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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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193話 恋愛談義と例のアイテムのこと

 Aランクになる前から共に冒険することがあったソルヴェイに、メシュヴィツはいつからか恋をしていたそうだ。

 恋心を自覚してはいたものの、探索の腕前が高く気風もいいソルヴェイはモテモテで、でも束縛を嫌い特定の相手と長く付き合うことはなく、常に恋より冒険が最優先。

 告白するタイミングを掴めないまま時が過ぎ、ようやく決心を固めた時に次期ギルド長選出の一件が起こった。

 部族の意向で自分の進退が左右されるのはある程度仕方がないと呑み込める。だが、まさかそれが好きな女の人生に影響してしまうとは……。



「まあ、全部ぐずぐずしてた俺が悪いんだがな。あいつは空中庭園に夢中だったから、今恋仲になったところで一過性の関係で終わる、それは嫌だとか何とか自分に言い訳してただけだ。俺のせいであれほど好きな冒険の第一線から退かざるを得なくなった彼女に、今更告白などできるわけもない。不甲斐ない自分にほとほと嫌気がさすよ」


「ギルド長のことはタイミングが悪かっただけですって……。メシュヴィツさんは何にも悪くないのに……俺のせいなんて、そんな風に言っちゃダメですよぉ……ううう」



 メシュヴィツから当時の詳しい話を聞いて、わたしは我慢できずに泣いてしまった。ビールの後ワインに切り替えてそこそこ酔いも回っていたし、わたしは悲恋話に弱いんだよ。こんな話を聞いて泣かずにいるなんて無理無理。

 鼻をズビズビ鳴らしながら、シードルをグラスに注いでひと口飲む。ワインはやめだ、悲しい気分の時は甘口のお酒に限るよ。その点、シードルは爽やかなリンゴの香りとシュワシュワの泡が沈んだ気分を引き上げてくれるから最適だ。



「泣かすつもりはなかったんだが……店長は優しいな」


「すみません、辛いのはメシュヴィツさんなのに」


「いや、こうして吐き出せたおかげで随分スッキリしたよ」



 ギルド長選出時のゴタゴタは竜人族にとって外聞のいい話じゃないからと内密にされ、メシュヴィツは愚痴をこぼしたくても話せる相手がいなかったらしい。

 唯一話せるのはもう一人の当事者であるソルヴェイだが、自分のせいで引退させてしまったと思っているメシュヴィツが彼女に愚痴をこぼせるはずもない。



「ソルヴェイから店長が俺の事情を知っていると聞いて、君に話を聞いてもらいたくなった。俺のことを知っていて、ソルヴェイとも親しい。それに、元人族の君は部族の枠組みの外にいる。柵のない君になら言える、そう思った」



 前にカシュパルも同じようなことを言っていたなぁ……。

 魔族は一生を里に守られていて、部族や種族をとても大切に思っている。それでも時々息苦しくなる時があるんだろう。魔族には言えないけれど、わたしのような外部の存在にこぼすことで気が楽になるみたいだ。

 何にせよ、わたしになら言えると思ってもらえるのは嬉しい。メシュヴィツの役に立てて良かったよ。


 話を聞いてもらいたいが、お誘い不要のわたしをどう誘ったらいいかと迷っていたメシュヴィツにとって、今回のイベントの件は渡りに船だったらしい。「おかげで報酬代わりに飲み会に付き合ってくれと頼めた」と言って笑っている。

 それで即座に引き受けてくれたのか。無理なお願いをしてしまったと思っていたから、メシュヴィツにもメリットがあったとわかってホッとした。

 自分のグラスにウイスキーを注ぐメシュヴィツを眺める。

 抱えていた屈託をわたしに話して気分が軽くなったのか、メシュヴィツはさっきよりおいしそうに飲んでいるように見えた。ブランデーはもう空になったらしく、次の瓶に進むみたいだ。強いなぁ。

 わたしもシードルを注ぎ、チーズを盛った皿に手を伸ばす。このカマンベールっぽい白いチーズ、トロッとしてコクがあってシードルによく合うんだよね~。

 「店長は本当にうまそうに食うなぁ」と言いながらメシュヴィツもチーズに手を伸ばした。カマンベールもいいけど、こっちのブルーチーズっぽいのもウイスキーに合うと思いますよ。どうぞどうぞ。



「そんなわけで、どうやら俺は失恋確定のようなんだが、それにしても研究院長とはね……。まさかソルヴェイが学者タイプに惚れるとは思わなかった」


「あ~、わたしも意外だと思いました。何となくですけど、ギルド長は強い男性が好きそうなイメージがありましたから」


「研究院長になるくらいなんだから間違いなく高位の魔術師だ。強くないはずがないが、君の先生はソルヴェイを守れる男かい? そこだけが少し気がかりなんだ」


「……ギルド長は大人しく守られるようなタイプじゃないと思いますけど」


「違いない」



 ピタリと意見が合って、思わず二人して大笑いしてしまった。

 ギルド長、酒の肴にしてごめんなさい。だけど、ははは、何だか楽しくなってきたぞー。



「でも、レイ先生は奥手だし、女性がすごく苦手だし、研究に夢中で今のところ恋愛する気なさそうなんですよね……。ギルド長は素敵な人ですけど、さすがに厳しいんじゃないのかなぁ。メシュヴィツさんも失恋確定なんて言わないで頑張ってみたらいいのに」


「甘いぜ店長。一度狙いを定めたものをソルヴェイが諦めると思うか? あいつは世界中の空を探し回っても見つからない空中庭園を未だに諦めずにいる女だぞ」


「うわあ……。手を伸ばせば届く距離にいる男を諦めるわけがないか……」


「ああ。こうなった以上、君の先生も空中庭園と一緒さ。手に入れるまでソルヴェイは追い求め、想い続ける。俺の出番なんて永遠に来ない」


「でもメシュヴィツさん、ギルド長のそういうところも好きっぽいですねー」


「……やれやれ。それだけ恋愛の機微がわかるのに、どうして店長は恋愛お断りなんだ? 人族は寿命が短いんだろ? 魔族との子作りは難しいだろうが、恋愛するだけなら問題ないだろうに」



 そうだなぁ。

 相手を残して先に死ぬのは悲しませるから嫌だし、長く生きる魔族にとって死別はよくあることで、慣れてるから平気と言われるとそれはそれでモヤる。いずれまた他の誰かと恋愛するというのも何か嫌だ。

 わたしはどんどん年老いて醜くなっていくのに、相手は若いままっていうのも辛い。間近で顔見られたくないし、もし相手が嗅覚の鋭い獣人族や竜人族だったらどうしよう。加齢臭嗅がれたら死ねる。

 口に出しては言えないけど、魔族は最期を里で過ごすから看取れないのも嫌。というか、自分より部族を優先されるかと思うと正直悲しい。言えないけど。こればかりはここが魔族社会である以上はどうにもならないし。

 ハァ~、わたしって発想が暗いなぁ……。でもやっぱ、好きな人ができたら辛くなるとしか思えないよ。友達ならいいけど、恋愛するのは難しそう……。

 わたしの周りにいる魔族男性は皆いい人ばかりだ。親切で優しくて、面倒見が良くて働き者で、素敵な人がたくさんいる。

 だから、いつか誰かを好きになってしまうかもしれないけれど、それでも片思いのままで終わりそうな気がするなぁ……。

 あ~あ。自分は恋愛する勇気ないくせに、メシュヴィツに頑張れとか言っちゃダメだな……反省。



 酔いが回っていることもあり、しばらく無言のままぼんやりと脳内独り言タイムを過ごしてしまった。メシュヴィツも黙々と飲んでいる。

 疑問を投げ掛けておきながら返答を求めていなかったのか、それともスルーしてくれたのか、やがて他の話題へと移っていく。

 ソルヴェイとの思い出話や冒険の話を聞いたり、わたしも城下町巡りをした時の話などをして、予想以上に楽しい時間を過ごしたあと飲み会はお開きとなった。

 残った料理はパイとタルトとチーズだけだったので全部保存庫に詰め、残ったお酒全部と共に店の商品の『バックパック』に入れてメシュヴィツに手渡す。



「あ、そうだ。ついでに『特殊回復薬(中)』も入れておきますから、二日酔いになったら飲んでくださいね~」


「おいおい、いくら何でももらいすぎだ。イベントの実演の報酬は店長との飲み会だけで十分なんだぞ。酒も高いヤツばっかりだし、これじゃ報酬が多すぎる」


「え~? でもこれは御礼の気持ちだから受け取って欲しいなぁ……。あっ、そうだ! それじゃ、魔物を誘き寄せるアイテムのヒントと交換でどうですかー?」



 軽い冗談のつもりで言ったところ、返ってきた答えにビックリして一気に酔いが醒めたかと思ったよ……。

 まあ、それは気のせいで全然酔いは醒めてなくて。

 飲み会終わりましたとブルーノに伝言を送った時にアイテムのことも一緒に報告しようかと思ったけれど、もう眠いし明日ゆっくり考えてからにすることにした。





 そして翌日の朝。ステータス画面にはバッチリ『二日酔い』の文字。でも、回復魔法で即スッキリ!

 おはよう精霊たち。今朝もいい天気だね!

 でも、一階に下りたら飲み会をした店舗部分がすごく酒臭かった……。爽やかな朝が台無しだよ……。こちらも即行で家中の一斉クリーンを施す。

 二日酔いの症状はすぐに消えても不快だったという気分は残っているので、朝食は大人しく小さいパンとトマトのスープ。昼食用に同じものをテイクアウト。

 ふう、ちょっと飲み過ぎたなぁ……。でも楽しかったし、メシュヴィツの心を軽くする手伝いができたのだから悔いはない。


 ナータンの件が勃発してから慌ただしい日が続いていたが、久しぶりに心穏やかな営業日が戻って来た。

 カウンターで薬学の本を読みながら店番する。実に平和だ。ありがたい。

 しばらく調合できなかったし、今夜あたり調合修業を再開しようか。素材は足りているかな。

 そんなことを考えつつ昼食を取っていたら、ブルーノから伝言が届いた。



《メシュヴィツがお前の店で買った商品の中に『(から)の魔石』はあるか?》


「ブルーノさん鋭い……。何で魔物を誘き寄せるアイテムが空の魔石ってわかったんですか?」


《半分は勘だったが。何だ、当たりか》


「昨日の飲み会で本人から教えてもらったんです。まさか自分の店の商品だなんて思ってもみなかったからビックリしましたよ」



 そう。昨夜メシュヴィツが帰り際に教えてくれたのは、ヒントと交換どころか答えそのもので、例の魔物を誘き寄せるアイテムはうちで買った空の魔石だと言うのだから驚いた。

 そういえば、以前イーサクが来店した時にヨエルやヤノルスとアイテム談議をしていて、長老が空の魔石が使えると言ってたがどう使うんだろうとか何とか言っていた気がする。

 アレがそうだったのか……。



《空の魔石ってのはたいていの場合魔術具に使われるもんだ。お前の店で扱ってるのは小と中でたいした代物じゃないが、一応ルードヴィグとレイグラーフに見せて確認を取りたい。次の帰省の時に持ってきてくれるか》


「了解です。あの、今までメシュヴィツさん以外に空の魔石を買った人はいないんですけど、ルード様たちに確認してもらうまでは売らない方がいいですか?」


《いや、そこらの魔術具店や道具屋でも売ってるからそこまでは必要ない。ただ、お前の店のはネトゲの品だから特殊かもしれん。念のためお前が信頼を置いている冒険者だけにしとけ》


「わかりました」



 メシュヴィツの説明によると空の魔石は自分の魔力を込めて使うもので、先日の討伐のように魔物を誘き寄せることもあれば、ダンジョンなどで魔物を回避したり今いる場所からどかせたい時などにも重宝するという。

 何でも、随分昔に廃れてしまった冒険者特有の小技らしく、古い文献の記述から見付けたそうだ。文献を探せば他の冒険者たちも自力で辿り着けるので、安易に正解を教えることはしなかったのだとか。さすが長老。


 空の魔石か~。

 後でわたしも自分の魔力を込めてみようかな。

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