表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

181/289

181話 調合修行開始

誤字報告ありがとうございます。

 薬学の講義で調合のやり方を教わって以来、わたしは夜の空き時間にせっせと回復薬を調合している。

 陽月星記を読破してしまい暇になったというのも理由の一つだが、調合の作業が案外楽しくて、何となく素材と調合器具に手が伸びてしまうのだ。

 薬研で素材をごりごりするのも楽しいし、魔術具に魔力を流して回復薬が出来あがる度にピコンとネトゲ仕様のSEが鳴るのも楽しい。


 調合は、薬が完成する度に《聖女の回復薬(小)を2本調合しました。》という風にネトゲ仕様のメッセージが流れ、同じ文章がログに残る。

 毎回メッセージが視界を横切るのは若干煩わしいものの、時々メッセージが《大成功! 聖女の回復薬(小)を3本調合しました。》となって1本多く出来上がることもあるので地味に嬉しい。

 調理は生産スキルではなかったのか、いろいろ作ってもアイテムの実積解除しか起きなかったのに、調合を始めた途端に目新しい現象が次々に現れて何だかとても刺激的だ。

 ちなみに、調合にも実績未解除の項目がいくつかある。これが何なのか解除を目指すのも面白いかもしれない。

 ものすごい勢いでログが増えていくので今後ログを掘るのが大変になりそうだけれど、それはまあ仕方ないか。



 陽月星記を読み終えたので、雑貨屋が暇な時はレイグラーフから借りた薬学の本を読んでいる。これを読み終え、口頭試験に合格したら痛み止めを扱うのに必要な資格を取得できるらしい。

 目的はあっさりと達成できそうだ。でも、思ったより調合は楽しかったし、このまま続けてもいいかもしれない。

 これを読み終えたら、今度は『薬草大全』や『調合大全』も読もうかな。


 開店準備をしながらそんなことを考えていたら、レイグラーフから伝言が飛んできた。



《スミレ、おはようございます。『聖女の回復薬(小)』の件ですが、すべて城で買い取ることになりました》


「おはようございます、レイ先生。あ~、やっぱりあのアイテム名では表に出せませんよね~。でも、調合していたら貯まっていく一方ですし、処分方法の心配をしなくて良くなるのはありがたいです」


《それは良かった。ですが、その代わりと言いますか、実は予算の関係で城への納品を一旦停止することになりまして……》



 レイグラーフの話によると、これまで城への納品は予備費の枠で対応していたそうで、わたしが調合した薬の買い取りも同じく予備費で行うらしい。

 ただ、その予備費が残り少なくなってきたため、新年を迎えて新しい予算になるまでは薬の買い取りを優先し、納品の方はしばらく見送ることになったのだとか。

 一年の途中で発生した予算外の出費だからやり繰りも大変だろう。

 うちの商品をたくさん買ったせいで予備費が尽きそうと知り申し訳ない気持ちになるが、自分たちが頼んで売ってもらっているのだからと言われるのはわかっているので口にしないでおく。



《と言っても、新しい予算に盛り込み済みですから納品の再開は確定です。貴重薬や希少な素材は購入に日数制限があるものばかりですし、迷惑でなければ買い溜めしておいてもらえませんか?》


「わかりました。では、そのようにしておきますね。あと、回復薬なんですけど、ラベル貼りは今後も継続するんでしょうか」


《ええ、ラベルは非常に重要ですので引き続きお願いします。次の講義の時に回収しますね》



 そこまではスムーズに話が進んだが、回復薬の買い取り価格の決め方については少し揉めた。

 何でも、初回の講義でわたしが作った回復薬をレイグラーフが持ち帰って解析したところ、標準的なものより薬効が1割ほど高かったそうだ。どうやら聖女のチートはアイテム名だけでなく性能面にも影響を及ぼしているらしい。

 聖女のチートが影響しているのだからわたしが調合した薬はネトゲ仕様での値段を買い取り価格とするべきだとレイグラーフは言う。だが、仮想空間でのアイテム購入機能と違い、調合時のログはアイテム名と生産数だけで金額の記載はない。

 しかもアイテム情報はスライド表示できないため、ネトゲ仕様の値段を第三者が確認する手段はないのだ。


 そこで、わたしは素材購入時のログと調合時のログを突き合わせて算出できる材料費を買い取り価格とするよう提案したのだが、レイグラーフはかなり渋った。

 ネトゲ仕様の値段で計算すると、材料のスネール草は1つ5Dで、ヴィーグの葉は1つ6D。これらを調合すると1本23Dの『聖女の回復薬(小)』が2本、大成功なら3本できる。

 回復薬の合計金額は46D、大成功なら69D。それを材料費の11Dで買い取るとなるとかなり割安になるのだ。



《いけません、それではスミレが損をしてしまうではないですか》


「材料費は補填されるんですから損はしませんよ?」


《ですが、実際の価値と乖離しすぎです。スミレが数や金額を偽ったりしないのはわかっているのですし、城への納品と同じく魔王権限の極秘取引として扱いますから金額を確認できなくてもルードは咎めたりしませんよ》


「ダメですってば、レイ先生。納品と同じように数量や金額をきちんと確認できないのは会計処理上よくないですよ。信用してもらっているのは嬉しいですけど、きちんとけじめをつけたいです」



 正々堂々と商取引したいとか商人としての沽券に関わるなどと言って拝み倒し、ようやくレイグラーフの同意を勝ち取った。

 その場で魔王に報告され、承認を得る。やった、回復薬の買い取り価格を格安にすることに成功したぞ!

 これならわたしが回復薬を量産しても城の予算への負担は最低限で済む。


 おかげで俄然薬学及び調合への意欲が湧いてきた。

 わたしの調合レベルが上がって高レベルのレシピを調合できるようになれば、格安で高性能な薬を納められるようになる。何なら城への納品で発注している高額な薬から切り替えてもらってもいいかもしれない。

 魔族国に貢献できるし、お世話になってきた魔王たちに少しでも恩返しができるとなれば張り切らないわけがない!


 よし、こうなったら本腰を据えて調合スキルを鍛えよう。

 生産メインでネトゲをプレイしていた頃の記憶を頼りに調合修行開始だ!

 ひゃっほー、何か燃えてきたぞ~ッ!!


 調合器具を設置する専用の台は既に内装屋へ発注してあり、明日の定休日に寸法を測りに来てくれることになっている。

 フフフ、今から楽しみだ。




 そんな感じで営業時間中もウキウキしながら過ごしつつ、その日の夜も空き時間にせっせと調合していたら早くもレベルアップしてしまった。

 調合を教わってからまだ2日しか経ってないのに……。でもレベル1ならこんなものか。

 ピロポロパ~ンという何とも言えないSEと共に《調合スキルがレベル2になりました!》というメッセージが流れる。

 念のためレイグラーフにレベルアップしたことを知らせたら、今から回収に向かうので一旦調合を止めるようにと伝言が飛んできた。

 もう10時近いのにいいのかなぁと思いつつも、大人しく作業を中断し、お茶の準備をしながらレイグラーフの到着を待つ。



 驚いたことに、レイグラーフはほんの15分でやって来た。馬車を使っても城からは30分はかかるのに、ものすごく早い。



「こんばんは、スミレ。遅くに申し訳ありません」


「いらっしゃいませ、レイ先生。こちらこそご足労いただき──ってあれ? クランツも一緒なの?」


「時間を考えてください。こんな時間にレイと二人きりというわけにもいかないでしょう」


「うわ、付き合わせちゃってごめんね! というか、すごく早くないですか? どうやったらこんなに早く来れるんです!?」



 そうクランツに訊ねたら意外な答えが返ってきた。

 魔王城内にはブルーノの執務室などがある魔族軍専用の区画があるのだが、その一角に各兵団や魔族軍の関係施設と繋がる転移陣があるそうだ。

 当然一番街の北側に位置する第三兵団の分屯地にも繋がっていて、魔族軍所属のクランツが同行すれば部外者のレイグラーフもその転移陣を使用できるのだとか。

 それでも分屯地からオーグレーン荘まで歩いて10分くらいはかかるのにと思ったら、何と分屯地を出たところからクランツがレイグラーフを担いでダッシュして来たらしい……。

 そりゃ獣人族は力持ちだし足も速いけど、何もそこまでしなくても……。

 でも、そんな緊急ルートが存在するとは知らなかったので、この機会に知れて良かったと思う。

 うちで何かあったとしても、クランツやブルーノに15分で駆けつけてもらえると思ったらとても心強い。



 レイグラーフはラベルを確認しながら手早く回復薬を回収していった。

 更に、レベル1の時に薬研で粉状にした素材の残りを使ってわたしに調合させ、レベル1と2の作業が混同する回復薬を回収すると、今度は一から調合させレベル2の状態で全工程を行った回復薬をも回収した。

 細かい違いをきっちり区別してラベルを貼り、持ち帰って解析するんだろう。

 作業の合間にお茶を勧めつつ、クランツと二人でレイグラーフの作業を見守りながらお茶を啜る。

 研究者って大変だな~と感心するけれど、レイグラーフはどう見ても嬉しそうで楽しそうだ。弟子としては喜ばしく思う。


 回収作業を終え、真夜中になる前に二人は帰っていったが、翌朝起きてベッドの上でストレッチをしている時にレイグラーフから伝言が届いた。

 解析結果から、回復薬の品質は調合の魔術具に魔力を流した時のレベルで決まると判明したらしい。

 徹夜で解析したんだろうか……。伝言の声が楽しそうで弟子としては嬉しいが、ちゃんと寝て欲しい。

 レベルアップ後のラベルの区分について詳しく指示を受けたので、次からはレベルアップしても自分で処理できるようになった。

 よしよし、これで安心して調合修行に没頭できるぞ。

 効率良く修行するためには素材とレシピの吟味が重要だ。攻略サイトなしでスキル育成か。フフフ、わくわくするなぁ!




 ところで、星の日の今日は定休日で、午前中に内装屋が来ることになっている。

 コーディネート担当と木工職人の精霊族コンビがやって来て、調合台と素材収納用の棚の寸法の計測と、裏庭に屋外用のテーブルと椅子を搬入してもらった。

 裏庭に置かれた品はシンプルながらもほんのりと装飾が施されている青銅っぽい金属製で、わたしが一人で持ち運べる重さのものを選んでくれたらしい。元人族のわたしが重量軽減の魔術を使えるとは思ってないんだろう。


 今回も満足のいく仕事をしてくれたので丁重に礼を伝えたら、実は部族の里にある本店へ異動することになったと言われて驚いた。

 何と、妊娠が発覚したので急遽二人で里へ帰ることにしたらしい。内装屋の二人はコンビじゃなくカップルだったのか。

 センスが良く安心してお任せできる内装屋がいなくなるのは残念だが、ただでさえ魔族は子が授かりにくいのだから、こんなにめでたいことはない。

 調合台と棚の納品からは次の担当者が来ると聞き、祝福とこれまでの感謝を込めて紙袋に蜂蜜酒(ミード)を詰めて手渡した。妊婦が飲んでいいのかはわからないが、二人ともすごく喜んでくれたので良しとしよう。


 帰っていく二人を見送りつつ感慨にふける。

 里へ帰る知り合いの魔族を見送るのはユーリーンに続いて二組目だ。

 新しい門出を迎える彼らに精霊の加護がありますように。




 それから数日、わたしは店番をしながら薬学の本を読み進め、次の講義の時にはレイグラーフに口頭試験をしてもらった。

 見事に一発で合格! やったね!

 資格取得証明書をもらい、それを手に商業ギルドへ行きさっそく痛み止めの販売許可の手続きをする。


 ふはは、今日からスミレの雑貨屋では痛み止めの素材『スマッツの根』も扱いますよ!

 ご近所の皆さん、ご贔屓に!

ブックマーク、いいね、★の評価ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ