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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第三章 魔族社会

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151話 下位ランク向け商品案内とSランクの買い物

誤字報告ありがとうございます。

 カシュパルとの飲み会は彼がブランデーの瓶を空にするまで続いた。

 以前、クランツとネトゲのお酒の品質評価を兼ねたプチ飲み会をした時に、竜人族は総じて蒸留酒を好むと言っていたけれど本当だったみたいだ。

 ただ、カシュパルは部族に対して思うところが結構あるらしく、“竜人族は”とひと括りで語られるのは好きじゃないと言う。



「部族のことは嫌いじゃないよ? もちろん大事だし誇りにも思ってるけどさ、頭固いヤツが多いんだよ」


「陽月星記読むと確かにそんな印象を受けますけど、カシュパルさんは考え方とか柔軟ですよね。商業ギルド長もそんな感じだし、わたしは竜人族が頭固いと思ったことないなぁ」


「ああ、商業ギルド長も青竜だからね。風のエレメンタルの影響が強い種族は自由を好む傾向が強いんだ」



 これは部族を問わず共通しているそうで、先程の保守的、論理的といった部族の性質が正反対でも、強く影響を受けるエレメンタルが同じだと相性は悪くなかったりするらしい。

 エレメンタルは気性にも影響するのか。すごいなエレメンタル。

 目に見えない、自分の理解が及ばないところでも、本当にエレメンタルの力は及んでいるんだな。

 森羅万象はエレメンタルの上に成り立っていて、どれか一つ欠けても成り立たない。レイグラーフの言葉を改めて噛みしめる。


 今夜のカシュパルとの飲み会はわたしにとってとても意義深いものになった。

 メシュヴィツのことだけでなく、魔族社会全体を俯瞰する上で役に立つことをいろいろと教えてもらえたし、異物や余所者と思っていた自分の存在をすごく肯定してもらえた気がする。


 飲み会はとても良い雰囲気でお開きとなったが、帰り際に少しバタバタした。



「ごめんスミレ! 空中散歩のことも相談しようと思ってたのにすっかり忘れてたよ!」


「あっ、わたしも訊こうと思ってたのに忘れてました!」



 何でも、城下町の上空は飛行禁止なため魔王権限を使っても実行に制限が付くらしく、気軽にカシュパルの背に乗って出掛けるというわけにはいかないようだ。

 わたしが城下町巡りを済ませたこともあり、空中散歩の場所を城下町以外にすることも踏まえて、また今度相談しようと言ってカシュパルは帰って行った。

 夜もだいぶ更けてきたので、さすがに今から相談するのは無理だもんね……。

 それにしても、違う場所もありなのか。う~ん、自分が住む街を空から眺めてみたいけれど、どうしよう。迷っちゃうな。

 まあ、急ぐ話じゃないのでゆっくりと希望や考えをまとめておこう。




 夜明け前に、ミルドから伝言が飛んで来た。

 メッセージの魔術の効果なのか、ぐっすり眠っていたはずなのに不思議と自然に目が覚めて、そうしたら目の前で風の精霊がにぱーっと笑っていた。



《おはよ。今から街を出るぜ》


「おはよう。気を付けて行ってきてね。ミルドに精霊の加護がありますように」


《サンキュー。んじゃ、行ってくる》



 ミルドが怪我なく、目一杯冒険を楽しめますように。

 そんなことを祈りつつ、言霊を意識してエレメンタルの力を乗せるようにイメージしながら加護を祈る言葉を紡ぐ。

 こうしてミルドは久々の冒険へと旅立っていった。


 旅立つミルドに加護を祈る言葉を贈れて良かった。それに、魔族らしい振る舞いができたことにも満足感を覚える。

 カシュパルに外から来た者であることを肯定されて喜んだくせに、やっぱり自分が魔族らしくなることも嬉しい。

 現代日本人のわたしも異世界の魔族国の民であるわたしも、どちらもわたしで、どちらか片方を否定しなければいけないというものでもないんだ。


 何だかすごくホッとしてそのまま眠りに落ちたわたしは、気の済むまで二度寝を貪った。



 翌日は午前中に城への納品を済ませ、魔王、スティーグと共に昼食を取り、午後からはレイグラーフの講義を受け、合間にクランツに訓練をしてもらった。

 そして、再び一人で馬車に乗り帰宅の途につく。これにて今回の一人での里帰りチャレンジは完了だ。

 次回の送り迎えがどうなるかは未定だが、たまにはこうして一人で里帰りするのも悪くないと思う。

 何と言っても住民の足である馬車は無料なのだ。せっかくの公共交通機関を利用しない手はない。

 馬車が無料だと知った時は魔族国は太っ腹だなーと感心したが、実は住民の高速走行を抑制するために導入されたシステムだと聞いて驚いた。

 獣人族はヒト型化していても足が速いからなぁ……。

 早く移動できる手段を無料で提供するから高速で街の中を走るのはやめて!という行政側の叫びを想像したら、申し訳ないけれど笑ってしまう。

 そうして、一人でニヤニヤしながら馬車に揺られている間に、何事もないまま家へ着いたのだった。





 2日間の里帰りを終えた翌日は犬族冒険者集団のリーダーたちにレンタルセットを貸し出す日だ。

 開店とほぼ同時にCチームのリーダー3人がやって来た。



「おはようお姉さん!」


「おはようございます。いらっしゃいませ」


「ねえ、レンタルセット半壊したって聞いたけど大丈夫?」


「新調したので問題ないですよ。はい、こちらです。どうぞ」


「やったー、新品だ!」



 Cランク君たちは今日も元気いっぱいだ。

 レンタルセットの3点をチェックしながら、思わぬ新品に大喜びしている。

 サバイバル道具類にも『裁縫箱』が使えたら良かったのだが、残念ながら装備品以外は対象外らしく直せなかった。

 新調の出費は痛いけれど仕方がない。

 まあ、半壊と言っても破れ、焦げ、歪みという感じの破損具合で、裏庭で串焼きを焼いたり寝袋にくるまったりする分には問題なさそうだから、ウォッシュして自分で使うつもりでいる。



「そっか、裁縫箱は何でも直せるわけじゃないのかー」


「けど裁縫箱って1個千Dだろ? どっちにしろ高くてオレらは手が出せねーよ」


「高級ピックも耐久高くてすごく良いらしいけど、1本140Dは厳しいもんな」



 やはり、下位ランクの彼らにはうちの商品は高く感じるみたいだ。上位ランク向けのアイテムが多いので仕方ないか。

 だけど、高級ピックは一度は使ってみて欲しいし、中堅向きのアイテムもあるので少し紹介しておきたい。



「う~ん、普段使いにするのは難しいかもしれませんけど、CランクやDランクでも高級ピックは1本持ってた方がいいと思いますよ」


「何で?」


「例えばですけど、ダンジョンで最後の宝箱が目の前にあるとします。最後なだけあって難易度も高い。さっそく開錠にチャレンジしますがピックは無情にもどんどん折れていく。そして、あと少しで開きそう!というところで最後のピックが折れてしまいました。この宝箱を諦めるか、後日また出直すしかありません」


「げっ、ひでえ!!」


「そうなった時、高級ピックが1本あればピック10本分のチャレンジができるんです。たったの140Dで!」


「おお! やったー!!」


「ピックが最後の1本となった時、それが耐久10倍なら心強いでしょう? 全部を高級ピックにするのは厳しくても、お守りみたいな気持ちで1本持つだけで心にゆとりが生まれます。ゆとりを持って開錠できればミスも減ると思いませんか?」


「そっか~。何かそう言われたら確かにそんな気がして来たよ」


「お姉さん、冒険者のことよくわかってるねー」



 冒険者ギルドで買うと手数料がギルドに入るので、冒険者に還元されるから購入はギルドでどうぞと勧めておく。

 バラ売りに対応するのも下位ランク冒険者の来店が増えるのも大変そうだし、代理販売している商品はギルドで買ってもらう方がいいと思う。

 あとは、ミルドが中位ランクの連中にちょうどいいと言っていた革の装備品をお勧めしてみた。



「品質評価によると一般的な品より3割増しで丈夫らしいんです。装備品の耐久値の底上げをお考えなら、ぜひ検討してみてください」


「へー、そんなに丈夫なんだ。ちょっと惹かれるな~」


「フフフ、また今度ゆっくり見に来てくださいね」


「うん、そうする!」


「じゃあお姉さん、またね!」


「危ないとこに持ち出したりしないから心配しないで!」


「はーい、いってらっしゃ~い」



 レンタルセットを抱えると、彼らは元気良く出て行った。

 犬族冒険者のCランク君たちは本当にかわいいなぁ。和む~。

 大学生くらいの男の子たちがわちゃわちゃしているような感じかと思うと、アラサー女子はほっこりした気分になるよ。


 そして、午後には先日の獣人族Sランク2名が来店した。

 後日改めて買いに来るとは言ってくれていたけれど、定休日明けに来るとは思っていなかったよ!



「い、いらっしゃいませ」


「よう、こないだはすまなかったな。今日はサバイバル道具類を買いに来たぜ」


「ありがとうございます!」


「俺ら2人分と、あともう1セット頼む」


「わかりました。奥から商品を持ってきますね」



 こんなに早く来てくれた上に気前よく高額商品を買ってくれるなんて……。律儀な人たちのようでありがたい。

 というか、全部で3セット……1万4千Dかける3で、合計4万2千D!?

 うひょーッ!!! 冒険者ギルドへの納品を除けば、この店で扱った金額としては過去最高額じゃないの!?

 ひいぃ……。ちょっと手が震えて来た……。


 重量は魔術で軽減できても、かさばかりはどうにもならない。エッチラオッチラと3セットをカウンターに運び、精算に移る。

 延滞と賠償で迷惑を掛けられたのは確かだけど、文句も言わずちゃんと対応してくれた上に高額な買い物をしてくれた彼らに蜂蜜酒(ミード)くらいはサービスしたいなぁ。

 相手は複数だし来店も三度目だし、ちゃんと断りを入れれば問題ないはず。

 当方はお誘い不要・恋愛お断りなので他意はまったくないが、試飲用にミードを提供してもいいかと訊ねてみたら大喜びで受け入れてもらえた。

 魔族のミード好きは贈り物のハードルをぐんと下げてくれるから本当に助かる。


 ミードを取り出しかけて、ふと、2人だから2本でいいのか、それとも3セットだから3本にするかと、一瞬判断に迷った。

 残りの1セットが誰かに頼まれた分なら扱いも変わる。



「……あの、ちなみにこの1セットはどういう……?」


「あー、それな。精霊族のSランクの分」


「ヘッ?」


「迷惑かけたからさ、他のSランクにも勧めといた。メシュヴィツはもう持ってたけどな。さすが長老は耳が早いぜ」


「魔人族のSランクもそのうち買いに来ると思うぞ。精霊族のSランクは面倒臭がりでなぁ、ついでに買ってきてくれって言うから金預かってきた」



 お2人ともサラッとすごいことを言ってくれちゃってますけど。

 は? 他のSランクの分!? それ以外にも誰か買いに来るって!?

 キャパを超えた衝撃に脳が一時停止したのか、適量がよくわからなくなったため紙袋に入るだけミードを入れて2人に手渡した。

 どうせ6、7本だしケチることないや。


 先日提供したテイクアウトの料理が気に入ったらしく、店を聞かれたのでノイマンの食堂の場所を教えた。

 さっそく行こうぜと言いながら出ていく獣人族Sランク2人の背中を見送る。

 サバイバル道具類、Sランク5人中4人が購入済みになっちゃったよ……。

 普及率80%?

 しかも、残りの一人も買いに来るの確定っぽい……?

 そしたら100%になるの?

 マジか。


 ふおおお!!!

 何かすごいことになって来たよ!!

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