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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第四章 聖地と聖女

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206話 異世界で恋のキューピッドになる

四章スタートです。

「うわっ。何これ、ふわっふわ!」


「いやーん、口の中で溶けてくぅ~ッ!」


「でしょ~? ホントここのパンケーキは絶品なんだよぅ」



 今日は女子会で五番街の学校へやって来た。

 わたしが学食でパンケーキを食べたいと強請ったからだが、これまで学校と縁のなかったシェスティンとエルサは初めて食べる学食パンケーキに予想どおりの反応を示している。

 見た目は普通のパンケーキなんだけど、ひと口食べたら理性が吹っ飛ぶおいしさだからね!

 スフレタイプのふわっふわパンケーキに生クリームとメープルシロップがたっぷりかかったような、この軽い食感と口どけ……。

 ふうう、控えめに言って最高です。



「久しぶりに食べたけれど、やっぱりおいしいわね。ハァ~、幸せ」



 普段なら外ではクールな表情を崩さないファンヌまでもがうっとりした顔をしている。

 「おいしい」は人の心を豊かにしてくれる。更にその中でも甘いものというのはまた特別だ。今わたしの脳内では確実にセロトニンやドーパミンなどの幸せホルモンがドバドバ出ていると思う。

 うう、お一人様1食限りなのがつらい。保存庫に入れて持ち帰れたらいつでも幸福のドーピングができるのになぁ。

 でも、おかげで動画作りでくさくさした気分も、何ならウルマスの件で凹んでいたのも一気に吹き飛んだし!


 そして何より、おいしいスイーツは楽しい女子会を更にウキウキさせてくれる。

 そうなると自然に始まるのが恋バナというのは異世界でも同じで、まずはオーグレーン荘2号室のターヴィに接近中のファンヌへ質問が集中した。



「それで、虎族の彼とはその後どうなってるの? あいかわらず彼の家でお茶してる感じ?」


「まあね。でも、今度串焼き屋へ連れて行ってもらう約束をしたわ。あなたがおいしかったって自慢するからターヴィに頼んだの」



 お? 前までは「ターヴィさん」とわたしと同じさん付けだったのに、いつの間にか呼び捨てになっている。ふむふむ、順調に進展してるようで何よりだ。

 串焼き屋の話はシェスティンと伝言している時に出たそうで、先日ミルドを含めたいつもの四人での食事会で行った時のことをシェスティンが話したらしい。

 シェスティンもエルサも炙り焼きは子供の頃に一、二度食べただけで、しかもその時はそれ程おいしいと思わなかったそうだから、当日はあまりのおいしさに仰天していた。

 まあ、同じくほとんど食べたことのないファンヌに自慢したくなる気持ちはよくわかる。わかるけども。



「えっ、マジで串焼き屋に行くの? 確かにおいしいしお勧めだけどさ、せっかく二人で出掛けるならもっと色気というか雰囲気のある店へ行った方が……」


「バカねぇスミレ。そんなとこ連れてったらターヴィに警戒されるじゃなーい。あの店なら女一人では行きづらいって言いやすいし、親父さんは彼と同族だからちょうどいいんじゃないの」


「そうそう。でも、さすがにそろそろファンヌの気持ちに気付きそうね。フフッ、自信の程はどう?」


「どうかしらね」


「ヤダー、もったいぶっちゃって~。自信あるくせにー!」



 くうっ。これよこれ、この空気感!

 女子会マジ楽しい。雑貨屋のお客は男性の冒険者が多いし、そもそも城下町自体が圧倒的に男性が多いから、こういう女同士の会話に飢えているんだよぉ~。

 グニラやドローテアとのおしゃべりも楽しいけれど、彼女たちは少しお年を召しているから、あんまりキャピキャピした感じにはならないしね。

 ハァ、女子会楽しい。しかもこの面子はクールビューティーファンヌに、美しいおネエさまシェスティン、そしてかわいいツインテール看板娘エルサと、ビジュアル面でも最強なのだ。眼福!

 おお、わたしの心のオアシス。ビバ女子会!



「わたしのことはもういいじゃない。それよりあなたたちはどうなのよ。恋愛お断りのスミレはともかく、シェスティンとエルサは気になる人できたの?」


「私は当分特定の相手を作るつもりないのよね~。エルサはどう? 今はあんこ菓子のレシピ開発で手一杯っていう感じ?」


「いやいや、エルサは一応彼氏いますから」


「それはスミレが勧めた偽装彼氏でしょう?」



 わたしたちがああだこうだと言っていると、黙って聞いていたエルサが急に真面目な顔をして口を開いた。



「――あのね。実はわたし、好きな人ができたみたい」


「えっ、マジで!? うひゃああぁぁ」



 ちょっと! エルサが頬染めてるよ、かわいいぃ!! 何その嬉しそうな、でもちょっと恥ずかしそうな表情、反則! 反則だよーッ!!

 ヤバイ。念のため、恋バナが始まった時点で音漏れ防止の結界を張っておいて良かった。陽の日だからか食堂は他の日より人が少ないものの、誰もいないというわけじゃない。

 危うくわたしの奇声を聞かれてしまうところだった。セーフ。



「もしかしてもう告ったとか?」


「ううん、まだよ」


「わたしたちの知ってる人なのかしら」


「知り合いなのはスミレだけね」


「あら? ということは、もしかして偽装彼氏の人だったりする?」


「フフッ、シェスティン当たり~っ!」


「ええええ!!? ヤノルスさん!? ヤノルスさんなのッ!?」



 何と。エルサが、あのヤノルスを好きになったと……。マジか。

 大量に作るあんこ菓子の処理に困っていたエルサに、あんこ菓子を気に入っているヤノルスを紹介したのが二人が知り合ったきっかけだ。

 手料理入りの保存庫のやり取りをしていても不自然にならないようにと、カップル偽装を提案したのもわたしだけれど、単に効率優先で気軽に口にしただけだったのに、まさかエルサがヤノルスに恋をするとは思ってもみなかったよ!



「で、でも、この前食堂で見掛けた時はそんな雰囲気なかったのに」


「まだ伝える気ないもん。……あんこ菓子のレシピ完成させてからって思ってる」


「エルサなりのけじめというわけね」


「うん」



 ファンヌの言葉に真面目な顔で頷くエルサの様子に、彼女の固い決心を感じる。

 そんなエルサをシェスティンが冷やかし気味に追及し始めた。



「でもスミレの言うように、前回の女子会でもそんな素振りなかったわよね。一体どんなきっかけがあったのかしら~?」


「んーとね、レシピの改善がちっとも進まなくて凹んでた時があったのよ。で、それをヤノルスに愚痴っちゃってさー。彼は食べるだけじゃなく役に立ちそうな情報や道具まで入手してくれてるっていうのにね」



 ヤノルスがあく取りの情報を集め、食材のエレメンタルと喧嘩しない材質の桶を入手してきたという話はエルサから聞いた。その桶で豆を水に浸けてみたところ確かに効果があって、あんこの雑味は少し減ったらしい。

 ただ、それでもまだエルサの納得いく味にはなっていないそうで、試行錯誤を続けているものの、そろそろ打つ手がなくなってきたエルサは、ついヤノルスに弱音を吐いてしまったのだとか。



「こんな調子じゃレシピの完成いつになるかわかんないってアタシが零したら、あの人ね、俺は200年くらいなら待てるって言ったの」


「んまあ! 200年はすごいわね」



 ファンヌが感嘆の声を上げ、シェスティンがヒューッと口笛を吹く。

 二人が言うには、魔族は長命だから長い期間を掛けて物事に取り組むことはよくあるが、他人のそれに付き合うことはあまりないそうだ。

 長命で時間がたっぷりあるから余裕で待てるので、その間自分は他のことをしているから気が済むまでじっくり取り組んでね、ということらしい。

 今回のようなケースだと、レシピ開発の応援自体はやめないにしても、一旦距離を置き、完成したら知らせてくれ、となるのが普通なのだとか。

 そういえば、恋愛に関してもアタックして断られた場合、あまり粘らず次へ行くことが多いと聞いた。これは子を授かりにくいという魔族の特性の影響もある。

 でも、待たないのが魔族の慣習なら、陽月星記にあった炎の精霊族種族長の任期終了まで200年待った赤竜の青年のような例は相当レアなんだろう。

 わたしがその話をしたら三人は興味深そうに聞いていた。



「へえ~、そんなことがあったんだ。そう考えると、やっぱり200年待てるっていうのはすごい情熱的な台詞よね」


「ヤノルスには恋愛感情ないと思うから当てはまらないわよ」


「そうかしら」


「でも、アタシの料理に対する情熱を認めてくれてて、アタシならきっとレシピを完成させられると信じてくれてるんだって、すごく嬉しかった。嬉しくて、なんかもう、好き!!って思っちゃったのよ。……好きになるのって一瞬よね。胸がキュンってなるのと同時だったなー」



 ひゃああぁっ! 両手で頬を押さえるエルサかわっ、ひょおおお!!

 もうもう、大声で叫びながらテーブルバンバン叩いて悶えたい! 人目があるから一応自重してるけど!

 かろうじて握りしめた拳を口に当ててプルプルするだけに留めているわたしは褒められてもいいと思うのだけれど、そんなわたしにエルサが釘を刺してきた。



「アンタ、ヤノルスに喋っちゃダメよ? あの人勘が鋭いんだから、挙動不審な態度でバレないように気を付けてよね?」


「うっ、うん。頑張る」


「あらあら、スミレのおかげで彼と知り合えたんだから、もうちょっと優しくしてやりなさいよ~」


「もちろん感謝してるわよ! 偽装彼氏にならなかったら多分ここまで親しくなってないし……。よく考えたらファンヌも同じよね。スミレがいなかったらターヴィと知り合ってないでしょ。スミレってば、縁結びの魔術でも使えるの?」



 縁結びの魔術……そうか、この世界には神という概念がないから、不思議なことは魔術由来と考えるのか。おもしろいなぁ。

 まあ確かに、ファンヌとエルサの件ではわたしは恋のキューピッド的な役割をしたと言えなくもない。

 ……そういえば、冒険者ギルド長のソルヴェイがレイグラーフに恋したのも雑貨屋の開店日に鉢合わせたのがきっかけだ。それに、ユーリーンに子作りを決意する程の彼女ができた件にも関わっている。


 あれ? わたし、本当に恋のキューピッドになってるかも!?


 ただ、ユーリーンの件はスティーグのお手柄でわたしはおまけに過ぎないし、ソルヴェイに関してはレイグラーフが女性が苦手なのと、竜人族のSランク冒険者メシュヴィツが彼女に恋しているのを知っているから、進んでレイグラーフとの仲を取り持つ気はないのだ。



「縁結びの魔術ねぇ……。今後どうなるかわかんないのに、そう言っていいものかどうか……」


「ちょっと! 不吉なこと言わないでよ!」


「そうよ。友人の恋をもっと応援してちょうだい」


「ちがっ、ふひゃりのことじゃなふて、ほかのことをはんがえてたらけで」



 両側に座るエルサとファンヌにそれぞれ頬をビヨーンと引っ張られ、わたしは慌てて言い訳する。

 誤解です誤解です。二人の恋はもちろん応援してますから! うひい!



 結局、友人たちに「縁結びの魔術師」という二つ名を付けられてしまった。

 わたし自身は恋愛お断りなのに、いいのかなぁ……?

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四章も楽しんでいただけたら嬉しいです。

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