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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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190話 金策プランとイベントの開催

 詳細が決まったら知らせろと言ってブルーノは帰って行った。

 ナータンの金策案を任せてもらったわたしはさっそく情報収集を開始する。集めた情報を基に一晩熟考した結果、実現可能と思えるプランができた。

 翌日の定休日はあちこち出歩いて関係各所へ働きかけ、根回しなどを行い、必要な相手に手助けを求めたりして過ごす。


 冒険者ギルドでも高級ピックの納品がてら根回ししたあと、押収品を返却してもらうために分屯地を訪れた。返ってきたのは『寝袋』と『野外生活用具一式』の2点。『テント』は全損となったのでそのままナータンの所有物となる。

 よし。今回のトラブルも何とか無事に解決しそうだし、新品のテントを追加してレンタルサービスを再開しよう。犬族冒険者集団に迷惑を掛けたままサービス終了するのは嫌だもんね。

 レンタルサービス再開の連絡をサロモに入れたら、即座に犬族Bチーム3班の予約が入った。再開を喜んでもらえて良かったよ。



 根回しが済み、おおまかな金策プランが固まったところで、ギルド長とブルーノに最終的なチェックをしてもらうことになった。

 雑貨屋閉店後に商業ギルドを訪れ、通されたギルド長室で準備した金策プランについて二人に説明する。



「ナータンさんは基本的に討伐依頼しか請けない、しかもソロではBランクの討伐はちょっと苦しいということなので、依頼のランクを落として回転率を上げることで稼ぎの向上を目指してもらおうと考えました。具体的にはCランクの『グローダの討伐』を想定しています」



 グローダというのはカエルに似た小型の魔物で、弱いので下位ランクでも狩れるそうだ。ソロのナータンも問題なく討伐できる。

 そのグローダが王都周辺で時々大量発生するらしい。商業関係で支障が出るため商業ギルドが冒険者ギルドに討伐依頼を出すのだが、王都にいるのは多くがBランク以上だから経験値のうまみがなく依頼を請ける者がいない。

 かと言って放置もできないため、結局商業ギルドから犬族冒険者集団に直接依頼が行っているのが現状だ。

 以前、サロモが依頼回数が多くて大変だとぼやいていたのがこの討伐依頼で、わたしは今回それを金策の柱に選んだ。

 サロモは出来ればもう少し依頼回数を減らして欲しいと言っていたが、依頼の減少は稼ぎに直結する。念のため、ナータンがこの依頼を大量に請けても犬族冒険者集団は問題ないかとサロモに訊ねたところ、むしろ大歓迎だと大喜びされた。

 この討伐依頼、わたしが思う以上に犬族の負担になっていたんだなぁ……。

 ナータンの参入が犬族にライバル視されるどころか喜んでもらえるとわかったおかげで、安心してこの金策プランを勧められる。



「ほう。不人気で引き受け手がなくて毎回困っている討伐依頼ですな。これをこなしてくれるなら商業ギルドはかなり助かりますよ」


「はい、それも狙いの一つです。不人気な依頼を積極的に引き受ければ商業ギルドへの貢献となるでしょう? ナータンさんは商業ギルドや店や工房などに迷惑を掛けてますから、そういう活動を地道に続けて商業関係者の心証回復に努めた方がいいかと思うんです」


「それはいいな。単に稼ぐだけじゃなく社会に貢献させられるんなら更生に繋がるだろう」



 ギルド長とブルーノの感触も上々だ。

 わたしは金策のアシストはしてもナータンの借金返済や更生などに関わる気はないが、それらを担当するギルド長とブルーノが喜んでくれるなら嬉しい。

 でも問題は、当事者であるナータンが主体的に取り組む気になるかどうかだ。

 グローダは弱いが数が多くて討伐に手間が掛かる。その割りにカエルに似た見た目やサイズのせいか討伐の達成感が少なく、CランクやDランクでも慣れてくると作業的になるからモチベーションの維持が難しいとサロモは言っていた。

 これまで集めた情報や接した時の感じからすると、ナータンは戦闘偏重タイプというか、ゲームでいうとハック&スラッシュ系の大量の敵をなぎ倒す爽快感を求めるタイプに見える。



「数は多くても手応えの少ないグローダの討伐ではナータンさんは早々に飽きてしまうんじゃないか。だったら、何かモチベーションを維持できる要素を組み込んだ方がいいと考えました。そこで、ギルド長に提案なんですけど――」



 わたしはモチベーション維持のための仕掛けと、その仕掛け関連でちょっとしたイベントを提案する。ギルド長は面白がって了承してくれた。

 ブルーノも気に入ったらしく、二人ともイベントを見に来るという。



 金策プランと共にモチベーション維持の仕掛けとイベントの提案も無事に了承を得られた。ナータンには二人から説明するそうだ。

 翌日、正式にナータンの保証人となったブルーノに連れられてナータンが謝罪のために来店した。

 わたしが提案したCランクの討伐依頼での金策はあまり気乗りしなさそうだったけれど、イベントを見たらやる気出ると思うので楽しみにしてくださいと伝える。

 まあ、気乗りしようがしまいが迷惑を掛けたわたしの提案は断れないだろうし、騙されたと思ってもいいからとりあえずイベントだけは見て欲しいな。


 店番の合間や閉店後など、空き時間を見ては再び根回しや連絡などを精力的にこなしていく。そんな中、ミルドが冒険から帰ってきた。

 前日に連絡が入った際に大まかなことを伝えてあったせいか、城下町へ戻ってすぐにこちらへ来てくれたらしい。ミルドの顔を見たら何だかホッとした。



「相談役なのに、肝心な時にいなくてわりーな」


「そういう時もあるよ。わかってて依頼したんだし、気にしなくていいって」



 わたしがそう言っても納得できないのか、ミルドは不満そうな顔でお茶をぐびっと飲んだ。

 今日はミルドと二人だけなので、ファンヌに教えてもらった温めに淹れてもおいしく飲める茶葉を使っている。

 わたしは熱い方が好きだから若干物足りないけれど、舌先にとろりとした甘さを感じる温めのお茶もたまにはいい。



「こーゆーの、相談役のオレが舐められてるってことでもあるんだよなー。チッ、ムカつくぜ」


「何言ってるの。あのナータンって人はそこまで考えてなさそうだったよ」


「……今年中にAランクに昇格してみせる。待ってろ」



 ミルドはそっぽを向いてそう言った。

 相談役の格を上げて、少しでも牽制になるようにと考えてくれているのか。冒険を再開してからやけにガツガツ依頼をこなしているなと思っていたけれど、昇格を急いでいたからなんだね。

 ありがとうと言ったら、黙ってティーカップを突き出してお茶のお代わりを要求してきた。へへへ、この照れ屋さんめ。





 モチベーション維持のための仕掛け関連でわたしが企画したイベントは、陽の日に城下町郊外で開催された。

 小高い丘の上からの眺めは見渡す限り一面の原っぱで、その向こう側に小川が流れているのが見える。

 わたしはブルーノと商業ギルド長と共に街道の途中までは馬車で来て、途中で降りてここまで歩いてきた。

 丘の上には招待したイベントの観客たちも集まっている。

 観客の一人はもちろんナータン。そして犬族冒険者集団に相談役のミルド。今日のイベントを見ることは犬族たちにもメリットがあるし、それはミルドも同じだと思ったので声を掛けたのだ。

 まずは観客たちに商業ギルド長とブルーノを紹介する。何でこんなところに魔族軍将軍が?と犬族たちは一瞬ざわついたが、すぐにナータンと同族と気付いて概ね事情を察したらしい。

 うう、こんなに大勢の人の前で話すことなんて元の世界でも滅多になかったから緊張するよぅ。



「えー皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。このたび商業ギルドのご厚意で、不人気な『グローダの討伐』に取り組む皆様のモチベーションアップのために新たな要素が導入されることになりました!」



 犬族たちから「おお~」とどよめきが起こる。この討伐依頼のほとんどを請け負ってきた彼らにとってはそれなりに期待が高まる話なんだろう。

 まずは、掴みはOKといったところか。



「この討伐依頼は、魔物の討伐数を自動でカウントする魔術具を装着して行い、討伐数によって報酬が決定するのは皆様もご存じのとおりです。その魔術具ですが、実は1時間ごとに倒した数を記録する仕様になっておりまして、その機能を使ってスコアアタックに挑戦することが可能になりました!

 『グローダの討伐』の依頼達成者に限り、1時間の討伐記録を基にランキングを公表! しかも、スコアアタック上位10名は名前とランク、討伐数が商業ギルド及び冒険者ギルド内に掲載されま~っす!!」



 「おお~っ!」というどよめきが更に大きくなり、若干拍手も混じっている。

 討伐数を競い合うスコアアタックとランキングの掲示は、どうやらわたしの予想どおり冒険者たちの競争心と功名心を刺激したらしい。

 先程まではつまらなそうな顔をしていたナータンも、今の話で嬉しそうな表情に変わったのが見えた。

 よしよし、ナータンも乗り気になったか。ふはは、更にダメ押ししてやるぞ!



「ランキングは常に更新されますので、皆様にはぜひとも上位の成績を修め、名前が掲載されるよう励んでいただきたいと思います。ですが、皆様の多くは下位ランク。その中で競っていてもこのランキングの価値は上がりません。

 そこで、目指すべきハイスコアを叩き出し、模範とすべきスーパープレイを実演していただこうとスペシャルゲストをお呼びしました。ご紹介します! 竜人族のSランク冒険者、長老ことメシュヴィツさんです! どうぞ~!!」



 わたしが集団後方を片手で指し示すと、観客たちがバッと振り返った先には穏やかな笑みを浮かべたメシュヴィツの姿があった。

 わたしの位置からはスススッと忍び寄るメシュヴィツの姿が見えていたのだけれど、これだけ冒険者がいるのに誰も気配に気付かないのだからすごい。

 いきなり後ろから登場したSランクの姿に、犬族たちは大歓声を上げた。「うおおお! 長老だ!!」「マジで実演してくれんの!?」「すげえ! Sランクのソロ討伐なんて見たことねえよ!」という声があちこちから上がっている。

 うんうん、喜んでもらえて嬉しいよ。



「紹介に預かったメシュヴィツだ。今日は友人のスミレ店長に頼まれて、グローダを1時間で何体討伐できるかに挑戦する。Cランクの討伐依頼をやるのはおそらく200年ぶりくらいだと思うが、皆の参考になるよう全力を尽くすつもりだ。俺の実演を見て何かを得てもらえたら嬉しい」



 さすが現役冒険者の中で最年長かつ冒険者歴最長のSランクメシュヴィツ。渋くて貫禄があって、でも全然偉ぶってないところが本当にかっこいい。しかも低音でイケボだから挨拶も映えるんだよなぁ。

 それはいいけど、友人なんて言われたのは恐縮だ。おかげで犬族の若手たちが店長すげえという視線を向けてくるじゃないか。ひい、やめて。

 でも仕方ないか。CランクやDランクの彼らからしたらSランクのメシュヴィツは憧れの存在だろう。皆キラキラした目でメシュヴィツを見ている。

 わたしも実験施設での訓練で大量の魔物を倒したことはあるけれど、魔物討伐を見るのは初めてだ。

 初めて見るのがSランク冒険者の討伐だなんて本当にすごいよ。ふう、ドキドキしてきた。


 メシュヴィツに討伐数カウント用の魔術具をセットしてもらい、ギルド長の手元の魔術具と同期確認を済ませたらいよいよ実演開始だ。

 よーし。目の前で行われるトッププロの討伐、全神経集中して見るぞーっ!!

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