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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三・五章 滅亡ノ鐘
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赤雷の思惑

遠野郷行きたい。

 「──このお人好しめが! またぞろ手前勝手に話を進めよって!」


 宿に入って早々、アルシュが赤雷を非難した。当人はと言えば、あぁまた始まったかと溜め息を吐く。あまりの態度にミシェルの目が一層険しくなる。

 赤雷は、心底暢気(のんき)そうに目を細めた。


 「あの店のスープは嫌いじゃないな。赤茄子は苦手だったが、ぷでぃんぐ(・・・・・)とやらの優しい味と来たら」


 「ほう、よもや無策とは。流石は天下無双の赤雷様じゃて」


 「……あのなあ、俺だって考えはあるんだ。だから話を聞けって、そう悪いものじゃない」


 「領主を殺して、ただで済むわけ無いでしょ。貴方、頭は回るようけど、中身はこれ以上無いくらいに残念なのね」


 ミシェルの揶揄(やゆ)に言ってろ、と興味無さげに赤雷。気だるげではあるが、今も何事かを考えているようだ。目付きは鋭く、警戒も欠かさずといった風体である。アルシュは「勿体ぶりおって、早く言え」と急かした。


 「まず領主殺しを引き受けた理由のひとつ目だ。俺はあいつらを信用しちゃいねえ。寧ろ、困らせてやりてぇんだ。領主の奴が糞野郎なのは認めるが、俺らに喧嘩を売ったんだぞ? ただじゃ済まさねえよ」


 アルシュは無言になる。それはミシェルも同じだった。誰にしたって襲ってきた敵を、お涙頂戴で許す訳もない。その証拠に、赤雷は町人がすすめてきた宿よりも、自分と仲間の目で以て宿を選んでいる。言われるまでもなく、彼は既に行動で示していたわけだ。


 「二つ目。路銀の足しにしたいってことだ。これが大きいな。金なんざ幾らあっても困らねえからな」


 「あやつらがそこまで抜けていると? 下手を打てば、儂らは仲良く晒し首じゃと言うのに」


 「大衆ってのはな、目先の大義に振り回されるもんだ。長いものに巻かれるのは常だろう。いずれにしても、貰うもん貰ったらさっさと退散する──これしかない」


 ──腹のうちでは何を考えているか分からない。それはこの場の全員が思っていることである。更に言えば、落ち着きようから考えるに、領主代行のあてはあるようだ。とはいえ、事の元凶を派手に始末すればそう簡単にはいかないだろう。町の連中は事態の大きさに戸惑い、右往左往すると考えられた。

 ミシェルは、しかつめらしく赤雷を睨んでいたが、やがて布団に潜り込んだ。長旅の疲れが出ているようだった。

 到着した当初、草臥(くたび)れた寝具に不満を漏らしていたのが嘘のようである。


 「……やけに大人しいな」


 「相手にされておらんだけじゃろ」


 「──可愛いげのない爺」


 アルシュはお互い様だと返した。その目はしかし、彼を見据えている。言葉を交わすまでもない。計画を立て、実行する為の提案が欲しいという訳だ。言い出しっぺは最低限、それらしいことを宣って見せろと言外に告げている。

 赤雷はミシェルを一瞥(いちべつ)し、口を開いた。


 「まず俺たちは領主に関して情報がない。居城の間取りに警戒体制、兵の配置すらも知らん。敵情視察が当面の課題だが……」


 アルシュが後を引き継ぐ。


 「捕まれば一巻の終わり、じゃな。僅かな失敗も許されん」


 彼の言葉に赤雷は大きく(うなず)く。

 敵地の背景や内情を知らずに襲撃するなど、みすみす死にに行くようなものだ。いざというときに隠れる場所、逃走経路の確保は必至の課題である。追い詰められた先が袋小路だった、では済まない。まずは敵を知るところから始めなければならない、ということだ。

 背景からも察せられるが、恐らくこの町はよそ者の逗留(とうりゅう)に耳敏い。この点についても頭が痛いところだ。噂話というものは往々にして伝わるのが早いものである。その場で蹴散らすだけならまだしも、毎晩のように襲ってくる事態は避けたい。その上ミシェルのように美しい娘となると、兵士達は放っておかないだろう。彼らとて従順ではなく、娘を隠れて暴行して殺害した後、素知らぬ顔で通している可能性もある。

 渋面を作り、赤雷は語り出した。

 ──蝋燭(ろうそく)の火が、揺れる。


 互いに意見交換をする二人は、今後の計画を話し合った。一通りの提案を終えた後に問題点を指摘、改善案を提示するという単純なものだ。何故なら、難解なやり取りは、却って相互認識の上で(へい)害が起こりかねない。不適当だと思われた策については採用をしない方向で(まと)められる。


 「──では、明日から動くとしよう。じゃがな、赤雷。賛同したとは言え、もう少しまともな策は無いものか?」


 「馬鹿言え。今までこんな提案をしなかったのは、相手が破落戸(ごろつき)の阿呆どもだったからだぜ。流石に今回ばかりは事情が違う。確かに危険だが、敵を知るには最も合理的でもあるはずだ。敵も、まさかと思うだろうさ。つまり、俺の狙いはそこにある」


 誰しもが考えうる事は明け透けな部分もあると、赤雷は最後にそう述べた。

 顎に手をやったアルシュは、成る程と(うな)る。


 「そこまで言えるということは、熟慮の上なのじゃろうな。そこまで頭が回るのなら、赤雷──お主が領主の首を狩った方が良かったのでは無いか?」


 「俺は参謀を殺る。領主だけ恨みを買ってる訳では無さそうだからな。何よりそいつが元凶……だが、恐らく頭が回る野郎だ。いっそ神経質なまでに、な。そうでなければ、今の今まで甘い汁を吸ってるもんかよ。きっと些細な異変で逃げ出す。だからこそ、俺が始末する」


 「やはり、お主は人情だけで動いてはおらぬのだな。一安心じゃわい。……普段は尻拭いばかりじゃったからの」


 「ふざけろ」。赤雷はアルシュを肘で小突いた。

 そんなアルシュの目も据わっている。まさに、覚悟を決めた男の目だ。


 「いざとなれば、儂も戦うつもりじゃ。なに、安心せい」


 扉のすぐ横で座り込み、赤雷は小さく笑う。


 「あんたが死地に飛び込むこたぁねえよ。任せろ、俺が勝手に切り出した話だ。精々いつものように、見付かるより先に仕留めて見せるさ」


 そう言って、彼はそのままの恰好で見張りを行う。アルシュも休息の姿勢をとって暫くすると、室内には静寂が訪れた。

 彼が当面の危難なしと判じたのか、皆が寝静まった頃だ。ミシェルの布団がうごめく。

 彼女は上体を起こして赤雷の方を見遣ると、


 「馬鹿じゃないの? 貴方に全て任せられる訳無いじゃない。何せ私は、貴方を信用していないの。領主も、側近も──私が片を付けて見せる」


 静かな声だが、挑みかかるような気魄で言ってのける。

 そして休もうとした彼女だが、気持ちが高ぶったせいか、その日は一睡も出来ぬまま朝を迎えるのだった。

肉汁が滴るまでパリパリに焼いたウインナー。

それを噛んだ時の食感が堪らん!


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