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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
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初動 弐

標的は薬物中毒者。阿片窟近く。


 「ふふふ、いい気分だあ」


 町中を一人の男が歩く。その足取りは覚束(おぼつか)無く、安定していない。武装していることも手伝って、道行く者は遠巻きに(なが)めるだけだ。

 彼のように阿片窟で一服つける人間は、そう珍しいものではない。破滅から目を背け、一時の陶酔(とうすい)に身を(ゆだ)ねる。或いは、家族に先立たれた事を受け入れられない者が──。


 張りのない肌は、浅黒く、声は(しゃが)れている。年かさのある風だった。目つきは(とろ)けて、胡乱(うろん)げだ。

 とは言え、意識は割かしはっきりしているようである。若干浮わついた思考ではあるが、彼は状況を観察していた。


 (ここ数日、ずっと付け回されたが……今日は尾行されていないようだな)


 男はそれとなく振り返ったが、陰に隠れる者は居ない。見られているような感覚も無かった。最悪の可能性として、尾行する者が変わり、こちらが察知出来ていないことが考えられる。腕利き

 だが、それもすぐに否定された。

 狭い路地を幾度も通った上、よほど土地勘がなければ分からないような裏道も使っている。彼には、居場所が特定されないだろうという自信があったのだ。特に荒事の専門ともなれば、どこで恨みを買っても不思議ではない。そう言った気配には殊更敏感なのだ。

 もっとも、余程の腕利きであるという考えが浮かばないでもなかった。そうなればお手上げである。そこで、ひとつ手を打とうと思い立つ。

 再度、裏通りを通る事にしたのだ。


 (逃げるが勝ち、ってなぁ)


 やがて表通りに出ると、喧騒が戻ってきた。(みどり)に赤など、色鮮やかな旗が風に翻る。また、()えた香りとは違い、屋台からは芳醇(ほうじゅん)な匂いが(ただよ)っていた。

 手狭(てぜま)な裏道から出てきた彼を(いぶか)しげに観察する者も居るが、目元を見ると我関せずと言わんばかりに立ち去っていく。無理もない。薬物中毒者となると、何を始めるか分かったものではないからだ。


 「──うん?」


 その時彼の視界──その端に、黒い外套を纏う人物が映った気がした。賑わう中で異彩を放つが故、気掛かりになったのだ。だが、彼が見遣るとそんな姿をした者は居なかった。ただ人混みが雑然と広がるだけでしかない。道行く人に目をやれば、互いにぶつかり、舌打ちをするもの。或いは、頭を下げるものがいるだけだ。


 気のせいか。

 不意にこぼれた彼の言葉は、雑音に呑まれ誰に届くこともなかった。

 それは近くで彼を観察していたものも例外ではない。


 「……さて、どうやって仕留めたものか」


 警らの男が後方を気にしなくなった頃だ。濡れ羽色の髪を(のぞ)かせた男が、泰然(たいぜん)とした口調で呟く。

 言い終えるが否や、彼は小路の入り口から移動を開始する。滑らかに、かつ素早く動いたその姿は影のようでさえあった。

次回、赤雷らの視点から状況を転がします(*`・ω・)ゞ

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