追跡 弐
赤雷が近くに待機していたアルシュに合流する。顔を合わせるなり、彼は状況を手短に話した。現段階での想定は、男がミシェルから逃走し城へ向かっているという前提である。
「やれやれ、今になって手の掛かる! とんだじゃじゃ馬よ」
「話は後だ。状況を変えんことには、何も始まらん」
「……お主が逃げるならどうする?」
「決まってる。裏道を使うだろうよ」
「成る程。地図を出せ」
とりあえず入手したはいいが、ほとんど走り書きに近い。地図として最低限、通りと方角。目印になるような建物などしか記入されていない。勿論だが、最北部には領主の居城も記載されている。情報として機能するか怪しかっただけに、活用するのは避けたかった赤雷だが 、贅沢を言っていられないのも確かだ。渋々といった様子で羊皮紙を懐から取り出す。
それに対して釘を刺すことしか出来ない。現状頼れるものが、実際には頼れないというのはおかしな話だ。
「目印程度にしておけよ」
その言葉を聞いていないのか、アルシュは立ち止まりそれに注視した。移動を促す赤雷の一言に対し、
「彼女らが居たのは?」
「南西部の露店が並ぶ通りだ。しかし参ったな、あいつらが経由する道なんざ、皆目見当も付かん。城の正規の入り口が正門だけであるとしても厳しいな」
「待て、奴のようにお主が追われてるとしたらどうする。どこを通ると思う。お主の意見を乞いたい」
「余所者に注意を引き付けさせてその上で撒こうとするから、人通りの多そうな場所を……なるほど。歓楽街か、市場ってところだろうな」
地図をみれば、町の中心部から東西に歓楽街と市場がある。城までの道のりもやや長く、ある程度迂回するだろうことを考えれば選ぶ道筋としては妥当だ。赤雷の考えでは、夜更けの歓楽街の方が人目があると睨んでいる。
目立つことを嫌う追跡者が諦める可能性も上がる為だ。更に、野次馬が殺到すれば事は大きくなる。彼女の身動きを取りづらくさせるという点では効果的だろう。
関心する赤雷に対し、アルシュはおどけるように言った。
「何が流石、じゃ。何処までも都合の良い戯けめ」
日頃から憎まれ口を叩いている身だが、アルシュの機転と洞察力には目を見張るものがあると、彼は思っていた。咄嗟の一言に救われた場面も数知れない。なんだかんだと面倒見の良いところは、彼の美徳であると赤雷は信じているのだ。
それを鼻に掛ける様子もなく、これから出来うることまで淡々と示して見せる手腕には、最早脱帽するしかない。
「そうとなれば話は早い。間に合うかは怪しいが、俺はミシェル達を追って北上する。最短距離を移動し、歓楽街へ向かう」
「では、儂が市場じゃな。何にしても、不測の事態に際しては備えが必要じゃろうて」
二人はその言葉を皮切りに、状況を開始した。無常にも、白みかけた東の空が広がっている最中でのことである。
手早く情報交換をした彼らだが、その胸中には焦りがあった。
焦燥に駆られた行動は失敗を招くと自戒しつつ、最善と思われる事を為すべく奔走することに。
次回、ミシェルと男の鬼ごっこが始まる(笑)!




