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異端ノ魔剣士  作者: 如月 恭二
二章 異国之剣客
27/120

剣士達の朝

遅くなって申し訳ありません。

異端ノ魔剣士、第二十七話になります。


改めまして紹介しますが、このお話は……えっと……………………大体不遇な物語です(笑)

最近、ちょっとホラー的な表現が要るかなあ……とか思ってます。

主に、迫力的な意味でorz



因みにホラーって、難しいですよね。

文章で人間の感性に直接働きかけなければ物にならないのでorz

短編なら書いてみたいですね、幽霊物を特に(笑)

 「おはよう、赤雷さん……どうしたの、その顔?」


 シガールが目を覚ます。寝ぼけ(まなこ)を擦りながら窓に近付くと、その縁で腰かけている赤雷へ声をかける。

 起き抜けの明るい声が、一転して訝しげなものに変わる。それは無理もないことだろう。赤雷の目元は一目で分かる程の(くま)をこしらえていたからだ。

 眠れなかったのだろうかと、シガールは考える。


 「なに、眠れなかっただけだ。 ……お前こそ、眠たそうにしてる癖してよくいうぜ。 他人(ひと)の身より手前(てめえ)のことを省みるべきだな」


 無造作に放られた鏡を危なげなく受け取り、覗き込むと赤雷ほどではないがシガールにも隈が出来ていた。

 美しい紺色の髪と薄手の洋服は目茶苦茶に乱れ、目脂(めやに)が目元にこびりついている。

 特に酷いのは口元だろう。(よだれ)で粘ついているのがすぐにそれと分かった。

 

 「洗ってこい」


 そう言って赤雷が口角を吊り上げるのと、慌てた彼が古井戸に向かうのは同時である。

 水音が暫くして耳に届く。飛沫(しぶき)を上げる音は実に(せわ)しない。よほど慌てて洗っていることだ

ろう。

 赤雷は笑顔混じりに嘆息した。

 シガールとの生活に嫌気がさしたわけではない。寧ろ、感謝すらしている。一人暮らしの日々に彩りがなかったことは紛れもない事実なのだから。

 然りとて、容易に打ち明けられないことがあるのは致し方ないことだ。

 逆に(ちかし)い人間だからこその隠し事は当然ある。そうなると、赤雷とておいそれと打ち明ける訳にはいかない。


 (これは……俺だけのものだ。 他人は関係ない。 教えてやるだけの義理もない)


 頭を振り、気持ちを切り替える。

 いつだってそうだ。悲しいことも、苦しいことも切り替えていくことは肝要だ。

 戦いの場で感情に縛られていては足元を(すく)われる。一時の感情を前に必殺の刃は曇り、敵に付け入る隙を与える。

 優しさは(ぬる)さ。時には非情に徹すべし。

 これこそが、赤雷が学んだ処世術である。

 

 ──それすらもだいぶ、(ぬる)くはなったがな。

 

 赤雷は自身の甘さに自嘲する。アルシュにも指摘を受けたことでもあるし、自覚するところでもあったからだ。

 これはなにも六年前の、シガールを助けたことだけではない。

 今の今まで、一体どれだけ。既に両の手ではきかない人助けをこなした。


 無論、救済と同程度には命を刈り取ったのだが、本来同情や共感といった感情は赤雷の“仕事”に不要なものだ。

 己が処世術に反し続けた先で生き残ることは叶わないかも知れない──そんな思いが浮かぶ。

 

 現に、赤雷は亡くなった家族を夢にみた。死をそれとなく予感するからこそ、夢にみたのではないかとも思ってしまった。

 弱ったな──他人事のように思う。


 (最近は夢にみることもなかったというのに……。何故、今頃になって?)


 それが感傷的な思いに駆られているからなのか、今は亡き妻子の恨みからくる、呪いの類なのかは分からない。或いは、両方なのかも知れない。もしかすると、償いたいと考えているからなのだろうか。

 ──答えは、出ない。

 不意に浮かぶ馬鹿げた考えを払うべく、彼はシガールへと声をかけた。

 そんなシガールの外見は既に、幼い頃とは見違える程に成長している。

 十三という年齢にしては不相応な程に隆起した肢体は、はち切れんばかりでありながら、瑞々しい張りを両立する肉体美。

 日々の修練を経た賜物であるそれは、ただ(たくま)しいだけではない。

 見る者が見れば、それが剣を振るうために最適化された体格と鍛え方であることが分かるだろう。

 (たと)えるならば、靭やかな肉食獣の身体だ。

 

 赤雷の指導あってこそのものでもある。

 脳裏に焼き付いた体躯を思い浮かべ、満足げに頷く。


 「さて、俺は先に行くぞ。 木剣(ぼっけん)を忘れるなよ?」


 「ごめんなさい、お待たせ!」 


 先に出ることを伝えた矢先、意外にもシガールは赤雷の出発に間に合った。だが、手には木剣が一本と、鍋がひとつ提げられていた。綺麗になった顔とは違い、頭の方は未だに寝惚(ねぼ)けているらしかった。

 必死な顔をするシガールに、赤雷の頬は緩む。


 「……? どうしたの、急に笑ったりして」


 「なんでもねえよ。 ところでお前、鍋で俺に打ち込むつもりか?」


 あっ、と声をあげるや否やシガールは再びあばら家へと駆け込んだ。

 大層慌てているせいか、皿の割れる音と騒ぎ立てる声が聞こえる。


 慌てている様子を思い浮かべるが、あまりにも可笑しく思えて笑いがこぼれる。普段であれば食器の件も含めて怒鳴り付けるところだが、そんな気分ではなくなった。

 死にかけていた孤児の命をシガールが救った。ところがその子が死んだことで、シガールは失意に沈んだのである。それが三週間ほど前の出来事だ。


 その時のシガールはとてもではないが、みられたものでは無かった。

 口すらまともに利かず、最初の数日は一人で部屋に籠り食事すら摂らなかった始末だ。

 そして、取り憑かれたように稽古(けいこ)へ打ち込み、アルシュにも手当てなどの教えを乞うていた。だが、その時の顔色はというと何処か能面のように無機質で、およそ感情が感じられないものだ。見ている赤雷が心配に思うほど、不安定な状態が続いて今に至る。


 だから、シガールが活気を見せたことこそ、彼にとっては何よりも喜ばしいものだった。


 「あいつも、少しは明るくなったか。 これでようやくあの辛気くさい面ともおさらばってわけか」


 ──もう三週間にもなるのか、シガールが露骨に沈んだ顔をして生活していたのは。

 そう言って、くぐもったような声で笑う。

 しかし笑みは柔らかく、暖かい。


 それは久方振りに赤雷が浮かべた本心からの笑顔だと、彼は知る由もなかったのである。






 町を西の方向へと歩くこと七里(ななり)の場所。

 けして近くない道程を移動してきたシガールと赤雷の二人組は、荒れ野にてそれぞれが木剣を握ると、静かに向き合った。


 彼我の距離は僅かに三尺強といったところだろう。


 二人には目につく点がある。両者の装備は麻服の上に、必要最低限の防具を身に付けているところだ。

 防護されている箇所は僅かに、腕と脚のみで他の物は見当たらない。

 しかも腕は部分装甲(ポイントアーマー)一点であり、脚は打って変わって向こうずね当てを装着している。

 何とも中途半端な武装だった。

 

 実用性を問うならば、町を行く傭兵や盗賊の革鎧に軍配があがるだろうことは素人目にも明らかだ。

 彼らに言わせるならば、全身の防備を固めてこその防具であるからだ。無論、誰しもがそうして口を揃えるだろう。

 それにつけても、見栄えのしない実にさもしい身なりである。


 恐らく、そこらの辺境に仕える新兵の方が、まだまともな姿をしているだろう。


 そのような有り体に言えば、みっともない風体の二人の視線は、しかし射るような鋭ささえ(うかが)わせた。

 空気が張り詰め、一触即発の気配に凍る。

 吹き(すさ)ぶ風が草いきれを(もてあそ)び、()いた。


 互いに正眼の構えで対峙し、最早百と少しを数えるほどの膠着状態(こうちゃくじょうたい)が続いた。


 ──その時、シガールが強く踏み込んだ。

 一息に間合いを詰め、踏み込みの体動で木剣を滑り込ませる。その切っ先が狙うべき箇所はただ一点、首である。

 その一連は流水を想起させる優美な動作でありながら、(こも)る力は気魄(きはく)に満ちていた。


 けれども、必中の気概をもって振るわれた一撃は、赤雷にいなされる。

 添えるように受け流し、力の向きをずらしたのだ。それは無駄なく、淀みなく行われた。

 行動はそれだけでは終わらない。ほぼ予備動作なしで返しの突きが放たれる。紛れもなく、シガールの攻撃に対する意趣返しである。


 ほぼ命中と思われるそれに、シガールは(いささ)かの驚愕(きょうがく)も見せない。

 寧ろ、予期したものであるかのように構えていた。

 剣が勢いに乗る直前、シガールが半歩前に出る。

 右横に斬り払い、胴を打たんとした。


 その挙動すら赤雷はかわし、得物を振り抜き隙だらけとなった彼の左側へと侵入。

 上体から倒れるように滑走し、シガールの胴を強打した。

 急所は外れているのだろうが、あまりの痛みにシガールは危うく木剣を取り落とすところであった。

 そこはシガールもさるもの。すぐさま居合抜きの要領をもって、脚を打たんとする。対する赤雷も体勢を戻し、同様に脚を狙って()ぐ。

 それで終わりではない。双方得物を回すように振り、両の手で袈裟に切り下ろす。

 裂帛(れっぱく)の一撃が()り合い、鍔迫(つばぜ)り合いへともつれ込む。

 されど拮抗は一瞬にして破れる。シガールが圧したように見える格好だが、それは違った。赤雷は絡めとるように剣を操って力を巧みに後ろへと逃がし、これを受け流したのである。


 「……なっ!?」


 絶句する彼の左の胴を、赤雷は再度打ち据える。追撃として鎖骨に打ち下ろしを加え、堪らず木剣を手放し倒れ伏す。

 衝撃に悶えて倒れたシガールを見下ろし、額に流れる汗を拭いながら赤雷が告げる。


 「……ふう。 なかなか危ないところだった。 今日も、俺から一本取ることは出来なかったなあ」


 「……ぅ」


 敗北の報せ。

 呻き声だけで応じるシガールの声は、ただ悔しさを(にじ)ませたものではない。


 そこにあるのは、悔恨と怒り、そして憎しみだ。

 シガールは、取り乱すどころか至って冷静であった。

 己の力量を見定めた上で、どこから斬り込むか、どうすれば有利であるのか。ただそれだけを考えていたのだ。

 それでも尚、赤雷に一矢報いるには至らない。

 望む強さに、到底届かない。

 家族や仲間の死の光景が、(よみがえ)る。


 それらの想い全てが、弱い己に対して憎しみを抱かせるに至っていた。


 ──皆を死なせたのは俺のせい……だから、もっと強くなければ。


 唇を強く噛み締め血を流しても、目に燃える、しかし静謐(せいひつ)な炎は毛ほども揺らがず、


 「参り……ました」


 ──苦渋に()ちた声で、シガールは敗北を認めた。

 

お読み下さりありがとうございます‼

貴重なお時間をどぶに捨てさせてしまったことを激しく後悔し、また感謝しつつ、今回の話を終わらせて頂きます。


*誠に申し訳ありませんが、この作品は今回をもって打ち──いや、やっぱなんでもないです(汗)

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