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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
三章 剣ノ勲
65/120

戦端 参

少しばかり描写を簡潔にしてみました。

口惜しいのは、傭兵連中全員のキャラを御披露目できないことですね(´・ω・`; )


呑んだくれ剣士とか、アクロバティックな戦闘得意な変態とか、愚直なほどパワープレイに徹する脳筋とか、女好きで語るに墜ちた変態とか、性的倒錯者とか…………とスブニールやレミーなど、(比較的)マトモで愉快な仲間達でお送りしま……ギャグ要素入れたつもりはないんだけどな?

 「撤退だ、一旦引くぞ!」


 半刻程戦闘が続いただろうか。

 突如としてアバンツァータの騎兵隊が、怒声の後に(きびす)を返し始める。それが戦線離脱の兆しだということは、誰の目にも明らかだった。


 「これより、追撃を掛ける。但し、深追いはするな! 命はひとつだぜ、野郎共!」


 「おうよ、旦那! このまま巣穴に追い込んでやるくらいで行くともさ!」


 優男に映るジルベールまでもが、気概をもって()え立てる。とは言え、敵は未だ一〇〇以上。撤退の折りに馬首を巡らせた敵を数人打ち倒すのみで、戦果自体は驚く程低い。混戦時に仕留めた敵は一五騎と少なく、全体で見れば二五程度しか減らしていない。加えて、騎兵特有の機動力である。深追いが危険を増大させる以上、意気込みとは裏腹に追い付く事すらかなわないのが実情だ。結局、追撃を取り止める他になく、林の中へ侵入する敵の背を眺めるのだった。他に目的もある。敵の士気を下げることで戦意の低下を狙ったものであり、追撃はついででしかない。

 陣形が崩れて尚、攻撃を許さぬ見事な引き際に、スブニールは(うな)る。

 死傷者を最後尾に回すように伝え、


 「レミー、自軍の損害は」


 顔色ひとつ変えず、背後の副官に言葉を投げ掛ける。


 「少し待て」


 そう言うと、手当てに回った者から円滑に情報を拾い、レミーは答えた。


 「落馬、軽傷者を含め一〇余名。そして……死亡が三名といったところだな」


 シガールは二人のやり取りに対して驚いていた。

 乱戦の渦中でそこまで把握できる観察眼と、立ち回りの巧さ。それは最早、配慮などという生易しい領域ではない。自軍の管理と戦闘を両立させるレミーの手腕と、即座に判断するスブニールの手腕。それぞれに舌を巻いていたのだ。

 痛み分けにしては軽いほうか。そう漏らし、スブニールは隊長格とおぼしい男に声を掛ける。

 おぼしい、というのは味方に無傷の者がおらず、防具の損傷も激しいからだ。交戦していた者達の顔色が冴えないというのも一因だろう。砂埃と血や汗で汚れてもいるのだから、無理もない話である。


 「俺はスブニール。俺の後ろに居る荒くれと……ご覧の通り、新兵のお守りを任されてる」


 「お初にお目に掛かる、私は──」


 そこまで言い掛けたところで、スブニールは後頭部を掻きむしりながら口を挟む。


 「──ああ、そう(かしこ)まることはねえ。生憎とそう言うのは苦手で、そもそもが無縁だった。だから()してくれ、耳障りなんでな」


 これだから傭兵は、と軽口を返して男は言った。


 「俺の名はレミ。仲間はえらく減ってしまって正直不安だったが、勇敢な頭で安心した」


 「新兵の参入ごときで安心とは、相当参ってると見える。何があった?」


 「単刀直入に言うが、指揮官のアンドレは密偵の手に掛かった。それが一昨日の話だ。役に立たん頭だったが、衝撃は小さくないらしい。衝突するも幾度となく敗走を余儀なくされた……以上が事の顛末(てんまつ)だ」


 指揮官のアンドレは、騎士達の間で最も評判が悪い男──一応は男爵位──である。

 戦術に寡兵であることを加味することもなく、敗北したことに対する分析の意欲や、分析力すらない。

 貴族の血筋であることを鼻に掛け、豪奢(ごうしゃ)な椅子の上でふんぞり返るだけの存在などと揶揄(やゆ)される始末だった。

 本来、このような戦には騎士団長ことジャン=クリストフが出向するはずなのだが、スブニールに言わせると「無能に対する王様の恩情だろう」とのことだ。

 裏を返せば、この戦いはそこまで大事になると見込まれていなかったのだろう。

 何故なら数日前、シガールはスブニールから、アバンツァータがここ二・三年で急速に勢力を拡大した国であるということを伝え聞いたのだ。


 スブニールの意見はこうだ。

 本来、国を盗るということは二・三年以上に時間が掛かる。敵国を制圧し、支配するまでは問題ないとしても、文化摩擦が起こる事態は避けようがない。

 短期間での統治ともなれば、不満があがる。統治するにあたって、弾圧も必要となる。ある種の見せしめとして不可欠だからだ。すると当然、立ち上がろうとする者も現れる。

 つまるところ周辺諸国を併呑してきたアバンツァータには、

内乱の火種となりうる要素がある。

 後顧(こうこ)の憂いを断たねば、最終的に彼らは板挟みとなる。


 結論として、現状のアバンツァータはさした脅威ではない。

 ──それがスブニールの見立てであったのだ。

 今回、スブニールのあては完全に外れたということになる。彼は聞こえよがしに舌打ちをこぼす。


 「ちっ、どうしてこう推測が外れるんだろうな。……まったく、これだから戦ってのは嫌いなんだ」


 「いつもお前が言ってる事だろう、スブニール。『人ってのは、俺らの思ってる程筋が通っていない』とな。見掛けによらず、お前は理屈で戦おうとする癖があるのだから、もう少し気楽に行くといい」


 「一言余計なんだよ、レミー」


 「……は、何か?」


 レミーに向けた一言を、隊長ことレミが拾う。一瞬固まった後、スブニールの肩が震えだす。その様子を見て、レミーは声をやや上擦らせながらも休息の指示を出した。

 スブニールが困惑気味に声をあげるが、知らぬ存ぜぬを貫いている。


 「おいレミー! ……まあ、いいか。士気に関わることだ、大目に見よう」


 「スブニール、俺は何か彼の気に入らないことを口走っただろうか」


 「お前さん、思ったより堅物だな。あいつと気が合いそうだな」


 水袋をあおり、喉を潤しながら言った。「どういうことですか」とレミが聞けば、スブニールは「自分でよく考えるこった」と言いながら笑っていた。

 シガールはそんな様子を見ながら、より一層の警戒を意識すると同時に、レミーへの質問を心に留め置くのだった。

戦端の小噺はこれにて終了。

休憩の小噺を差し挟んで、斥候のシーンを入れようかと悩んでます。

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