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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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203話 屋台店員たちとのお茶会と調合の実績解除

 グニラを見送った後、もう一度ウルマスに謝罪のメッセージを送ろうかと思ったが結局やめにした。

 わたしと部族長が友人関係にあると知ってしまった以上、どれだけ不本意でも彼はわたしの謝罪を受け入れざるを得ないだろう。謝ったところで気が済むのはわたしだけだ。

 それならせめて本の売り上げに貢献を、とも考えたが、それもわたしの自己満足に過ぎないし、第一、読まずに売買だけして本の価格を上げようなんてウルマスに対して失礼だ。

 どれだけ考えても、結局今のわたしにできることはないという結論しか出なかった。不本意だが甘んじて現状を受け入れるしかない。

 いつかまた助力を求められることがあったら、その時は全力を尽くそう。




 久しぶりにかなり凹んだが、ありがたいことに翌日の月の日にはドローテアのお茶会が予定に入っていた。

 先日紹介した屋台の店員たちを招いてのお茶会で、プロの腕利きたちが相手なのでドローテアも気合いを入れている。



「ドローテアさ~ん、わたしちょっとそこまで行って彼らを案内してきますね~」


「あら、助かるわ~。よろしくお願いね~」



 4号室の窓の外から声を掛け、タタッと駆け出す。

 赤竜のヘッグルンドはオーグレーン屋敷をよく知っているだろうけれど、面識の浅い女性の御宅を訪問するのに男ばかりでは気兼ねするかもしれないし。

 屋敷沿いの道を少し進んだあたりで、向こうの道から折れ曲がってこちらへ歩いてくる彼らの姿が見えた。



「お~~~い!」



 大声を張り上げながら手を振ると、わたしに気付いた彼らも手を振って応えた。

 良かった、行き違いにならなかったみたいだ。挨拶を交わしオーグレーン荘へと案内する。

 ヘッグルンドが小さな花束を持っていたので少し驚いた。魔族が初回の訪問から手土産を持参するのは珍しい。

 わたしがジッと見ていたのが気に食わないのか、ヘッグルンドが眉間にしわを寄せた。



「何だよ。文句あるのか?」


「えっ。いえ、その」


「気にしなくていいよ、スミレちゃん。普通気になるよねぇ?」


「こいつってば、憧れの人んちに行くのに手ぶらはどうしても嫌だって言って聞かないんだ」


「うるせえ。彼女とのお茶会はこれが最初で最後かもしれないんだぞ。やれる時にやれることをやっとかないと。後悔なんて絶対したくねぇ……んだが、やっぱあんたも引かれると思うか?」



 そんな、突然捨てられた犬みたいな目でこちらを見られましても……。

 というか、ドローテアが絡んだ時のヘッグルンドの態度が普段と違いすぎて面食らう。推しを前にしたファンか。

 幸いなことに、手渡された花束をドローテアはとても喜んだ。さっそく小ぶりで広口のガラス器に生けてサイドテーブルに飾っていたので、本当に喜んでいたんだと思う。

 イレギュラーな事態が起こっても、こうやって人を逸らさずスマートに対応できるのってかっこいいなぁ……。昨日自分がしくじったばかりなので余計にドローテアの対人スキルの高さがうらやましく、素敵に映る。

 900歳だと知っているし、本人がおばあちゃんだと言うからわたしも一応そう捉えてはいる。だけど、ドローテアの髪が白いのは白竜だからだし、雰囲気が落ち着いているから年上感はかなりあるものの、老人ぽさはまったくない。

 ファンヌやシェスティンのような美人ではないけれど、穏やかで上品で、本当に素敵な女性だと思う。

 キャラ的に自分は絶対ああはなれないと思うだけに余計憧れるよ。



 そして、更にドローテアはすごいと思ったのは、お茶会が始まってすぐに普段のお茶会と何も違わないと気付いてからだ。

 いや、もちろんわたしが知らないだけで、何か特別な茶葉や添え物なのかも知れないけれど、少なくともパッと見には目新しいものはなかったと思う。

 お茶、コーヒー、スイーツのプロを招いてのお茶会なのにいつもと同じということは、普段から手を抜いてないということなんだろう。

 ファンヌのようなお茶好きならともかく、わたしのように何もわかってない者だけを招いた時でも腕利きの彼らと同じもてなしをしていたんだな……。

 ドローテアのもてなしへの真摯な姿勢に圧倒される。


 本式の紅茶を前に、屋台店員の彼らもしきりに感動を口にしていた。

 特にヘッグルンドは久々にドローテアのお茶を飲んで、感激のあまり何故かわたしへの謝罪まで口にし始めた。



「あの時は怒鳴って悪かったな。普段からこのレベルのお茶を当たり前に飲んでたんなら、外で飲むお茶はたいしたことないと思い込んでも仕方ない。あんたがコーヒーしか目に入らなかったのも無理ないな」


「いえ、あの時はわたしが本当に失礼をしてしまったので」


「スミレはね、お茶歴は短いけれど経験値は案外高いのよ。わたしが初めて招いた時も本式の紅茶は初めてではなかったし。スミレのお友達にお茶好きな子がいて、彼女もお茶を淹れるのが上手なの。スミレはここに引っ越してくるまで毎日彼女のお茶を飲んでいたというから、ヘッグルンドさんの言うとおりかもしれないわね」



 ファンヌの話題が出たが、お茶会の後半ではドローテアに頼まれてヘッグルンドが彼女の道具を借りてお茶を淹れたり、カフェ店員のネレムがコーヒーを淹れたりとなかなかゴージャスなことになったので、ファンヌに話したらきっとうらやましがるだろうな~と思った。

 ただ、お茶好き同士なら誰とでも仲良くなれるというわけでもないだろうから、ファンヌをヘッグルンドらに紹介するかどうかはドローテアにお任せしておこう。

 わたしのような門外漢は口を出さない方がいいよね。



 お茶会では彼らの専門であるコーヒーやお茶やお菓子の話、小広場の屋台群の話など、いろいろと聞かせてもらえてとても楽しく有意義な時間を過ごせた。

 特に、カフェ単体では採算が取れないので喫茶・スイーツの屋台と抱き合わせで経営されることになったとか、開店までの経緯に魔人族も関わったためスイーツの屋台の枠でこの鱗持ちの事業に加入しているとか、セディーンは作り手ではなく販売専門で店員たちのまとめ役だとか、店先での付き合いではなかなか聞けそうになかった話も聞けたしね。


 お茶会が終わりドローテアの家を出たところで、ヘッグルンドにガシッと握手された上で御礼を言われた。ドローテアが「またいらしてね」と満面の笑みで送り出してくれたからだろう。



「本当にありがとう。この恩は一生忘れない」


「じゃあ、スミレちゃんまたね」


「また星の日に~」



 他の二人も軽く手を振りながら帰っていった。

 何だか凹んでいた気分が薄れて元気が湧いてきたよ。我ながら単純だな。

 うまく行かないこともあるけれど、わたしの魔族生活は概ね順調なんだ。これからも頑張ろっと!




 翌日から、店番をしながら演説用の参考図書を読む。

 と言っても、ありがたいことに客が増えたので営業中は以前ほど読書時間が取れなくなっている。

 演説時に兵士に見せるための動画は星の日の定休日に作るつもりだ。イスフェルトにいた頃の動画を寝る前に見るのはメンタル的によろしくない。


 参考図書のおかげで高圧的な女性の話し言葉をだいぶ補充できたと思う。ただ、わたしがイメージしていたのは以前テーブルトークでRPした高慢な公爵夫人だったが、補充した語彙のイメージはどちらかというと悪役令嬢という感じだ。

 公爵夫人よりは悪役令嬢の方がイメージしやすいし、この路線でいいかも。

 わたしは高慢な悪役令嬢。もちろん、ホ~ッホッホと高笑いする。髪は金髪の縦ロール。よし、これでイメトレもばっちりだ。

 後は語彙を増やすだけ。地道に頑張ろう。



 夜は調合に励む。ナータンの件でしばらく調合修業がストップしていたが、再開してすぐ調合4にレベルアップしている。

 レイグラーフに連絡したらいつもどおりクランツが回復薬の回収に来て、後でレイグラーフから調査結果を教えてもらったが、やはり調合レベル4の回復薬も薬効が2割高かったらしい。



《ここまでレベルが2つ上がるごとに薬効が1割ずつ増していますから、調合レベル5になった時に薬効が3割になるかどうか、非常に楽しみですね! スミレ、レベルアップしたらどんなに夜遅くても絶対に伝言を送ってくださいよ!?》



 前もってそう言われていたので、レベルアップしたらすぐにレイグラーフへ知らせるつもりだったのだけれども。


 調合中、いつものようにピロポロパ~ンという何とも言えないSEがレベルアップを知らせる。

 同時に調合のレベルアップを知らせるメッセージがわたしの視界に現れたが、いつもと違いその後に続いて意外な一文が目に飛び込んできた。



《調合スキルがレベル5になりました!》

《実績解除! 新たなレシピ(調合)が追加されました。》



 キタ――――――――ッ!!!



 調合レシピの実績解除来た!! 思ったより早い。まさかレベル5で解除されるとは思わなかったよ!

 さっそくバーチャルなウィンドウを開いて調合の欄を見てみると、それまで『実績未解除』と表示されていた位置に金色のメダルのマークがついたレシピがある。

 それが何と、『魔物避け香』の調合レシピだった。魔族国にはないからてっきりネトゲ独自のアイテムかと思っていたけど、あれって調合できるんだ……。

 ということは、もしかしてわたしが調合したら薬効の高いのが作れたりするんだろうか。うわ、すごい!

 しかも素材が『ヨモギ』って。あの、草餅とかに入ってるヨモギ? マジで?


 そんな素材あったっけ?と仮想空間のアイテム購入機能で「薬品・素材」の欄を見てみたら、確かにあった。素材は90種類もあるから流し見しかしておらず、どうやら見落としていたらしい。

 どこでもストレージから『薬草大全』を取り出してヨモギの項を見てみる。薬効は整腸、下痢、貧血、解熱、喉や肩・腰の痛みを和らげるなど、漢方薬にありそうな感じだ。

 そして驚いたことに、魔素のない土地に生えるという特徴が記されていた。分布が霧の森の外側の人族エリアになっているのはそういう訳か。

 となると、自分では採集できなそうだなぁ……。

 せっかく実績解除でゲットしたレシピだから素材採集から自分でやってみたかったけれど、人族エリアでは許可をもらうのは難しいだろう。残念だ。



 とりあえず追加されたレシピについてざっと調べたところで、急いでレイグラーフに調合レベル5になったことと、併せて魔物避け香のレシピが実績解除になったことを報告した。

 もちろんレイグラーフは大興奮だ。



《スミレ! 許可しますから今すぐヨモギを買って魔物避け香を作ってみてください! クランツに回収に行ってもらいますから、お願いしますね!》



 慌てて魔物避け香を作る。出来上がったのはネトゲアイテムとまったく同じグラフィックだった。薬効はどうだろう。調査結果が楽しみだ。


 結構遅い時間だったが、クランツはすぐに回収に来てくれた。

 毎回、魔王直属の近衛兵をパシリに使うのはいかがなものかと思うのだけれど、『聖女の回復薬』は重要機密だから仕方がない。

 でも、いつも悪いなと思ったので、回収を終えて帰るクランツに日本食アイテムの『カレー』とネトゲの食料品アイテムの『ブランデー』を渡したらものすごく喜ばれた。

 クランツがこんなに素直に喜んで見せるの、珍しいなぁ。


 バニラアイスにウイスキーかけるとおいしいらしいから、次回は『アイスクリーム』と『ウイスキー』を渡そうかな。

 いつもありがとうね、クランツ。

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