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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第四章 聖地と聖女

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242/289

242話 魔族国亡命一周年記念の飲み会

誤字報告ありがとうございます。

「皆さんのおかげでイスフェルトと決別できました。本当にありがとうございました!」



 わたしがぺこりとお辞儀をして笑顔を見せたら、魔王をはじめヴィオラ会議の皆も笑顔になった。わたしにはもう憂いはないと感じてくれているんだろう。それが本当に嬉しい。

 朗らかな空気の中、スティーグがパンと音を立てて両手を合わせると、皆を見回した。



「良い機会ですし、今夜はお祝いしませんか? 少し早いですが、スミレさんの一周年記念も兼ねてパーッと飲み会でもしましょう」


「一周年? ……あっ、そういえば」



 確か次の星の日で、わたしが魔族国へ亡命してきてからちょうど一年になる。

 何か希望はあるかと聞かれたので、以前お花見をしたから今度はお月見がしたいとお願いした。

 不変の象徴であるこの世界の月は満ち欠けしない。毎晩満月だからいつでもお月見ができる。今は少し雲が出ているけど、気になるなら『晴天』を唱えればいいんだし、それに時々月に雲がかかるくらいの方が風情があるしね。

 ただ、わたしの希望に顔を引き攣らせている人がチラホラと……。以前お月見について説明した時に、元の世界では月が満ち欠けするといったら酷く気味悪がられてしまったんだよね……。

 どうもお月見というものに禍々しい印象を与えてしまったようで誘いづらかったんだけど、せっかく希望を聞いてくれたんだからこの機会に強請ってしまおう。

 大丈夫。月が満ち欠けしないこの世界では単に満月を愛でるだけだから。顔を引き攣らせる必要なんてないんだってば!





 日が沈み、空に月と星が浮かび上がる。その空の下、わたしたちは離宮の庭にあるガゼボっぽい東屋で飲み会をした。

 料理と飲み物は東屋のテーブルに用意されていて、飲み会というよりちょっとしたガーデンパーティーみたいだ。お月見と呼ぶにはおしゃれ過ぎる気もするけど、さっきは顔を引き攣らせていた人たちも楽しんでいるようで良かった。

 屋根で月が隠れてしまうので、見える位置までイスとサイドテーブルを引っ張り出し、月を眺めながら料理をつまみお酒を飲む。

 今日も見事な満月だ。星もその配置を変えないので、当然夏の星座や冬の星座のような星空の変化もない。変化がないから研究の対象にもならなかったのか、この世界には天文学のような学術分野はないみたいだ。

 だから却って知的好奇心旺盛なレイグラーフや魔王には新鮮だったのかもしれない。月の満ち欠けが起きる理由について聞かれたので、覚束ないながらも説明したらとても興味深そうに聞いていた。



「何と、あの輝きは太陽の光を反射したものなのですか!」


「いえ、元の世界がそうだっただけで、この世界はどうかわかりませんよ?」


「公転、か。太陽との位置関係……ふむ、こんな感じか」



 魔王は器用に氷の球体を魔術で作り出し、実際に光を当てながら周回させては、ふむふむと納得している。

 こういうところを見ると、やっぱり魔王は実験好きなんだなと思う。口実や隠れ蓑に使われるわけだ。

 それにしても、魔王は本当に器用に魔術を扱うなぁ。無詠唱で指先をチョチョイと動かしただけで、即行で空中に氷の球体を生み出してしまった。さすが魔族国随一の高位の魔術師。

 ……ん? そういえば、いつだったか球状の氷を作れるかと考えたことがあったような気が……。何だっけ……、……あっそうだ!



「ルード様。その氷、もらってもいいですか?」


「ああ。手を出せ」


「えっと、このグラスの中へ入れて下さい。はい、ありがとうございます」


「その氷をどうするのですか?」


「へへへ。お酒を注いで、ロックにしまーす」


「げっ!」

「ええっ!?」



 ブルーノとカシュパルが同時に声を上げた。とくとくと音を立ててウイスキーを注ぐわたしに、蒸留酒好きの二人が非難がましい視線を向けてくる。



「お前、形を変えるような不気味なモノに見立てた氷を酒に入れるなよ。もったいねぇ」


「え、それ飲むの? うわ、気持ち悪っ」


「酷い言われようですね。詳しいことは覚えてないんですけど、ウイスキーをおいしく飲むのにいいと聞いた覚えがあるんですよ」



 そう言いながらひと口飲んでみる。……正直、四角い氷との味の違いはまだよくわからない。

 でも、音が違うのはわかる。カラカラじゃなくてカランってなるのはちょっと大人っぽくてかっこいい。フフフ。



「ほう、私も試してみるか」


「ルード、ついでに私の分も作って下さい」


「私もお願いします」


「では、私は自分で作ってみましょうか」



 またもや魔王が実地で試そうとしたら、すかさずスティーグとクランツの二人が乗っかった。そして、レイグラーフも氷を作るのが早い。さすが研究院長だ。高位の魔術師2トップは本当にすごいな。

 出来上がった丸い氷で魔王たちがウイスキーのロックを味わう。それぞれ音を聞いたり、グラスを目の高さに掲げて向きや角度を変えたりして楽しんでいる。



「何故わざわざ丸くするんでしょうねぇ」


「パッと思いつくのは表面積が小さいことでしょうか。普通の氷より溶けるのに時間が掛かると思います」


「水で薄まるのが遅くなるならゆっくり飲めるな。ストレートから徐々に薄まっていく……そういう味わいの変化をじっくりと楽しめそうだ」


「おお~、なるほど」



 すぐにおおよその理由が判明した。さすが知性派!

 そう言われてみると確かにそんな気もする。宅飲みだとあっという間に氷が溶けて、薄~い水割りになってしまって物足りない気分になったことを思い出した。

 そういう理由なら、ゆっくり飲むタイプのわたしには合うかもしれない。魔術でならわたしでも丸い氷を作れそうだし。

 それに、何と言っても雰囲気があってかっこいい。お酒を楽しむのに見た目や雰囲気の良さは重要だよね!



「よし、わたしも作ってみよっと」


「結構集中力が要りますから、慣れないうちは落としてもいいようにグラスの上で作るといいですよ」


「はい、頑張りますっ」



 レイグラーフのアドバイスに従いグラスの真上で丸い氷を作る。水の精霊のみーちゃんを呼び出して力を貸してもらうのが一番手っ取り早いんだろうけど、まずは自力でやってみよう。

 空中に浮いている氷に少しずつ水を垂らして大きくする感じで丸い氷に仕立てていく。

 うーん、水を垂らすイメージだと雫とかスライムみたいな形になってしまう。空気中の水分を取り込んで球体が大きくなっていくイメージでやり直すか。

 そうやって試行錯誤しつつ集中して黙々と頑張った甲斐あって、時間は掛かったけど何とか丸い氷を作ることに成功! やったね!



「すごく綺麗に丸く凍らせましたね。久しぶりに見ましたが、スミレは本当に水の魔術を使うのが上手い。派生の氷の魔術もお手の物のようですね」


「へへへ、ありがとうレイ先生。初めてやりましたけど、うまくできました」


「ねえねえ。スミレの氷、ルードやレイのと比べてやけに透明じゃない?」


「おや、本当だ。綺麗ですねぇ」



 カシュパルに言われて気付いた。確かに魔王やレイグラーフの氷より透明度が高い気がする。普通に凍らせただけなのに、何でだろう。イメージしたのがお酒のCMとかで見るような透明な氷だったからとか?



「不純物などは入っていませんから、おそらく時間を掛けてゆっくりと凍らせた影響でしょう。以前氷の精霊族に聞いたのですが、透明感のある氷を作るならあまり急速に凍らせない方が良いのだそうですよ」



 急いで凍らせなくていいなら自分でも作れそうだと言って、クランツとスティーグも丸い氷作りにチャレンジし始めた。二人とも丸い氷のロックが気に入ったらしい。

 いいよね、これ。魔王が言っていた、味の変化をじっくり楽しむというのがわたしにも何となくわかってきたよ。

 グラスを掲げて丸い氷を眺める。その後ろに満月が重なった。



「まん丸で、お月様みたいだなぁ」


「ふ~ん。欠けてない月に見立てるなら悪くねぇな。俺もやってみるか」


「ストレートでガブ飲みする将軍には必要なさそうですが」


「女に作ってやったら喜ぶかもしれんだろ」


「あ、それいいね。僕もやってみよう」



 月の満ち欠けに拒否反応を示していたブルーノとカシュパルも加わった。

 うん、禍々しいイメージが払拭できたなら良かったよ。例えそれがお誘い方面であったとしても。



「これ、お誘い方面で需要ありそうですか?」


「あると思うぞ。少なくとも俺は試す」


「マジすか。……城下町の人たちに教えても大丈夫そうです?」



 わたしがそう訊ねたら、何故か皆黙ってしまった。

 どうやら先程わたしが口にしたとおり、この丸い氷というのは陽月星を連想させやすく、「不変をイメージするものを提示した=愛の告白」と捉えられる可能性が高いというのだ。



「しかも、お酒とセットでしょ? だいぶ色っぽい雰囲気になると思うんだよね」


「そうですねぇ。スミレさんが誰かに教えるのは避けた方がいいかもしれません」


「相手が女性でもですか?」


「同性でもやめた方が無難でしょう。おそらく流行りますから、君が発信元だと思われると恋愛お断りのスタンスに疑いを持たれかねません」


「えええ……」



 どうもわたしが思う以上に、丸い氷のロックはお誘い案件にヒット確実な代物らしい。うう、披露したのがヴィオラ会議のメンバーの前で本当に良かった。

 一気に流行らせるのではなく、地味に静かに広まった方がいいだろう。それならまずは誰か一人を選び、その人から他の誰か一名に伝授させようということで意見がまとまり、最初の伝授役が何故かレイグラーフに決まった。

 恋愛から一番縁遠いというのが選ばれた理由なんだけど、レイグラーフは見た目がセクシーだから不味いんじゃないのかなぁ……不安だ。



「私が教えるなら誰がいいでしょうね……。う~~~ん、ああそうだ。友人のソルヴェイから飲みに誘われてますから、近いうちに彼女に披露してみましょう。お酒が好きな人ですから、たぶん喜んでくれますよ。彼女に教えれば冒険者の間で徐々に広まるでしょうし。スミレもそう思いませんか?」



 レイ先生、それ超絶危険なチョイスだと思うんだけど!!!

 でも、先生が自分で選んだ以上、わたしが止めるのもどうかと思う……。

 ああでも! ギルド長が舌なめずりするのが目に浮かぶよぉお!!

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