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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第四章 聖地と聖女

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250話 傷の記憶

 次から次へと人が現れたのでバタバタしたけど、後から来た人たちに現時点でわかっていることを説明する。

 魔素の循環異常が起きているのはやはりここ聖地で、巨岩の下あたりに聖地の傷というものがあること。

 聖地の傷は聖女の魔法『四素再生』で治癒でき、『霊体化』で調べられる。ただし、『霊体化』はわたしにしか効かないので調査には誰も同行できないこと。

 こういう説明は普段ならレイグラーフがやってくれるんだけど、今は持参した測定器であれこれ計測するのに専念している。

 魔素の循環異常が起きているとほぼ確定したし、聖地の傷なんて事象も起きているとわかった以上、裏付けのためにもデータは必要だもんね。


 ついでに、説明の中でネトゲ仕様についても少しだけ明かしておいた。ネトゲ仕様にまったく触れないまま話を進めるのは難しいと思ったからだ。もちろん魔王の許可は得ている。

 異世界人のわたしだけが見聞きできる事象や入手できるアイテムがあり、聖女の特殊な能力も含めて「ネトゲ仕様」と呼称しているということにした。

 詳細は伏せたままだけど、理解不能なことは全部ネトゲ仕様によるものと認識してもらえれば十分だと思う。


 わたしがひと通り説明し終わった頃、レイグラーフが戻って来た。残念ながらどの測定器も反応しなかったため、何も計測できなかったらしい。

 報告を聞いて部族長たちの顔が険しくなった。



「計測できず、か。過去に例を見ぬ異常事態じゃな」


「聖地で魔素の循環異常が発生すること自体が初なんじゃ。どんなことが起こっても不思議はないわえ」


「で、どうすんの? スミレの言う『四素再生』ってのでさっさと癒す? それとも一応調査してもらうの?」


「シーグ、そう先走るんじゃない。スミレさんの話の内容を含め、我々はまだ把握できてないことが多すぎる」



 この面子だと部族長会議扱いになるのか、話しているのは部族長とシーグバーンだけだ。魔王の側近二人はもちろん、魔族軍将軍と研究院長も意見を求められた時以外は基本的に発言を控えているように見える。

 魔人族の部族長代理をしている次期魔王候補のシーグバーンは部族長らと同等の扱いなのか、相変わらず空気を読まずに思ったことをポンポン口に出しているようだけれど。



「悠長に話し合ってる場合でもないだろ? 何のデータも取れてないんだし、スミレに調査してもらおうよ」


「そりゃ実際にどんな状態なのか確認できるに越したことはないが……」


「スミレはどう思う」


「ネトゲ仕様が提示してるんだから、問題なく実行できると思ってます。でも、できれば状態をしっかり調査してから癒しをしたいです」



 魔王に訊ねられたので素直にそう答えた。ネトゲ仕様を信用しているわたしとしては、迷う必要を感じないというのが正直な気持ちだ。

 説明がややこしくなるから口にはしていないけど、聖地の危機を聖女の最終奥義で解決させるこの流れは、ゲーム的に考えるとたぶんメインクエストのような位置付けのものだろうと思う。

 単独で向かう聖地の地下で、大規模な戦闘とか絶体絶命な事態が起こるとは正直考えにくい。そんな殺意の高いシナリオを組むようなクソゲーだったら、わたしこの魔族国でこんなにのほほんと暮らして来れなかったと思うんだよねぇ。



「本人ができるって言うんだから、やってもらえばいいんじゃないの?」


「何が起こっているかわからない場所へ彼女一人を送り込むのは不安ですな」


「確かにのぅ。スミレちゃんに何かあれば頼みの綱である癒しを行えなくなる。それは避けたい」


「うわ~、ばあちゃんスミレと友達っていう割りにドライだねー」


「フン。部族長じゃからの。いざとなれば友情より国の利益を優先するわい」



 以前、わたしがグニラの足を治した時にも彼女はそう言っていた。わたしが望まない場合でも聖女としての働きを求めることもあるだろう、とも。

 実際にこうなってみて、揺らぐことなく有言実行するグニラおばあちゃんをさすがだと思うし、かっこいいとも思う。

 そしてその時わたしは、いざとなったら自分も友情より魔王の判断を優先すると考えた。だから、魔王が調査すると判断を下した時、すぐに引き受けた。



「スミレ、頼めるか」


「はい! 任せてください!」



 ヴィオラ会議のメンバーは心配そうな表情を浮かべていたけど、やるしかないこともわかっているから誰も反対はしなかった。

 ただ、魔王は防音の魔術を展開して『戻り石』を用意するようわたしに告げた。

 地下で何が起きるかわからないから、瞬時に戻って来れるよう自分に置き石を預けて行けということらしい。

 わたしは手早く『戻り石』を購入して二つの石に魔力を込めると、魔王に置き石を手渡す。



「それじゃ、いってきますね!」



 ビシッと敬礼なんかしてから、わたしは巨岩の方を向いて『霊体化』を唱える。

 フワッと浮いたような感覚になり、透けて見えなくなった足を岩の中へグッと踏み入れた。





 これまでに『霊体化』ですり抜けたことがあるのはカシュパルとシーグバーンの体だけ。手首に嵌めた拘束用の魔術具が『霊体化』と同時に落ちるかどうか確かめる実験はしたものの、無機物に対してすり抜けようとしたことは一度もない。

 しかも、『霊体化』した時は体が数センチ浮き上がったような感じになり、床にめり込んだりはしなかったので、地下に潜れるのか少しだけ不安があった。

 だけど、岩の中に踏み入れた足に力を込めて体をグイと前傾させたら、何の抵抗もなくすんなりと岩の中に入れた。そして巨岩に触れた時と同じくぞわっと全身に悪寒が走る。

 暗い。というか黒い空間にいるみたいだ。実際は密な物質の中なのに。岩の中で目を開けていられる、この感覚が馴染まなくてキモイ。

 呼吸はどうなっているのかと一瞬思ったけど、すぐに考えるのをやめた。今は調査のことだけを考えよう。


 巨岩の中は外側の色とは違って真っ黒だ。土のエレメンタルの黒とは違う黒だと感じる。そして、この黒は地下へと続いているようだ。

 下へ降りるよう意識すると、やがて視界が岩から土に変わった。地下へと降りていっているらしい。

 ただ、ここも黒い土だ。しかも岩の中とは違い、縦に黒い亀裂が走っている。

 これが聖地の傷か……。この亀裂が魔素の循環異常の発生原因なら治さないと。

 そう思いながら、触れるわけもないのに手を伸ばした途端、バッと視界全体に映像が浮かび上がった!?

 音は聞こえない。文字も浮かんでない。なのに何故か映像のストーリーが頭の中に伝わってくる。

 何なのこれ!? え、イベントのムービーか何か?




 ──遥か昔、まだ魔族国が生まれていない頃のこと。

 精霊族の二人の青年がいた。一人は岩性、もう一人は樹性。二人は親友で、どちらも次期部族長の候補だった。


 ある時、岩性の青年が人族の女性に恋をする。

 寿命が違い過ぎると止める樹性の青年。しかし、その女性は寿命より更に早く、魔素溜まりに落ちて命を落とした。

 魔力の元たる魔素。自分と彼女を隔て、彼女の命まで奪った魔素。

 岩性の青年は悲しみのあまり、魔素さえなければと聖地で究極の破壊魔術(アナイアレーション)を放ってしまう。

 しかし、魔力が足りず魔術は中途半端に終わる。聖地を破壊することは叶わず、聖地にほんの少し傷を残しただけ。

 それでも我に返った岩性の青年は己の愚行に恐慌を来した。

 もしも聖地が魔素を生み出さなくなったら。それは魔族の死を示す。

 聖地にできた傷をすぐに癒さねばと全力で回復魔術を試みたが、効果は見られない。

 せめて、この傷をこれ以上広がらないようにするためには──。


 岩性の青年は、傷の上で巨岩に変化(へんげ)し、傷を塞いだ。

 最後に樹性の青年を聖地へ呼び出し、自分の愚行を打ち明け、詫び、後を頼む。

 次期部族長候補になる程だから魔力量は優れている。その全魔力を用いてこの傷を半永久的に塞ぎ続けよう。

 そう言い残して、岩性の青年は永遠に沈黙した。


 残された樹性の青年は、部族長に真実を伝えなかった。親友の名誉を傷つけたくなかったからだ。

 親友は聖地を見守り続けるため巨岩となる道を選んだと、ただそう伝えた。

 やがて樹性の青年は精霊族の部族長の任に就いた。親友の罪を隠蔽したことを恥じていた彼は、罪滅ぼしのためにもひたすら全力で部族に尽くす。

 そして次代へ部族長を譲り渡した後、巨岩の隣で巨木に変化(へんげ)し、自身も親友と共に聖地を見守る道を選ぶ。

 その頃には既に巨岩が過去に部族長候補だったことも、巨木の親友であったことも忘れられていた。

 巨木は最後に次期部族長へ願いを託す。

 聖地へ来た時は、挨拶代わりに我らへ魔力を注いでおくれ。そうしたら、その分だけ長く聖地を見守り続けられるだろうから、と。


 部族長だった巨木はやがて樹翁と呼ばれるようになったが、時の経過と共に二人の詳細は忘れ去られていく。

 そして、巨岩と巨木がその昔精霊族であったことと、聖地を訪れた際に魔力を注いで挨拶する風習だけが精霊族内に辛うじて残った。


 岩性の青年がつけた聖地の傷は、悠久の時の中で少しずつ聖地を侵食していく。

 やがて、魔素の循環異常が世界のあちこちで発生するようになった。

 それと同時に、魔素の循環異常を癒すために、聖女という存在を召喚する魔法陣がどこからともなく現れ始める。


 聖女は何故かいつも人族であった。

 岩性精霊族の青年がつけた傷を、彼が愛した人族の女性が癒す日は来るのか──




 唐突に始まったムービーは、唐突に終わった。

 それと同時に、足元から周囲が黒一辺倒から一気に虹色の光に満ちる。

 地面を下ってどこか空間に抜けた?

 眩しい、けど綺麗だ。広い空間……キラキラしている。ここはどこなんだろう。


 ストーリーの内容を整理する間も、この光に満ちた空間が何なのか考える間もなく、シュンっという音と共にネトゲのメッセージが視界中央に流れる。



《聖地の傷が 聖地の要に到達するまで あと10時間です》



 は!!?


 思わず目を見開いてもう一度読もうとしたら、メッセージはスッと視界からスライドアウトしていった。

 その代わり、視界中央上部に数値が表示されて……?


 9:59:59……58……57……


 ちょっ、これ残り時間?

 何か知らないけどカウントダウン始まってるーッ!!?

 すぐに戻って魔王たちに報告しないと!

カクヨムでも投稿始めました(毎日複数話投稿中)なろうの最新話に追いつくのはだいぶ先ですが、お好きな方で読んでいただければと思います。

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