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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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157話 ユーリーンの奇行とアイテムの実績解除

お盆中に3話投稿しています。未読の方は遡ってお読みください。

 新規客が増え連日サバイバル道具類が売れるという気忙しい週を終え、定休日を迎えた。

 2日間1つも予定が入っていないという、久しぶりに暇な休日だ。

 まったく予定のない休日っていつぶりだろう? 城下町へ引っ越してきて約2か月半で初めてな気がする。

 最初はエルサを誘おうかと考えていたけれど、グニラとの約束が星の日に入って気が変わった。少しでも陽月星記を読み進めて、より多くの話に対応できるようにしておきたい。

 どうせ陽の日は近所の飲食店が休みだから三食自炊だし、家でぐーたらしながら読書三昧に耽るとしよう。


 そんなわけで、朝食後すぐに読書開始。

 しばらく読み進めていると、内容がレーヴ湖事変の記述に差し掛かっていることに気付く。

 レーヴ湖事変とは、竜人族と獣人族の水争いに精霊族が巻き込まれた結果、周辺地域の魔素やエレメンタルに大きな影響が出る程の事態に発展し、魔人族が仲裁に入ってようやく収束を見たという大規模な騒乱である。

 魔族国建国へと繋がる歴史上非常に重要な出来事で、以前レイグラーフの講義で習った。

 ここからしばらくは腰を据えて集中して読んだ方がよさそうだな。食事の支度やその他の用事を先に済ませてしまおうか。

 そういえばフィルを切らしている。発酵屋は午前中なら毎日営業しているから、今のうちに買いに行ってこよう。

 オーグレーン屋敷の庭もひと月くらい行ってないし、ついでに飲むタイプのフィルを買ってきて休憩がてら東屋で飲んでこようかな。


 発酵屋へ行くなら裏口から出た方が近い。そう考えてキッチンの勝手口から裏庭へ出た瞬間、シュンッという音と共に目の前に突然文字が現れた。



《同じエリアに“ユーリーン”がいます。ご注意ください。》



 半透明の黄色を背景に赤色のネトゲ仕様の文字――イエローリストの警告だ!

 自宅周辺にユーリーンがいる!?


 わたしは即座にキッチンへ戻るとドアに鍵を掛けた。続いて店舗部分へ飛んでいきドアと窓の施錠を確認し、ちゃんと鍵が掛かっているのにホッと胸を撫で下ろしたのもつかの間、すぐに2階へと駆け上がる。

 窓際から外の様子を確認しようと思ったが、開け放ってある窓に近寄れば外から姿が見えてしまうかもしれない。

 こちらが警戒していることをユーリーンに気付かれるのは避けたいので、魔法の『透明化』を唱えて姿を見えなくしてから窓際に近づく。

 寝室の窓から表の道を見下ろしてみたがユーリーンの姿はない。そこで『生体感知』を唱えてみたらオーグレーン荘の裏手にそれらしい赤い靄が浮かび上がった。

 居間へ移動し、借景の池が見える窓から様子を伺うと、オーグレーン荘の角の路地にユーリーンの姿が見えた!

 ……と思ったらすぐに表側の道へと走っていった。慌ててわたしも寝室へ戻ろうとしたら、赤い靄がまた裏手へ移動する。

 どうやらオーグレーン荘の表と裏へ交互に移動しているようだ。わたしがどちらのドアから出掛けてもいいように見張っているんだろうか。


 居間と寝室の間にある廊下に立ち、壁の向こう側を往復する赤い靄を目で追う。

 ダッシュと呼べる程ではない。駆け足くらいのスピードだろうか。

 シャトルランみたいだな、そう思った瞬間プハッと吹き出してしまった。何やってるんだあの人。笑いながらも彼の行動原理に思い至る。

 ああ、魔人族は獣人族や竜人族のように嗅覚が優れてないから視認するしかないんだな。クランツが言うには、そもそもわたしは匂いがしないから嗅覚では位置を把握できないらしいけれど。

 赤い靄のシャトルランは続いている。ちょっと待って、笑いすぎてお腹が痛い。

 セキュリティー面に不安がないので元の世界のストーカー案件のような怖さはないとはいえ、警戒対象が自宅周辺にいるという状況なのに、ユーリーンの奇行のせいで先程までの緊張感が霧散してしまったじゃないか。


 笑いこけている間に『透明化』が解けていたので、もう一度掛け直して窓の外を見る。

 窓からぐいと身を乗り出したら再びイエローリストの警告文字が視界に現れた。

 エリア判定の線引きがよくわからないが、家の中に身を置いたまま警戒対象の有無を確認できるのはありがたい。

 シャトルラン続行中のユーリーンの姿にまたもや笑いがこみ上げてくるが、いつまで続けるつもりなのか、徐々にそっちの方が気になってきた。

 おそらく店内でのナンパを禁じられたため、今度はわたしが外出した時を狙って接触するつもりなんだろうが、このまま家に引きこもっていればスルーできる。

 とりあえず発酵屋は見送りだな。仕方ない。

 しばらく眺めていたがさすがに飽きてきたので、お茶を一杯飲んでから食事の支度を始めた。

 昼と夜の分の挟みパンとスープをまとめて作って保存庫に入れておこう。今日は食事を簡単に済ませて読書に集中したい。



 調理を終え、一度2階に上がってユーリーンの様子を見たらまだシャトルランを続けていた。

 さすがAランク冒険者、体力あるなぁ、と妙な感心をしてしまう。

 その粘り強さで仕事に取り組めば、冒険者としての評価も上がってもっとモテるようになるんじゃなかろうか。

 何て言うか、本当に残念な人だと思う。

 そのまま昼食を取り、片付けを終えてから再び外を見たら、何と隣の2号室に住む虎系獣人族のターヴィがユーリーンを誰何していた。

 ターヴィは第三兵団所属の兵士だ。分屯地所属ではないから城下町の警邏は管轄外だけれど、それでも不審者を見掛ければそりゃ動くよなぁ……。

 ガタイの良いターヴィに詰め寄られ、ユーリーンは大慌てで退散していった。

 ……挙動不審で近所の住人にまで警戒されて、これで更に付きまといのハードルが上がってしまったんじゃなかろうか。

 もうちょっとこう、段取りとか効率を考えて動こうよ……。



 そんな風に脳内でダメ出しをしているところへ、ブルーノから伝言が届いた。

 ナンパ系冒険者が店を訪れた件についてオルジフから報告があったものの、魔族軍の遠征訓練中で連絡できなかったらしい。

 大丈夫かと訊かれたので、該当者が午前中からオーグレーン荘周辺をうろついていたことと、たった今隣人に追い払われたことを伝え、今日明日と外出予定がないのでこのままやり過ごすつもりだと答える。



《まあ、お前んちの防御度は城並みだし、家から出ないなら今日のところは問題ないか。遠征は今日で終わるから、明日様子を見に行くつもりだ。そいつがまた来てたら面を拝めるな》


「今のところブルーノさんに出張ってもらうような切迫感はないんですけど、レイ先生が心配すると思うので一度見てもらえるとありがたいです。遠征明けでお疲れでしょうから、せめておいしいものでも紹介しますよ。ブルーノさんが一緒なら食事に出掛けても大丈夫でしょ?」


《それいいな。期待してるぜ》



 急遽ブルーノが様子を見に来てくれることになった。

 お礼に三番街のパイ専門店へ案内しよう。お惣菜用のパイはどっしりしていて腹持ちがいいから、大食漢のブルーノもきっと満足するはず!

 ついでにグニラとのトークイベント用にオレンジのパイも買っておこうっと。



 夕方になり、2階の窓を閉めに行った時に外の様子をチェックしたら、またイエローリストが反応した。

 『生体感知』で赤い靄を見れば、今度はシャトルランをしていないようだ。その代わり、オーグレーン荘の周りをゆっくりと歩いている。

 隣家を見てみたら鎧戸がすべて閉まっていたから、ターヴィがいないと見てまた見張りを再開したのかもしれない。

 ユーリーンが反対側を回っている間を見計らって2階の窓と鎧戸を閉めた。


 夜になってからは『生体感知』でチェックするだけに留めたが、7時頃に様子を見てみたらまたシャトルラン状態になっていて、気を抜いていたから思い切り吹き出してしまった。

 ちょっと待って。あの人、本当に何やってるの?

 今日は一日中読書しかしてないはずなのに何かすごく疲れた。笑い疲れだよ。

 適当なところで読書を切り上げて早く寝よう。




 翌朝いつもどおりに窓を開ける時に窓から身を乗り出してみたが、イエローリストは反応しなかった。

 ふむ。さすがにこんな朝早くからはユーリーンも来ないか。

 月の日はいつもならマッツとロヴネルの店に朝食を食べに行くのだけれど、今日は念のため出掛けずに自炊する。

 ブルーノは何時に来るとは言わなかったが、早めに食事を済ませておこうか。


 昨日はかなり手を抜いたから今朝はオムレツくらいは作ろうと、手早くプレーンオムレツを作った。

 菜箸代わりの編み棒と作業用手袋、そして重量軽減の魔術のおかげでかなり安定してオムレツを作れるようになっている。

 カリカリベーコンの隣にオムレツを載せると、パッと光って今日もちゃんとオムレツのグラフィックになった。

 よし!とガッツポーズしたその時、シュンッという音と共にわたしの視界に文字が現れた。



《実績解除! 新たなアイテム(食料品)が購入可能になりました。》



 キタ――――――――ッ!!!


 ネトゲ仕様のメッセージだ。地道に調理を続けた結果、食料品カテゴリにあった『実績未解除』のアイテムがついに解放されたのだ!

 大急ぎでバーチャルなウインドウを開き、仮想空間のアイテム購入機能の食料品欄を見る。

 すると、それまで『実績未解除』と表示されていた位置に金色のメダルのマークがついたアイテム名が並んでいた。


 ひゃあああすごいいいい!!

 『おにぎり』! 米だ、ご飯だご飯だ! ああダメ、泣きそう。

 『味噌汁』! ご飯に味噌汁とか、もう最高オブ最高!

 『カレーライス』! 国民食来た~ッ! ありがとうありがとう!

 『ラーメン』! 麺類来た! ああもう思いっ切り啜りたい。

 『アイスクリーム』! 嬉しいよぉ~。氷菓ないんだもん、この世界。

 ……『シナモンロール』? そういえば、この世界では見たことなかったかな。


 最初のいくつかが目に入った瞬間テンションが爆上げし、わたしは飛び上がってくるくる回って喜んだものの、シナモンロールあたりで少し冷静になった。

 その後『パンケーキ』、『スコーン』、『ドーナツ』と既存のスイーツが続き、更に『野菜のスープ』、『白パン』と既存のメニューで終わった。

 食料品カテゴリのアイテムは『食事』と野菜や肉、酒類や調味料などの『食材』の2つに分類されるのだが、11品の実績未解除アイテムは既存品を含む『食事』アイテムだったようだ。

 半分が既存のメニューで多少がっかりしたものの、これまで『食事』アイテムは『パン』と『パン(大)』しかなかったことを考えればかなり充実したと言える。

 そもそも、この仮想空間のアイテム購入機能はサバイバル生活のサポートが目的の機能のようだし、ちょっと期待しすぎだったかな……。



 それでも、6種類の日本の『食事』メニューの追加はマジで嬉しい!

 何でシナモンロールなの?とは思うけどね。スイーツならそこはショートケーキとかじゃないの?

 でも、おにぎりと味噌汁、カレーにラーメン、そしてアイスクリームとシナモンロール。これだけあればわたしは元気に生きていける!

 ネトゲの開発者よ、ありがとう!!


 ああ、最初に何を食べよう!? 迷っちゃうよー!!

ブックマーク、いいね、☆の評価ありがとうございます!

感嘆符だらけの箇所は読みづらかったですよね、すみません。でも興奮するのも無理ないと思うんです。どうぞお許しを。

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