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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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138話 テスト後の反省会

今回少し短めです。次の木曜までの間にもう1話投稿すると思います。

「それにしても、串焼きうまかったな。あんなうまい食い物だったか? 俺の記憶にあるものとは別物だったぞ」


「スミレのお勧めを全部食べましたが、どれもおいしかった。君は本当に食べ物に関しては外しませんね」


「俺らならトマトの炙り焼きなんて絶対注文しねぇもんな。だが、うまかった」



 ダイニングでお茶を振る舞いながら、ブルーノとクランツに串焼き屋の感想を聞いたら、満足のいく答えが返って来た。

 店では彼らの方を意識して見ないようにしていたので知らなかったが、二人してかなりの量を食べたらしい。

 フフフ、串焼きを堪能してもらえたようで何よりだ。


 マップと動画をスクリーン表示する準備が整ったので、雑談を切り上げる。

 串焼き屋を出たところから動画を再生し、わたし視点でルートを再確認しながら意見を交わし合った。

 特に、わたしがブルーノの追跡を撒いた、カフェのある小さな広場でのわたしの動きには二人とも意表を突かれたようで盛り上がった。



「何だ、こんな入り口近くに隠れてたのか。お前が『移動』、『透明化』、『消音』を使ってくるのはわかってたから、この広場はてっきりブラフだと思ってたぜ。それで次は……ハァ? ここ通れるのかよ!?」


「通れるっていうか、『イドウ』は視認できる任意の場所への瞬間移動なので、植え込み自体は通り抜けられなくても木の隙間から見える向こう側の路地には『イドウ』できてしまうんですよ」


「ほう、これはよく考えましたね。それで、ここでこう行くんですか。なるほど。こんな裏路地まで詳しく道を知っているとは思っていませんでした」


「へへへ、一番街の路地は踏破してましたから。今回は魔法のことを把握しているブルーノさんが相手だから生半可なことでは逃げ切れないだろうし、地の利を活かすしかないと思って」



 それから、ブルーノがすぐ傍を通った時や、一旦通り過ぎたのにまた戻ってきた場面で尋ねてみたら、やはり何か気配を察知していたらしく、獣人族の鋭敏な感覚はすごいなと改めて感じた。

 その流れで、匂いを辿られないようにと店を出てすぐにウォッシュしたことを話したら、何故か二人とも黙ってしまった。

 ……この感じは、アレか。どうやらお誘い案件にヒットしたらしい。


 何でも、獣人族と竜人族は異性の放つ匂いを感知したことをきっかけに、相手に惹かれることがあるそうで、恋愛方面において大きな影響を受けるのだという。

 かなり本能的な刺激であるため、獣人族と竜人族では異性の匂いの感知を非常にデリケートな事象として扱うらしく、余程親しい仲でない限り獣人族と竜人族が異性の匂いについて赤裸々に語ることはないそうだ。

 二人とも本当に話しづらそうにしていたので詳しくは聞けなかったが、フェロモンのようなものなら身体面で性的な反応を伴うのかもしれない。

 魔人族や精霊族は異性の匂いを特に感知しないそうなので、獣人族と竜人族限定の下ネタという感じだろうか。気を付けねば。



「で、何でこんな気まずい話をわざわざお前にするかっていうとだな、…………、あ~ッ、駄目だ! クランツ、後は頼む」


「……わかりました。……ゴホン! スミレ、君は何故か匂いがしません。無臭なんです」


「は? え、ちょっ、匂い嗅いでたんですか!?」


「嗅いでねえ! わざわざ嗅がなくったって呼吸してれば勝手に感知するだろ!」



 これまで散々訓練してもらってきたんだから、汗をかいたら匂う可能性もあったのに、まったく考えてなかったよ……!

 うう、女子として失格すぎる。穴を掘ってでも入りたい。ピットフォール唱えてダイビングしたいよマジで。



「人の話を聞けよ。匂わねぇって言ってるだろ」


「不思議なことに君はいつでも無臭です。理由はわかりません。いつもの『ネトゲ仕様』なのではないかと考えてますが……」


「え? 何だ、匂わないんですか。ああ、良かった~!」



 サバイバルモードに固定されているのに、汗をかいても匂いがしないというのはかなりありがたい。

 匂いが元で異性にロックオンされることがないというのも安心材料だろう。

 わたしがホッと胸をなでおろすと、苦々し気な顔でブルーノがぼやいた。



「安心してるんじゃねぇよ。匂いがしないってのはデメリットもあるんだ。お前が『透明化』したらクランツの護衛任務は一気に難易度が跳ね上がる。今日のテストだって大変だったんだぞ」


「うう、申し訳ない」


「それはともかく、匂いだけで君の後を尾けることは魔族には不可能なので、『透明化』と『消音』で確実に不審者を撒けます。今日の様子を見る限り、落ち着いて行動すれば夜間の独り歩きは特に問題ないでしょう」


「まあな。俺の追跡も撒いたし、十分だろう。テストは合格だ。夜に一人で酒飲みに出掛けてもいいぞ。精霊祭の空き地での集まりは深夜もあるが、それも参加してかまわん」


「わあ、ありがとうございます!」



 わたしは思わず手を叩いて喜んだ。やった! 頑張った甲斐があったよ。

 深夜に出掛ける予定があればあらかじめ巡回班にはひと言声をかけておくようにと言われたが、精霊祭の最中は第三兵団の巡回も多いから普段より安全らしい。

 それと、夜に出掛ける時はシネーラを着用するように言われた。やはりシネーラを着ていると相当声を掛けにくい雰囲気になるようだ。

 また、夜はなるべく馬車を使うことを考えろ、帰宅ルートは毎回変えるようにとアドバイスをもらった。

 なるほど、馬車か。今回の串焼き屋は馬車乗り場まで少し距離があるから考えもしなかったが、せっかく城下町を網羅する交通ネットワークがあるんだから、多少遠回りになっても利用した方が確かに安全ではある。

 帰宅ルートの件は昼間も気を付けることにしよう。



 いろいろと話し合い、有意義な時間を過ごして反省会が終わった。

 帰る二人を見送りに行くと、ドアの手前でブルーノが振り返り、わたしをジッと見た。



「お前も、もう一人前の魔族だな。飯といい路地といい、俺より城下町に詳しいんじゃないか?」


「へへへ、ブルーノさんにそう言われたら調子に乗っちゃいますよ?」


「馬鹿野郎」



 ブルーノはわたしにデコピンすると、じゃあなと軽く手を振って出て行った。

 クランツもその後に続いてドアから出かけたが、振り返るとフッと優しく微笑んだ。皮肉屋の彼にしては珍しい表情で、ちょっと驚く。



「私も君はもう一人前の魔族だと思ってますよ」


「クランツまで? えへへ、嬉しいなぁ」


「ところで、今夜のテストの件ですが、レイには内緒のままなんです。教え子の君から報告しておいてください」


「ええっ、わたしから!? そんな~」



 ではおやすみと、バタンと閉じられたドアでわたしの言葉は遮られた。

 ちょっと! テストも合格したし、一人前の魔族と言われてジ~ンとしていたのに、感動的な場面が台無しだよ!

 最後にチラッと見えたクランツの横顔が悪戯っぽく笑っていたから、わざとわたしを持ち上げてから面倒事を押し付けたに違いない。ぐぬぬ、してやられた……!

 悔しくて、でもちょっとおかしくて、すぐに嬉しくなる。

 あれは照れ隠しで、彼も一人前の魔族だと思ってくれたんだとわかるから。


 いつもより遅めの入浴となったが、風呂を出るとわたしは機嫌良くいそいそとレイグラーフへ伝言を飛ばした。

 わたし、一人前の魔族だって言われたんですよ、レイ先生!!

ブックマーク、いいね、☆の評価ありがとうございます!


※スミレの台詞内の『移動』を『イドウ』に修正しました。(魔法の呪文と魔法名はスミレ以外には読めない・聞こえない、カタカナイメージで喋れば相手にも聞こえる、という設定)

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