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聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!  作者: 恵比原ジル
第二章 城下町へ

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102話 プレオープン実施

 プレオープン当日。

 開店時間の9時きっかりに魔王一行が来店した。

 魔王、ブルーノ、レイグラーフ、カシュパル、スティーグ、クランツの総勢6名が入ると一気に店内がにぎやかになるなぁ。

 ちなみに、ファンヌはつい先日泊りにきたばかりだからと今回は不参加を表明していて、開店当日に来ると言ってくれている。



「おはようございます。皆さん、いらっしゃいませ!」



 “スミレの雑貨屋”店主としての第一声を、これまでずっとお世話になってきた彼らに聞いてもらえたのが本当に嬉しい。

 満面の笑みで迎え入れていたら、ブルーノの手が伸びてきてわたしの頬をびよ~んと引っ張った。



「気を抜きすぎだ。少しは笑顔を引っ込めろ」


「ええ~、皆さん相手なら問題ないでしょう?」


「予行演習なんだろう? 一般魔族を相手にするつもりでやっておけ」



 いきなりダメ出しされてしまったが、確かに魔族視点で接客態度をチェックしてもらった方が有意義だ。

 親しい彼らが相手だから浮かれていたと、気を引き締め直す。

 それにしても、さすがブルーノ。どんな時でも用心と効率アップは怠らない。



「では、初めて来店した人たちと思って接客しますね。……コホン。いらっしゃいませ」


「うーん、展示物が少ないですねぇ。商品はこれだけなんですか?」


「いえ、防犯上の観点から展示を控えているだけで他にもありますよ。カタログに記載してありますのでご覧ください。よろしければこちらのソファーでどうぞ」



 スティーグにカタログを渡すと、魔王とレイグラーフも一緒にソファーに座ってスティーグから手渡された木札を見始めた。

 カタログはジャンル別にまとめた4枚の木札で1セットとなっていて、複数人でも順繰りに回し見することができる。



「それにしても素敵なカタログですねぇ」


「ええ。見やすいし、良い出来ですよ」


「うむ」


「ありがとうございます。実物を見たい商品があったら声を掛けてくださいね」



 とりあえず、カタログで商品一覧を見てもらう方式は問題なさそうで安心した。

 さて、次はディスプレイした商品の前にいるブルーノ、カシュパル、クランツの様子を見にいこう。



「フフッ。何これ、かわいいね」


「どれ、見せてみろ……プッ」


「こちらにもありますよ。“頼れる温かさ 魔力の消費を抑えます”」


「えー、見せて見せて」


「ちょっとーっ! ニヤニヤしながら見るの、やめてくださいよ!!」



 何を見て笑っているのかと思ったら、わたしが書いたPOPだった。酷い。

 フン、どうせキャッチコピーのセンスなんてありませんよーだ。

 わたしがつい唇を尖らせたら、クランツから予行中は店主らしく対応するようにと指摘されてしまった。うう。



「馬鹿にしてるわけじゃないってば。こういう書き方の表示は見たことなかったからびっくりしたんだよ」


「面白い試みだとは思います」


「“冒険のお供に”は酒とつまみのことか……って、おい、『ドライフルーツ』なんてつまみになるのかよ」


「サバイバル活動中のビタミンとカロリーの補給にいいと思うんですよ。それに、蒸留酒とも相性いいですから。ちょっと見ててくださいね」



 わたしはそう言って展示台の上に置いてある『野外生活用具一式』から金属製の容器を取り出し、ふたを開けて中身とふたをウォッシュで洗浄する。

 そして、ドライフルーツをひと掴み分くらい容器の中に入れ、『ブランデー』をドライフルーツがひたひたになる程度に注いだ。

 ふたをねじ締め、毒と熱を通さない『作業用手袋』をはめてから両手で容器を持つと、ホットの呪文を唱えて中のアルコールが蒸発する温度まで一気に容器を加熱する。

 そのあと容器を振って中身を混ぜ、少し時間をおいてからクールの呪文で冷却した。

 容器を開け、皿代わりになるふたの上に中身を出す。

 いつもどおり、ネトゲ仕様により見た目に変化はない。



「ドラ―フルーツの洋酒漬けです。食べてみてください」



 言われるままにドライフルーツを指でつまんで口に放り込んだブルーノが目を大きく見開いたので、わたしは思わずにんまりとしてしまった。



「何だこれ、うまいぞ!?」


「でしょ~? ささ、お二人もどうぞ」


「わ、ホントだ。甘いだけじゃなくて深みのある味になってる」


「ブランデーがよく沁みています」



 お土産でもらったドライフルーツを持て余し、レンチンでできる簡単なレシピをネットで調べて作ったことがあったので、それを再現してみたのだ。

 うまい具合に複数の商品を活かせる上にブルーノたちの反応もかなり良かった。

 このデモンストレーション販売は案外使えるかもしれない。

 後でドライフルーツの洋酒漬けのPOPを作っておこう。


 ブランデーの良い香りが店内に漂い、それに興味を引かれた魔王たちがやって来たので、カタログ組とディスプレイ組に入れ替わってもらう。

 POPへの反応が心配だったので魔王とレイグラーフとスティーグの様子を背後からこっそりと伺っていたら、3人とも微笑ましいというような表情でPOPを眺めていた。

 からかわれるのは面白くないけれど、これはこれで非常に照れくさい。

 何だか授業参観に親が来た時のような気持ちだよ。



 しばらくしてレイグラーフが素材3種を5つずつ購入したいと言い出したので、しゃがみ込んでカウンター下部の収納から取り出したような振りをしてから、ハトロン紙のような紙でできたマチ付きの紙袋に素材を入れた。

 魔族の前でどこでもストレージからアイテムを取り出すわけにはいかないし、アイテムによっては奥の物置から持って来る振りをするつもりだ。

 紙袋の口を何度か折り畳み、最後に端っこを少し折り曲げてから、はいどうぞと渡す行為は何だかとてもお店屋さんっぽい気がして地味に気に入っている。

 素材3種を別々の紙袋に入れてレイグラーフに渡したら、合格と言われて焦ってしまった。

 わたしの素材の扱い方をチェックする抜き打ちテストだったとは……。

 危ない危ない。普段はわたしに甘いレイグラーフだけど、さすがに学術・研究に関する事柄では容赦なかった。


 薬や素材などの細かい物を売る時に使うこの紙袋は、実はネトゲアイテムの1つで『紙袋5枚』と『紙袋100枚』の2種類があり、店用に100枚入りを開封して使っている。

 採集専門の冒険者に需要があるとミルドが言うので商品に入れてあるが、魔族は男女ともにたいていバッグか袋を持ち歩いているから、本当に需要あるのかとわたしはいまいち懐疑的だ。


 プレオープンでは実際に何か買ってもらうことを想定していなかったが、レイグラーフに続いてブルーノも野外生活用具一式とブランデーとドライフルーツを買って帰ると言い出したので、全力で止めた。

 野外生活用具一式は高額商品だからお値打ちなプライベート購入でしか売りたくない、3日後に里帰りするからそれまで待って欲しいと言って何とか説得する。

 皆笑って見ているだけで援護してくれないのだから、ちょっと酷いと思う。


 しかし、わたしにはそんなことよりもっと大事なミッションが残っている。

 帰り支度を始めた一行を見て、わたしはおもむろに名刺を取り出した。



「今後ともご贔屓にしてくださいね」



 そう言って、まずは魔王に名刺を手渡す。

 受け取った魔王は白っぽい木の小片でできた名刺をジッと見たあと、また来ると言ってわたしの頭をくしゃっと撫でた。

 嬉しくて、えへへと笑いながら他の面々にも手渡していく。

 皆が笑顔で受け取ってくれたのが嬉しい。

 早くファンヌにも渡したいな。里帰りするのが待ち遠しいよ。




 魔王一行が帰ってすぐに、今度はエルサがやって来た。

 エルサは店に入るなり、挨拶もそこそこにディスプレイしてある毛織物(ウール)の装備品の前に直行する。

 うん、オシャレ大好きだから服飾関係のアイテムは気になるよね。予想どおりの反応だよ。



「ねえ、これ試着できる?」


「もちろん!」



 トルソーに掛けてあるマントをササッと外して着せたものの、鏡がないので姿を見て確認できないことに気付き、1階の洗面所に案内した。

 エルサが鏡を見て毛織物の装備品を堪能している間に、わたしはすかさず内装屋に伝言を飛ばして、スタンド式の全身鏡はあるかと問い合わせる。

 どうやら既製品があるらしくいつでも納品可能とのことで、先日発注した腰掛けと一緒に納品してもらえることになった。

 うう~ん、毛織物のディスプレイ周りは完璧だと思っていたのに、予想外の抜けがあるなぁ。

 きっと他のところでも見落としがあるだろう。プレオープンをして良かったよ。


 試着を堪能したエルサにカタログを見せ、気になる商品はあるかと聞いてみたら『染色料』を挙げた。

 なるほど、服の色を変えられるアイテムか。

 興味津々なエルサに使い方を説明してから染色料を試させてみたら、意外なことにエルサは服飾品すべてを真っ黒に変えた。



「あれ? エルサはもっとカラフルにするかと思ってたよ」


「もちろんそれも試したいけど、精霊祭の時に服を精霊色にするのはどうかなって思ったの。普段は全身一色のコーデなんてしないけど、精霊祭ならおめでたい感じになるからやってみたいのよねー」


「精霊祭か~。なるほど、その発想はなかった」


「やりたいって魔族は結構いると思うわよ。あのPOPってヤツに書いといたら?」


「うん。そのアイディアもらってもいい?」


「んふふ、いいわよ。何なら精霊祭の数日前からアタシが精霊色に変えた服を着て宣伝してあげようか? お礼は色を変える時と戻す時の染色料2個でどう?」


「その話乗った!」


「キャハハッ、じゃあ決まりね!?」



 ナイスなアイディアを提供してエルサは帰っていった。

 精霊祭の日に精霊色をまとってお祝いする、か。

 魔族にとって精霊祭はとても大切なものなんだと、改めて実感する。


 次の黒の精霊祭ではわたしもエルサと一緒に色変しようかな、などと考えながらウキウキしていたらあっという間にお昼になった。

 店のドアの外側に「準備中」の札をぶら下げ、一応鍵を掛ける。

 さあ、昼休みだ。昼食の準備をしよう!



 営業日の昼食を外食にするか自炊にするかはまだ決めてはいないが、慣れるまではテイクアウトを利用して自宅で食べるつもりだ。

 ただ、仮想空間のアイテム購入機能には食料品の項目に『実績未解除』の表示が10個もあり、これをできるだけ早く実績解除したいので、昼食か夕食のどちらかでなるべく自炊していこうと考えている。


 そんなわけで、今日は昼休み1時間で簡単な自炊と完食が可能かどうかを試してみるつもりで、朝食時に昼の分のパンとスープを買ってきた。

 あとは卵料理やサラダを作るだけで、卵料理も高難易度メニューであるオムレツに拘らなければたいして時間はかかならない。

 今回はトマトとベーコンのスパニッシュオムレツを作ることにした。

 具材を混ぜてダッチオーブンに流し込み、あとはオーブンに入れて焼くだけなので簡単だ。

 火の精霊のひーちゃんと水の精霊のみーちゃんが火加減を見ていてくれるので、たぶん魔術具に任せるより短時間で仕上がると思う。



 スープとパンの準備をしている間にスパニッシュオムレツが焼き上がった。

 ダイニングテーブルで精霊たちと一緒に手を合わせて“いただきます”をする。


 普通にゆっくり食べて、どのくらい時間がかかるかな?

 食後のお茶を楽しむ余裕があるといいな。

【お知らせ】2021/09/30

投稿の際にこの欄でご相談したタイトルの件ですが、賛意のアクションを複数いただいたので変更することにしました。

新タイトルは「聖女は返上! ネトゲ世界で雑貨屋になります!」です。

アンケートにご協力いただいた方々ありがとうございました。

今後ともよろしくお願いいたします!/恵比原ジル

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