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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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129話 城下町巡り(二番街・四番街)

 城下町巡り初日。

 マッツのパン屋とロヴネルのスープ屋で朝食をとった後、その足でミルドと待ち合わせた冒険者ギルドへと向かう。

 わたしの生活圏が一番街だからか中央通りでは一番街側を行くことが多いので、今日は敢えて二番街側を通ってみた。

 中央通り周辺は高級店が多いが、衣類や靴などを扱う店を見ていると一番街側が装飾性の高い品が多いのに比べ、二番街側は革製品などの丈夫さや機能性の高さを売りにしている品が目につく。

 そして何より、武器や防具が並ぶのは二番街側だけだ。これはやはり二番街に冒険者ギルドがあり冒険者が多く住む影響なんだろう。


 待ち合わせの冒険者ギルド前にミルドが立っているのが見えた。タタッと駆け寄り声を掛ける。



「おはようミルド。今日はよろしくお願いします!」


「おはよ。んじゃ行くか。一日中歩き回るんだから、疲れたらすぐ回復しとけよ」


「了解!」



 歩き出したミルドの隣に並んで歩く。

 今日は冒険者の街である二番街を歩き回るから、ミルドとの関係を邪推されないよう細心の注意を払わなければいけない。

 バルボラとヴィヴィ、スカーフに地味メイクで恋愛お断りの意思表示はバッチリだ。

 そして、親しい友人同士の距離ではあるものの、ミルド側の腕で大きめのバッグを持ち、恋愛関係に発展する気がないことを表現する。

 あとは、なるべくミルドの顔を見ずに前を見て話すようにしよう。見つめ合っているなんて勘違いをされたら困るからね。


 中央通りから1本奥に入った通りには武器や防具の専門店と冒険者向けの道具屋が何軒も並んでいて、中には工房を併設している店もあった。

 他にも服屋に靴屋、薬屋に魔術具店、携帯食や飲料を売る店もある。冒険に必要なものはすべて冒険者ギルド周辺で揃うようだ。

 王都を拠点とする冒険者は上位ランクが多いからか、高級品を扱う店が多いように思う。ただ、値段の幅はかなり広く、廉価品も見掛けた。

 これだけ店舗や品揃えが充実しているなら、わざわざ一番街のうちの店まで来るのは余程商品に魅力を感じている冒険者だけになるだろう。

 思い切って取り扱いアイテム数を絞って良かった。ミルドのアドバイスどおり、高級志向に振ったのも正解だったよ。


 販売系の店の中にちらほらと飲食店もあったが、食堂ばかりでテイクアウト系の店がない。

 宿屋や下宿屋、賃貸住宅があるエリアに入ってようやくパン屋と惣菜屋を見掛けた程度だ。



「ねぇ。テイクアウトの店をほとんど見掛けないんだけど、冒険中は保存庫で挟みパンやテイクアウトの食事を持っていかないの?」


「ねーな。パンくらいなら持ってく時もあるけど、保存庫はかさばるし無駄に魔力消費するから邪魔なだけだ。メシより装備や戦利品を優先するに決まってるだろ」



 冒険中の食事は必要な栄養補給ができればいいというのが一般的な冒険者の考え方で、そのため携帯食で済ませる者がほとんど。串焼きのような野営食も、動物や肉を食用にできる魔獣を狩った時に気が向いたらする程度だという。

 それもそうか。冒険はキャンプとは違う。ガチのサバイバルはハードで当然だよなぁ……。

 でもミルドが言うには、城下町へ帰ってきてまともな食事にありついた時が最高に幸せなので、これはこれで別にいいらしい。なるほど。

 とはいえ、普段の生活ではテイクアウトを利用するだろうにと思ったら、長期間家を空けたり、急遽依頼が入って出掛けたりするのがザラなので、基本的に一人暮らしの冒険者は自宅で食事をしないし、何ならお茶すらなく酒しか置いてない者もいるのだとミルドは言った。

 そもそも魔族はあまり自炊をしないようだし、外食が充実している社会だから必要ないのか。

 わたしもネトゲアイテムを実績解除するという目的がなければ、わざわざ自炊しなかったかもしれないしなぁ。


 それにしても、こうして二番街を歩いていると予想以上に宿屋が多い。

 宿屋暮らしをする冒険者はそんなに多いのかと思いきや、単に城下町の宿が二番街に集約されているだけらしい。

 もともと、城下町がまだ一番街と二番街しかなかった頃に、宿屋の利用者に冒険者が多かったこともあってそうなったのだとか。

 これまでに学んだ事柄とどんどんリンクしていくなぁ。

 リアルを通して知識が裏付けられていくこの感じ。本当にワクワクする。


 部屋の作りは一人部屋か二人部屋のどちらかで、食堂のない素泊まりオンリーの安宿から個室で食事を提供する高級宿まであり、懐具合に合わせて選べるらしい。

 興味があるから一度泊ってみたいな~と口に出したら、ミルドがゲッと声をあげて周囲をキョロキョロと見回した後、大きくため息を吐いた。



「良かった、誰も聞いてねーわ……。お前なぁ、男と歩いてる時に何てこと口走るんだよ。今度エルサとシェスティンとメシ食う時に告げ口してやるからな~」


「うえっ、もしかしてお誘い案件……」


「単なる宿泊だけに使われると思ってんのかよ。あーあ、先生に報告しとくか。スミレの教育どうなってんのって」


「やめてよ~。レイ先生、そっち方面全然ダメなんだから」


「んじゃ、あいつ。侍女の友達」


「ファンヌのこと? そっちもダメ! 説教されてしまうぅ」


「されろよ。ハハッ、ちょっと見てえな」


「ちょ、酷くない?」



 そんな風にふざけた会話をしながら歩いていたら、上の方からミルドを呼ぶ女性の声が聞こえた。

 見上げると二階の窓から手を振っている女性がいて、どうやらミルドとそれなりのお付き合いがあるらしく、近いうちに寄ってくれとお誘いが掛かっている。

 実はここまでで既に2、3回、ミルドは通りすがりの女性から親し気に声を掛けられていて、今仕事中だからまたなーと言って受け流していた。

 今回も同じ流れになったが、この女性に先程のわたしの失言を聞かれなくて本当に良かったと秘かに胸を撫で下ろす。

 ミルドとの関係を邪推されないよう細心の注意を払うつもりでいたのに、いつの間にか楽しさに紛れて気が緩んでいたようだ。

 いけない、ちゃんと気を引き締めないと。

 それにしても、ミルドは本当にモテるんだな。



 東通りへ出た頃には昼時を過ぎていたので、通り沿いの食堂に入った。

 わたしは白身魚の揚げ物、ミルドはそれプラス肉の煮込みを注文する。揚げ物はノイマンの食堂ではたまにしか出ないので嬉しい。

 二番街の飲食店はお酒のアテになりそうなメニューが多い印象だ。

 冒険者や宿屋の客が多いからなのかと考えつつ、ふと思い出したのでミルドに尋ねる。



「そういえば聞くの忘れてたけど、ミルドって二番街のどの辺りに住んでるの?」


「……お前って、時々すごいバカだよな。何でオレがノイマンやマッツやロヴネルの店でメシ食ってると思ってるんだよ」


「へ?」


「オレが住んでんのは一番街だってーの」


「えっ、ご近所さん!? というか、冒険者なのに何で二番街じゃないの?」


「いろいろあんだよ……」



 帰りの馬車の中で話すと言ってミルドは話を切り上げた。

 その様子から、おそらく女性絡みの面倒事があったんだろうと察せられたので、わたしも大人しく食事に専念する。

 食後のお茶を飲みつつ念のため回復魔術を使ったら、足がフッと軽くなった。

 よし、この後も元気に歩けそうだ。



 昼食後は東通りを渡っていよいよ四番街へ入る。

 ここは他のエリアとは違って特別な施設はないが、同棲用の住宅が多く住民のほとんどがカップルという、ある意味特殊なエリアだ。

 “パートナーと二人きりで過ごしたいから”という理由で自宅で食事をする住民が多いためか、食料品店や酒屋、テイクアウト系の店などが充実していて、食堂はほとんど見掛けない。

 隣の二番街とは飲食関係の店の構成が真逆でおもしろいなぁ。

 でも、せっかく保存庫をバッグに入るだけ持ってきたのに二番街では何も買えなかったから、ここ四番街でがっつりと戦利品を手に入れて帰るぞ!


 そんな風に食い気全開で歩き始めた四番街だったが、わたしの目に留まったのは飲食店ではなく魔族女性たちだった。

 え、魔族女性って城下町にこんなにいたの?というくらいに女子がいる。

 いや、それでも男性の方が多いけれど、今まで女性はレアキャラ並みの頻度でしか見掛けなかったから驚いた。

 しかも、当然のように全員がヤルシュカに派手メイク。地味服、地味メイクにスカーフのわたしは完全に浮いている。

 まだ仕事の時間帯だから連れ添うカップルは見掛けないけれど、ここにいる女子のほぼ全員が彼氏持ちか……。時々飛んで来る物言いたげな視線が痛い。

 この前馬車で城下町巡りをした時には気付かなかった。やっぱり自分の足で歩くと違うなぁ。


 住みたいとは思わないエリアではあるものの、良さげな飲食店は発見した。

 タルト専門店なのだがスイーツ系だけでなく惣菜系もあり、わたしの行きつけであるパイ専門店のタルト版みたいな感じだ。

 元の世界でもセイボリータルトという食事向けのタルトがあると友人から聞いたことがあったけれど、こんな感じなのかな。

 ワインに合いそうだし、四番街のカップルはこういう料理でオシャレな食卓を囲みながら愛を語り合うわけですね。

 特にうらやましいわけでもないけれど、テンプレとしてリア充爆発しろと内心で呟いておく。


 しかし、おいしそうなタルトだ。グラフィックは全部同じだけれど、商品表示でそれぞれの具はわかる。



「ぐぬぬ……。どれもおいしそうで選びきれない」


「惣菜系のタルトは初めて見た。シェスティンやエルサは食ったことあんのかな」


「え、珍しいの? それなら皆で食べたいね。ワイン飲みながらとか良くない?」


「でもお前、当分(よう)の日空いてねーぞ。次も城下町巡りだし、その次はお泊り会って言ってなかったか? 2週間以上先になるぜ」


「保存庫にキープするから料理は問題ないし、一応買って帰って2人を誘ってみるよ」



 わたしは惣菜系だけでなくスイーツ系も含め店頭にあるタルトを全種類4個ずつ買い、保存庫へ入れてもらった。

 まさかそんなに大量に買うとは思ってなかったらしく、ミルドもお店の人も驚いていたけれど、欲張って保存庫を3つも持ってきたので無事に全部入れられた。

 フハハ、次の食事会はタルト祭りだ!



 戦利品にホクホクしながら歩いているうちに夕方になり、ついに南通りへ出た。

 この通り沿いを見終われば四番街もコンプリートだ。

 通りの反対側は商業エリアの六番街だからか、四番街側も販売系の店舗が多い。

 女性用の服や雑貨を扱う店が目につくのはプレゼント用で需要があるのか。

 寝具やリネンは……、まあ、うん。

 口に出すとまたミルドに叱られそうなので黙って観察している内に、見知った店の名を見つけた。



「あ。ここ、うちの改装をしてくれた内装屋さんだ。へぇ~、こんな遠くから来てくれてたんだ。かなり内装いじったから大変だったろうに」


「内装は大家が選ぶから、オーグレーン商会と付き合いがあるんだろ。それに、大規模な改装なら確かにこのあたりの店の方が慣れてるかもな」


「ん? どういう意味?」


「同棲してるカップルは内装に気合い入れるらしーぜ。四番街では需要あるんじゃねーの?」



 なるほど、このあたり一帯は元の世界で言うところの新婚さん向けのような需要を満たす店舗群なのか。

 陽の日あたりはカップルだらけになりそうだ。すごいな四番街。

 想像したら少し食欲が減ったので、夕食は隣り合うパン屋とスープ屋のイートインで軽く済ませた。

 ナッツを混ぜたパンや紅茶の風味のパンなどはマッツの店にはないから、ちょっとうらやましい。


 四番街は女子受けしそうなオシャレなものがいっぱいだ。

 エリア特有の圧迫感はあるけれど、目の保養になったし刺激的だった。

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