そうか。わたしの元々の扱いは人族の枠組みだったんだから、仮想空間でのアイテム購入機能で買えたものは人族の町で買えたっておかしくないのか。全然思いつかなかった。

 しかも、仕入れをしているのはオーグレーン商会だそうで、ヒュランデル会長の意向で始められたらしい。ミルドにもスミレの雑貨屋の相談役として事前に相談されたそうだ。



「お前が始めた冒険者向けの商品の販売を引き継ぎたいんだが、どう思うかって聞かれたんだ。スミレはアイテムの供給が途絶えて冒険者に迷惑が掛かるのを気にしてたから、後を継いでくれたらあいつも安心すると思うって答えといた」


「うん、合ってるよ。ありがとね、ミルド」



 そう言えば、人族とも交易をしていると食事会の時にヒュランデルが言ってたっけ。そりゃイスフェルトの情報が入るわけだと思った覚えがある。

 そんなわけで、冒険者ギルドのストックがなくなる頃からオーグレーン商会が商品を卸すようになったそうだ。

 ただ、便利なアイテムなので相変わらず需要はあるものの、仕入れにコストが掛かりすぎるせいで販売価格がかなり高く、上位ランク冒険者でも常用するのはなかなか厳しいとのこと。おかげで売れ行きは芳しくないらしい。

 せっかくわたしのためを思ってアイテムを供給してくれているのに、今更安価で同一商品の販売を再開するのは悪いよなぁ……。冒険者たちも混乱するだろうし。

 冒険者向けじゃない商品を扱うという手もあるけどね。近所の人たちには薬や素材の需要はあったんだから。だけどそれだけじゃ経営は厳しそうだ。

 オーグレーン商会がアイテムの供給を続けている間は他にやりたいことがあるという体にして、雑貨屋再開は保留しておいた方がいいかもね。せっかくステータスに職業として表示されたのに残念だけど。



「とりあえず雑貨屋再開は保留にして、他のことでもしようかな。わたし完全に魔族扱いになったから、かなりいろんなことがやれるようになったんだ」


「へ~。何やるんだ?」


「フフ。冒険者もいいかもね」


「マジかよ」


「まだわかんないけど。その時はご指導お願いします、先輩!」


「お前トロそーだけど、戦闘とかできんのか~?」


「何を言う。わたしの戦闘技術はブルーノ将軍のお墨付きなんだぞー」



 ふざけた感じで話しつつも、ちょっと本気で考えてもいいかとも思っている。

 もう一つの追加シナリオ「地底湖の秘宝」をゲットする方法は何かと考えたら、やっぱり冒険とかクエストかなと思うわけで。メインクエストを達成した今、ボーナス獲得の可能性がありそうなのは今回追加されたシナリオ「空中庭園の謎」のクリアあたりなんじゃないかと考えている。

 メインクエストのフラグが立ったのはたぶん聖地を訪問した時じゃないかと思うので、仮にそうだとすると、ずっと城下町にいたままではフラグを立てるのは難しそうなんだよね。

 だったら、いろんな場所へ自由に行ける冒険者になるのが一番良さそうだ。そう考えたというわけ。


 ミルドはわたしに冒険者をやれるのかと訝しんでいるようだけど、ネトゲの経験を活かして効率の良い育成をする自信はある。いろいろ経験してメンタルも鍛えられたから、魔物の命を大量に奪ったとしても、実験施設で訓練を受けた時のように後で自己嫌悪することはたぶんない。

 まずは学校で初等課程まで修めてBランク以上になれるようにしておいて。冒険者ギルドで登録したら「グローダの討伐」クエストで経験値を稼ぐ。Dランクでは請けられないから、Cランクになるまでは犬族冒険者集団に混ぜてもらうつもり。

 もちろんメシュヴィツに教えてもらった『(から)の魔石』を使って効率良くビシバシ倒すよ。元聖女になったおかげで『空の魔石』に魔力を込めても『究極の魔石』にならないのは確認済みだからね。

 そういえば、調合しても『聖女の回復薬』じゃなく普通の回復薬になることも確認した。気軽に調合できるようになったんだから、ヨエルに師事して採集スキルを鍛えるのもいいかも。自分で採集した素材で調合するなんてロマンだよ。ヨエルが言うには効率悪いらしいからメインにはしないと思うけど。

 わたしは身体能力が低いので、戦闘は魔術と魔法を駆使するスタイルになるだろう。『生体感知』で索敵、『麻痺』『感電』『衝撃波』で敵を撃破。うん、魔物の討伐は結構向いてるんじゃないかな。

 そんな感じでランクとリアルの腕前を上げつつ、「空中庭園の謎」シナリオを手探りで進めていく。うう~ん、考えただけでも楽しそう!

 ……まあ、ミルドが100歳で成人したとして、300歳でAランクに昇格したんだから、実際はゲーム感覚でサクサク育成なんてわけもなく、ものっすごい時間掛かりそうだけどね……。



 とりあえず、部族長に相談だな。

 城下町での暮らしを再開するのは今後の方針が決まってからになる。決まったら連絡しろよと言ってミルドは帰っていった。


 何の屈託もなく「またね」と言って別れられる日が再びやって来た。

 またすぐに会えるとわかっていて口にする「またね」は本当にしみじみと嬉しくなるね。

次が最終話です。

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