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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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158話 日本食アイテムを試食する

 新たな食事アイテムが追加された以上、まずはひと通り試食してみなければ。

 わたしは作ったばかりの朝食を保存庫にしまうと、既存メニュー以外の日本食のアイテム6種類を1個ずつ購入し、ウキウキしながらダイニングテーブルの上に並べた。

 シナモンロールだけは何故か既存メニューのパンやスコーンと同じくむき出し状態だったので皿に載せたが、それ以外はどれも白くて四角い紙の箱だった。

 どうやら日本食は箱の中に入っているらしい。


 さあ、食べよう! 半年ぶりの日本食を!!



「朝っぱらからご機嫌だな」


「ギャッ! ……何だ、ブルーノさんか~。ああ、びっくりした」



 いそいそと箱を開けようとしていたら横から声が掛かり、びっくりして声のした方を見ると、窓からブルーノが顔を覗かせていた。

 いつの間に裏庭に入って来たの!?



「ちょっとブルーノさん、声も掛けずに勝手に入ってこないでくださいよ! んもう、おはようございます」


「おう、おはよう。朝飯時を狙って例の冒険者が来てないかと思って早めに来たんだが、建物の裏手をチェックしたついでに塀越しに覗いたらお前の姿が見えたんでな。わざわざ玄関へ回ることもないだろ。んで、お前が夢中になってたその白い箱は何だ?」



 文句を言いながらもキッチンの勝手口からブルーノを招き入れ、ダイニングへ案内する。

 うう、思いっきりニヤけていたところを見られたのか……恥ずかしい。

 さっさと日本食アイテムの話をして気を逸らそう。そうだ、ブルーノも一緒に食べないかと誘おうか。きっと喜んで乗ってくるに違いない!



「実は、ついさっき新しい食事アイテムが追加されたんです。それが何と元の世界のメニューでして!」


「ああ、それでニヤニヤしてたのか」


「もぉ~っ、半年ぶりに故郷の味が食べれるとなったらテンション上がるのも仕方ないでしょ! 今から試食するんですけど、ブルーノさんも一緒にどうですか? あっ、ついでにお願いが」


「ほう、飯なら付き合ってやるぞ。で、お願いって何だ」


「わたしたぶんお腹いっぱいになってしまうので、一人前食べられないメニューもあると思うんです。魔族的に1つの食べ物を分け合うのはNGだってわかってますけど、半分ことかひと口だけとか、お願いできませんか……?」


「お前なぁ……」



 ブルーノはすごく困った顔をして、満腹になったら回復魔術で状態異常を解消すればいいだろと言ってゴネたが、わたしが拝み倒した上にアイテムが1個300Dもするんだと言ったら渋々ながら折れてくれた。

 城下町の食事は35Dから50Dくらいが相場だというのに、とんでもなく高価なんだよ日本食アイテムは!

 白い箱に入ってなかったシナモンロールだけは何故か5Dで、他の食事アイテムと同じくらいの値段だったけれど。

 パッケージといい値段といい、設定ミスなんだろうか。それとも、わたしが見たことないだけで実は既存メニューなの?



「ねえ、ブルーノさん。このシナモンロールってメニュー、魔族国にあります?」


「いや、見たことねえし聞いたこともねえ。それにしても、これ6個で1800Dなのかよ……」


「いえ、シナモンロールだけ何故か5Dなので1505Dです。それでもわたしのひと月の食費の約3分の1ですよ。だけど、そのくらいの価値あると思ってますから! さあ、座ってください。早く食べましょうよ」



 そう言って、わたしは2つの箱を引き寄せた。

 まずは、おにぎりと味噌汁から食べるぞ!


 おにぎりの箱のふたを外した途端、白い箱がパッと消えておにぎりが2つ載ったトレーが現れた。

 おお! よくある海苔付きの三角おにぎりだよ。

 続いて味噌汁の方のふたも外す。現れたのはよくあるカップ入りのインスタント味噌汁のような感じで、ホカホカと湯気が立っている。しかもプラスチックの先割れスプーン付きだ。

 わたしは急いでティーカップとスプーンを持って来て味噌汁を半分に分けると、ブルーノに手渡した。

 得体の知れない器とカトラリーで食べるのは嫌だろうから、紙のカップとプラスチックのスプーンはわたしが引き取ろう。

 さあ、いよいよ食べますよ!



「いっただきまーっす。ふわあ、いい匂~い!」



 パシッと手を合わせていただきますをすると、わたしは紙のカップを両手で包み込み、匂いを嗅いだ。ああ、味噌の香りだ。

 たまらずひとくち口に含む。

 うわあっ、出汁だ! 味噌だ! 具はネギとわかめと……油揚げかな?



「ハァ~、おいしいよぉ~っ」



 生きてて良かった!と思いながら、ブルーノの感想はどうかなとテーブルの向かい側に目をやると、何故かブルーノが驚き顔で固まっていた。

 ハッ! わたし、さっき無意識で「いただきます」って言ったような!?



「あ、あの、いただきますというのは元の世界での食前の挨拶でして、ついうっかり出てしまいましたけど、人前では言ってませんから大丈夫ですよ!」



 わたしがそう言うとブルーノは片手で目を覆ってしまったが、ティーカップを口に運び味噌汁を飲むと、バッと手を外してカップの中身をまじまじと見た。



「何だこのスープ。何の味だ?」


「こちらの世界にはない味噌と出汁っていう調味料を使ってるんです。味噌は匂いが独特ですけど、ブルーノさんは大丈夫ですか?」


「確かに癖のある匂いだな。だが、うまい」


「おお、お口に合いましたか。良かった~。じゃ、今度はこちらのおにぎりを食べましょう。こうやって、手づかみで食べるんですよ」



 トレーに載ったおにぎりをそれぞれ1つずつ手に取ると、お手本を見せるつもりでぱくりとかぶりついた。

 もぐもぐとご飯を咀嚼する。ご飯の粒を噛んだ時の食感が懐かしい。ご飯の甘味が口の中に広がる。

 おいしいと懐かしいがこみ上げてきて、一瞬で涙が溢れた。

 おにぎりは具なし。でも却って良かった。ご飯と、塩と、海苔の味がしっかりわかって嬉しい。

 半年ぶりのご飯は、本当に、本当に泣くほどおいしかった。



「――おい、大丈夫か」


「はひ。だいじょうぶれふ」



 だーだーと涙を流しながら食べるのはちょっと大変だったけれど、半年ぶりにご飯食べたらそりゃ泣きますよ。日本人だもの。

 ハァ。だいぶ魔族っぽくなったと思っていたのに、一瞬でアイデンティティーが日本に引き戻されてしまった。味や匂いの記憶って強烈なんだなぁ。

 おにぎりと味噌汁はどちらも食べ終わった瞬間、器とプラスチックのスプーンがパッと消えた。

 使い捨ての紙カップや発泡スチロールっぽいトレーなど、この世界に存在しない材質だからだろうか。


 メイクが落ちない程度に手早くウォッシュして涙と鼻水を除去すると、今度はカレーライスに取り掛かる。

 分けるのに必要なので皿とスプーンと、ついでにラーメン用にスープ皿とフォークを持ってきた。

 箱のふたを取るとスパイシーないい香りがした。そして、やっぱりカレーも発泡スチロールの器にプラスチックのスプーン付きか。これもわたしが使おう。



「おっ? 嗅いだことがねぇ複雑な匂いがする」


「いろんなスパイスが混ざってるんですよ。刺激的でしょ?」


「この白いのはさっきの粒々と一緒か」


「はい、お米って言う食べ物です。もう、これが食べたくて食べたくて」



 カレーライスを3分の2くらい皿に移して、ブルーノに渡す。

 半分こでは満腹になってしまうと思って少なくしたのだが、この世界ではずっとスパイシーな料理を食べてなかったせいか、食べたらすごく食欲を刺激されて、もう少し食べたかったと思ってしまった。

 よくあるレトルトのカレーという感じで、具はほんの少しだけビーフっぽいのが入っているだけなのに、でもすごくおいしい。

 ブルーノもカレーが気に入ったらしく、うまいうまいと言いながらペロリと平らげた。もっと食べたそうな顔をしていて、強面のくせにちょっとかわいい。


 ラーメンにはやや手こずった。付属の割り箸で取り分けたのはいいが、ブルーノにフォークでの食べ方を説明するのが大変だったのだ。

 この世界には麺類がないので、スパゲティーのようにフォークをくるくる回して麺を巻き付けるように言ってもうまくできないようで、つるんと麺が逃げて行ってしまう。

 最終的にはスプーンも使って何とか口に運ばせたが、わたしは遠慮なく割り箸で勢いよくずずーっと啜って食べた。

 ちょっと麺が伸びてしまったけれど、シンプルなしょうゆラーメンはわたし好みでおいしかった。


 さて、食事はここまで。ここから先はスイーツだ。食事と比べてこの2つは少量だろうから、ちゃんと一人前ずつ食べることにする。

 まずはデザートのアイスクリームから……やっぱりカップのアイスか。それにプラスチックのスプーン付き。そして、おお、王道のバニラアイスだ!

 ここまで来るとさすがにブルーノももうプラスチックのカトラリーを見慣れたようで、躊躇なく手に取った。さすが軍人。適応が早いなぁ。



「うおっ、冷てえ! 何だこれ、口の中であっという間に溶けたぞ!?」


「凍らせたクリームですよ。へへへ、おいしいでしょ?」


「まあ、確かにうまいが……、こう早くなくなっちまうんじゃ物足りねぇよ」


「ブルーノさんにはそうかもしれませんねぇ。じゃ、お茶淹れるのでシナモンロール食べましょうか」



 手早くお茶を淹れ、追加でもう1つシナモンロールを購入して皿に載せる。

 がっつりこってり甘そうなタイプだったらちょっとヘビーだが、アイシングがかかっていないシンプルなシナモンロールなので、これならペロッといけそうだ。



「意外と普通だな」


「そうですね。シナモン入りの甘いパンと考えると、セムラから生クリームとナッツペーストを抜いた感じと言えなくもないですし」



 アイスクリームは食べ終わったら他の日本食アイテムと同じく器とスプーンが消えたが、シナモンロールは元々むき出し状態だったからか何も起こらなかった。

 ……これ、普通に魔族国のメニューじゃないのかなぁ。

 コーヒーや魚介類の料理や火の精霊族のスープのように、単に魔族に知られてないマイナースイーツだったりしない?

 グラフィックも白い箱じゃなく普通にシナモンロールのグラフィックだし、値段も5Dだし。

 再現できないか、一度試してみようかな。



 それはともかく、6品すべて食べて大満足! 久々の日本食はおいしかった!

 ネトゲの食料品の特徴を考えると、日本食アイテムもごく標準的で普通の味なんだろう。

 実際、冷静に考えてみればインスタント食品やコンビニで売ってそうな感じの見た目と味だったとは思う。

 でも、思い出補正があろうと、やはり故郷の味は特別なんだよ。


 しばらくほわ~と幸せな気分に浸っていたわたしだったが、お茶を飲み終わった後、ブルーノから半分こしたことへの口止めと盛大なダメ出しを食らった。

 獣人族と竜人族の異性の前で「いい匂~い」などと言ってはいけないらしい。

 そういえば、以前、夜間の独り歩きテストの後に獣人族と竜人族の匂いに関するNGを教わったことがある。

 特に今日は1つの食べ物を半分こするというNGを侵していた上に、うっとりとした顔で「いい匂~い」と言ったわたしは、ブルーノから見ると相当熱烈なお誘いをしているように映ったらしい。

 ブルーノが固まっていたのはいただきますに驚いたからじゃなかったのか……。

 お誘い関連のわたしのやらかしによく被弾しているブルーノには、毎度のことながら非常に申し訳なく思う。



「基本的に異性の前で“いい匂い”とは言わない方がいい。匂いについて話す時は“〇〇は香ばしい匂いがする”といった具合に対象を明確にして具体的に話せ。そして、絶対にうっとりした顔で言わないこと! いいな!?」



 ハイ、しっかりと肝に銘じマス。

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