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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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153話 ナンパ系冒険者再び

お盆の3日間は毎日投稿する予定でいます。投稿時間はまだ決めてませんが、チェックよろしくお願いします!

 ミントミルクをテイクアウトした後、コーヒーとスイーツと読書をたっぷりと楽しんだ。

 興味があったので、帰宅してからさっそくミントについて調べてみる。

 食料品店でミントを見掛けたことはない。仮想空間のアイテム購入機能で見た気がするけれど、食料品欄にはなかったはず。

 バーチャルなウィンドウを広げて仮想空間のアイテム購入機能を見たら、ミントは「薬・素材」のカテゴリにあった。

 薬効は鎮静。なるほど、心穏やかになる効果があるのか。道理でミントミルクが凹んだ気分に効くわけだ。


 試しに仮想空間のアイテム購入機能で牛乳とミントを買い、自分で適当に作ってみたらすごく青臭く仕上がった。……うう、これはちょっと厳しい。

 うん。ミントミルクは喫茶スタンドで飲もう、そうしよう。コーヒーと同じで、小さな広場で飲む特別な飲み物ということで決まり!

 わたしにとって、あの小さな広場はますます大事な憩いの場になってきた。

 店員の彼らとは今後もうまく付き合っていきたいものだ。




 そんな、ミントミルクに癒された翌日の営業日。

 魔人族のAランク冒険者がやって来た。

 そう、あいつだよあいつ! 例のナンパ系冒険者のユーリーン!!



「やあ、久しぶり」


「…………いらっしゃいませ」



 店で品物を見たり買ったりしない者は客とは呼べない。客と呼べない者に対していらっしゃいませと言う必要はあるのか。

 しかし、前回買い物をしなかったから今回も買わないだろうと決めつけて、頭から客扱いしないのもいかがなものか。

 そんな煩悶を数秒味わってから口を開いた。この人にいらっしゃいませなんて言いたくないが、とりあえずは言わざるを得ない。

 今日は普通に買い物をしてくれればいいんだけどなぁ……。



「フッ、焦らした甲斐があったみたいだな。俺が来るのを待ってたんだろ?」


「……は? いえ、全然待ってませんが。今日は何をしにいらっしゃったんでしょうか。買い物をしないのならお帰り願います」



 わたしの願いも空しくユーリーンは訳のわからないことを言い出した。一体どんな謎理論でその考えに至ったのかと疑問に思うが問いたくはない。

 ヤノルスにナンパってたった1人?、しかもたった1回来ただけ?みたいな顔をされて自意識過剰だったかと深く反省したのに、やっぱりまたナンパしに来たじゃないか!

 昨日1日凹んでいたわたしが馬鹿みたいだよ……。

 いいからもう早く帰って欲しい。



「そういう駆け引きはもういいって。仕事終わるの待ってるからさー、今日こそ食事行こうよ」


「お断りします」


「待たせ過ぎたから拗ねてんの? ごめんな、誘いが多くてなかなか都合がつかなかったんだよ」


「いえ、全然拗ねてませんし、誘ってもらわなくて結構ですから他のお誘いの方に行ってください。ではさようなら」


「何だよー、嫉妬してんの? 参ったなあ」



 あああああ、うざいんですけどおおおお!!

 ダメだ。わたしはそれ程沸点低い方じゃないはずなんだけど、この男を相手にしていると簡単にブチッとキレてしまいそうだ。

 眉間にしわが寄りそうになるのを必死で食い止める。頑張れわたしの表情筋!



「どこをどう聞いたらそういう解釈になるんですかね。これを最後にしますが、買い物をしないのであれば客と見なしません。お帰り下さい。帰らないなら営業妨害として巡回班を呼びます」


「客以外とは話さないって? それじゃ、君とどこで交流したらいいのさー」


「客と店員として交流すればいいんじゃないですか。それ以外の関係は求めてませんので。まあ、買う気がないなら結構ですよ。お帰り下さい、さようなら」


「そんな味気ない関係じゃつまらないじゃないか。それを進展させるためにまずは食事に行こうって誘ってるんだろ?」


「本当に話通じませんね! 進展なんて望んでません! 通告どおり巡回班を呼びますよ。――雑貨屋のスミレです。営業妨害する人がいて困っているので来ていただけませんか。お手数をおかけしますがよろしくお願いします」



 またもやキレそうになったが何とか踏みとどまると、さくっとオルジフに伝言を送った。前もって話をつけてあるからわたしに迷いはない。

 ユーリーンはわたしが本当に巡回班を呼ぶとは思ってなかったらしく、あれこれ文句を言ってきたが、そこへ犬族Aチーム1班のサロモとCチームリーダー3人が来店した。

 今日はレンタルの返却日だからCランク君たちが来るのはわかっていたけれど、サロモも一緒に来るとは思っていなかったので少し驚く。



「お姉さん、こんにちは!」


「こんにちは。いらっしゃいませ」


「おいこら、馴れ馴れしくしすぎだぞ。ちゃんと店長と呼べって」


「えーっ、別にいいじゃん」



 Cランク君たちが反論しかけると、サロモはユーリーンをチラ見した後、気持ち声を大きくしてCランク君たちに説教をし始めた。



「いいわけあるか。ここの店長はお誘い不要、恋愛お断りだって知ってるだろ? お前らのそういう馴れ馴れしい態度を見て、彼女が恋愛OKだと勘違いするヤツが出たらどう責任を取るつもりなんだ」


「わかったよ~。ごめんね、お姉……店長」


「いえ、わたしの方もなあなあにしてたので……。サロモさん、お気遣いありがとうございます。そういう勘違いは本っ当に困るので助かります」


「どういたしまして!」



 サロモはニヤッと笑うと、ユーリーンから見えない位置でウインクしてみせた。

 ナンパ目的の冒険者の来店を減らしたいと伝えてあったから、おそらくサロモはユーリーンの姿を見て彼が原因だとわかったんだと思う。

 こういう人の話を聞かないタイプはきっと余所でも似たようなトラブルを起こしていそうだし、冒険者界隈でもそこそこ知られているんじゃないだろうか。

 サロモは素知らぬ顔でユーリーンに訊ねる。



「レンタルセットを返却したいんだけど、そっちは買い物済んだの?」


「俺? 俺は買い物じゃなくて――」


「何だ、客じゃないのか。じゃあ、俺ら優先でいいよね? おい、レンタルセット3点ともカウンターに乗せて。店長に確認してもらうから」


「はーい。よいしょっと」



 Cランク君たちは肩に担いでいたレンタルの品をおろすと、次々にカウンターの上へ載せていく。

 わたしはそれをチェックする素振りをしながら視線でタップしてアイテム情報を見た。よし、耐久値に変化はない。



「はい、OKです。丁寧に使ってもらったみたいですね」


「ヘヘッ、だって新品だったし!」


「オレら今後も使わせてもらうからさー、綺麗な方がいいじゃん」


「こらこら、もうちょっと取り繕えって」



 Cランク君の1人がサロモに頭を小突かれて笑いが起こる。犬族冒険者集団のこういうところ、本当にフレンドリーで和むなぁ。

 空気が少し和んだこのタイミングで巡回班班長のオルジフが到着した。

 店内に5人もいたのが予想外だったらしく驚いた顔をしている。



「うおっ、今日は珍しく人が多いな」


「珍しくって失礼な。忙しいところをすみません、オルジフさん。営業妨害はこちらの魔人族の方です。よろしくお願いします」


「ちょっとー、酷いじゃないか。俺はただ食事に誘ってただけだろ?」


「はいはい、ちょっとこっちで話を聞こうか」



 そう言ってオルジフは店の隅にユーリーンを連れて行くと事情聴取を始め、その後は地道に説得をしてくれた。

 同じ魔人族のオルジフに営業妨害をするなと言われ、そんなことはしていないと反発していたユーリーンだが、店主が迷惑していると言っている以上営業妨害は成立する、店から出て行かないなら第三兵団の分屯地まで来てもらうことになると言われて、ようやく諦めて帰っていった。



「オルジフさん、ありがとうございます。助かりました」


「仕事だしまったくかまわんが、あの様子じゃ納得してないだろう。また来そうだなあ」


「うええ、もうマジでカンベンして欲しい……」



 オルジフが事情聴取と説得をしている間、犬族の冒険者たちは先日わたしが勧めた革の装備品を見ていた。

 Cランク君たちはAランクのサロモから装備品を見る時のポイントなどを教わっていたが、サロモがそこから抜けてこちらの会話に参加してきた。



「あいつ、何であんなにしつこく粘ってるの?」


「そんなのわたしが知りたいですよ。何か、人族とは付き合ったことないからとか言ってましたけど」


「あ~。人族と付き合ったことある魔族なんていないから自慢できるとか考えてるのかもな」


「それじゃあ、誰かに出し抜かれる前にって必死にもなるか。そんなのに付きまとわれてあんたも災難だなあ」



 またあいつが来たらすぐ呼べよと言ってオルジフは店を出ていった。

 ハァ。今日のこともブルーノに報告されるんだろうなぁ……。あ~あ、またレイグラーフが大騒ぎしちゃうよ。

 次の里帰りは2週間後。それまでに何とか解決の目途を立てられないものか。

 眉間にシワを寄せて考え込んでいたら、Cランクの1人がわたしの顔を覗き込んで訊ねた。



「店長はアイツが嫌いなの?」


「厳密に言うとちょっと違いますね。わたしが嫌いなのは、わたしの意思を無視して自分の要求を一方的に押し付けられることです。……そんな要求には絶っ対に応じませんけどねッ!!」



 思わず語気が荒くなった。

 ユーリーンについて答えるつもりが、内容的にイスフェルトの連中の所業を思い出してしまったからだ。

 勝手に召喚して魔力の提供を強要し、断れば元の世界に戻れないよう暴力でもってわたしをこの異世界に固定した。思い出すだけで腸が煮えくり返る。


 わたしが険しい顔で吐き捨てるように言ったからか、Cランク君たちが少し引いていた。

 その様子を見て少しだけ冷静さを取り戻す。



「……すみません、ムキになってしまいました」


「いや、それだけ不愉快な思いをしたってことだよね。こっちこそ不躾に踏み込んでごめんよ」



 サロモはそう言いながらわたしに質問したCランク君の頭を小突いたが、わたしは首を横に振って否定した。

 イスフェルトの件が頭に浮かんだことで、ユーリーンに対して沸点が低くなっている理由を思いついたからだ。

 意思を無視され一方的に要求されることへの嫌悪が激しいのはイスフェルトへの怒りが未だに消えないせいで、それを八つ当たり気味にユーリーンに転嫁している可能性はないだろうか。もしそうだとしたら非常に不本意だ。

 それに、イスフェルトは聖女を、ユーリーンはレアな人族の女性を求めているだけで、わたし自身を求めているわけじゃないと考えたら腹を立てること自体が空しいとも思える。


 イライラしてたらダメだ。相手のペースに乗せられてるよ。

 八つ当たりかもしれないなんてユーリーンに対して負い目を感じるのは真っ平だし、強硬手段じゃなく穏便な策で彼を遠ざけられるよう落ち着いて考えよう。

 ちょうど犬族の冒険者たちがいるんだから、少し話を聞いてみたい。

 そう彼らに伝えたらかまわないと言ってくれたので、応接セットへ案内し、お茶を振る舞った。彼らはもう店の常連客だからお茶を振る舞っても問題ないはず。


 昨日スイーツの屋台で買い込んだ焼き菓子を出したら、4人とも元気良くモリモリと食べた。獣人族の男性は食欲旺盛な人が多いなぁ。

 わたしはお茶ではなく、鎮静効果に期待して昨日テイクアウトしたミントミルクを飲む。

 優しいミルクの甘味とすーっとしたミントの清涼感を味わい、少し心が穏やかになったような気がした。

ブックマーク、いいね、☆の評価ありがとうございます。

【今後の投稿予定】8/13(土)、14(日)、15(月)、18(木)

鋭意執筆中!間に合え!(笑)

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