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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第四章 聖地と聖女

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252話 四素再生

いつもと違う時間帯ですが投稿します。次回は通常どおりの予定です。

 わたしの希望を叶えるためにアディエルソンとブルーノがさっそく動いた。

 アディエルソンはヒュランデルの呼び出しを、ブルーノは聖地の立ち入り禁止任務にあたっている部隊へヒュランデルを通すよう連絡しているもよう。

 お手数お掛けします。



「スミレ、大家が到着するのを待つ間に例のものを」


「あ、そうだね! 皆さん、今のうちに軽くお昼御飯にしませんか?」



 クランツに促されてどこでもストレージから敷物と保存庫、飲み物の瓶を取り出す。実は聖地へのゴーサインが出るまでの待ち時間に、ファンヌと下働きの女性たちと一緒にサンドイッチを大量に作ってきたのだ。

 聖地での視察が長時間に及ぶかもしれないとファンヌの提案で作ったんだけど、読みがズバリ当たったよ。さすが辣腕侍女。

 モグモグと頬張るわたしを見て、こんな非常時によく食事なんてしてられるなと獣人族部族長のニコラスが呆れた顔をしている。

 でも、最後に踏ん張りが効くかどうかは気力が物を言うと思う。腹が減っては戦はできぬと言うしね! 『四素再生』がどれくらい魔力を使うかわからないけど事前準備はしっかりしておかなくちゃ。

 アナイアレーションで聖女召喚の魔法陣を破壊した時みたいに、大慌てで回復薬をがぶ飲みした挙げ句、一日に飲める上限に達して魔力のやり繰りに苦労するような目にはもう遭いたくない。



 昼食を終え、回復薬の準備が整った頃、ヒュランデルが聖地に到着した。赤竜もかっこいいな。今日だけで三種類も竜を見れてラッキーだ。

 高揚した様子のヒュランデルが、まっすぐわたしの元へ来ようとして、ハタと気付いて魔王と部族長たちの方へ向かった。そうそう、まずは偉い人たちに挨拶を済ませてくださいね。

 アディエルソンはヒュランデルに事情を伏せたまま内密に呼び出したようで、明かせる範囲で状況を説明している。

 これから聖女の癒しで魔素の循環異常の根本的な治癒を試みると聞いて、ヒュランデルは歓喜の表情を浮かべた。でもそれも束の間で、聖女の役割が終わるため、以後は聖女が現れなくなる可能性が高いと言われてショックを受けている。

 それでもさすがに魔族国の物流を担う商会を率いる人物なだけあって、やがて厳粛に受け止めたというような面持ちになった。

 部族長からの説明が終わり、わたしの前にやって来たヒュランデルと挨拶を交わす。



「聖……スミレさん、お招きありがとう。先般あのような失態を犯した私に貴重な機会を与えていただき、感激しています」


「いえ、わたしが未熟なばかりにご迷惑をお掛けしました。今日は急にお呼び立てしてすみません。たぶんこれが最後の癒しになると思うので、どうしてもヒュランデルさんに見ていただきたくて」


「くっ、何というありがたいお言葉……! 本当にありがとうございます。最後の聖女の癒し、この目に焼き付け、しっかりと見届けさせていただきます!」



 跪きそうな勢いだったけど、踏み止まって普通に挨拶してくれた。聖女扱いは意識して控えてくれているようだ。ありがたい。

 敬語になってしまうのは止められないみたいだけど、それは仕方ないか。わたしも魔王たちに敬語禁止って言われた時は困ったし。だいぶ砕けた今でも丁寧語で話してしまうもんなぁ。

 まあ、これから最も聖女らしい姿を見せようというのに、聖女扱いされたくないというのも矛盾してるよね。



 さて、ヒュランデルも来たことだし、そろそろ『四素再生』に取り掛かろう。

 まずはあらかじめ『回復薬(究極)』と『精霊の回復薬』を飲む。

 『回復薬(究極)』は一定時間体力と魔力が瞬時に回復し続ける効果があり、『精霊の回復薬』は同時に飲んだ回復薬の効果が約半日持続する。

 この組み合わせはネトゲ仕様で購入可能な回復薬の中で最大火力を誇る、回復薬の奥義ともいえる最強の合わせ技だ。最強なだけあってものすごくお高い。だけど今はケチってる場合じゃないので大盤振る舞いで行く。

 実は、この合わせ技はアナイアレーションを発動した時に一度飲んでいて、『回復薬(究極)』を二、三本立て続けに飲んだ後に『精霊の回復薬』との合わせ技に気付いた。初めからこの組み合わせで飲んでいれば、後で魔力のやり繰りに苦労することもなかったとものすごく後悔したんだよね……。

 というか、今気付いたけど、わたしがアナイアレーションを発動できたのはこの組み合わせで回復薬を飲んだからかもしれない。

 今飲む分とは別に、追加用として『回復薬(究極)』を数本クランツに預けてある。薬の効果はスタックできるので、魔力の回復量が足りなかったら飲ませてもらうつもりだ。

 今回は万が一にも失敗できない。例え限界を超えたとしても、枯渇するまで魔力を叩き込むつもりでいる。



「では、始めます」



 一礼した後、わたしは皆に背中を向け、巨岩と向き合った。

 心の中で精霊たちに呼び掛ける。



(ひーちゃん、ふぅちゃん、みーちゃん、ツッチー。わたしに力を貸して)



 聖地に続々と関係者が集まってきた時、一旦姿を隠してもらった精霊たちを再び呼び出す。

 いつもにこにこしている精霊たちが緊張した顔をしている。たぶん、わたしの緊張がうつってるんだろう。

 こういう時は……よし、円陣でも組んで気合いを入れようか!

 片手を差し出したら、精霊たちが笑顔で手を重ねて来た。うちの子たちは本当にわかってるなぁ。



「頑張るぞー! エイエイオーッ!!」



 オー!で差し出した手を拳にして突き上げた。精霊たちも真似をして、ピョンピョン跳び跳ねながら拳を上げている。

 背後でブフッと笑い声が漏れるのが聞こえた。絶対スティーグでしょ。

 ギャラリーのことは気にせず、精霊の名前以外は声に出していこう。黙ったままだと何やってるかわからなくて心配になるだろうし。

 わたしは両手をパンッと叩くと、元気良く精霊たちに声を掛けた。



「近くにいる他の精霊にも力を貸してって頼んでくれる? それじゃ、行くよー。アクティベート!」



 言霊を意識して、エレメンタルの力を呪文に乗せるようにイメージしながら呪文を詠唱する。

 イスフェルト軍と対峙した時とは違って今日は最大効果を狙いたいから、精霊を活性化させて魔術の効果や魔力効率を上げよう。

 それだけのつもりでアクティベートを唱えたのに──



「うわ……ッ」



 聖地の空間いっぱい、そこら中に精霊が現れた。

 淡い虹色っぽい光がキラキラしていて、そよ風に揺れるように、波にたゆたうように、精霊たちが空中に浮かんでいる。空気が細かく振動しているのか、ヴーンという音が微かに聞こえた。

 何これすごい! こんなにたくさんの精霊、見たことないよ! ちょ、一体どれだけいるの!?

 実験施設でアクティベートした時、空気が躍動するように感じた。あれを視覚化したのがこれか……すごいな。さすが聖地。

 背後でもどよめきが起こっている。魔族にとってもレアな光景なのかな。

 嬉しくて思わず現れた精霊たちに手を振ったら、皆笑顔で飛んだり跳ねたりしてリアクションしてくれた。

 うはーっ、マジか。こんなにたくさんの精霊たちが力を貸してくれるなら、『四素再生』絶対成功するよ!



「あのね、今から聖地の傷を癒すの。そしたら魔素の循環異常もなくなるんだ。良かったら手伝ってくれる?」



 わたしが訊ねると、精霊たちが一斉に飛んだり跳ねたりした。まるでポップコーンみたいだ。

 そんな中、うちの精霊ちゃんたちも動きが激しくてですね……。ひーちゃんなんかロケット花火かな?という勢いで飛んでいったけども。ふぅちゃんのピルエットはマジつむじ風だし、ツッチーは四股踏みまくり、みーちゃんのルの字ジャンプの可愛さは天井知らずで。

 うおっ、空気の振動が一層激しく……何だか体の内側からポカポカしてきた。電子レンジか。温かい空気の対流に包まれているような、不思議な感じ。

 唐突に、レイグラーフの言葉を思い出した。



『森羅万象はエレメンタルの上に成り立っていて、どれか一つ欠けても成り立たない。目に見えない、自分の理解が及ばないところでもエレメンタルの力は及んでいる』



 この真理を、今わたしは聖地で体感しているんだ。

 よし、このエレメンタルを精霊たちと共に『四素再生』に注ぎ込もう。


 深呼吸して息を整えると、巨岩に両手を当てて呪文を唱えた。




「『四素再生』」




 呪文を唱えた瞬間、わたしの体の中からぶわっと何かが放出された。

 それが虹色の渦になってわたしの周囲を取り巻いている。そう思ったら、今度は一気に巨岩に向かって流れ込み始めた。

 ぐっ……、すごい勢いだ。吸い込まれそうな、でも反発しているような、よくわからないけど力を入れてないと勢いに負けてしまいそう。

 ステータスバーを見たら魔力が減っている。減る一方でちっとも回復していないみたいだ。回復より消費の方が勝ってるのか……。



「クランツ! 回復薬ちょうだい!」



 横を向いて声を上げたら、すかさず口元に瓶が当てられた。

 はやっ! 言った瞬間封を開けて口まで運べるとか、獣人族の運動神経と身体能力の高さはこんなところにも発揮されるのか……。

 妙な感動をしつつ、ごくごくと回復薬を飲む。

 ステータスバーの減りが止まった……? いや、まだだ。まだじわじわと減っている。

 クランツに頼んでもう1本追加してもらい、ようやくバーが回復し始めた。

 よし、これで行ける! このまま魔力を叩き込むぞ。



 魔力の心配をしなくて良くなって、少し気持ちに余裕が出てきた途端、巨岩に触れている両手が冷たいことに気付く。

 この冷たさはきっと聖地の傷と関係してるんだろう。

 同族からも忘れられるほど長い間、この傷を抱えてきた巨岩に想いを馳せる。



 巨岩……岩性精霊族のあなた。

 聖地を破壊しようだなんて何血迷ったこと考えたのさ。

 世界が滅んだらあなたが恋した彼女が生まれて来れなくなるじゃない。もしかしたら次は魔族に生まれてくるかもしれないのに。

 あなたが付けた聖地の傷、精霊たちと一緒に癒すから、もう一度生まれ直しておいでよ。

 長い間、傷が広がるのを抑えてくれてありがとう。

 癒しが終わったらゆっくり休んでね。



 延々と魔力を注ぎ続ける。

 時々ステータスバーを見て、魔力の回復量が衰えてきたら回復薬を追加した。

 ずっと集中しているせいか、徐々に疲労がたまってくる。

 頭がくらくらしてきた。

 どのくらい時間が過ぎたのか、ちょっともうわからない。


 永遠に続くような錯覚に陥りそうになる中、ふと魔力の反発を感じた。

 気のせい……? 力を込めて魔力を押し込んだら、確かに反発した。

 そう思った瞬間カッと虹色の光が放たれ、あまりの眩しさに思わず目を閉じる。

 そして、シュンッという音と共にネトゲ仕様のメッセージの文字が黒い視界に流れた。



《聖地の傷の治癒が完了しました!》



 終わった……。

 無事に『四素再生』をやり切れたんだ……!



 安心して気が抜けたのか、それとも魔力を使い過ぎた反動なのか、目を開けられないまま意識が遠くなっていく。


 続いて何かメッセージが流れたようが気がしたけど、そこでわたしの意識は途絶えた。

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