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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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196話 空の魔石の調査報告

昨日も投稿しています。未読の方は良ければ1話戻ってご覧ください。

 ピザ専門店から帰り『(から)の魔石(特大)』を満タンにして、クランツに回収してもらった後しばらくは何事もなく日々が過ぎた。


 雑貨屋の商いはというと、高額商品の売れ行きはすっかりなりを潜め、消耗品の販売がメインで時々中堅冒険者がレンタルサービスを利用するという地味な感じに落ち着いている。

 痛み止めの素材を扱うようになって近所の人たちの来店が少し増えたものの、客はやはり冒険者が多い。

 売れ筋は『魔物避け香』と『脱出鏡』で、最近は犬族の中位ランクを中心に革製の装備品が売れつつある。一般的な品より3割増しで丈夫だというのが徐々に浸透してきたらしく、高級な防具には手が届かないが少しでも装備品の耐久値を底上げしたいという層が買い求めているようだ。

 とは言ってもやはり主な客層は上位ランクで、決済用の魔術具のデータを見るに上位ランクの7割が一度は来店したっぽい。

 常連客もだいぶ増えたし、おかげで冒険者界隈や二番街の情報を以前より耳にするようになった――のはいいのだけれども。



「店長が注文したっていうピザ食ったぜ。すげえうまかった」


「オレも~。でも、連れの精霊族はイマイチって言ってたんだよなあ」


「あー、わかる。なあ店長、精霊族向けに野菜か果物だけの組み合わせで何かいいのない?」



 ……何故かピザの具の相談を持ち込まれることが増えました。

 どうもピザ専門店の女将さんが積極的に客に複数の具を勧めるようになったようで、そのお勧めにわたしが注文したものが盛り込まれているらしい。

 「シネーラ姿の若い女=雑貨屋の店主」とすぐ特定されたこともあり、おかげで冒険者界隈におけるわたしの人物像は「元人族の雑貨屋の店主」→「シネーラ着た若い女」→「お誘い不要・恋愛お断り」→「おいしいピザの組み合わせを知っている」(NEW!)という感じに推移していると、ロヴネルのスープ屋で朝食を食べていた時にミルドから聞いた。何だそれ。合ってるけど!

 ミルドはヤノルスから勧められて既にわたしと同じ組み合わせのピザ2種を食べていて、コンビーフとジャガイモのピザが気に入ったらしい。



「お前、ホント飯のことだけは外さねーよな」



 皆がおいしいものに目覚めるのは良いことだと思うので別にいいんだけど、何か腑に落ちない。


 ピザ以外だと『グローダの討伐』関連の話題も多い。

 犬族がいろいろと情報を教えてくれる一方で、イベントのことでイーサクに少々ぼやかれた。ユーリーンの件のお返しに自分が助力したかったらしい。

 気持ちはとてもありがたいのだが、スーパーモテ男の彼に個人的な頼み事ができる間柄だと周囲に認識されそうで恐ろしくて無理でした、ゴメンナサイ。



「恩を返すいい機会だったのに残念だ」


「いえもうお気持ちだけで十分なので……それよりイーサクさんはランキングに参加しないんですか?」


「あはは、控えめなのかと思ったら君は予想外なところで大胆なんだな。他の冒険者たちは気になってても聞けないでいるのに」


「し、失礼しました! すみません!」



 ぎゃっ! 話題を変えようとして失敗した? 気安くしてもらってるからって、Sランク相手に不躾に踏み込みすぎたかも!?

 一瞬焦ったが、イーサクは面白がってからかっただけのようで、ひっそり交わされたというSランク間の申し合わせについて教えてくれた。

 メシュヴィツ以外の4人のSランクはランキングに挑戦しないらしい。普通にやればSランクは全員ランクインしてしまう。10人分しかないランキングの5枠をSランクが占領しては冒険者たちのモチベーションが下がるだろう。商業ギルドの意図を邪魔することになるので遠慮しようということになったそうだ。

 さすがSランク。単に腕がいいだけでなく、冒険者全体や周囲の利益への配慮を欠かさないんだね。かっこいいな。


 ちなみに、こういうSランク同士の交流はギルド長に連れていってもらった例のSランク御用達の店でひっそり行われるらしい。

 影響力の大きい彼らが集まると目立ちすぎるし、支持者(ファン)同士が張り合ったりと血の気の多い冒険者を刺激しがちなので、なるべく人目を避けるのだとか。

 いろんな方面に気を遣わなきゃいけないからSランクは大変だなぁ。

 そう思っていたのだが、飲み会以降来店時に茶飲み話をしていくようになったメシュヴィツは例のイベント以降はそうでもなくなったと言った。

 何でも、以前は彼を遠巻きに見ているだけで交流のなかった下位ランクたちにやたらと懐かれているそうだ。



「下位ランクの若い連中と一緒に討伐に行ったりするようになって、ソルヴェイとつるんで高レベルの冒険をしていた頃とは違う楽しさを感じているんだ。長いこと屈託を抱えていたが、新しい楽しさに出会えたのは現役の冒険者で居続けたからだろう? そう思ったら現状も悪くないというか、少なくとも俺を長老と呼んで慕ってくれる連中と冒険を楽しめるのはありがたいことだと思うようになった」



 そう言ったメシュヴィツはどこか吹っ切れたようなさっぱりした顔をしていた。

 しかも、わたしが諦めずに頑張ったらいいのにと言ったからか、飲み会で紹介したお惣菜タルトをソルヴェイに振る舞い、気に入ったなら一緒に食べに行こうと約束まで取り付けたらしい。

 穏やかな人なのに抜け目ないよなぁ。さすがSランク。

 先のことはわからないけれど、失恋するにしても彼自身がわだかまりを消化した上で想いを整理できたらいいなと思う。





 昼間はまったり店番、夜はのんびり調合して過ごすうちに、空の魔石の件で招集がかかった。調査結果が出たようで、詳細を聞きに城へと向かう。

 今のところ、わたしがネトゲの空の魔石に魔力を注ぐと究極の魔石に変化するという事象しかわたしも知らない。

 追加の実験としてレイグラーフから送られてきた普通の空の魔石にも魔力を注いだが、究極の魔石にはならなかった。

 精霊たちにあげたいから、妙な効果などがなければいいのだけれど。


 久しぶりに魔王の執務室で夕食を食べながらの会合だ。新年まであとひと月半だし、魔族国の中枢にいるヴィオラ会議の面々は何かと忙しいんだろう。でも今日は6人全員揃っている。

 レイグラーフが空の魔石について概略を説明し、調査結果について語った。

 結局、究極の魔石に変化するのは「わたし」が「ネトゲの空の魔石」に魔力を注いだ場合のみらしい。

 他の人がネトゲの魔石に魔力を注いでも変化はなかったのか。



「また、究極の魔石にはもう一つ特殊な効果があることがわかりました。緩やかにではありますが、消費した魔力を自動で回復するのです」


「ほう。魔術具や魔術陣に組み込めば永久機関が可能になるな。回復速度が遅かろうと、それに合わせて消費魔力量を調整すればいいだけだ。ふむ、面白い」



 自動回復機能付きか、そりゃアイテムの値段が一気に上がるわけだ。特大なんて空の時は700Dだったのに、究極になったら3千Dに跳ね上がってマジでビビったし。

 効果の価値が高すぎるけど、精霊に持たせる許可をもらえるかなぁ。



「あの、ルード様。わたし、自分の魔力を込めた魔石を精霊たちにあげたいんですが、不味いでしょうか。非常時の魔力供給用なので、究極の魔石に自動回復効果があるなら小で十分かと思うんですけど」


「小なら問題なかろう。常用せぬよう、きちんと言い聞かせるように」


「はい! ありがとうございます!」



 やった、許可をもらえたぞ! 皆喜ぶだろうな。

 ただ、契約した精霊については情報が少なく、魔石をあげても何も起こらないという保証がないため、念のため魔王の立会いのもとで行うことになった。

 会合の後で時間を取ってくれるそうなので、さっそく空の魔石(小)を4つ購入して手に握り込む。小4つくらいなら会合の間に満タンにできるだろう。



「ところで、この究極の魔石ってかなり便利なアイテムだと思うんですが、量産する予定とか何かに使う構想のようなものはあるんでしょうか」


「量産など考えておらぬ。我々はイスフェルトのようにお前の魔力を手前勝手に使うつもりはない」



 魔王が不快そうに眉を顰めた。うああ、ごめんなさい! そういうつもりで言ったわけじゃないんですぅ!!



「いえその、わたしとしては魔族国に貢献できるアイテムだと考えていたので、有効活用してもらえたらいいなと思ってるんです。表には出せないアイテムでしょうから、使える場所は限られるかもしれませんけど……」


「そういう意味なら1つもらえると助かるかも。納品の時に使ってる空間を歪める魔術具のトランク、あれかなり魔力消費激しいんだよね」


「ああ、確かに。それに、機密書類や古文書を保管する書庫などの重要な設備に魔力が恒久的に補充されるようになれば、かなり安心ですねぇ」



 側近二人が乗り気になったのを見て魔王は更に眉間のしわを深めたが、わたしを便利に使うまいとする魔王の気持ちが嬉しいから、それだけでもう十分だ。

 以前グニラを治療した時にも感じたように、わたしは自分の大切な人たちのために聖女の力を使うことにわだかまりはない。

 むしろ、聖女の力を都合良く利用することで折り合いをつけて行こうとしてるくらいなんだから。もっともっと、魔王たちの役に立ちたい。


 そう伝えたら、魔王の眉間のしわがようやく消えた。

 側近二人の要望は魔術具の権威である魔王が対処するそうで、空の魔石のサイズと個数が決まったら連絡をくれるらしい。

 レイグラーフがうらやましそうな顔をしていたので、師にも提案しておこう。



「レイ先生、これを録画と映写の魔術具に組み込んでみませんか? 元の世界でもあの道具は結構パワーを消費していたので、たぶん魔力消費高いと思うんです」


「そうですね、確かにその可能性は高いでしょう。形になるにはまだまだ遠い段階ですが、実用性を考えると確かに魔力の補充をどうするかは重要です。設計の構想に初めから入れたいと思うので、空の魔石に魔力を込めてもらえますか?」


「はい、任せてください! 回復薬の回収の時に渡せるように準備しておきます」


「ああ、スミレ、実はその回復薬のことなのですが――」



 希望どおり精霊たちに魔石をあげる許可をもらえたし、この魔石を有効活用してもらえることになってホクホクしていたわたしは、レイグラーフから思わぬ話を聞かされた。

 回収済みの回復薬にちょっとしたハプニングが起きていたらしい。



「スミレが作った回復薬は薬効が標準的なものより1割ほど高かったでしょう? それが、調合レベル3になってからの回復薬は薬効が2割高くなっていたのです」


「ええっ!?」


「調合レベルが1と2の時は1割で、3になったら2割にアップか~。この調子だとレベル4も2割で、レベル5と6が3割、レベル7と8が4割……あははっ、レベル9になったら5割増しになりそうだね!」


「すごいですねぇ~」



 5割増し!? ひええ……。

 聖女の回復薬、完全にチートだわ……今更だけど……。



「お前が魔力を注ぐと何かしら通常とは異なる変化が起きるってことだな」



 わたしが起こす変事にすっかり慣れたと言うブルーノが雑にまとめる。


 回復薬に、究極の魔石。

 チートなのは聖女の魔力か。



 うちの精霊たち、毎日魔力クリーム食べてるけど……大丈夫だよね??

明日も投稿する予定です。GWはそこまで頑張る!

応援よろしくお願いします。

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