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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
最終章 元聖女の帰還

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269話 ネトゲ仕様の確認作業とうれしい発見

「お前が去った後、契約を変更して私もこの部屋の共同所有者となった。ここには強力な防御の魔術陣を敷いてあるからな。安心して置き石を設置して行ける」



 ルード様はここで戻り石の魔術具を使って転移したらしい。城の方が安全なのでは?と思ったけど、よく考えたらルード様はもう魔王じゃない。城のプライベートスペースもきっとシーグバーンに引き渡したんだろう。

 その置き石がテーブルの上にあった。手に取りそっと撫でる。ありがとう、君のおかげで無事にここへ戻って来れたよ。

 ルード様に手渡し回収してもらい、並んでソファーに腰を下ろした。


 さて。ネトゲ仕様の確認だ。

 まずはステータス画面から。ここはたぶん何か変わってるはず。ちょっと怖いけど、HP27・MPゼロより悪い事態なんてもうないと思いたい。

 えいッと視線で四角をタップしてステータス画面を開く。




名前:スミレ

年齢:330歳

部族:ルードヴィグ族

役職:元聖女

職業:雑貨屋




 なんか情報量増えてる……。

 というか……ええっ?



「は? 330歳ってなに────ッ!?」



 こっちの世界で過ごしてる間に1歳年を取って33歳になった。でも向こうの世界に戻ったら三日しか経ってなくて32歳に逆戻り。そして再びこっちへ戻ったなら33歳でいいじゃん! なんでいきなり100倍も年取ってんの!?

 アラサー女子は年齢に敏感なんだよ。察しなさいよ……。

 納得いかないけど、ルード様に促されて順にステータス画面を読み上げる。


 部族の「ルードヴィグ族」っていうのは、ルード様が向こうの世界に転移してきた時に聞いた。「元魔王」の衝撃が強すぎたせいで、詳細を聞いたのは結構あとになってからだけど。

 もともと「魔王族」というのはネトゲ仕様の表記で、魔族国での正式名称は「魔王ルードヴィグを部族長とする部族」だった。その魔王が魔王でなくなったため、ルードヴィグ族となったのではというのがルード様の見解だ。

 うう、呼びづらい部族名に……。「元魔王族」ではダメなのか……ダメなんだろうなぁ。元魔王は一人じゃない。シーグバーンの指導を引き受けたという先々代魔王がまだ健在だもの。


 部族名はいいとして。

 役職名の「元聖女」は変わらず。まあ、これも仕方ない。

 聖地を癒した聖女と魔族社会で公表されている以上、もう聖女であることを隠してひっそり暮らすなんて無理だ。元聖女の看板を背負って生きていくしかない。

 そして、新規で追加されてたのが「職業:雑貨屋」。

 これはすっごく嬉しい! 以前は職業の表示はなかったからね。ようやく魔族社会の一員と認められたような気がする。

 わたしがそう言ったら、ルード様が頷いた。



「認められたというより、お前の扱いが本当に魔族になったのではないか? こちらで410歳の私が向こうの世界に転移した際の年齢が39歳だった。330歳というのは向こうの年齢を魔族の寿命で換算したものと考えればおおよそ合う」


「……こちらの世界でも、以前は32とか33だったのは?」


「ステータスの表記は魔王族となっても、お前の扱いは人族の枠組みのままだったのかもしれぬ」


「おお、なるほど~」



 そう言えば仮想空間のアイテム購入機能って服とかは人族のだけだったし、たぶん元々の設定は人族陣営だったんだよね、わたし。速攻で逃亡したけど。

 言われてみて、なんだかしっくり来た。本物の魔族になったからだと考えたら、330歳になったのもすんなり受け入れられる。むしろウェルカムだよ。もしかしたら寿命も魔族並みに長くなってるかもしれないし!

 330歳という年齢には違和感アリアリだけど、確かクランツが340歳、ミルドが300歳くらいだったと思えば親近感も湧いてきた。結構歳近いんだな~。へへへ。


 それから所持金も変化していた。なんかすごく増えてる。

 HPのカウントダウンが始まって以来、お金残してても仕方ないからバンバンアイテム買っては無償で城に提供してたから、残高はかなり減ってたはずなのに。

 ルード様が言うには、冒険者ギルドの代理販売分が売り上げとして処理されたのでは、とのことだった。最後に在庫のアイテム大量に預けたもんなぁ……。国庫に入れてって言ったのに。側近二人は何だかんだ言って律儀だからありそう。


 そして、HPとMP。

 もちろんMAXになってたよ! 良かった!!

 なんでMAXってわかるかというと、今までハイフンになっててわからなかった最大値がついに数値で表示されたから!

 ただ、HPとMPの数値を読み上げようとしたらルード様に止められた。たぶん魔族のマナーに抵触するからだ。魔力量の多寡は魔族にとってデリケートな話題だから要注意と、以前レイグラーフの講義で聞いたのにうっかりしていた。

 別にルード様は知っててくれて構わないのにな、とは思う。でも、わたしが教えたから彼も教えざるを得なくなるというのは不本意だ。たぶんルード様は慣習どおりにしたいだろうし。

 それに、わたしはもう本物の魔族なんだから!

 あくまでルード様の推測だけど、わたしはその説を信じる。だから言われたとおり、魔族らしく伏せたままでいこうと思う。



 いろんな変化はあったものの、とりあえずステータスに深刻な変化はないと言っていいだろう。ああ、ホッとした~。ルード様も安心したみたいだ。

 引き続き、ネトゲ仕様のステータス以外のところを確認するつもりだったけど、ちょっと一息入れたいな。お茶でも淹れよう。

 ルード様は水晶球チェック。彼がこの世界を発ってからたぶん十年くらい経ってるので、何か映るか様子を見てみるって。帰ってきたと皆に知らせるのはネトゲ仕様の確認を済ませてからにするそうだ。現状を把握してから連絡した方が混乱は少ない、と。なるほどごもっともで。

 そんなわけでひとり一階に降り、久しぶりに自宅のキッチンに立った。お茶の魔術具やカップは以前のまま、茶葉もパントリーにストックが残っている。

 あとは家全体を管理する魔術具の魔力を補充して──と、そこでふと気付いた。



 わたしの魔力が戻った。

 MAXになってるのをさっきステータス画面で確認済みだ。


 ということは────


 ごくりと喉がなる。

 そっと呼び掛けてみた。声が震える。



「四元素の精霊たちよ……」



 言い終わった瞬間、四人の精霊が目の前に現れた。

 精霊たちが見える!

 ひーちゃん、ふぅちゃん、みーちゃん、ツッチー。

 四人ともすっごい笑顔だ。



「うわあ~~ん、皆が見えるよお~~っ! ただいまー帰ってきたよ~! 会いたかったあああ~~~っ!!」



 いい歳をした大人なのに、そうだよわたし330歳なのに、なんかもう全然我慢できなくて、子供みたいに上を向いてわんわん泣いた。

 魔力を失い、一度はこの子たちとの繋がりが切れたと思った時もあった。身を切られるかのような辛さを味わったんだ。精霊薬を調合した時に繋がりは切れてないらしいとわかったけど、姿を見られないままで確信は持てなかった。

 ああ、精霊たちがすごい飛んで跳ねてクルクル回って喜んでくれている。契約、本当に切れてなかったんだね。四人とも元気そう。わたしの魔力を込めた『究極の魔石』を渡しておいて本当に良かった。


 わたしの声を聞いて、何事かと二階からすっ飛んできたルード様が、わたしと精霊たちの姿を見て微笑む。食器棚から取り出したボウルを手渡され、わたしはまたわんわん泣きながら、魔力クリームをボウルに山盛りいっぱい作った。

 精霊たちがおいしそうに魔力クリームを頬張る姿をみて、また泣いた。またこんな日が戻ってくるなんて、本当に夢みたいだ。



「ルード様ありがとう。あなたが迎えに来てくれたから、わたしまたここへ戻って来て皆に会えました」


「必ずお前を見つけ出すと約束したからな。早く生まれて来いと言ったが、こちらの時間では約二十年か。思ったより早く戻ってこれたな」



 そう言いながら、ルード様はわたしの頭をくしゃくしゃと撫でた。幸せすぎて、また泣けてくる。


 散々泣いた後、ウォッシュと回復魔術を自分にかけた。

 後で気付いたけど、魔力が復活して久々に使う魔術が涙と鼻水を洗い流すウォッシュって……。自分の残念っぷりに気付いて凹んだ。

 ルード様にはこれまでも散々みっともないところを見られてるけど、さすがにこれはどうなのと自分でも思う。おかげで少し冷静さを取り戻したよ……ううぅ。




 それにしても。わたしがHPゼロになって強制転移されてから、こっちの世界ではもう二十年も経ってるのか。向こうではたったの二か月だったのにね。

 何だか変な気分。人族だったわたしがまさかこの魔族国で浦島気分を味わうとは思わなかったなぁ。

 そんなことをしみじみと考えながらお茶を飲む。久々にお茶の魔術具三点セットを使って淹れたお茶はおいしかった。上手に淹れられて安心したよ。


 食堂でお茶を飲みつつ、ネトゲ仕様のチェックを再開する。

 結論から言うと、結構あちこちが変化していた。

 まずはマップ。全体マップに表示される地点が増えた。以前は魔族国内では「魔王城」と「境界門」の2か所だけだったのに、「聖地」「城下町」「精霊族の里」などと、何か所も表示されている。どうも、わたしが実際に訪れたことがある場所が表示されているっぽい。

 逆に、以前は表示されていた人族エリアの町や村の表示が消えて「イスフェルト城」だけになっている。いよいよルード様の言う「わたしの扱いが魔族の枠組みに移った説」が信憑性を帯びてきた。

 マップの表示地点は『転移』の移動先でもある。これについてはいずれまた実験することになりそうだ。


 『転移』の確認ついでに魔法の欄をチェック。

 こちらは聖女の回復魔法に当たる魔法が軒並み灰色表示になっていた。もちろん『四素再生』も。聖女じゃなくなったから使用不能になるのは予想どおりだ。

 それ以外は使えるようでホッとした。習った護身術がそのまま使えるし、普段の生活でも『生体感知』や天候を変える魔法が使えたら何かと便利だからね。


 一方で、魔術は聖女とは関係ないから変化なしかと思っていたのに、ひとつ灰色表示になったものがあった。禁忌の魔術──アナイアレーションだ。

 これはMPの最大値がアナイアレーションの起動に必要な魔力量を下回ったから使えなくなったんだと思う。ゲーム的な発想になるけど、たぶん「聖女」という役職にはMPを何割か増加させる効果があるんじゃないかな。

 そう言ったらルード様が納得していた。ルード様は魔王になった時と譲位した時に魔力量の変動を感じたらしい。「魔王」なんてそれこそいろんな能力がアップしそうな役職だもんなぁ。

 どちらにしろ、これは重要な報告案件だ。わたしがアナイアレーションを使用不能になったと知ったらブルーノはかなり安心すると思う。わたしも禁忌の魔術なんて剣呑なもの、使えない方が気楽だもん。これは良い変化だね。


 そして、アイテム。シナリオの追加があったから当然なんだけど、仮想空間のアイテム購入機能で買えるアイテムがめちゃくちゃ増えてる!

 細かくチェックしないと何が増えたかすぐにはわからないけど、とりあえず食料品の欄に『米』を発見! 思わずリアルで「キタ────ッ!!」って言ったよ。

 しかも『しょうゆ』に『米酒』『焼酎』なんてのもあるの! 米酒ってたぶん日本酒だよね? 新シナリオ、どんな内容なんだろ。他にも食材増えてるし『実績未解除』も複数あるし、期待大だね!


 あと、装備品の欄なんだけど、大量にあった人族用の服がなくなって、代わりに魔族の服がたくさん入っていた。

 「わたしの扱いが魔族の枠組みに移った説」がますます信憑性を帯びてきたよ!

 ひゃっほーッ!!

ブックマーク、感想、いいね、☆☆☆☆☆の応援ありがとうございます。励みになってます!

次こそ最終話……のはず。投稿日は未定です。すみません!

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