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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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171話 レシピ発見とお菓子作りの約束

 商業ギルドへ向かう前に、念のため商業ギルド長にアポを取った。

 もしかしたら存在をなかったことにするかもしれないレシピについて訊ねるんだから、内密に話を進めるのが無難だろう。それなら最初からトップに話を通した方がいい。

 作った料理が魔族国にないものだと言われたのでレシピ登録の確認と相談をしたいとギルド長にメモを送ったら、すぐに伝言が飛んできた。



《音漏れ防止の結界を張りましたからご安心を。それで、レシピ登録の有無によっては何か不都合が生じそうなのですか?》


「ええ。もし登録ありならレシピ発見の情報元はわたしじゃないことにしたいですし、登録がない場合はレシピを秘匿するつもりなんです。それなら、カウンターで話を持ち込まない方がいいかと思いまして」


《なるほど。目立ちたくないあなたらしい選択ですね。今から来られますか?》


「はい。すぐに出ますので、よろしくお願いします」



 そんなやり取りを交わしてダッシュで商業ギルドへと向かう。

 ギルドホールに顔を出すと、チーフ職っぽい女性ギルド職員がススッと近寄ってきて、ギルド長室へ案内された。

 挨拶を交わし勧められたソファーに腰を下ろすと、テーブルの上に保存庫を取り出してシナモンロールを見せる。ギルド長もチーフギルド員もやはり見たことがないらしい。



「ほう。気まぐれなやり方でパンを焼いたらこの未知のパンができた、と。材料や作り方の詳細をお願いします」


「はい。パン生地を長方形に伸ばして薄くバターを塗り、砂糖とシナモンを満遍なく振り掛けます。それをくるくる巻いて輪切りにしたら断面を上にしてプレートに並べ、溶いた卵黄を塗ってからオーブンで焼く。以上です」


「え、それだけですか? 材料も手順もえらく簡素ですね」


「そうなんです。知人の魔族たちは見たことないって言うんですけど、こんなに簡単で、しかも独自の見た目を持つこのパンがレシピ未登録とは思えません。人々の記憶から消失してしまっただけで、レシピはどこかに埋没しているんじゃないかと思いまして」


「なるほど。連絡をもらった時は半信半疑でしたが、こうして実物を見せられた以上、我々としても調査せざるを得ませんな。さっそく確認させましょう」



 情報は多くないが、それらを元にチーフギルド員が商業ギルド内の全情報と照会してくれるそうで、すぐに作業に取り掛かると言って彼女は退室していった。

 王都建設時から蓄積している膨大な量の情報を抱えているんだ、データベース的な魔術具があるんだろう。


 結果が出た後のことについてギルド長と話を詰めてから商業ギルドを出た。

 レシピ登録があった場合は商業ギルドが発見したことに、登録がなかった場合はレシピを秘匿し公表しない、というわたしの希望を受け入れてくれるそうだ。

 レシピの発見、登録のどちらもかなり名誉なことなのでもったいないと言われたけれど、雑貨屋のわたしが飲食業界での名誉を得ても特にメリットはないし、本業以外のところで下手に注目されたくないから仕方がない。




 結果が出たら伝言を送ってくれるというので近場で時間を潰す。

 中央通り沿いのサンドイッチ屋で昼食を取り、その後小さな広場へ移動した。

 喫茶スタンドではシナモンを使ったお菓子に合う紅茶とミントミルクを頼んでテイクアウトし、カフェで注文したコーヒーを飲みながら読書する。

 さっきシナモンロールを食べたばかりだし、明後日からは精霊祭、ファンヌのお泊り会としばらくお菓子を食べる機会が増えそうだから、スイーツの屋台はスルーさせてもらった。

 手持ちの本を読み終えたので本屋へ行こうかと考えていたら、商業ギルドから伝言が届いた。結果が出たそうで、急いで商業ギルドへと戻る。



「ありましたよ! 信じられませんが本当に登録されていました。料理名は『シナモンロール』です!」



 チーフギルド員が興奮気味に話す。まさか料理のレシピで失伝しているものがあり、それを自分の手で発掘するとは夢にも思わないだろうから無理もない。

 でも、良かった。登録済みのレシピなら安心して皆に教えられるよ!

 今回のレシピ発見を本当に商業ギルドの手柄にしてしまっていいのかと再度確認されたので、わたしはレシピ発見の功績を商業ギルドに譲渡する旨を一筆書いてギルド長に預けた。

 ギルド長とチーフギルド員も、わたしがレシピの情報元だということは秘匿すると一筆書いて渡してくれた。すぐにこういう対応をしてもらえるような信頼関係を築けているんだなと嬉しくなる。

 それに、わたしの方は面倒事を引き受けてもらったという感覚なので、商業ギルドがこの件を手柄と捉えてくれたのなら良かったと、そのことにもホッとした。



「ならば、すぐにレシピ発見の報を公表しましょう。飲食業界の会員へ通達し、レシピの販売も即開始しますよ」



 おお~っ、さすが商業ギルド。手回しが早い!

 わたしとしてはすぐにレシピが広まって商品化されると嬉しいので、思わず拍手して喜んでしまった。

 すぐに動き出すようチーフギルド員が指示を出しに行ったので、わたしもレシピを入手して帰れそうだ。たまたま立ち寄った商業ギルドで発見されたレシピの話を聞いた、という体で知人に話しても問題ないらしい。やったね!


 登録されていたレシピを見せてもらったら、パン生地を作るところから始まっていてわたしの作り方よりかなり丁寧だった。プロ仕様なんだから当たり前か。

 本当にこのレシピで作ったものがシナモンロールと同じグラフィックになるか、あとで一応確認しておこうかな。

 ターヴィにわたしの手抜き版レシピを教えるならその方がいい気がする。


 レシピ代は1枚100Dとのことで、意外とお安い。値段に驚くわたしに、単価が安い食料品のレシピだからであって、すべてのレシピが100Dというわけではないとギルド長が教えてくれた。

 100Dくらいなら、料理人や料理好きな友人たちの分も買っていってレシピを配ろうかな。きっと欲しがるに決まっているもの。

 マッツのパン屋やノイマンの食堂でも出されるようになったら、わたしだけじゃなくターヴィも喜ぶんじゃないかな。



「じゃあ、10枚ほど買って帰りますね。カウンターで売ってるんですか?」


「ハッハッハ、このレシピであなたからお金を取るわけにはいきませんよ。はい、10枚。お渡ししますね」


「わあ、ありがとうございます! 本当にいつもお世話になってばかりで……」


「何の。商業ギルドはあなたから十分な利を得ておりますよ」



 今後ともよろしくと握手を交わしてギルド長室を出た。

 よし、すぐに帰ってこのレシピどおりに作ってみよう!


 ダッシュで帰宅――――する前に、小さな広場に寄ってスイーツの屋台の店員にレシピを1枚渡した。

 スイーツだけスルーして申し訳ないと少し気になっていたのでね……。

 今日出たばかりのお菓子のレシピだと言ったら喜んで受け取ってくれた。いずれ商品に加わったら嬉しいな。



 帰宅して、再びシナモンロール作りに取り掛かる。

 わたしはいつも出来合いのパン生地ばかりを使っていて、こねたり発酵させたりする本格的なパン作りは初めてだったからなかなか大変だったが何とかなった。

 これ、プロ仕様のレシピでもだいぶ簡単な部類に入ると思う。

 シナモンと砂糖はあらかじめ混ぜ合わせ、パン生地の上にのせて広げていく。振り掛けるより断然シナモンと砂糖の密度が高くなるから、味もぐっと良くなりそうだ。

 巻いてから焼くまでの工程は同じで、ささっと進めてオーブンへ放り込む。

 そして、焼き上がったシナモンロールを皿に載せ、パッと光った後のグラフィックは確かに実績解除で現れた『シナモンロール』と同じものだった。

 これでわたしの手抜き版シナモンロールも今回発見されたレシピと同じものだと言い切れる。

 ターヴィに教えても大丈夫だね! よし、連絡だ!



「隣のスミレです。ターヴィさん、今いいですか?」


《かまわんが、何か用か?》


「今日のお菓子は作り方がすごく簡単なので、良かったら一度一緒に作ってみませんか?」


《……二人きりで作るわけにはいかんだろう》



 返事が来るまで少し時間があった。内容からしても、NG抵触への懸念と作って食べたい気持ちの間で葛藤しているんだと思う。



「わたしの友人も一緒ならどうですか? 本当に簡単なので、いつでも好きなだけあのお菓子が食べられるようになりますよ」


《俺、本当に不器用なんだぞ》


「複雑な工程がないので、きっと大丈夫と思います。ダメで元々、とりあえず一度だけ試してみましょうよ」


《……わかった。よろしく頼む》



 よっしゃ――――ッ!!

 最後の返事が戻って来るまでにまた間があったが、とにかくターヴィを引っ張り出すことには成功した。あとは、ファンヌの同意を得るだけだ。

 事後承諾になってしまって悪いなと思いつつ、ファンヌに伝言を送る。



「今日ね、商業ギルドで新しいお菓子のレシピをゲットしたんだ。お泊まり会の時に作りたいんだけど、2号室のターヴィさんも誘っていいかなぁ?」


《まあ! スミレ、グッジョブよグッジョブ!! ああ、楽しみだわ!!》



 予想以上のファンヌの反応にわたしも嬉しくなる。

 今回はギルド公認のレシピだからファンヌも安心して楽しみにできるよね。糠喜びさせずに済んで本当に良かった!



「ターヴィさんね、大の甘党なのに思うようにスイーツを入手できなくて不自由してるんだよ。手抜きアレンジなら簡単に作れるから教えてあげたいと思って。ファンヌも一緒なら問題ないよね?」


《……念のため訊ねるけれど、その人に恋愛感情が芽生えたの?》


「は!? ないない! だって、気の毒なんだよ。好きなものを好きなように食べられないなんて、そんな辛いことないじゃない?」


《まあ、確かにそうね。わかったわ。二人きりじゃないし特に問題はないけれど、スミレの家へ入れるよりはあちらへお邪魔する方が無難だと思うの。必要な器具はこちらから持ち込むとして、キッチンだけお借りできるように頼めるかしら?》


「わかった!」



 ターヴィに伝えたら快諾してくれた。彼の方でも気になっていたようで、むしろ歓迎されたくらいだ。

 不愛想に見えたけど、気遣いの人なんだなぁ。ホント、人は見た目で判断したらダメだよ。




 さて、レシピの確認とターヴィとの約束も済ませたことだし、そろそろノイマンの食堂へ出掛けようかな。

 エルサとリーリャ用にレシピを1枚持って、と準備しているところへメモが飛んできた。

 おっ、ミルドからだ。



『明日戻る 晩飯一緒に食おうぜ』



 やった、ミルドが帰って来る!

 会うの3週間ぶりだよ。明日が待ち遠しいな!

読んでいただきありがとうございます。ブックマーク、いいね、評価も感謝しています。

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