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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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155話 スーパーモテ男との遭遇とグニラからの伝言

お盆期間中は3日連続で投稿予定(12時)! 昨日も投稿しているので未読の方は一話前からご覧ください。

 冒険者ギルドのカウンター前で、びっくりするようなイケメンと遭遇した。

 いや、厳密に言うと雰囲気イケメン? 顔の造作だけならクランツの方が整っていると思う。ただ何というか、その全体の雰囲気が素晴らしい。

 小麦色に焼けた肌にくっきりした力強い眉は非常に男らしいし、長身でがっしりした体躯は野生的な魅力に溢れている。

 なのに、目元が柔らかいからか怖そうな感じはしないし、どこかしら清廉な色香のようなものも感じられ、何とも絶妙なバランスで成り立っている。


 これが魔族のスーパーモテ男か。

 すごいわ。元の世界でも間違いなくモテるよ。



 そのスーパーモテ男から、何とわたしに声が掛かった。

 うおっ、初対面につき要注意! クールにビジネスモードを発動せよ!



「シネーラ着てる若い女性ってことは、君が雑貨屋の店長? 俺、サバイバル道具類を勧められてるんだ」


「はい、獣人族のSランクお2人から伺ってます」


「そうなのか。明日買いに行くつもりなんだ、よろしく頼む」


「ありがとうございます。お待ちしておりますね」



 そう言うと魔人族Sランクは軽く手を上げてギルドから出ていった。

 ひゃー、ドッキドキした。めちゃくちゃ爽やか。白い歯が眩しい。

 イケメンすごいな。たったこれだけの会話なのに、間違いなく血圧上がったよ。

 そりゃ、ギルドホールもざわつくわ。Sランク+スーパーモテ男と考えると、影響力すごそうだなぁ。


 それはさて置き、こちらもさっさと高級ピックの納品を済ませよう。

 ハルネスの前へ行き、高級ピックの入ったカトラリーボックスをバッグから取り出してはカウンターの上に積んでいく。

 前々回の700本の納品の際、さすがに数を数えるのが大変だろうと100本ずつ入ったカトラリーボックスごと持ち込んだら、ギルド員にものすごい勢いで食いつかれた。

 高級ピックの数を数える作業にはギルド員たちも苦労していたらしく、わたしの仕分け法を話したら冒険者ギルドでもすぐに導入されたようで、前回の納品時からギルド側もカトラリーボックスを用意するようになっていた。

 なのに、ハルネスはカトラリーボックスを出すこともなく、呆然とこちらを見ている。

 え、何? 依頼は高級ピックで合ってるよね?



「もしもし、ハルネスさん? 数えなくていいんですか?」


「……あんた、すげえな。あいつ見て平気なのか」


「は? 何のことです?」


「店長! 今の男がさっき言ってた魔人族のSランクなんだってば」


「ええ、そのようですね。さすが魔族のスーパーモテ男、かっこ良すぎてびっくりしました」


「……そんだけ?」


「そんだけ、と言いますと」


「初対面であいつと話してぽわ~っとならなかった女、今のギルド長以外で初めて見たぞ」


「……すごいなー。俺、逆にちょっと引くわ。何でそんなに平気なの、店長」



 ハルネスとサロモに詰め寄られ、どうやらスーパーモテ男に対するわたしの反応はかなり鈍かったようだと察する。

 周囲を見ると、ギルドホールにいた冒険者やギルド員たちも驚いたような顔をしてこちらを見ていた。

 えっ、そこまで驚かれるようなことなの!? 言っておきますけど、決して軽んじてなんかいませんよ!?



「いや、だって初対面なのに騒いだら失礼じゃないですか。それに、あれだけかっこいいなら相当モテるんでしょうし、下手なこと言って彼に憧れる魔族女性の反感を買うような真似したくないですよ恐ろしい。危うきに近寄らず、鉄則でしょ?」


「ハァ~、危機感の方が勝るのか。理性の完全勝利だな」


「……これは即広まるよ。俺らがせっせとクチコミで広めるより断然強いや。今の店長の態度ひとつで、冒険者界隈は掌握したようなもんだな……」


「んん? サロモさん、それどういう意味ですか」


「あの男に靡かなかった、つまり店長のお誘い不要・恋愛お断りは本物だと冒険者界隈では認識されるということさ。おめでとう」


「ありがとうございます?」



 イマイチ腑に落ちないが、何となく理屈は理解した。

 Sランクの影響力にスーパーモテ男の影響力が加味された、あの魔人族Sランクの影響力はとにかくすごい!ということなんだろう。

 ただ、わたしの望んでいた状態に落ち着くのはありがたいのだけれど、鈍いと貶されているとしか思えないのがちょっと癪に障る。

 実利重視な性分だし、恋愛意欲の低いアラサー地味女だから別にどう言われようといいけどさー。ブツブツ。



「話が広まって、それでナンパしてくる冒険者がいなくなってくれればいいんですけどね。毎度営業中に来られるの、本当に迷惑なんだから」


「何だ、そんな冒険者がいるのか?」


「Aランクのユーリーンって人がですねぇ……」



 ナンパの件でハルネスに愚痴を零したが、ハルネスはユーリーンの素行についてよく知らないようだった。

 あいつは真面目に冒険者やってないからな、という言葉が示すとおりあまり熱心に依頼をこなしておらず、冒険者ギルドに顔を出す頻度も高くないようだ。

 店から出て行かないため巡回班を呼んで説得してもらったことがこれまでに2度あったと話すと、ギルド長の耳に入れておくと言ってくれた。

 実はギルド長には既に話を通してあるのだが、他のギルド員や冒険者もいるからこの場でハルネスに伝えるのはやめておこう。


 念のため家まで送るとサロモは言ってくれたけれど、イエローリストに登録したからユーリーンとのニアミスは確実に避けられる。

 それよりは早く情報収集に向かって欲しかったので、丁重に断り礼を伝えた。

 今頃サロモ以外の犬族冒険者集団47人が駆けずり回って情報を集めてくれているかと思うと、ありがたくて頭が下がる。

 彼らにもよろしく伝えて欲しいと言って冒険者ギルド前でサロモと別れると、わたしはダッシュでノイマンの食堂に向かった。

 スーパーモテ男との遭遇で驚愕のあまり忘れていたけれど、今日はたくさん怒りまくったせいかお腹がぺこぺこだよ。




 夕食を食べながらエルサとノイマンに愚痴を聞いてもらったにも関わらず、翌朝になってもイマイチ憂鬱な気分は晴れなかった。

 いつものように窓を開けて空気を入れ替え、一緒に流れ込んでくる精霊たちを見送りながら、今日は面倒事が起こりませんようにと空に向かって弱気な願いを祈ったりしてしまった。

 朝食時にはマッツとロヴネルにも元気がないと言われ、こんなことじゃダメだと頬を軽く叩いてからモリモリと食事を頬張る。

 帰宅したら、気合いを入れて店を開けた。

 魔人族のSランクが今日買い物に来るようなことを言っていたし、あらかじめ仮想空間のアイテム購入機能でサバイバル道具類3点を買って準備しておこうか。


 カウンターの内側でアイテムを取り出しているところへ、伝言が届いた。

 おお! 樹性精霊族の老婆、グニラからだ!



《近い内にお邪魔しようと考えておるんじゃが、火の日以降で都合の良い日はありますかな? お客の少ない時間帯があれば教えてくだされ》



 ひゃっほー! 陽月星記のヲタトークイベント開催のお知らせキタ――ッ!!

 前回のグニラの来店からもうひと月くらい経つ。

 あれから随分と陽月星記を読み進めたから、今度はグニラの好きなエピソードについて話が聞けるといいなぁ。

 あああ、楽しみだ。楽しみすぎる!――からこそ、できれば営業日の開催は避けたい。


 最近はありがたいことに冒険者の新規客の来店が増えていて、前回のように暇な時ばかりではないのだ。

 しかも、新規客のほとんどがサバイバル道具類の購入だからしっかり対応しないといけない。

 ましてや、もしもナンパ野郎に場をかき回されたりしたら、わたしマジでブチ切れる自信ある!



「星の日はいかがでしょうか。定休日なので、店のことを考えずおしゃべりに専念できるんです。時間は午前、午後、どちらでも大丈夫なので、グニラさんのご都合の良い方でどうぞ」


《ほほう、それでは星の日の午後1時にお邪魔しましょう。ところで、どのあたりまで読まれましたかな?》


「今17巻です。グニラさんのお気に入りの話は入っているでしょうか」


《結構進んでますなぁ。読了のようじゃから楽しみにしておりますぞ》


「こちらこそ! では、お待ちしておりますね!」



 伝言でのやり取りを終えたわたしは喜びのあまり、思わずカウンターの中でくるくると回ってしまった。

 やった! 定休日にグニラとゆっくり陽月星記トークができる!!

 明日からの連休は珍しく何も予定が入ってなかったので、エルサを誘ってどこかへ行こうかと考えていたけれど、せっかくだから星の日に備えて陽月星記を読み進めよう。そうしよう!

 俄然やる気が出たわたしは鼻息も荒くカウンター内のスツールに腰を下ろすと、さっそく陽月星記を読み始めた。

 さっきまで憂鬱な気分を引きずっていたくせに、我ながら単純で現金で笑える。

 ふはは、今日はユーリーンが来ても無視して読書してやるぞー!



 午前中に新規で竜人族のAランク冒険者が来店し、サバイバル道具類3点を購入していった。

 魔人族Sランク用に出しておいた品を渡したので、再びアイテムを準備し直す。

 それにしても、やはり店に出入りし始めたのが早い部族ほど新規客の来店も多い気がする。

 冒険者の来店状況としては、ミルドやソルヴェイたち獣人族がぶっちぎりで多いのは当然として、次がヨエルたち精霊族、僅差でメシュヴィツたち竜人族、そして来店者1、購入者0なのがユーリーンたち魔人族だ。

 冒険者全体で見ると、半数を占める獣人族に次いで4分の1を占めるのが魔人族らしいのだが、うちの店では非常にお寒いことになっている。

 大きな声では言えないが、冒険者全体の1割にも満たない――つまり犬族冒険者集団よりも人数が少ない竜人族冒険者より更に少ないのだから驚く。

 それだけ魔人族冒険者との付き合いが薄いということなのだが、わたしの交友関係の中ではどちらかと言うと魔人族は多い方なので、店とプライベートの逆転現象は少し意外だ。

 まあ、ユーリーンしか来店していない現状ではむしろ疎遠でいたいと思ってしまう。でも、今日Sランクが来店すればまた流れも変わっていくだろう。


 そんなことを考えながら、カウンターの陰でバーチャルな空間からサバイバル道具類3点を取り出していると、ドアベルが鳴りヤノルスが店に入ってきた。



「いらっしゃい、ヤノルスさん。3日前に来たばかりなのに、短期間で顔を見せるのは珍しいですね。何か買い忘れでもありました?」


「いや、買い忘れはないんだが……」



 いつものように鋭い目つきで店内をザッと見渡すと、ヤノルスは少々口ごもった後、唐突にわたしに向かってすまないと謝罪をした。

 な、何故に!?

ブックマーク、いいね、★の評価ありがとうございます!

明日も投稿しますので楽しんでいただけたら嬉しいです。

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