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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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131話 レンタルサービスのトラブル対策

誤字報告ありがとうございます。

 あんこ菓子に対するミルドの反応を見てホッと胸を撫で下ろしていると、ドアベルの音と共にヤノルスが店に入って来た。

 すかさず店内に視線を巡らせ、ソファーに腰かけたミルドに目を止める。相変わらず隙のない動きをする人だ。

 釣られるようにわたしも緊張感を取り戻し、ササッとカウンターへと移動しながら声を掛ける。



「いらっしゃいませ、ヤノルスさん。レンタルセットの返却ですね」


「ああ、確認を頼む」


「はい。使ってみた感じはいかがでしたか」


「ヨエルの言うとおり野営が快適になった。いい商品だ。……だが、このレンタルサービスには少し問題があると思う」


「えっ!? ど、どんな問題が」


「よう、ヤノルス。その話、オレも聞かせてもらっていいか? オレ、依頼受けてこの店の相談役やってんだ」



 そう言いながらミルドが近寄って来た。

 おお、抜け目ないミルドのサポートが頼もしい。

 ヤノルスはミルドに軽く頷くと、わたしに向き直って話し始めた。



「まだこの店のことを知ってる冒険者は少ないが、あとひと月もあれば知れ渡る。ギルドで扱ってないアイテムの情報も出回るだろう。このサバイバル道具類はかなり魅力的な品だが高額だ。上位ランクでも金のないヤツはいるから、今のままだと荒っぽい連中が借りに来た時に厄介なことになるかもしれんぞ」


「壊されたり著しく耐久が下がったりした時の対処ですね。一応、ポスターには弁償のことも書いてあるんですが、これでは不足でしょうか」


「不足だな。弁償となる線引きが明確でない上に拘束力がない。それに、期日までに返却しなかった場合の規定もない。俺は討伐系の依頼もよく請けるから荒っぽい冒険者をそれなりに知っているが、中には凄んで要求を通すことも辞さない奴もいる。何かしら魔術的な縛りを持たせた方がいい」



 そう言ってヤノルスがミルドを見ると、思い当たる人物がいたのかミルドも頷いて確かにそういう話は聞くと言った。

 魔族の多くは善意でもって接してくれるが、悪人もいるとブルーノやレイグラーフからも聞いている。

 拘束力がない、か。

 確かに今のままでは口約束のようなものだから、力に訴える者には踏み倒されかねないし、借りパクの可能性なんて完全に頭から抜け落ちていた。



「わかりました。商業ギルドに相談してみます。彼らはきっとそういうトラブルにも慣れていると思いますから、何かしら対応策を持っているでしょう。それを導入する方向で検討します」


「それがベストだとは思うが、金がかかるぞ? それも結構な額になる」


「はい。でも、安心と安全には変えられません。泣き寝入りするつもりもありませんしね。ヤノルスさん、貴重な助言をありがとうございます。面倒事が起こる前に指摘してもらえて助かりました」


「……あんた、意外と思い切りがいいんだな。元人族の若い女じゃ世間知らずで当然だから、もっと狼狽えるかと思ったが」


「ハハッ、わかるぜそれ。オレも最初はそー思ってたもんなー」



 ミルドは笑いながらそう言うと、わたしに早い方がいいから閉店後に商業ギルドへ行って来いよと勧めた。

 頷きつつも、直接向かう前にまずはひと言商業ギルド長に相談しておきたい。

 ヤノルスが帰ったらさっそくメッセージを送ろうと考えていると、そのヤノルスが珍しくからかうような顔でミルドに話し掛けた。



「それにしても、お前がこの店の相談役をしているとはな。女の依頼人は避けてたくせに、どういう風の吹き回しだ?」


「こいつ、オレにまったく恋愛感情ないんだよ。完全に友達。マジで気楽」


「ほう? この前来た時もいたからてっきりそういう仲かと思ったが。今も手料理を振る舞われてたんだろ? 十分親密じゃないか」


「ちげーってば」


「うわーッ、違います違います! 魔族国にないお菓子を作ったので、魔族の口に合うかどうか試食してもらっただけでして! 恋愛感情はマジで皆無です!!」



 ぐあっ、パンケーキの皿見られてた!

 手料理を食べさせたことがバレないように注意しろと、さっきミルドに釘を刺されたばかりだと言うのに!

 というか、何で手料理ってバレてるの!?

 一瞬そう思ったが、パンケーキのテイクアウトなんて見掛けたことないから、見た目がパンケーキなら売り物と思うわけがないか……。しまった……!


 テンパったわたしは大慌てで否定しまくったが、ヤノルスは意外なところに反応を示した。



「魔族国にない菓子?」



 そう言って、ヤノルスはパンケーキが盛られた皿を見ている。

 おや? もしかして関心があるのかな。


 ……ヤノルスは今日で3回目の来店で、レンタルもしてくれたしいろいろ買ってくれている。

 さっきは助言もしてくれたのだから、お礼だと念を押せばお茶くらい振る舞っても問題ないだろう。

 それに、ヤノルスにも食べさせれば魔族国にないお菓子だと証明できるし、本当に単なる試食だと納得してくれるんじゃないだろうか。



「あの、ヤノルスさん。先程の助言のことなんですけど、情報料かお礼に何かアイテムを提供したいんですが」


「いや、必要ない。たいした内容じゃないし、相談役がいるのに僭越だった」


「おいおい、Aランクにそんなこと言われたらオレが恐縮するだろ。第一、討伐は専門外とは言え、オレは連中の危険性を見落としてたんだぞ。正直助かったぜ」


「それじゃ、せめてお茶だけでも飲んでいってもらえませんか。感謝の気持ちのみで恋愛感情などは一切ありませんので、良かったらお菓子の試食もどうぞ。感想を聞かせてもらえたら非常に助かります」


「おう、一緒に食おーぜ。変わった食感だけど結構うまいぞ」



 ミルドはそう言うとさっさとソファーに座ってしまった。もちろん出入り口が見やすい側はヤノルスのために空けてある。

 躊躇していたヤノルスもやがて仕方なさそうにソファーに腰を下ろしたが、わたしがお茶を出す頃にはミルドと一緒にあんこ菓子を頬張っていた。

 実は甘い物が好きらしい。

 照れ臭そうに言うヤノルスが可愛くて、警戒心の強い男の意外な一面にギャップ萌えしそうになった。危ない。

 ヤノルスはあんこ菓子を余程気に入ったのか、売り物でないことを残念がっていた。

 茹でる調理法に不安を抱えているのでまた作るとは言えなかったが、良い反応をもらえてわたしは満足だ。


 さて、彼らが食べている間に、わたしは返却されたレンタルセットの状態を確認してこようかな。

 ヤノルスが何か買うならそれも用意してしまおう。



「ヤノルスさん。購入物があるなら今のうちに用意しますが、何かありますか?」


「サバイバル道具類は3点とも買いたい。それから『武器手入れキット』と『空気石』を1つずつ、あとは『魔物避け香』70個と『脱出鏡』を30個頼む」


「ありがとうございます!」



 おお。ギルド長、ヨエルに引き続き、レンタルしたお客は漏れなくサバイバル道具類を3つとも買っていくなぁ。

 しかも新たなアイテムも購入、魔物避け香と脱出鏡は前回より数が増えている。

 どうやらヤノルスには商品を気に入ってもらえたようだ。ぜひともこのまま常連客になっていただきたい。


 食べている間やアイテムの数を確認する作業の間に、ヤノルスはレンタルセットを持って出掛けた先のことをミルドに話していた。

 何と、ヤノルスはダンジョン内でのテントの使用を試してきたそうで、小部屋状になった一区画で魔物避け香を使いつつ野営したのだと言う。

 更に、魔物避け香と脱出鏡を使ったダンジョン攻略にもチャレンジしたらしい。



「魔物を無視して全力で駆け抜けながら小部屋に魔物避け香を投げ込んでいき、魔物に追いつかれそうになったら脱出鏡を使って離脱。一旦外へ出て、また他のルートを潰す。そうやって香の薄い方に逃れていくよう仕向けた」


「そんで一室に集まったところで、ドン!と一発まとめてファイアボールかよ」


「まあ、そんなところだ。場所は選ぶが結構使えるぞ」


「へえ~、すげーな」


「でも、だいぶコストがかかりますよね。採算は合うんですか?」


「収益は下がるが、戦闘回数が減る分魔力消費や回復薬の使用量も減るから、そう悪くない」


「なるほど。安全性が上がるのは大きな利点ですね」



 試してきた事柄をひと通り話し終えたヤノルスは、支払いと商品の受け取りを済ませるとサッと帰って行った。

 相変わらず素早い。本当に隙のない動きをする人だなぁ。


 ヤノルスが帰ったので、わたしはさっそく商業ギルド長へ賠償責任に関することで相談したいとメモを送った。

 すぐに伝言が返ってきて詳細を尋ねられ、高額商品のレンタルサービスを始めたことと、破損時の賠償や返却時のトラブルに備えたいことを伝える。

 思ったとおり、そういうトラブルはやはりあるのだが、比較的軽度の脅しの範疇で済んでいる上に被害額もあまり大きくなく、個人の店や工房が被害者の場合は相手に強く出られず泣き寝入りとなるケースが多いそうだ。

 ……何だか、クエストにありそうな話だなぁ……。


 幸いなことに、魔族国は物流がワイバーンによる空輸なこともあって保険制度が普通に利用されており、商業ギルドでは専用の魔術具を貸し出しているらしい。

 もちろん有料だし、利用者と保険契約を結ぶたびに店側に手数料がかかるので、小規模な商いをしているところでは導入しないことも多いという。

 わたしの場合は被害額の補填というより、踏み倒しの予防や店への出入り禁止を申し渡す根拠を得ることが目的だ。

 破損レベルの判定を数値化することと、賠償責任や返却日時の順守に関して利用者に何らかの魔術的拘束力を持てればいいかと考えている。



《やり過ぎて恨まれても面倒ですから、抑止力として機能する程度の保険に留めるのが無難でしょうなぁ》


「はい。お試しサービスとして始めたものなので、善良なお客様にプレッシャーを与えるのは不本意です。なるべく穏当に収められる方法はないでしょうか」


《ありますよ。この場合は“周知”というペナルティがお勧めですな。賠償責任や延滞料金が発生したと魔術具が判断した場合、支払いが完了するまで契約者のデモンリンガにそれが反映されます。デモンリンガを使用するたびに、相手に自分が支払い義務を果たしてないと知られてしまうので、たいていの魔族は3日と持たずに音を上げますよ》



 ギルド長の伝言はくすくすと笑う声まで届けて来た。

 うわあ。デモンリンガを使わない日なんてほぼないから、これはなかなか手厳しいペナルティですぞ……。

 食事や買い物に行く度に、店の人に「へえ、この人払うもの払ってないのか」という目で見られるなんて、普段モテている冒険者には耐えられないだろう。

 気に入ったので即決でお願いする。我ながら性格が悪い。


 商業ギルドは夜の8時まで開いているので、雑貨屋の閉店後に急いで出掛けて手続きを済ませてきた。

 保険用魔術具は1万Dと高額だったけれど、安心料だし必要経費と思えば許容範囲だろう。



 商業ギルドにはミルドが同行してくれた上に帰りも送ってくれたので、お礼に夕食を奢った。

 口にはしなかったが、あんこ菓子で迷惑を掛けてしまったお詫びでもある。


 場所はいつもどおりノイマンの食堂で。

 だって、わたしたちがただの友達だと知っている店で奢らないと、今日のヤノルスのように誤解を招いてしまうからね!

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