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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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178話 友人たちとの食事会と薬学の講義開始

1月2日にも投稿していますので、未読の方は1話前からご覧ください。

「――とまあ、そんなことが串焼き屋でありまして」


「人にワイン掛けるなんて信じられないわ。精霊族の面汚しめ……」


「ちょっとシェスティン、顔怖すぎだってば!」


「虎族の親父に殴られてんなら、さすがにもうやらねーだろ」


「でも、ちょっと見たかったわね。怒鳴るスミレって想像つかないわ」


「キャハハッ、確かに~」



 今日は陽の日。わたしはエルサ、ミルド、シェスティンの三人と共に市場へ来ている。いつもの友人たちとの食事会で、魚介類のスープを食べに来たのだ。

 本当は今日明日の二連休に空中散歩と火の精霊族の里訪問の予定が入っていたのだけれど、カシュパルの都合が悪くなったとかで一旦キャンセルとなった。

 同行してくれる保護者たちは要職に就いていて多忙なので、急に予定が変更になるのも再調整に時間がかかるのも仕方ない。

 ぽっかり予定が空いてしまったが、ちょうどミルドが冒険から戻って来たこともあり、それなら食事会を開催しようということになったのだ。


 魚介類のスープに舌鼓を打ちながら互いに近況を話す中、わたしが先日の串焼き屋でのトラブルについて話したらシェスティンがすごく怒ってしまった。ワインを無駄にするというのは精霊族としてはとても許せない行為らしい。

 美人が怒ると怖いんだよね……。串焼き屋の店主とは違う意味で怖い。

 というか、ミルドの言葉で串焼き屋の店主が虎系獣人族だとわかった。

 ターヴィと同族か、なるほどガタイがいいわけだ。強面なのも虎系獣人族共通の特徴なんだろうか。

 そして、ターヴィが菓子屋の女の子に怖がられるのも納得した。知り合いでなければ確かに怖いわ、虎族の見た目は……。

 なのに、ファンヌの好みにドストライクだというのだから、筋肉の魅力というのは見た目の怖さを払拭してしまう程の威力があるんだろう。共感はできないが。


 ファンヌといえば、昨日花茶に合う茶菓子の研究をしにターヴィの家を訪れている。約束どおりファンヌはうちで昼食を一緒に食べてから出掛けていった。

 花茶に合う茶菓子の研究と言えばそれっぽく聞こえるが、実際には二人きりのお茶会だ。恋愛お断りのターヴィの反応はどうなのか少し心配していたのだけれど、ファンヌが持参したたっぷりのお菓子に喜びが隠し切れなかったらしい。

 終わった後に店へ顔を出したファンヌの話によれば、少なくとも嫌々付き合っている感じではなかったそうで、次回の約束も既に取り付けたという。

 ただし、自分と二人きりのお茶会ばかりが続けばいずれまた警戒心を呼び起こしてしまうため、それを避けるためにも近いうちにドローテアを紹介する予定だそうで現在根回し中なのだとか。

 お茶会好きなドローテアにとっては望むところだろうし、ターヴィにとっても大好きな甘い物を食べる機会が増えるわけだから悪い話ではないだろう。

 ご近所の年配女性も交えたお茶会を間に挟むことでターヴィの警戒心を薄れさせようというファンヌの作戦はなかなか侮れない。

 自分の利益だけでなくちゃんと相手も得するように考えているし、こういうところが魔人族の調整力の高さなんだろうなと感心してしまった。

 恋も仕事もやり手なんだから、ファンヌは本当にすごいよ。



 わたしが少し他事を考えている間に話題は移り、友人たちは魚介類の話で盛り上がっている。

 ちょうど今食べているのが殻ごと煮込んだエビを裏ごししてクリーム仕立てにした濃厚なスープだ。ミルドは前回違うエビのスープを飲んでいるが、エルサとシェスティンはエビを食べたのはこれが初めてだったらしい。

 三人ともこのスープがとても気に入ったようで、わたしが串焼き屋でメニューにないエビの炙り焼きを食べさせてもらったと話すとすごくうらやましがられた。



「食べ切れなかった分はテイクアウトしてあるんだけど、良かったらうちにエビの炙り焼き食べに来る?」


「行く!」



 三人の声がピタリと揃い満場一致で決まったので、魚介類のスープを堪能した後はうちへ場所を移してエビの炙り焼きの試食会となった。

 冒険者のミルドと料理人見習いのエルサは動物や食材の知識が必要なのでエビの姿かたちを知っていたが、シェスティンは何も知らないという。

 保存庫から取り出したエビの炙り焼きを見て、案の定シェスティンは何とも言えない表情になった。情報として知っていたはずのミルドとエルサもいざ実物を目にすると印象が違うのか、微妙な顔をしている。



「……食材、なのよね?」


「うん」


「さっき食べたスープはコレだったの?」


「そうだよ」


「やっぱ虫っぽいよな……」


「節足動物だからね……」



 さっき食べたスープはエビを濾したものだったから、味さえ良ければ未知の食材だろうとたいして気にならなかったかもしれないが、炙り焼きは姿かたちがそのままだからそうもいかないようだ。

 ただ、明らかにテンションは下がったものの、それでも彼らは食べるのを止めるとは言わなかった。

 わたしが大喜びでエビを食べるのを見ても串焼き屋の客たちは誰もエビを食べようとしなかったのに、三人とも迷うことなくエビの炙り焼きを食べると言い切る。

 友人たちは食に関するわたしの評価に余程信頼を置いているようで、ちょっと友情を感じてジ~ンときてしまった。うう、嬉しい。


 手早くエビの殻を剥いて、身を小指の第一関節くらいの大きさに切り分けると、フォークに刺して三人に手渡した。食感や味が苦手だったとしても、これくらいの量なら我慢できるだろう。

 一斉に口に入れた彼らの反応は三者三様で、気に入ったっぽいのがミルド、シェスティンはまあまあ、ダメっぽいのがエルサだった。



「う~ん、ちょっと生臭いわ」


「ああ~、塩だけだとそう感じるかもしれないなぁ」


「匂いは気にならないけど、変わった食感ね」


「うまいなー。オレこーゆーの結構好き。でも、店のメニューにはないんだろ?」


「うん。たまたま手に入ったって親父さんは言ってたよ」



 エビの好悪はともかく、炙り焼きを食べる機会がほとんどなかったというエルサとシェスティンが関心を示したため、次回の食事会は串焼き屋に決定した。

 レギュラーメニューも十分おいしいから楽しみにしていて欲しい。


 それにしても、エビの見た目を苦手と感じる魔族は本当に多いんだなぁ。

 おいしいのに何故魚介類の料理はあまり知られていないのかと不思議に思っていたけれど、4種類しかない食材の一つがこれだけ拒否感を持たれるなら普及しようという気も失せるかもしれないね……。

 まあ、海辺の里へ行けば気軽に食べられるんだし、わたしの場合は城の料理人に頼んで作ってもらうこともできる。

 城下町では魚のグリルやフライが食べられれば十分かな。





 食事会の翌日の月の日にはレイグラーフがうちにやって来た。

 一昨日ついに陽月星記を読み終えたのでレイグラーフに連絡したところ、空中散歩と火の精霊族の里訪問が流れて二人とも予定が空いていたこともあり、さっそく薬学の講義を始めることになったのだ。

 うちで講義をする時はいつもダイニングなので、レイグラーフを案内してからお茶の準備をする。



「おや、裏庭の木に花が咲いてますね」


「はい。黒の季節に花が咲くと聞いてたので楽しみにしてたんですよ」



 黒の季節に入って数日、裏庭の木に花が咲いた。

 何となく黒の季節だから黒い花が咲くようなイメージがあったのだがそんなことはなく、薄ピンク色の小さな花がたくさん咲いていて、とても良い香りがする。

 色は違うけれどキンモクセイみたいな感じだ。



「離宮の木も花が咲いたそうですよ。スミレが言っていたお花見もスティーグが予定を立てているそうですね」



 離宮でのお花見も空中散歩と火の精霊族の里訪問とまとめて予定を立てると聞いている。どれも初めて経験することだから今から楽しみだ。



 雑談はそこまでとし、薬学の講義が始まる。

 まずは概論からで、素材の種類や薬の調合器具について説明を受けた。

 仮想空間のアイテム購入機能にある『薬草大全』、『調合大全』という本を流し見した時は薬の素材は植物ばかりのように見えたが、意外と動物や魔物由来の素材や鉱物の素材もあるらしい。

 魔物の肝とか昆虫と聞いて、ちょっと首すじがぞくっとした。

 ……実技で触るだろうか。うう、植物系の素材だけで済むといいのだけれど。今から不安だよぅ。


 薬の調合器具は仮想空間のアイテム購入機能にはないので、レイグラーフが一式持って来てくれていた。

 理科室にあった乳鉢や時代劇で見掛ける薬研(やげん)など、いかにも薬の調合器具らしいものの他に、秤のような計量の魔術具と壺のような形をした製薬の魔術具というのがあった。

 分厚いガラスでできた壺なのかと思ったら、何と魔石製なんだとか。うわあ、高そう……。

 以前、レイグラーフの自宅の実験室で『生体感知』と書いたのも魔石板という板状の魔石だったが、魔族の実験器具は魔石製が多いみたいだ。

 品質や精度の高さを求めるジャンルでは魔石を用いるんだろう。


 調合器具を置くために二階の書斎へ行く。とりあえず書き物用の机に置いたが、実際に薬の調合をするなら専用の台を置いた方がいいとのことだ。

 裏庭に屋外用のテーブルとイスが欲しいと考えていたので、併せて購入してもいいかもしれない。後で内装屋に注文しよう。



「台は買うとして、調合器具はこれをお借りしてもいいんですか? 必要なら買いますけど」


「スミレがどの程度薬の調合をするかによるでしょうか。高い品物ですから、痛み止めを扱う知識と技能を身に着けるためだけなら買う必要はありません。ですが、今後も継続的に調合を行うとなれば自分で道具を揃えるのもいいでしょうね」


「そうですね。実技でいろいろと試してみてから考えます」


「では、器具の使い方を説明するついでに、少しだけ調合してみましょうか」


「おお~、頑張ります!」



 そんなわけで、初歩的な回復薬を作ってみることになった。

 レイグラーフの指示に従い、仮想空間のアイテム購入機能の「薬品・素材」欄から『スネール草』と『ヴィーグの葉』という素材を買う。

 どちらも乾燥した植物系素材だ。良かった。

 スネール草は約15センチ、ヴィーグの葉はその半分くらいの大きさで、これらを薬研を使って細かくしていく。

 うおおお、時代劇で見たヤツだよ~! 何かこの、ごりごりする作業がすごく薬作ってる感ある!!

 テンション爆上げで作業した結果、2つの素材は細かい粉状になった。その粉を秤のような計量の魔術具で必要な分量を計り、製薬の魔術具に入れる。



「そうしたら、ここに手を添えて魔力を流します。すると――ほら、これで完成ですよ」



 魔術具全体がパッと光ったと思ったら、光が消えた後の壺状の魔術具の中にガラス瓶に入った回復薬が2本転がっていた。

 てっきり煮たり抽出したりという工程があると思っていたのだが、調合っぽいのは前半だけで、魔術具に入れてからは中略というゲーム的な表現で終了か。

 まあ、完成した料理のグラフィックが強制的に変化するのと同じ、いつものネトゲ仕様ということだ。気にしても仕方ない。

 とにかく、初めて薬を調合して、無事完成したんだ。めでたいぞ!


 出来上がった回復薬の瓶を取り出そうとして、ふとアイテム情報を見てみようとタップしてみたら。

 あれ? アイテム名が『聖女の回復薬(小)』ってなっている……?



 そんな回復薬は仮想空間のアイテム購入機能にないし、『調合大全』にも載ってない。

 未知の回復薬にレイグラーフは当然大興奮だ。師が楽しそうで弟子としては嬉しいけれど、これ、厄介な案件じゃないのかなぁ。


 回復に関するものだし、聖女のチートに違いない。

 変な特殊性能とかがなければいいけど。

次回は久しぶりの閑話回です。

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