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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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123話 グニラと精霊&陽月星記トーク

フライングで投稿します。来週はいつもどおり木曜日に投稿する予定です。

 グニラの視線に気まずさを感じながらお茶を飲んでいると、戸惑いを見せつつもグニラが口を開いた。



「本来ならこんなことは尋ねるべきではないんじゃが……、不躾と承知しつつ尋ねますがのぅ。――お前さん、精霊たちに名を与えておいでだね? どういう考えでそうしなすったのか聞かせてもらえんじゃろうか」



 グニラの声には深刻そうな響きがあり、その表情は真剣そのものだ。

 彼女の様子と質問の内容に、わたしは一瞬頭が真っ白になった。


 わたしが精霊たちに名前を付けたことを知られている? そういえば、精霊たちからわたしのことを聞いたと言っていたっけ。

 でも、精霊に名前を付けることがそんな深刻なことだとは思っていなかった。

 精霊族には熱心に精霊祭に取り組む種族もいると講義で聞いたし、陽月星記を読んで精霊族は精霊やエレメンタルに関してはセンシティブな反応をすることがあるから要注意と思っていたが、グニラは正にその精霊族なのだ。

 精霊族にとって精霊に名前を付けるというのはとても神聖な行為で、軽々にしてはいけないことだったのかもしれない。

 わたし、相当ヤバイ地雷を踏んでしまったの……!?



「……引っ越して来た時に、初めましての挨拶をしようと精霊たちを呼び出したらニコニコと元気よく反応してくれたんです。歓迎してくれてるんだ、もっと仲良くなりたいなと思って、わたしにとって唯一無二の精霊になってくれると嬉しいんだけどどう?と尋ねたら喜色を示してくれたので、承諾してくれたんだと思って一人ずつに名前を付けました……」


「仲良く、なりたい……、とな」


「はい。決して悪気があったわけではなくて、もちろんその、軽々しくやってはいけないことだったのかもしれませんが、知らなかったんです! とにかく、あの、すみません! わたしは何か禁忌に触れてしまったんでしょうか!?」



 わたしは思わず両手の指を絡めて祈るようなポーズになって、必死にグニラへ訴えた。

 禁忌を侵したとしたらもちろんそれもヤバイが、もしも精霊たちとの関係を解消しろと言われたらどうしよう。この子たちのいない暮らしなんてもう考えられないのに。

 そう思ったら涙が滲みかけたが、グニラがわたしを見て表情を和らげた。



「咎めているわけじゃない。禁忌なんてことはないから安心おし。精霊たちが心配するじゃろ、お茶でも飲んで落ち着きなされ」



 そう言われて、安堵のあまり脱力しかけた。禁忌じゃなかったのか。良かった。

 精霊たちがわたしの傍でくるくる回ったり飛び跳ねたりしている。ツッチーがサムズアップしてきたので、弱々しく笑いながらわたしも親指を立てて返した。

 グニラに言われたとおりぐびっとお茶を飲んでひと息つき、ついでにジャムのせクッキーも食べる。

 ドッと疲れた心と体に甘さが染み入るようだ。

 ああ、ホッとしたなぁ、もう。



 わたしが落ち着きを取り戻したのを見計らって、グニラが精霊に名を与えるということの意味を教えてくれた。

 長い年月をかけて個の精霊との間に信頼関係を築いた者が、ごく稀にその精霊と契約を結ぶことがある。

 その時に行われるのが精霊への名付けなのだそうだ。

 精霊が名付けを受け入れて初めて成立する契約で、魔王や部族長、または高位の魔術師などに精霊と契約を結んでいる者がいると言われている。

 伝聞形なのは、高度な魔術を扱う者にとって精霊とどういう付き合い方をするかというのは非常にデリケートな話題であり、みだりに他人に話すことでも尋ねることでもないからで、詳しいことが伝わっていないのだという。

 先程グニラがわたしに尋ねたのは非常に失礼なことだから、通常なら自分もしないのだと改めて謝罪されたが、わたしは気にしていないと伝えた。

 ドローテアより更に年長に見えるグニラは精霊族の中で長老ポジションにあってもおかしくなさそうだし、その彼女が元人族のわたしが精霊と契約を結んでいると知ったら、意図を確認したくなるのも当然だと思えたので腹も立たない。

 それに、わたしは精霊に対する感覚や考え方が魔族とはズレているという自覚がある。

 魔人族の親友に精霊との付き合い方で少々窘められたことがあると、ファンヌに精霊たちと食事していると打ち明けた時のことを話したら、グニラは思わずといった様子で吹き出した。



「ほ、ほ。精霊と食事をするとは、お前さんおもしろいことをしなさるのぅ。それも“精霊と仲良く”の一環かえ?」


「はい。わたしは魔術を学び始めてからエレメンタルに親しむことを心掛けるようになったんですが、魔族国に来るまで精霊と接したことがなかったわたしにとってエレメンタルに親しむことは精霊と親しむことと同義で、友達にするように精霊と接することに何の疑問も持たなかったんです」



 友達というか、愛玩動物やマスコットのような感じでもあるけれど、何にせよ、わたしにとって精霊たちは可愛いがる対象で、一緒に暮らす大事な仲間だ。

 第一、この世界はエレメンタルによって成立しているのだから、精霊を大切にするのは当然のことと思う。

 わたしの魔族としての理念に大きく影響している「森羅万象はエレメンタルの上に成り立っていて、どれか一つ欠けても成り立たない。目に見えない、自分の理解が及ばないところでもエレメンタルの力は及んでいる」というレイグラーフの言葉をグニラに紹介し、わたしはこう教わったと話したら随分と感心された。



「ほう、良い師に恵まれたのぅ。それでお前さんは当たり前のこととして、精霊を名で呼んで仲良く暮らしておるのかえ。まあ確かにお前さんの親友の言うとおり他の者の前では話さん方が良いじゃろうが、精霊族の婆にとっては嬉しい話じゃよ。これからもこの子たちと仲良くしてやっておくれ」


「はい、もちろんです!」


「ただし、精霊と契約しておることは他人に漏らさんように気を付けなされよ。亡命者という立場上、お前さんを監督する者がおるじゃろうが、その者らに報告するかどうかもよく考えてからにしなされ。精霊との契約とはそれ程に稀で、重い事柄じゃからのぅ。うっかり人前で精霊の名を呼んだりしてはならんぞ?」


「肝に銘じます……」



 幸いなことに、人前で精霊を名前で呼んだことはない。名付けセンスがないからと思ってのことだったがラッキーだった。

 ただ、保護者への報告については素直に頷くわけにもいかない。魔王を筆頭に、ヴィオラ会議のメンバーには隠し事をしたくないんだよね……。

 もちろん、よく考えろというグニラの言葉も無視できないのでちゃんと考えるつもりではいるものの、重大な事柄なら尚更報告しなくちゃと思う。

 今度の里帰りの時に、まずは魔王に打ち明けてみよう。

 後で、飲み会したいですとメモを送ろうかな。



 とにかく、精霊に名前を付けたこと自体は何も問題がないとわかって安心した。

 ホッとしたところで、どちらのカップも空になっていたのでグニラにお茶のお代わりを尋ね、二人分のカップにお茶を注ぐ。

 それを受け取ると、グニラがぐいっと身を乗り出した。



「やれやれ、婆のせいで話がズレてしまってすまないねぇ。さあ、陽月星記の話を聞かせておくれ。お前さんはどの話がお好きかね」


「はい! えっと、わたしが好きなのは火の精霊族と水の精霊族の悲恋のエピソードでして」


「ほうほう、4巻じゃな。確かに、あれは切ない話よのぅ」



 陽月星記が好きだと言うのは本当なんだなとわかるほどに、グニラはわたしの話に食いついてきて、うんうんと首肯している。

 彼女のこの様子なら、わたしが“好き”を存分に語っても大丈夫そうだ。

 よし、これまで語る相手がいなかった分、ここで思い切り語らせていただくぞ! 


 その悲恋のエピソードはごく短いもので、物語内でも比重は置かれていない。

 火の精霊族と水の精霊族の恋なんて、相反する性質のエレメンタル同士なのだから成就するわけもなく、周囲は当然反対する。

 そもそも何故この2人が恋に落ちたのかよくわからないのだが、当の本人たちはろくに触れ合えもしないのにやたら燃え上がっていて、周囲が反対すればするほど更に思いを募らせていく。

 手に負えないと周囲が放置していたら2人はいつしか消えてしまっていて、探し出すことはできなかった。そんな話だ。


 ただわたしは、強く抱けば蒸発しかけ、深く抱き込めば火が消えかける、そんな危うくて儚いこの2人の恋がやけに幻想的で刹那的で、何とも心を揺さぶられた。

 この異世界に召喚されてから初の胸キュンだったのだ。



「恋人たちが苦悩する様は気の毒だし切ないので、好きと言ってしまうのは何だか申し訳ないんですけど……。生死不明になってしまうし、本当に悲しい話です」


「そうさのぅ。デモンリンガがあれば生存確認だけはできるんじゃが……。この時代はまだヒト型化が普及する前じゃから、火と水ではどうにもならん。ヒト型化すれば抱き合えるし交わることも可能になるんじゃがのぅ」


「あっ、そういうことなんですね。今の魔族は部族や種族関係なく積極的に恋愛しているのに、何で当時はダメだったのかなと疑問に思ってたんですよ。そうか~、ヒト型化の普及か……。なるほど……」



 グニラの言葉にすごく納得がいったわたしがしみじみと頷いていると、グニラは渋い顔をして吐き捨てるように言った。



「ヒト型化の普及は魔力に関する各部族の長年の研鑽があってこそじゃ。にもかかわらず、この話を“さっさとヒト型化すればいいのに”と嗤う者がおってのぅ。己が享受しておるものの有難みを感じることも、それらがなかった時代の苦悩に思いを致すこともない。まったく嘆かわしいわい」


「そうなんですか……。でも、今は火の精霊族と水の精霊族が恋をしても悲しい想いをしなくて済むんですね。……そうか~、良かったなぁ。グニラさんのお話、聞けて良かったです」



 単に萌えトークをするつもりだったのに、まさか話がこういう広がり方をするとは思っていなかった。

 陽月星記は魔族や魔族国に関する知識を幅広く底上げしてくれるものだと認識してはいたけれど、読んだだけではわからなかったことがグニラのおかげで知れたので非常にありがたい。



 他にも好きな話はあるかと聞かれ、わたしはまたしても精霊族の悲恋を挙げた。

 風の精霊族の女と樹性精霊族の男の話で、女がいつも男の葉を揺らしては恋を囁き、男も愛を語るのだが、寿命が長い樹性精霊族と魔族の中では寿命が短めの風の精霊族の恋は長くは続かない。

 女はいつしか男の前に現れなくなったが、自然の風に葉が揺れるたびに男は女を思い出すのだった。

 今日も男の葉は揺れている、という締めが何とも切なく、超えられない種族の壁をグニラと嘆き合う。

 その次はグニラの好きな話を聞いてみたら、まだわたしが読んでいない巻に収録されているらしく、ネタバレになるからと今回は伏せられた。

 そう。今回は、だ。

 何とグニラは、またこうして話したいと言ってくれたのだ!



「次に来た時にまた陽月星記の話ができたら嬉しいんじゃが、いかがかのぅ」


「わたしの方こそ、ぜひお願いします! あ、お菓子を用意しておきたいので、前もってご連絡いただけませんか?」


「いいともさ。ほ、ほ。楽しみじゃわい」



 やった! 新規の客だけでなく、陽月星記トークができる相手をゲットしたぞ。

 この異世界でも誰かと熱いヲタトークができるとは……、胸熱!

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