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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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103話 巡回班と冒険者の反応

タイトルを変更しました!

アンケートにご協力いただきありがとうございます。

今後ともよろしくお願いいたします。

 昼食は準備と食事を合わせても昼休みの1時間以内に納まった。

 簡単な卵料理なら時間内に作って食べれるとわかったので、営業日でも積極的に自炊していこう。

 後片づけを終えて店に戻り、ドアの外にぶら下げていた“準備中”の札を外したらプレオープン再開だ。


 午後の部の一番乗りは巡回班のコスティとディンケラだった。

 コスティは以前わたしがお誘い不要を強制されているのではと懸念していた樹性精霊族で、ディンケラはドローテアと同じ白竜の竜人族だ。

 彼らと顔を合わせるのは基本的に彼らが巡回している時なので、勤務中だからとこちらからは挨拶する程度に留めていたが、向こうから話し掛けてきたのをきっかけに最近は会話量が増えつつある。

 それでも今日招待した中では親交が浅めでうちの商品に関する情報が少ない人たちだから、ある意味一般的な魔族男性の反応が見れるかもしれない。

 そんな期待をしつつ自由に店内を見てもらったのだが、カウンターに並べてある蜂蜜酒(ミード)に気付いた途端に彼らは釘付けになってしまった。



「おっ、ミードがある! もしかして、これ人族のミードか?」


「ええ、そうですよ」


「本当かよ。人族のミードなんて飲んだことないぞ」


「なあ、今日は予行って聞いてるけど買い物はできるのか? できたら買って帰りたいんだが」



 彼らの食いつきぶりに、魔族は本当にミードが好きだなと感心してしまう。

 しかし、テンション爆上げな彼らには申し訳ないが、ネトゲアイテムの酒類はことごとく標準的な味で特筆すべき点はないと既に判明しているのだ。

 あまり期待されても困るし、うっかりこのノリで第三兵団内に話が広まったら面倒なことになりそうな気がする。

 そこで、早々に彼らを落ち着かせるべく味の感想を聞かせて欲しいと言って試飲させてみたら、やはりうまいが普通の味だなという感想をもらった。

 拍子抜けしたような顔をしているし再び買って帰ると言い出さないところを見ると、好奇心が満たされてテンションも落ち着いたんだろう。

 ふう。ミードに関しては関心を呼び起こす方向ではなく、抑制気味にPOPを書いた方が良さそうだなぁ。



 巡回班の二人に名刺を渡し、彼らが帰ろうとしたところへ入れ替わるようにミルドが一人の冒険者を連れてやって来た。

 連れの冒険者とコスティが顔を見合わせて驚いている。



「よう。妙なところで会うな。ここらの担当なのか?」


「まぁな。あ、次の精霊祭は祭りやるらしいぞ」


「そりゃめでたい。顔出さにゃならんな」



 二三言葉を交わすとコスティはディンケラの後を追って店を出て行った。

 ミルドが連れて来た冒険者はどうやらコスティと知り合いらしい。会話内容からすると同族っぽいな。

 その冒険者をミルドが紹介してくれた。



「こっちはヨエルのおっさん。採集専門のAランクだ。解毒剤を試す時に強い毒を調達してきたことがあっただろ? このおっさんに分けてもらったんだよ」


「ああ! あの時の……。その節はお世話になりました。この雑貨屋の主のスミレです。はじめまして」


「こりゃご丁寧にどうも。いや、わしは手元にある物をこいつに融通しただけで、別に何もしてねぇんだけども」



 ミルドがおっさんと呼ぶくらいだから結構年がいっているのだろうが、ブルーノよりは年上かな?という程度しかわからない。

 少し困った顔で頭をボリボリ搔いているヨエルにカタログを見せたいとミルドが言うので、二人にソファーを勧めカタログを手渡した。



「しょっちゅうフィールドに出て採集してるおっさんにはこの『魔物避け香』が絶対役に立つ。1個50(デニール)って安い品だが優れもんだぜ」


「たかが香じゃろ。そこまで効果あるのか?」


「魔物の強さに関係なく4時間近寄ってこねーぞ。屋内だとセーデルブロムの塔で試したけど、効果を得られる香の濃度にするのに1階の大広間で6個使った。そんで4時間まったく魔物出ねーの」



 セーデルブロムの塔とは駆け出しの冒険者が必ず訪れる難易度の低いダンジョンだそうで、低ランクでも確実に知っているらしい。

 その塔に入って最初の部屋が大広間で、冒険者なら誰もが具体的な広さを把握しているから、ミルドはそこを目安の場所に選んで性能テストをしたそうだ。



「ほー、あの大広間のサイズが300Dで4時間魔物なしか。屋外なら2、3倍使うとしても、4時間持つなら悪くねぇな」


「ナイスな情報提供に感謝しろよー。まぁ、こないだ毒で世話になった礼だけど」


「そうかい、ありがとよ。んじゃ、ひとまず試してみるか。お嬢ちゃん、こいつを50個もらえるかね」


「はい、ありがとうございます!」



 数が多くてかさばるので、倉庫へ行きどこでもストレージから魔物避け香50個を取り出して木箱へ入れると、店へ戻ってヨエルに数を確認してもらった。

 念のために数を確認してもらう作業は必要だと思うけれど、お客さんの前に無骨な木箱をドンと置いてそこから取り出して数えてもらうのは少々気が引ける。

 う~ん、これも要改善だなぁ。お盆みたいな大きめのトレーで出した方がスマートな気がする。

 またラウノの道具屋で何か見繕わないと。


 それにしても、この魔物避け香も大量に売れそうな商品なんだろうか。

 一度に50個や100個という単位で売れるなら、高級ピックのように前もって準備しておかないと不安だ。

 心配になってきたので、ヨエルが数を確認している間にミルドに聞いてみる。



「あの、ミルドさんは以前そんなにこの魔物避け香を推してなかったと思うんですけど、これも冒険者に売れそうな商品なんですか?」


「いや、普通の冒険者はそこまで使わねーと思う。香を焚くと自分がそこにいると近くにいる魔物にバレちまうから冒険者にとってはマズイ場合も多い。おっさんは採集専門だから魔物は単に追っ払ちまえばいいってことが多いんで、香を焚いても平気なんだ」



 なるほど、有効に使える場面が限られるんだな。

 魔物が出るエリアでの業務が安全で容易になるとブルーノが言っていたから、そういう用途での需要はありそうだ。

 採集専門の冒険者はヨエル以外にもいるのかと尋ねたら、上位ランクは今のところヨエル一人で、Bランクの下の方にもう一人いるらしい。

 依頼やダンジョン攻略に出掛けたついでに採集してくるという冒険者が多く、採集目的でフィールドワークをメインに活動する冒険者は稀なんだそうだ。



「稼ぎは悪くないがランクが上がりにくいんじゃ。それに地味じゃから女にモテんし、専門でやりたがるヤツはあんまりおらんな」


「種族が(トウ)の木のおっさんは蔓を自在に操れるんだ。蔓をロープ代わりにして断崖絶壁だろーがどこでも登ってくし降りてくし、行ける範囲の広さは鳥系獣人族と双璧だよな」


「移動速度は比べ物にならんぞ。だが、ぶら下がれる分、採集はこっちの方が向いとるじゃろうな。第一、あいつらは光もんの方が好きじゃし」



 鳥系獣人族と聞いて、わたしは真っ先に冒険者ギルド長のソルヴェイを思い浮かべた。

 確かにギルド長は宝探しのためならどこへでも飛んでいきそうだ。財宝が好きなのは鳥系の習性なんだな。



「ヨエルさんは籐の木の種族なんですね。コスティさんも同族なんですか?」


「ああ、そうじゃよ。蔓使いが達者じゃから、捕縛術を買われて魔族軍に入るヤツは多いな。あとは、この建物の大家のオーグレーン商会に勤めとるヤツも結構おるぞ。物流を担う商会じゃから、梱包係で重宝されとるらしいわ」


「へえ~っ、そうなんですね」



 ドローテアとのお茶会で、彼女が長年働いていたオーグレーン商会の話は多少聞いている。

 ありとあらゆる商品を扱う竜人族直属の商会だと聞いていたから総合商社のようなものかと思っていたのだが、ヨエルの話によると眷属であるワイバーンを使役して魔族国内の物流を一手に引き受ける物流業の方がメインらしい。

 おおお、かなりの大手……いや、物流を押さえているんだから実質トップ商会なのでは?

 すごい大家さんのところの店子になってたんだな、わたし。

 カシュパルが信頼のおける大家だって言っていたけれど、そのはずだわ……。



 数の確認を終えてカタログの続きを見ていたヨエルは、口にくわえていれば水中でも呼吸ができる『空気石』も購入した。

 魚は釣りで何とかなるが、水草や水中の虫の採集はなかなか大変らしい。

 更に、ホクホクしながら支払いのためにカウンター前へやって来たヨエルは、カウンターに並んでいる酒類が目に入った途端にこれも買う!と大騒ぎし始めた。



「わしは酒に目がないんじゃよ~。ヨエルのおっさんは酔える(・・・)のが好き、と覚えといてくれんか」



 うは、異世界にもダジャレ好きなおっさんはいるのか。嫌いじゃないけど。

 ウイスキーとブランデーも購入してくれたので、ヨエルとミルドにも試飲としてミードを振る舞おう。

 ミルドは前にも飲んだことがあるけれど、魔物避け香のナイスな営業をしてくれたからね。



「……普通の味じゃな」


「フツーにうまけりゃ十分だろ」


「人族だからって変わったミードを作るわけでもないか」



 うん、魔族は人族のミードに期待し過ぎだよ。

 あとで絶対POPを書き換えよう。それとも、いっそのこと“蜂蜜酒”と商品名だけ書いて放置しようかな……。



 ミルドとヨエルにも名刺を渡して彼らを見送ると、今度は巡回班班長のオルジフと班員のケネトが来店した。

 鳥系獣人族で種族がダチョウのケネトは黒髪の短髪で、白いメッシュの入った前髪を立てている小顔のイケメンだ。

 結構筋肉質な体で細マッチョというやつじゃないかと思うけれど、多分ファンヌのタイプとは違うんだろうなぁ。


 この二人にもカタログを見せ、名刺を渡しミードの試飲をしてもらう。

 彼らもやはり普通の味だと言い、これといった特徴もないが売れるのか?とオルジフが心配していた。

 お酒目的の客が増えても困るので、その肩すかし感をぜひ第三兵団内で広めてくれるとありがたい。



 そして、プレオープン最後の客は冒険者ギルドのベテランギルド員ハルネスで、閉店の10分前にやって来た。



「ギリギリの時間にすまないね。ギルド長が頼んでいた高級ピック300本をもらえるかい?」


「はい、こちらに準備してあります。1箱に100本ずつ入っているので、数をご確認ください」


「代理販売を行う相手なんだ、信用してるよ。だから数の確認は必要ない」



 ハルネスはそう言ってさっさと支払いを済ませ、持参したバッグにざざーっと高級ピックを流し込んだ。

 えっ、まだ依頼を少々扱ってもらっただけなのに、元人族のわたしをもうそこまで信用してくれちゃうの!?

 驚くわたしを見てニヤリと笑うと、ハルネスは更にわたしの度肝を抜いた。



「代理販売の在庫用に、支部の分も含めて400本納品してもらいたい。来週中に頼めるかい?」


「よ、400本!? 今300本買ったばかりなのに!?」



 冒険者ギルドは大お得意様決定だよ……。

 そのうち城の購入額を超えてしまうかもね……?




 ハルネスが帰ると同時に閉店時刻の5時になり、店を閉める。


 プレオープン、何とか無事に終わったなぁと思った瞬間、ドッと疲れが押し寄せてきた。

 朝の9時から夕方の5時まで一日働いたのはいつぶりだろう。

 体がなまっていることを痛感するが、それでも焦りより充実感の方が勝った。


 雑貨屋、楽しかったよ!

 ああ~ッ、早く開店したいな!!

読んでいただき、ありがとうございます。

少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです!


※ケネトの種族を変更しました(馬系→鳥系・ダチョウ)

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― 新着の感想 ―
何時も無料で読ませて頂いてありがとうございます。 魔王=悪しき者という感覚がありましたが、イメージが180°変わりました。 読んでいてホッコリします、すみれを取り巻く人達との物語の進行が楽しいですね。…
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