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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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156話 魔人族Sランクの来店とヤノルスの提案

昨日一昨日も投稿してますので未読の方は遡ってご確認ください。

お盆の3日連続投稿は今日まで。次回からは通常どおり木曜投稿です。

 ヤノルスの謝罪は先日の苦言に関してで、どうやら昨日のユーリーンの件を聞いて的外れな批判をしたと思ったらしい。



「たかがナンパの1人や2人くらいでと軽く考えていたが、巡回班を呼ぶような迷惑を受けているとは思ってなかった。昨日もしつこく絡まれたらしいな……状況も知らずに批判してすまなかった」


「そんな、ヤノルスさんに謝ってもらうようなことじゃないですよ! わたしの考えが足りなかったのは事実だから指摘してもらえて良かったと思ってますし……。というか、もう昨日のことご存じなんですか? めちゃくちゃ情報早いですね」



 さすがヤノルス。ミルドとヨエルを除いた上位ランクの中で、最も早くこの店にやって来た情報通のAランク冒険者。

 ヤノルスの情報網ってどんな構成なんだろう。すごく興味あるけれど、職業上の秘密もあるだろうからさすがに聞けないなぁ。


 あっさりと彼の謝罪を流したわたしに納得がいかない様子のヤノルスだったが、そこへ今度は採集専門Aランクのヨエルが来店した。しかも同行者ありだ。

 何だか急に店内が賑やかになってきた。犬族が来ているわけでもないのに、うちの店にしては珍しい。



「よう、スミレちゃん。今日は新規の客を連れてきたぞ~。レンタルサービス希望者じゃ」


「いらっしゃいヨエルさん。ご紹介ありがとうございます。お連れ様もいらっしゃいませ」


「おっ、ヤノルスも来とるんか。ほんじゃ、先にカタログでも見せとくかのぅ」


「俺は急ぎじゃない。そっちから先に用を済ませてくれ」


「ほー。そんじゃ、そうさせてもらおうか」



 ヨエルが連れて来たのは彼と同じ精霊族で、Bランク冒険者だそうだ。

 ヨエルにサバイバル道具類の良さを聞かされたが、まだBランクになって日が浅く稼ぎが安定していないため、3点一気に買い揃えることは難しい。

 そこで、どの順でアイテムを購入するのがよいか、レンタルサービスで一度試してみながら考えてみたいという。

 なるほど、中堅の冒険者だとそういう利用目的もあるのか。

 Sランクのほとんどが購入したことで、このアイテムの冒険者界隈における信頼はほぼ確立したのだろう。

 レンタルサービスの需要は次の段階へ進んだと見てもいいのかもしれない。


 テントは成人の魔族男性が2人寝られる大きさなので、2人で借りるとレンタル代が折半できると一応勧めてみたところ、彼の得意フィールドは湿地帯でソロ向きな冒険がメインなんだとかで一人で借りることになった。

 犬族冒険者集団ではテントが最優先だったが、葦の群生地などでは満足にテントを張れる場所がないこともあると聞くと、サバイバル道具類3点の優先順位は人それぞれなんだなと実感した。

 冒険のスタイルだけでなく部族や種族によって生態も異なってくるから、稼ぎのいい上位ランクのように一気に買えないなら購入順を吟味する必要が出てくるというのもわかる。

 おもしろいなぁ。こういうリアルな冒険に基づく話を聞いていると、本当にわくわくしてしまう。


 レンタルサービスはちょうど空いていたので、精霊族Bランクの彼は今日さっそく借りて行くことになった。

 手続きでデモンリンガの情報を見たら“草性精霊族(葦)”で、なるほど、確かに湿地が得意そうだと納得する。

 さて、レンタル料の支払いの前に賠償責任保険の説明を、という時になってまたドアベルが鳴った。

 うわっ、このタイミングで魔人族Sランクのスーパーモテ男さまがご来店! しかも、何か後ろに女の子が2、3人いる!?



「お、ついに魔人族Sランクも来たか。ほれ、入れ入れ」


「サバイバル道具類を買いに来たんだが……混んでるな。悪いけど、君たちは外で待っててくれ」


「は~~い」



 うちはこぢんまりとした店だから、先客が3人いるところへ更に3、4人入ったら結構混雑する。ありがたい配慮だ。

 女の子たちの返事を聞くと魔人族Sランクは店のドアを閉め、手招きするヨエルの方へ近寄っていく。



「スミレちゃん、カタログと品質評価ノート取ってくれんか。ほい、ありがとよ。レンタルの説明が終わるまでこれでも見とくとええ。ちなみに、わしのお勧めはこの魔物避け香じゃ」


「ほう、こいつか。じゃあ、ヤノルスのお勧めは?」


「脱出鏡だな。ギルドでも買えるが在庫が少ないらしいから、個数揃えるならこの店で買う方がいいぞ」


「へえ~。そういえば、空の魔石が結構使えると長老が言ってたんだが、使ったことあるか?」


「いや、わしはない」


「俺もないな。空の魔石をどう使うんだろう」



 うう、応接セットで繰り広げられるSランクとAランクのアイテム談議がすっごく気になる!!

 でも、こちらの説明が終わらないとその間Sランクと外にいる女子の皆さんも待たせることになるから、グズグズしてはいられない。

 集中してテキパキと説明を行い、決済を済ませてレンタルセットを手渡す。

 Bランクの彼も他のアイテムが知りたいらしく、カタログを手に応接セットへ向かい、入れ替わるようにして魔人族Sランクがカウンターへやって来た。



「お待たせしました。サバイバル道具類はこちらの3点です」


「ありがとう。あとは、魔物避け香と脱出鏡を20ずつ頼む」


「はい、お買い上げありがとうございます」



 倉庫からお盆に載せて持ってきた消耗品の数をSランクに確認してもらう。

 その作業の間、わたしたちのやり取りを見ていたヨエルが声を掛けてきた。



「なあ、スミレちゃん。お前さん、よくそいつの前で平然と商売できるのぅ」


「それ、昨日も冒険者ギルドで言われましたよ。言っときますけど、わたしだってこちらの方のことはちゃんとかっこいいと思ってますからね! だけど、初対面のNGに引っ掛からないように気を付けなきゃいけないでしょう?」


「ああ、一応そういう意識はあるのか。昨日のギルドでの話を聞いて、俺はてっきり人族の美意識がおかしいんだろうと思っていた」


「ちょっとヤノルスさん、酷くないですか!? 単に自分には関係ないと思ってるだけですよ。眼福だな~とは思いますけど」



 わたしたちが軽口を叩き合っていると、魔人族Sランクがプッと吹き出した。

 どうやら数を確認し終えたようだ。



「俺にとっては君みたいな反応はありがたいよ。女性店主の店に行くとなると、いろいろと気を遣うからな」


「あ~、それでああして引き連れて来たんか。お前さんも大変じゃのう」


「そうでもないさ。だが、今日は初回だからお前らがいてくれて助かった。おかげで気兼ねなく買い物できたぜ」



 そうか。店に他の客がいなかったら2人きりになってしまうから、それを避けるための配慮だったのか。

 ミルドもそうだけれど、スーパーモテ男さんは更に気苦労が多そうだなぁ……。

 しかもSランクだからそっちの影響力も大きいし、男女関係なく全方位に配慮が必要だなんて大変だろう。

 だけど、そうでもないとクールに言い切ってしまうところが非常にかっこいい。

 気遣いのできる良い人で、冒険者としてトップクラスの実力と実績があり、更に長身のイケメンで、尚且つ気風もいいとか出来すぎじゃないですかね!?

 そりゃモテるわ……。わたしが反応鈍い扱いされるのには不満はあるけど……。


 そんなことを考えつつ、決済を済ませようとしたところでちょっとした不意打ちを食らった。

 いや、単にデモンリンガで情報を目にしただけなんだけど!



 魔人族のSランクさま、名前がイーサクっていうんだよ。



 何だか日本のクラシックな男性名に似ていて、つい、伊作さん?なんて思ってしまったせいで、わたしは表情筋を総動員する羽目になった。

 笑ったら失礼!笑ったら失礼!頑張れわたしの表情筋!!と、もう必死に笑うのを我慢したよ。

 だって、スーパーモテ男さんと伊作さんじゃギャップがありすぎるじゃない。

 ああ、腹筋が死ぬかと思った……。


 でも、そのせいでまったく愛想のない顔になっていたのは結果的に良かったと思う。

 魔人族Sランクのイーサクが店から出て行くのを見送った後、ふと窓からこちらを覗き込んでいる女の子と目が合った。

 お待たせしてごめんなさいねと思って軽く会釈したら、びっくりしたように目を瞬いていたので、もしかしたらイーサクに色目を使うんじゃないかと警戒されていたのかもしれない。

 わたしが彼女たちを脅かさない無害な存在だとわかってもらえたかと考えると、引き連れてきてもらって良かったと言える。




 ヨエルとBランクも用を済ませると帰って行った。

 ところでヤノルスは何で残っているんだっけと考えを巡らせたところで、ハタと謝罪されたことを思い出す。



「あの、ヤノルスさん。本当に謝罪なんていりませんから。むしろ、あれで頭冷えまして、ちゃんと対策する気になりました」


「対策? どうする気なんだ」


「えっと、今犬族冒険者集団の皆さんに情報を集めてもらってまして、具体的なことはその結果を見てからになるんですけど……。一応方向性としては、相手の弱みか嫌がることがわかるといいな~、なんて考えてます」


「ほう?」



 弱みを握って脅す、なんてことを考えていると明かすのはさすがに気が引けて、てへへと頭をかきながら打ち明けたのだが、ヤノルスはニヤリと笑って興味を示した。



「上手くいくかどうかわからないので、悩んだ時は相談させてください」


「わかった。だが、それとは別に、最終手段について提案がある」



 快諾してもらえてホッとしたのもつかの間、最終手段という不穏なワードが出てきて思わずビビる。



「あんたがイーサクに靡かなかったことが広まると、却ってあんたを口説き落とそうと考えるヤツが出てくる可能性がある」


「ええっ!? そんなぁ~」


「難攻不落のダンジョンがあれば攻略したくなる、それが冒険者だ」


「そう言われると……うう」



 わたしのイーサクへの反応を見て、昨日サロモはわたしのお誘い不要と恋愛お断りが本物だと認識される、おめでとうと言っていたのに、ヤノルスはまったく逆の見方をするんだなぁ……。

 集団行動メインの冒険者の多数派を主眼に置いたポジティブな見解と、ソロ活動メインの冒険者の少しの可能性も見過ごさない用心深い見解。

 どちらも獣人族の冒険者なのに相反する意見になるのが興味深い。でも確かにどちらも可能性はあるのだ。

 こうして両方の視点を示してもらえる位置にいるわたしはとても得をしている。

 どちらもこの店の客となってからの縁だけれど、親しくなれてラッキーだったとしみじみしていたら、ヤノルスがとんでもない爆弾発言を投下した。



「あんたがいろいろ考えて対策してもどうにもならなかった時、最終手段として俺と付き合っていることにしたらいい」


「ヘッ? ヤノルスさんと、わたしが?」


「ああ。もちろんただの偽装だ。だが俺の名前を出せば、まずあんたにちょっかいを掛ける冒険者はいなくなる。……俺に報復されたくないだろうからな」



 報復ッて何!?と思ったけれど、確かに彼氏がいると偽装するのが一番手っ取り早いのは事実だ。わたしもまったく考えなかったわけじゃない。

 ただ、誰を相手に偽装するかが難しいし、やっぱり恋愛する気あったんじゃないかと言われてしまうのが面倒だから極力避けたい手段でもある。

 ヤノルスは現在彼女がおらず当分作る気もないそうで、口裏を合わせてやるから最悪の時は自分の名前を使えと言ってくれた。

 警戒心が強く情報に通じたヤノルスが断言するのだから、何らかの裏付けがあるのだろう。一体どんな報復なんだ……恐ろしい。


 詫び代わりだと言われたら固辞できず、結局お守り代わりとさせてもらうことになった。

 まあ、使わずに済めばいいわけだし。

 とりあえず、当面は穏便にユーリーンを退ける方法を模索しよう。

読んでいただきありがとうございました。

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次回は通常どおり木曜(8/18)に投稿します。

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