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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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189話 サロモの情報とブルーノとの話し合い

 ブルーノへの報告をひと通り終えた。

 分屯地で行われるナータンへの事情聴取の内容も聞かないとブルーノも判断を下せないので、明日以降に改めて話し合うことにして伝言を終える。

 ミルドにも報告したいところだが、今彼は集中力を必要とするエリアへ冒険に出ている。こちらからの連絡は控えているので、ミルドから連絡が入るのを待つしかない。


 とりあえず必要なことは済ませたので店を開けよう。その後ゆっくりお茶でも飲もうかな。さすがにちょっと疲れたし。

 そう思ってソファーから腰を上げたら、店のドアがノックされた。

 覗き穴から見ると犬族冒険者集団リーダーのサロモだったので、慌ててドアを開いて中へと招き入れる。



「店長! 臨時休業になってたからびっくりしたよ。居てくれて良かったー。何かあったの?」


「はい、今日はいろいろあって……。というか、レンタルの予約の件ではご迷惑をお掛けしました。本当に申し訳ありません」


「水臭いなぁ。レンタルでお世話になってるのはこっちなんだから、そんなに気を遣わなくていいって」



 実は、月始めに犬族Bチーム3班の予約が入っていたのだが、ナータンの延滞が発生した時点で即連絡して予約をキャンセルさせてもらった。

 ギリギリになってからでは冒険に支障が出る。迷惑を掛けるにしてもせめて最小限に留めたかったのだ。

 それに、今回の決着の仕方によってはレンタルサービスを終了する可能性も出てくる。そう考えて、しばらくの間レンタルを見合わせることも伝えていた。

 サロモはその後の経過が気になって、様子を見に来たらしい。


 わたしは手早く店を開けると、一緒にお茶を飲みながら今日起きたことをサロモに話した。レンタルセットが証拠品として押収されたので、すぐにはレンタルサービス再開とは行かないことも伝える。

 ふんふんと聞いている彼に、ナータンという冒険者について訊いてみた。



「う~~ん、確かに今は評判悪いね。前はあんな風じゃなかったんだけどなぁ」


「そうなんですか?」



 意外なことに、ナータンも元は真っ当な冒険者だったそうだ。

 サロモの知り合いに狼系獣人族のAランクがいて、ナータンはよくその彼と一緒に討伐系の依頼をこなしていたという。でも、そのAランクが引退して里へ帰ってしまい、その後しばらくして徐々にナータンの行状が悪化していったらしい。



「俺も詳しくは知らないんだけど、評判悪くなってるのを知った時にはもう取り巻きを連れてたよ。態度大きくて、それを取り巻きが持ち上げててさ、何だあれって思った覚えがある」


「あ~、今日もそんな感じでした」


「まあ要するに、付き合う相手が良くなかったんじゃない? 悪いヤツらとつるんでる内にだんだん身を持ち崩すって、冒険者界隈ではそこそこある話なんだ」



 そうかもしれない。取り巻きたちが煽らなかったらナータンがトーンダウンしそうな時は確かにあった。

 三人で行動していたのに保険契約者はナータン一人。暴力行為に及んだのもナータンだけ。そして、ナータンを煽ったくせに巡回班が来たら取り巻きたちは気絶している彼を置いて逃げた。

 ……もしかして、彼らはナータンを盾にして、自分たちは処罰の対象にならないよう巧妙に立ち回っていた?


 憶測で物を言ってはいけないと黙って考えを巡らせていたせいか、疲れているだろうから今日はゆっくり休むようにと言ってサロモは帰っていった。

 気を遣わせてしまったか……。うう、不覚。




 わたしが考え込んだところで仕方がない。元気を出そうと、夕飯を食べに訪れたノイマンの食堂では大好物の肉団子の煮込みを頼んだ。もちろんチーズ乗せで。

 更に、本日のメニューがサーモンのグリルだったので、リーリャに頼んでテイクアウト用に塩だけでグリルしてもらった。

 故郷の味を思い出すからと避けていたのに?とノイマンが訝しんだが、思い出しても平気になったんですよ、フフフ……。


 保存庫に入れてもらったサーモンのグリルは翌朝の食卓に載った。

 もちろん単品ではなく、実績解除で追加された日本食アイテム、おにぎりと味噌汁も一緒だ。

 白米、味噌汁、塩鮭! これはもう鮭の塩焼き定食と呼んでいいでしょう!

 これぞ日本の朝ご飯だ! 万歳!!

 本当は卵焼きもつけたかったのだけれど、作ったところでどうせオムレツかスパニッシュオムレツのグラフィックに置き換わると思ったら萎えたのでやめた。

 目玉焼きも考えたが、しょうゆもソースもないし塩味では鮭とかぶる。卵料理は諦めよう。この三品でわたしは十分満足だよ。

 元気良くいただきますと手を合わせると、わたしは嬉々として鮭の塩焼き定食もどきを堪能した。一つ目のおにぎりは普通に食べたが、二つ目のおにぎりは半分に割って中に鮭を詰め込んで鮭おにぎりにした。フフフ、おいしーい!

 そして食後には緑茶を飲む。ぷはーっ、朝から幸せなり~。



 そうやって、懐かしい日本の朝ご飯で元気をチャージしておいて良かったと、後でわたしはしみじみと思った。

 午後にブルーノが来店して、事情聴取に立ち会ってわかったことなどを話してくれたのだが、それを聞いて何とも複雑な気分になってしまったのだ。



「え、ナータンさん、そんなにしょっちゅう食事やお酒をおごってたんですか? ……言い方悪いですけど、それって良いようにたかられてません?」


「まあ、そう思うよな。ナータンはそうは思ってないようだが、あいつの話を聞いた限りでは、取り巻き連中はあいつから甘い汁を吸っていたとしか思えん」



 狼系獣人族は種族内の親密度が高く、年や役職が下の同族に対して非常に面倒見が良い。実際、ブルーノは種族で行う行事には熱心に参加しているし、里から出て来た人をよく食事に連れて行くと聞いたこともある。

 ナータンが一緒に活動していた同族のAランクもそういう感じで彼の面倒を見ていたそうだ。

 そして、そのAランクがいなくなった後、取り巻きとなったCランク二人にナータンは自分がしてもらったのと同じように振る舞っていたらしい。取り巻きたちは同族ではないというのに。

 そういうナータンの態度が取り巻きたちを付け上がらせたのか。Bランクの懐事情がそんなに余裕あるものではないことくらい知っているだろうに、彼らはナータンの振る舞いを止めることもなく恩恵を享受してきたわけだ。

 最初は純粋に慕っていたのかもしれないが、取り巻きたちの立ち回りにはやはり利己的な思惑を感じてしまう。


 もっとも、ナータンの懐事情の悪化は同族のAランクが里へ帰った頃から既に始まっていたようだ。

 まず、今までやっていた報酬の高いAランクの依頼が受けられなくなった。

 仕方なしにBランクの依頼を請けるが、ナータンは討伐以外の冒険は苦手で依頼の選択肢が限られる。しかも、Bランクでも下位の彼にはソロの討伐は荷が重く、思うようには稼げない。

 取り巻きが同行するようになり攻撃力は増えたはずだが、技量の足りないCランクとではなかなかうまく討伐が進まなかった。もちろん稼ぎも改善しない。

 だが、自分を慕ってくれる存在ができて嬉しかったし、良いところを見せたいと張り切った。Aランクに連れていってもらっていた店へ彼らを連れて行き、食事と酒をおごればとても喜ばれる。



「同族以外にそこまで面倒見てやる必要ねぇことは理解してたがな、尊敬されたり頼られたりするのが嬉しくてやめられなかったんだとよ。自分の稼ぎに見合わない見栄を張るからだ。金がねぇのも身を持ち崩したのも自業自得だな」



 自業自得、それは正直同感だ。だけどわたしは後味が悪いような、苦々しい気持ちになった。実はブルーノが来店する少し前にサロモから伝言があり、追加情報を入手していたからだ。

 わたしから話を聞いたサロモが取り巻き二人の情報を集めて様子を探ってみたところ、彼らは既に城下町の住まいを引き払い里へ帰った後だった。あまりに手際が良すぎるから、きっともともと里へ帰るつもりで準備していたに違いないとサロモは言う。

 その話を伝えたらブルーノも苦々しい顔になった。

 同族がしなくてもいい世話をしていた相手が、甘い汁を吸うだけ吸って同族を見切る気でいたなんて聞いたら腹も立つだろう。ナータンを良く思ってないわたしですら嫌な話だとムカついたくらいだ。



「ねぇ、ブルーノさん。ナータンさんへの処罰ってどんなものになるんですか」


「まだ確定じゃねぇが、お前への暴力は軽度だから口頭での注意のみ。あとは商業ギルドに賠償金と延滞金さえ払えば問題は解決する。だが、あいつは金がねぇから払えない、だから部族か種族が間に入って立て替えるって話になるだろう。そうなれば王都の居住許可は取り消しだ。再び許可が下りることはまずねぇな」



 なるほど、部族長としてはそんな問題行動をする者を王都に置いておくわけにはいかないから当然か。

 組んだ両手の上に顎を乗せたブルーノが軽くため息を吐いた。



「実はなぁ、俺が保証人になって立て替えてやろうかと考えてる」


「えっ、そうなんですか?」


「同族の俺が間に入るのは何も問題ねぇし、部族や種族に通達する前に商業ギルドと話つけちまえばいいだけだ。俺の管轄内の案件だからどうにでもなる」


「それはそうですけど、でも1万7千Dもするんですよ? 回収できるかどうかもわからないのに……」



 同族とはいえ面識もなかったナータンのために、何故そこまでするんだろう。

 わたしの疑問に答えるように、ブルーノはそう考えた理由を挙げ始めた。

 前述のとおり、部族に話が行けばまず王都から退去させられる。冒険者は里へ戻れば稼ぎが下がるから借金返済に時間が掛かる。

 そして、一番深刻なのは子作りがほぼ不可能になることだとブルーノは言った。

 金銭トラブルを起こし部族や種族に立て替えてもらうような男をパートナーにしたいと思う女はいない。里から放り出されることはないが、周囲の目は厳しくなるだろう。



「とりあえず、部族や種族へ話が行く前に解決しちまえば、後は地道に稼いで借金返済に励むだけだ。直接話してみたが性根が腐ってるわけではないようだったし、もちろん本人が悪いが取り巻き連中も悪質だったと思える。情状酌量の余地があるなら、まあそれくらい面倒見てやってもいいかと思ってな」



 何だかんだ言ってブルーノも狼族だから面倒見がいいんだよね……。

 でもブルーノはそこまで言っておきながら、わたしが嫌ならやめると言った。



「お前が二度とナータンの顔を見たくない、城下町から退去させたいと考えてるならやらねぇ。取り巻きが悪質だったにしろ、あいつが馬鹿だからこうなった。責任はナータン本人にある」



 ブルーノの言葉にジ~ンとしてしまった。同族のナータンよりわたしを優先してくれるんだ……。

 その気持ちが嬉しくて、わたしはブルーノがナータンの保証人になっても構わないと答えた。

 ナータンに同情する気はないが、彼が王都を追い出された結果更に身を持ち崩して転落していったら後味が悪いし、取り巻きたちは無傷なのにナータンだけきつい罰を受けるのは何だか理不尽に思えたから。



「ただし、条件があります」


「ほう、何だ?」


「彼の稼ぎが良くならないことには根本的な問題解決とはなりません。でも本人任せでは無理だと思います。それができるならこんな状況に陥ってません。だから」



 わたしがナータンと関わったせいでブルーノが高額な立て替えをする羽目になった。ブルーノは否定するだろうが、直接的な因果関係はそうなんだ。

 ブルーノの意思を尊重しつつ、早急に彼の負担をなくすには。



「金策方面でわたしにアシストさせてください。ちょっと案を思い付いたので、可能かどうか当たってみます」

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