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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第四章 聖地と聖女

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244話 グニラの助言

 グニラが言うには、数日前にシーグバーンから申し入れがあったそうだ。

 魔人族の里で子供たちの教育に新しい遊びを導入したところ、集中力を高める効果が見られた。以前スミレから火の精霊族が子供のヒト型化の訓練で手こずっているという話を聞いたが、良かったら彼らにもどうか、と。

 火の精霊族に伝えてみたらとても喜び、ぜひ教えて欲しいと言うのでグニラは許可を出した。シーグバーンはさっそく火の精霊族の里を訪問し、あっち向いてホイを伝授したという。



「その翌日から火の山が噴火し続けておる」


「……え? あの、遊びの伝授と何か関係あるんですか?」


「普段なら噴火はある程度コントロールできるんじゃが、あの里の者らが興奮状態になるとそうも行かなくなるんじゃ。特に種族長の精神状態は影響が大きくての。今回はあれが相当興奮しておるらしい。文字通り燃え上がっとるそうじゃ」


「子供たちに教えたんですよね? どうして種族長や里の大人たちが」


「教わった日に子供らが熱中した結果、翌日には大人たちにも広まったんじゃと。しばらく噴火は収まりそうにないわえ」



 ひええ、何でそんなことに……。

 何でもシーグバーンが子供たち相手に勝ちまくったそうで、その影響か子供同士で楽しむという流れにはならず対戦相手を大人にも求めたらしい。大人げないぞ、シーグバーン!

 でもまあ、火の精霊族の子供たちがヒト型化するのを厭わず夢中になって遊んだというのだから、目的は見事に達成だ。これもシーグバーンのおかげ。彼も思う存分あっち向いてホイを堪能できたみたいで良かった。

 それにしても、大人まであっち向いてホイにハマるとは。エレメンタル系精霊族はエキセントリックな人が多いというし、シーグバーンがあれだけ熱中するんだから、彼らの反応も推して知るべし、だったのかもしれない。この世界は娯楽が少ないからねぇ……。


 それよりも周辺への影響が心配だったのだけど、水の精霊族と樹性や草性の精霊族が多少苦労するくらいで、被害と呼ぶほどのことはないそうだ。岩性、特に鉱物系の精霊族は恩恵を受けるからむしろ喜んでいると聞いて心底ホッとした。

 ふおお良かったよぉ~っ! もしもレーヴ湖事変みたいな大惨事に発展したらどうしようとマジで冷や汗出たよ!! 

 気安くシーグバーンに頼んでしまったけど、そんな大きな影響を与えてしまうとは思いもしなかった。エレメンタル系精霊族への対応はよく考えて慎重にしないといけないな……反省。



「まあ、そのうち落ち着くじゃろう。そんなことより、今日はスミレちゃんに話したいことがあってのぅ。……せっかくイスフェルトの侵攻が片付いたというのに、何やら騒動があったそうじゃな? その件で、アディエルソンのジジイからスミレちゃんの様子を見てやってくれと頼まれたぞ」



 部族長会議の後で竜人族部族長のアディエルソンから個人的に頼まれたそうで、事情については魔王の許可を得たうえでざっくりと知らされたらしい。

 あの後も気に掛けてくれてたんだ……うう、アディおじいちゃん、見た目と違って本当に優しい。気配りの人だなぁ。



「心配していただいてすみません。そちらはだいぶ落ち着きました」


「そうかね。無理はしとらんかえ?」


「正直まだ全部は呑み込めてません。今でもやっぱり彼らから聖女を奪ったという罪悪感が浮かんでくることはありますし……。でも、今はそれに囚われないよう敢えて放置してます」


「それでええ。聖女信奉者なんぞ放っておいてかまわん。スミレちゃんの迷惑にならん範囲なら好きにすればいいが、迷惑なら拒絶すればいいんじゃ。配慮すべきは向こうであってスミレちゃんじゃないぞ? 他者を崇拝するというのは自分本位な行為なんじゃから、それにスミレちゃんが付き合うことはないわえ」


「え。いつかは向き合わなきゃいけないと考えてたんですけど……」


「向き合うべきは人ではなく精霊じゃ。聖女の役割は精霊と共に魔素の循環異常を癒すことで、それ以外はおまけに過ぎん。見当違いな罪悪感なんぞ覚えんでよろしい」



 魔王、竜人族部族長に続き、精霊族部族長のグニラも罪悪感を抱く必要はないと言った。わたしの自責の念はいよいよ封印するしかなさそうだ。

 しかも、見当違いとまで言われてしまったよ……。

 グニラは魔王やアディエルソンより聖女信奉者に対して手厳しいというか、優先すべきは精霊であって人のことなどどうでもいいという感じだ。このあたりの違いは彼女が精霊族だからなんだろうと思う。



「厳しいことを言うと思うておるかもしれんが、本質を見誤ってはならんぞ。聖女とは世界の理により存在するもの。人の理に左右されてはならん。聖女召喚の魔法陣を固定した聖女の所業を見よ。人の欲に動かされた結果が魔法陣の消滅じゃ」


「破壊したのはわたしですよ? しかも、激情に駆られて壊しましたし……」


「それだとて、見方を変えれば過去の聖女の愚行の尻拭いをしたとも言える。あくまで個人的な見解じゃが、わたしはあの固定化された魔法陣が更に魔素の循環を歪にしておった可能性があると疑っておるからの。世界が魔素を生み出し、精霊が循環させる。それを阻害するものなぞ、消滅してせいせいするわい」



 グニラは厳しい表情でそう言った。さすが精霊族の部族長、精霊第一主義が徹底している。

 以前のわたしだったら、この厳しさの前では委縮して顔を上げられなかったかもしれない。でも今は、彼女の厳しい眼差しを向けられてもきちんと答えられる程度には気持ちは定まった。

 わたしは姿勢を正すと、グニラの目を見て今の想いを伝える。



「自分としては、今回の件は聖女としての自覚が芽生えるきっかけになったと思ってます。以前グニラおばあちゃんに覚悟を問われた時は答えられませんでしたが、魔素の循環異常が発生した時はわたしが癒すと心に決めました」


「ほう、そうかね」


「今は循環異常が起こってませんから、今すぐに何かするってわけではないんですけどね。グニラおばあちゃんの言うように、まずはこの世界や精霊とどう付き合うかってことを考えようと思ってます」


「ふむ」



 グニラはわたしの言葉を受け止めるだけで、これと言って特に反応を示さなかった。わたしの決意を見定めているのか、黙ったままわたしをジッと見ている。初めて来店した時もそうだったけど、威圧感があってちょっと怖い。

 友達になってスミレちゃんグニラおばあちゃんと呼び合っていても、こういう時は全然手を緩めないんだよなぁ。

 でも、こと精霊に関しては精霊族部族長のグニラ以上に的確な助言をくれる人はいないと思っている。手厳しさも、普段優しくされてばかりのわたしにはむしろ必要だろうと思うし。

 取り繕って何か言ったところでどうせグニラには見透かされてしまうだろう。だからわたしも黙ったままお茶を淹れ変えた。二人で静かにお茶を味わう。

 やがて、ほうとひとつ息を吐いてグニラが口を開いた。



「この際じゃから正直に言うがのぅ、精霊族部族長の立場からすると聖女に望むものは非常に大きい。じゃから、本来ならスミレちゃんに対してはもっと点数が辛くなるところなんじゃが……、精霊に関することではスミレちゃんには何も心配しとらんよ。全幅の信頼を置いていると言ってもいい」


「えっ!? そ、それは嬉しいですし、とてもありがたい評価ですけど、何故そこまで? わたしはまだ聖女としては何の実績もないのに」



 唐突に、想像もしてなかった高評価をグニラからもらって、わたしは驚いた。

 魔族国の重鎮、1000歳を超える精霊族部族長にそんな評価をしてもらうだなんて、驚きを通り越して恐縮してしまう。



「実績ならとっておきのがあるじゃろうに。四エレメンタルすべての精霊と契約しておる者なぞ、歴代の精霊族部族長にもおらんぞ?」


「それは……契約は確かにしましたけど、以前お話ししたように単なる成り行きでそうなっただけですし、精霊たちにとって聖女の魔力が好ましいからというのが大きいと思います。わたし自身の力じゃ」


「……そういう無心なところかのぅ。お前さんは精霊がおらん世界から来たというのに、精霊のことを何も知らんうちから精霊に心を開いておる。それがどれ程得難い資質か、お前さんにはわからんのじゃろうなぁ」


「う、あ、そんな、資質だなんて大袈裟な。グニラおばあちゃんにそんな風に言われると照れるなぁ……アハハハ」



 褒め殺し?ってくらいのグニラの言葉に、どうリアクションしたらいいかわからなくて、つい空笑いで誤魔化してしまった。

 全幅の信頼とか得難い資質とか、マジで恐縮モノなんですががが。

 もちろん彼女はお世辞なんて言わないとわかっているけど、真に受けていいのかわからない。だって、そこまで自分に自信なんてないよ。

 そんなわたしの思いを見透かしたのか、グニラはわたしを目を見ながら厳かな声で諭すように言った。



「さっきも言うたが、世界が魔素を生み出し、精霊が循環させる。魔素の循環異常を癒す役割を担う聖女は、いわば精霊の友じゃ。お前さんは何の知識もないのに、精霊を大切にし仲良く過ごしていた。自分でどう思っとるかは知らんが、お前さんは既に立派に聖女として振る舞っておるとわたしは思うておるよ。悩むのはいい、どんどん悩みなされ。じゃが、自信を失ってはならん。精霊に信頼されておる己を信じるんじゃ」



 精霊に信頼されている己を信じろというグニラの言葉は、わたしの胸にすとんと落ちた。

 自信なんてない。聖女とはどうあるべきかもまだよくわかってない。だけど、精霊たちのことは100パーセント信じられる。その精霊たちが信頼しているわたしを、わたしはもっと信じていいはずだ。

 いつの間にかひーちゃん、みーちゃん、ふぅちゃん、ツッチーがわたしの肩や手の上に姿を見せていた。四人ともにこにこ笑っている。



「迷った時は精霊に聞くといい。精霊は常にお前さんと共にある。不安に思うことなぞ何もないわえ」


「はい。皆、ずっと一緒にいてね!」


「……久しぶりに見たが、また成長しておるのぅ……」



 飛んだり跳ねたりクルクル回ったりする精霊たちに気を取られていたわたしは、ぼそりと呟いたグニラの言葉を聞き逃した。

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